オーグラ捜査網 

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 32 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月17日〜03月23日

リプレイ公開日:2008年03月24日

●オープニング

●先行調査
「要は本格的な調査をする前の予備調査、ってところだな」
 衛兵隊長は今回の依頼を端的に説明した。
「随分とあっさり言ってしまわれるんですね?」
 あまりにもあっけない、と言うかあっさりした依頼人の態度に半分呆れ、もう半分は感心しながら受付担当も軽く切り替えすと、衛兵隊長は軽く肩を竦め。
 「ごまかさなきゃならん程、こみ入った話じゃない」と答えた。

●もたらされた情報
「話は驚くほど簡単。ここ数日、近郊でオーグラの目撃情報が相次いでいてな」
 それが真実なら由々しき事態だが・・・・といっても、先を続ける。
「見た、と言っても猟師や旅人が遠目からって程度で、本当にオーグラなのかどうかもはっきりしてない」
 確かに知識の無い一般人が、しかも遠目からオーガ戦士とオーグラを確実に区別できるものか・・・・
「実際、オーグラと言い切っている目撃者も居れば、オーガのようなモノを見たと言う者もいる」
「成る程。それで、予備調査・・・・ですか」
 微妙に「予備調査」と言う単語にニュアンスをつける。
「そういうことだ」
 隊長も特に否定はしない。
 2人の暗黙の了解・・・・それは何かと尋ねたら? −冒険者に事前調査をさせ、調査の必要が無ければそれでよし。調査の必要ありとなれば、改めて衛兵から人手を出せば良い−
「その上で件のオーガだかオーグラを見つけて排除してくれれば、手間が省けるんだがな」
 えてして本音と言うのは、気持ちの良いものではない事が多い、が。ここまであっさり言ってくれると何だか。
「・・・・いっそ清々しいですね」
「よく言われる」
 歯に衣着せぬ担当に悪びれない依頼人・・・・この勝負は互角と見た。

●指定区域
「目撃情報が多いのは・・・・このあたり」
 キャメロット近郊の地図を広げると、依頼人は西方の一区画を指でなぞり、囲い込む。一般的な速度で2日程の距離だろうか?
「単体ないし2匹の目撃情報が多いから、まぁこのエリアに最低2匹以上のオーグラらしき存在がいる・・・・」
 「可能性がある、と」受付嬢に言葉尻を奪われたが、気にも留めず。
「そういうことになるな」
 頷いた。
「居なければそれでよし。居た場合、その胸を報告してくれれば無理に討伐する必要は無い」
 その判断はそちらに任せる。そう言い残し隊長は職務へと戻って行った。担当は依頼人が出て行ったことを確認すると。
「そんな事、思っていないくせに」
 最後に提示された報酬額を見て、溜め息を一つ。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

セルゲイ・サルガノフ(eb1211

●リプレイ本文

●行動指針
 キャメロットを発って2日。調査地域の端に到達した冒険者一行は、今回の調査の方針を確認していた。
「発見したオーグラが1匹なら討伐、複数なら無理せず撤退だ」
 デュラン・ハイアット(ea0042)は見取り図を囲む一人ひとりの目を見て言い切った。特に否定の声は上がらない。
 複数ならと言う条件は、今回集まった冒険者の配置によるところが大きい。一見、実力・経験共に非のうちようの無いメンバーに見える。しかし、いざオーグラを相手にした時、正面で渡り合える者が少なかった。
「もし1匹でもしっかり下準備をしてから仕掛けたいな」
 その唯一の前衛、陰守森写歩朗(eb7208)が慎重にも慎重を期するのは無理なからぬところだ。
「今回は力押しは無し、だな」
「賛成だ」
 シャノン・カスール(eb7700)の呟きに、エスリン・マッカレル(ea9669)が頷いた。ちなみにこの付近は、ヒエスリンが愛馬・・・・もとい愛ヒポグリフのティターニアを駆り、上空から確認済み。あっさり遭遇するとも思ってはいなかったが。
「そうそう影守」
 呼ばれた森写歩朗は声の主、エル・サーディミスト(ea1743)の方へ視線を向ける。
「原料を見つけたらすぐに取り掛かるからね」
「わかった。よろしく頼む」
 彼女が取り掛かる事とは、一体何なのか? 実は植物由来の麻痺毒を作ろうというのだ。植物におけるエルの学識は非常に深く、毒草の取扱いにも造詣が深い。
 何と言うか、もう冒険よりも薬草・植物採集の方が目的では? と思う時がなくも無かったり・・・・
 
●初日の調査・・・・異常なし
「ここはどうだ?」
 本日4箇所目の洞穴。人一人がようやく入れる程の大きさだったが、中は広がっているかもしれない。中の様子を窺う森写歩朗と場所を入れ替わり、デュランは小声で何事か呟く。
「ブレスセンサーに反応は無い」
 生物なら必ずするであろう呼吸を感知し、おおよそのサイズと数まで探知できる魔法だが・・・・この奥からは小動物以上の呼気は感じられない。それでも念のためランタンの明りを頼りに潜り込んで見るが、程なくして行き止まりに突き当たった。
 猟師の心得がある森写歩朗は地面に何者かがいた跡を見つけたが。
「ここは違うな」
 やはり人型の生き物が残した痕跡とは思えないものだった。

「お帰り、マッハ。何かあった? ・・・・そう、わかった。もう少しだけ頼む」
 鷹のマッハを腕に止まらせると、エスリンはオーラテレパスで彼の情報を受け取った。その結果は。
「この辺りを通った形跡は無いな」
「オーグラどころか人影1つ見えないそうだ」
 シャノンがグリーンワードの魔法で草木から得た情報と一致した。魔術師はソルフの実を取り出すと口に含む。彼に限らず魔力回復の手段がある者は自分の判断で使用していた。丁寧な探索のためだけでない。相手の危険性を考えれば、少しでも早くその存在を感じ取らねばならなかった。
 冒険者達は地道に指定された地域を、ひたすら地道に調査し続けた。

「見〜つっけた!」
 エルは調査の合間に目的の植物を見つけその葉を摘んで集めた。それは植物・毒草の知識が無いものが見れば単なる雑草に過ぎない、しかし植物達人のエルにとってはまさにお宝。
「明日までには何とかなるかな?」
 うきうきとした物言いではあるが、先にも述べたとおり彼女が作ろうとしているのは麻痺性の植物毒。致死毒も考えたが「事故が怖いし」と言う理由で却下した。
 −用量次第では大概の毒物にその危険はあるわけだが−閑話休題。

●その夜
「今日回ったのは・・・・ここからここまで」
「動物の痕跡はあったが、それらしいモノは無かったな」
「水場も調べたけど何も無かったかな」
 冒険者は情報を出し合い、見取り図に印を入れていった。とはいえ、長時間別行動をしていたわけでもないし、随時情報の交換はしていたので本日の調査結果の再確認といった所だ。
 その結果は。
「今のところオーグラの痕跡は無し、か」
 もしかしたらこの付近にはもういないのかも知れない、そんな考えが冒険者の脳裏をかすめる。
 「とにかく明日1日、残った範囲をきっちり回ろう。それでオーグラを発見できなければ・・・・」それはそれで構わない。今回の目的はあくまでも「指定エリアの調査」なのだから。
 
●2日目・・・・発見
 その報告は上空から監視をしていたマッハからもたらされた。
「それらしき人影を見た、と言っている」
 エスリンは見取り図を広げ、おおよその現在位置と発見ポイントに印をつける。何度か位置を確認し、ようやく「北の方だ」と結論を出した。
 情報の裏づけを取るため、デュランはスクロールと金貨を取り出す。幸いにして太陽の周りに雲は無い、あとはターゲットが物陰に隠れてさえいなければ・・・・
「やや遠い・・・・当りかもしれないな」
「数は?」
「マッハは1匹だと言っていた」
 エスリンは鷹からの情報をそのまま伝える。
 「1匹か・・・・」それが本当ならば討伐も視野に入ってくる。冒険者達は視線を交わし、頷きあうと進路を北に向けた。

●目標を目視で確認
 丘の麓、まばらに立ち木のはえた場所に彼はいた。別段、目的があるわけではない。強いて言うなら獲物になるようなモノを探してはいたが、それほど切羽詰まってもいない。ようは「手持ち無沙汰」な状況だった。

「見つけた」
 まず、エスリンの鋭い目が、丘の麓でぼんやりと座り込むオーグラの褐色の巨躯を捕らえた。彼女の視線を追った幾人かもその姿を見つけた。
「あれか」
「周りに仲間はいないか?」
 念のためグリーンワードやバイブレーションセンサーで周囲の情報を集めるが、あのサイズの生物は周囲にアレだけ。
「1匹なら・・・・行けるか?」
 シャノンの発した一言が冒険者の意思になった。。

 −ヒュ!− 風を切る音がしたかと思うと、彼の右肩に1本の矢が突き立った。何が起きたかわからず呆然としたが次の瞬間。
 −ごあぁ!− 肩から走る痛みが意識を引き戻し、彼は怒りの咆哮を上げた。

「流石に迫力がある」
 口火を切った矢の射手・エスリンは、本音がこぼれた。正直、褐色の巨人が棍棒を振りかざして突進してくれば、誰だって同じ感想を持つだろう。それでも彼女か揺るがなかった理由は唯一つ。

 自分に向かって矢を放った生意気な人間目掛けて、彼は脇目も振らず走った。そして1本の立ち木を通り過ぎようとした時、かすかな違和感を感じた。例えるなら何かが身体に纏わり付くような、不快感・・・・

「かかった」
 森写歩朗はあらかじめ発動させ、木に吊るしておいたハグストーンの結界にオーグラが突っ込んでくるのを待った。
 誘導は簡単だった。攻撃された事に気が付けばオーグラは一直線に敵を目指すだろう。つまり射手に位置を調節して貰うだけ。
 後は「自分がオーグラを止めれば良い」
 手にした草早の剣にはオーガ族を絶つ魔力と、エル謹製の麻痺毒も塗りつけられている。
 体力自慢の相手に毒が通じるかどうか微妙だったが、実はそれ以上の問題があるのに彼は、そして多分毒を用意したエルも、気付いていなかった・・・・
 
 エスリンが矢を放ったのを確認して、シャノンとデュランは各々の魔法で上空に移動する。あの棍棒でぶん殴られたらどうなるか考えたくも無い。
 デュランは位置を調整し。
「ライトニングサンダーボルト!」
 オーグラに雷撃の矢を打ち落とす。アイスコフィンでの束縛も考えたが、時期的に屋外では長時間の拘束は無理と判断した。
 攻撃を重視したデュランと対照的に、シャノンはまず森写歩朗のバックアップを優先する。スクロールを開き。
「フレイムエリベイション」
 魔法が結すると同時に、森写歩朗の中に熱く燃えたぎる、炎の如き意思の力が満ちた。

「もしもの時はよろしくね」
 ライトニングフォックスのグレーシャの背を撫でる。よろしく、とは言ったものの無理をさせる気は毛頭ない。
 「でも、無理しちゃ駄目だからね」きっちり付け加えた。
「さてと、僕の薬の効果はどうかな〜・・・・あれ?」
 麻痺毒を渡した森写歩朗の方に目を向ける、と。素人目にも何やら戦い辛そうに見えた。彼の体術はオーグラのそれを遥かに凌駕しているし、味方のサポートも充分。なのに。
「あれぇ?」

●調査報告
「オーグラを一体発見、これを討伐。調査中に発見したのはこの一体のみ・・・・と、ご苦労様でした」
 ギルドへの調査報告も終了し、この時点で依頼は完結した。オーグラと言えども1匹で準備万端の腕利き冒険者に囲まれてはどうにもならない。若干の問題はあったが大事には至らず、報告書の通りの結末となった。
 その若干の問題とは?

 森写歩朗はあの時、予想だにしない状況にぶち当たっていた。彼ほどの達人を手こずらせる相手とは・・・・オーグラでも、春間近で緩みがちな地面でもなく。
 剣に塗った麻痺毒。
「まさかこんなことになるとはな」
 剣を振るたびに刃に塗った毒が飛び散り、何度か自分の顔にかかりそうになった。
 荷物の中に毒消しを入れていた記憶もあるが、自前で用意した毒に自分が引っかかるのは避けたい。飛沫に気を取られた分、動きが鈍った。
 それでも一つ、不幸中の幸いが一つだけあった。それは・・・・周りに仲間がいなかったと言う、物凄く切ない幸運。
 「前衛が1人で良かった」と、言ったとか言わないとか・・・・