商人の息子 盗賊を突破せよ

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 10 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月07日〜04月13日

リプレイ公開日:2008年04月12日

●オープニング

●商人の依頼
「少々よからぬ噂を聞いたもので・・・・あの、聞いてます?」
 自分がプライベートだったら、思わず声をかけてしまうかもな〜・・・・仕事中にも関わらず、依頼人の端正な顔を眺めつつ妄想に浸っていた受付嬢。
「え? あ〜、はい。そうですね!」
 話を振られ、あわてて便利な言葉でその場を凌いだ・・・・か、どうかはさて置き。相手に取り合えず反応があったのを確認して、依頼人・商家の若旦那、レイモンドは話を続けた。
「先日、商談がまとまりまして、荷を顧客に届ける事になっているのですが」
 ここで話を区切り、受付嬢をちらりと見て。
「取引先である村の付近で、盗賊の被害が出ているらしいのです」
「少しお待ちを」
 商売柄、近郊の治安状況は集まりやすい。担当はレイモンドが示した村の付近で、盗賊による被害報告を確認した。
 げに恐ろしきはモンスターよりも人間。欲得の為に平気で人を傷つける者もいる。
「荷物は食料品です。量は・・・・そうですねロバ5頭に積める位です」
 ロバ5頭分の荷物。まっとうな(?) 盗賊が見逃してくれる量ではない。
「同行するのは私を含めて3人。村までは片道3日見れば充分です」
 近郊とは言え、若旦那が1週間近くも店を空けるのはどうかと思うが。
 「これも修行の内です」と、レイモンドは爽やかな笑顔で担当の懸念を一蹴した。

●盗賊について
 あちらこちらから集めた情報を元に、担当が独自に盗賊の戦力を推測した結果。
「うーん・・・・結構、手ごわいかも知れないなぁ」
 人数は5ないし6人。魔法を使う者はいないようだが、それぞれが弓や手斧で武装しているらしい。正規に訓練を受けては居ないだろうが、それなりの腕はあるようだ。
 だが、それだけの盗賊ならば、首尾よく盗賊を捕まえるか退治できれば報奨金がでる可能性もある。物事は考えようだ。とはいえ・・・・
「依頼人も同行するし、意外と気が抜けないかも知れないわね」
 そう結論付けると、受付担当は白紙の依頼書にペンを入れた。

●今回の参加者

 ea2206 レオンスート・ヴィルジナ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

陰守 清十郎(eb7708)/ 元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

●事前打ち合わせ
「了解。村までのルートは大体わかったわ」
 レオンスート・ヴィルジナ(ea2206)は依頼人・レイモンドとの打ち合わせで、道中の大まかなイメージを掴んだ。人の往来が多いわけではないが、旅の日程的にここを使わざるを得ない道。
 端的に言い表すなら「何処にでもある、ごく普通の道」だ。唯一つ、盗賊が出没することを除けば・・・・だが。
「おっしゃ〜、気合いれてくで〜」
 人一倍小さな身体で居並ぶ誰よりもやる気満々なシフール、イフェリア・アイランズ(ea2890)の不思議なアクセントが場を和ませる。
 打ち合わせの最中、すっと渋い顔をしていた、李雷龍(ea2756)もそのうちの1人だった、が。商売のためとは言え、あえて危険を冒そうとする彼らの考えを理解しかねていたが・・・・「まぁ、だから僕達に仕事がくるんですけれどね」彼の笑みは、どちらかと言えば−苦笑い−だったかもしれない。

●野営の事
 −ばさっ−
 夜半過ぎ。微かな羽音と共にジャイアントオウルが焚き火の側に舞い降りた。
「お帰りなさい、どうでした?」
 夜番に立っていた、マロース・フィリオネル(ec3138)は、特に驚くでもなく大ふくろうに声をかける。彼女が目を向ける頃にはふくろうの姿は消え。そこには、雀尾嵐淡(ec0843)が立っていた。
「今のところ人気は無い」
 嵐淡はミミクリーの魔法で夜目の利くふくろうに姿を変え、野営地付近を上空から警戒していた。
「そうですか。この分だと今夜は大丈夫そうですね」
 マロースの推測に頷き、同意の意を示す。彼女の言うようにこの辺りは盗賊が出没するという地域の遥か手前、警戒は必要だが必要以上に気を張る事も無かろう。
 「交代前にもう一回りしてくる」春とは言え夜はまだ冷える、嵐淡は焚き火で暖を取った。

●盗賊の待ち伏せ・・・・失敗!
「おー、おったおった!」
 一人商隊から離れ斥候を行っていたイフェリアは、隊から1時間ほど先行した地点で立ち木の陰、下草の中に潜む人影を発見した。そればかりか。
「ひーふーみのよ、4人か・・・・ちと少ないな、他のんは偵察にでも行ってるんやろか?」 
 あっさりと正確な人数まで把握してしまった。いかに彼女の目が鋭かろうと、場数を踏んだ盗賊をそう簡単に発見できるものではない。では何故、こうもあっさり敵の隠れ場所を見つけることが出来たのか? ・・・・答えは簡単。シフールのアドバンテージを生かし、上空から偵察を行っていたのだ。
 いかに隠れるのが上手くても、空から見られることを想定していなければ丸裸も同然。仮に彼らが空を見上げ、彼女の姿を見つけたとしてもこの距離ではシフールと気が付くだろうか・・・・鳥か何かだと思い込む可能性が高い。
 さて、仲間への連絡方法だが・・・・イフェリアは弥生の方をちらと見て。 「やっぱりうちがもどろか」決めた。
 エレメンタルフェアリーの弥生は、主人の言うことを良く聞く優秀な子ではあったが、如何せん詳しい情報伝達までは期待出来ない。詳しい打ち合わせも必要だと判断し、イフェリアは仲間の下へと向かった。

●真昼の決闘
 −来たぞ−木陰に隠れていた男がそっと合図を送る。偵察に出した仲間の報告通り、獲物は人間が7人とロバ5頭、そしてにロバに積まれた荷物だ。
 乗っている馬や装備から考えるに、うち4人は商人に雇われた護衛と言うところか。護衛つきなのは予定外だがこちらは6人、数ではこちらが勝っている。男は襲撃の合図でもある弓に矢を番え・・・・
 次の瞬間、男は一筋の閃光に貫かれた。

「走れ!」
 イフェリアが放ったライトニングサンダーボルトの閃光と同時に、嵐淡は商人達へ指示を飛ばした。冒険者達は盗賊に遭遇した場合、商隊に盗賊達のど真ん中を突っ切らせる手はずになっていた。正直なところ、人手が足りないという状況からひねり出した窮余の策ではあったが、護衛の手はずは万全。イフェリアの偵察で敵の数と武器、潜伏場所まで把握している。
「気付かれたぞ、逃がすな!」
 魔法の雷で撃たれた盗賊が痛みを堪え叫んだ。隊列から向かって左手、下草の中から弓を手にした男達が立ち上がると、隊列目掛けて矢を放つ!
「そうはさせません!」
 射線に割って入ったマロースは、左手に掲げたボーディングで1本の矢をはじく。だがほぼ同時に放たれた2本目の矢を止めることは出来ない・・・・が。ロバを目掛けて飛来した矢は、不可視の壁に阻まれ地面へと落ちた。
「くそっ魔法か! それなら・・・・」
 男は商隊に魔法の加護があるのに気付き、護衛の冒険者に目標を切り替える。矢を番える・・・・よりも一瞬だけ早く。
「言ったでしょう? させないって」
 束縛の魔法・コアギュレイトの発動を確認し、マロースは商隊の護衛に集中した。
 
「・・・・3人ですね」
「まずは依頼人さん達を逃がさなくちゃね」
 歴戦の兵にそれ以上の言葉は不要。2人は木陰から下草の中から飛び出してきた盗賊目掛け、駆けだした。

「くたばれっ」
 雷龍は盗賊の野卑な気迫と共に振り下ろされた手斧を半身捻るだけでやり過ごす。と、同時に闘気を込めた右手を、がら空きのわき腹へ叩き込む! 龍叱爪が薄い皮鎧を突き破る感触。
「ふっ!」
 「ぐおぉっ」男は、並みの人間なら悶え苦しむか意識を失い兼ねない一撃に耐えた。ふらつく足で距離を取ると手斧を握りなおす、だが。
「こ、こいつ強いぞ」
「・・・・ああ」
 たった1度交差しただけでこの威力。男達は雷龍との力の差に飲まれ始めていた。

 レオンスートとは正面の盗賊を押し返し、商隊の道を切り開いた。
「ここはオレ達に任せて。落ち着いて行動してね」
 商人達が背後を通り過ぎようとした時、口が酸っぱくなるほど言い聞かせた台詞を繰り返す。護衛の任務で一番怖いのは実は敵ではなく、味方の混乱だと言う事を知っていた。
 だからこそ、何があっても落ち着いて行動しろと言い聞かせたし、レイモンド達がその忠告を良く守っているのが有難かった。
「余裕かましてんじゃねぇぞ!」
 無視されたと思った盗賊は、怒気と共に刃こぼれのした長剣を叩きつけるが・・・・レオンスートはあっさりと受け流し。
「パニクって混乱されると面倒なのよっ」
 コルタナを一閃、男の二の腕を切り裂いた。

「嘘だろ・・・・」
 雷撃の魔法で打たれた男。盗賊のリーダーは呆けた表情を浮かべ、棒立ちになっていた。腕には自信があった、待ち伏せも完璧だったはずだ。
「何でこんな・・・・」
 この台詞の間に、黒髪の男と長身の男に手下が2人打ち倒された。「う、うわぁぁ!?」 下草に潜ませていた男の叫びが聞こえる。もう1人のあいつはどうした? もうやられちまったのか?
 
 −ピィーーー!− 甲高い口笛が響き渡る。
 イフェリアがアイスチャクラムを浴びせかけていた男、雷龍と対峙していた男が武器をかなぐり捨て、死に物狂いで走りだした。
 「追う?」 視線で問うレオンスートに雷龍は首を振って答えた。

●盗賊去って、残ったのは
「お前達はあれで全部か?」
 嵐淡は縛り上げた3人に質問をぶつける。勿論、素直に答えるかどうかわからないので、ところどころリードシンキングで表面思考を読みながら。
 その結果、リーダーはやはり木陰に居た弓をもった男で、彼らの総数は6人だとわかった。
「手勢が半分じゃ、もう仕掛けてはこないでしょうね」
「せやね。ごっつ痛い目ぇ見せたったし、村も目と鼻の先やしな〜」
 イフェリアはレオンスートに賛同した。あの「しりに帆をかけて」の逃げっぷりを見れば、異論を挟む余地は無いように思える。
「後は村に着いてからにしませんか?」
 声の主は既に愛馬・デュンケルボックに跨っている。
「こいつらどうする?」
「村に着いたら衛兵を呼んでもらおう。頭目の事や塒の場所も伝えておきたいしな」
 彼らがやって来た事を考えればこのまま放免と言う訳にはいかないが、ここから先は衛兵の仕事。自分達の犯した罪は、相応の罰で償う事になるだろう。

●共通点
「・・・・」
「雷龍さん、何か?」
 レイモンドは彼が顔合わせの時からモノ言いたげな、何か腑に落ちないような・・・・微妙な表情を浮かべるのに気が付いていた。彼から声をかけてこないなら・・・・と思ってはいたが盗賊の危険が去った事も手伝って、思わず尋ねてしまった。
 「・・・・」言うか言うまいか悩み、気に触ったら失礼。と前置きし、雷龍はこの依頼を受けた時から抱いていた事を告げた。
「商売のためとはいえ随分無茶をされるな、と」
「あはは、やっぱりそう思われますか」
 依頼人はばつが悪そうに頭をかく。
「得るのに長い時間がかかるのに、失う時はほんの一瞬・・・・何だかわかりますか?」
 「・・・・」一瞬言葉に詰まった。だが、彼が何を言わんとしているのか雷龍はわかった。得るのに長い時間がかかり、失う時は一瞬・・・・少しの間、言葉を選び。
 「信頼」「信頼」まさに異口同音。
「自分でもやりすぎだとは思うんですが、幼い頃から父や祖父の仕事ぶりを見てきたもので」
 照れくさそうに微笑む若き商人。
「なるほど」
 積み重ねてきた実績が信頼をつくる・・・・冒険者は自分に言い聞かせるように、一言一句をかみ締めた。