坑道探索 闇に蠢くモノ
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月25日〜04月30日
リプレイ公開日:2008年05月01日
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●オープニング
●村人の依頼
「坑道といっても閉鎖されてから十年以上もたった廃坑なんですがね」
依頼人はこう前置きを入れてから本題に入った。
「遊ばせて置くの何だし、倉庫とか何かに使えないかと言う話になったんですよ」
詳しくは知らないが洞窟や洞穴は外ほど寒暖の差が無い、と聞いた事がある。何をしまうのかは知らないが、工夫次第では使える・・・・かも? 以上、最後の疑問符を含めて受付担当の心の声。
「それで村の若いモンを連れて下見にいったんですが・・・・」
●坑道
廃坑になってから10年たったとは思えないほど、坑道の入り口はしっかりとしていた。とは言え、やはりあちらこちらに長年風雨にさらされた名残も見える。
「こいつは念入りに手直ししなきゃいかんな」
依頼人・・・・ジムは入り口を支える木組みを丹念にしらべる。酷い、と言うほどではないが気になる箇所は幾つかある。
「しまったはいいけど、くずれて出せなくなった・・・・じゃぁ話にならないもんな」
「違いない」
若者の軽口に誰かが相槌を打つ。
「無駄口を叩いてるんじゃない、そっちはどうなんだ?」 若造達の尻を叩きはしたが、彼らの意見は実に正しい。わざわざ共有の倉庫を作るよりは、坑道に蓋をして使ったほうが手軽・・・・とは言えない様な気がしてきた。
「うわ・・・・なんだこの臭い?」
「こんな匂い、初めてだぜ」
坑道の中に入って暫くすると何人かの若者が騒ぎ始めた。微かに異臭がする、と言うのだ。それは肉が焦げたような、腐ったような・・・・とにかく、普通の臭いでは無いと主張している。
「なぁ、とっつあん。何年もほったらかしにしてたんなら、なんか化け物でも住み着いたんじゃねぇか?」
−ぴた−
水を打ったように。ざわめきが消えた。暗闇の中で松明の火がはぜる音と、村人の心にえもいわれぬ恐怖が響いた。
●依頼
「もしかしたら、迷い込んだ動物の死骸か何かかもしれないんですがね・・・・」
その可能性は十分にある。
でも。もしかしたら。その推測が最悪の方向で間違っていたら?
依頼人の不安を払拭するのも冒険者ギルドの仕事。
「お任せください。早速人手を募ります」
受付担当は依頼人を安心させるように、請け負った。
●リプレイ本文
●坑道−入り口−
「ランタン一つでたりるか?」
「あ、私も用意してあります」
坑道に限らずこの手の穴に明り取りの窓は期待できない、雀尾嵐淡(ec0843)のもっともな疑問に、マロース・フィリオネル(ec3138)はバックパックの中からランタンを取り出して答えた。
「私も松明ならありますよ」
ユリアル・カートライト(ea1249)にも照明の準備があった。今回は大所帯ではないし、坑道の中にある空間もそれほど広くは無いとの事。これぐらいの用意があればまず問題は無いだろう。
「灯りはよろしくお願いします」
前衛を担当する、ルーウィン・ルクレール(ea1364)が申し訳なさそうに話しに加わる。
「気にしないで下さい・・・・こういう洞窟とかの探索は冒険者の基本ですよね」
ユリアルは少しおどけたような感じで続けた。それは彼に、と言うよりも・・・・暗所に苦手意識がある自分へ、言い聞かせる言葉だったかもしれない。
「翡翠、瑪瑙。どうした?」
七神蒼汰(ea7244)は、どこか落ち着かない様子を見せる愛犬達に声をかけた。主の命あれば自分より遥かに大きな敵にも臆することの無い彼らが、だ。
少しの間考え、「そうか・・・・」はたと思い当たる。
坑道の中には異臭が漂っていると言う話だ。人間の鼻では感じることは出来ないが、彼らの鋭敏な鼻はその匂いを嗅ぎとっているのかもしれない。
「お前達にはつらい場所だろうけど、よろしく頼む」
犬達に声をかけた。
●坑道−通路−
「私たち以外、動いているモノは居ないみたいです」
冒険者は地面に限らず天井や壁にも目を配り、注意深く奥へと進んだ。地面は長年放置されていたためか、歩くたびに土ぼこりが舞い上がり彼らの足に纏わり付いく。
先の様子を探るためユリアルが使用したバイブレーションセンサーは、光が届かないその先、効果の及ぶ限りに動くモノは居ない、と告げている・・・・今のところは。
と、隊列の動きが止まった。
「・・・・これですか」
先頭にいたルーウィンは、鼻をつく・・・・なんとも言い表しがたい臭いに眉をひそめた。肉が腐敗したそれとも微妙に違う臭いに、思わず足が止まってしまったのだ。
坑道に入ってから15m程だろうか。言われて見れば、その臭いは微かに・・・・気づいてからははっきりと嗅ぎとれた。
「耐えられない、と言うほどではないが・・・・」
嵐淡はランタンを掲げ辺りを照らすが、光の届く限りには臭いの元になりそうなモノは見当たらない。ディテクトライトフォースで生命反応の探知も考えたが、ユリアルの弁を借りれば「周囲に動くモノはいない」はず。ならば疑うべきは・・・・マロースへと視線を向ける。
「アンデッドもいません」
念のためマロースが使ったディテクトアンデッドの結果がその疑念も払拭した。少なくとも魔法の及ぶ限りには何もいないことが証明された事になる。となれば。
「取り合えず広場まで移動しましょう」
狭く暗い空間に、悪臭まで追加されたこの状況に長居したくない。せめて開けた場所を求めて冒険者達は移動を再開した。
●坑道−広場−
坑道の中にある広場。それはこの場所を基点として坑道を分岐させる為につくられたモノのようだ。実際入り口に通じる通路を含め、何本かの通路がこの空間から延びていた。とはいえ外に続く通路は覗き込めば外の光を見ることが出来るので、出口を見失う心配は無い。何よりも助かったのは空間が広がった為か、例の臭いも耐えられない程ひどくならなかった無かった事だ。
「少し時間をくれ」
そういうと嵐淡は灯りを地面に降ろしてスクロールを取り出すと何事か書き込み始めた。簡単な見取り図を作り探索の助けにしようと言うのだ。じっくり時間をかけて詳細なモノをつくる事は出来ないだろうが、一度調べた道をまた調べなおす・・・・そんな二度手間は防げる。
「何かあるのか?」
蒼汰はしきりに地面を気にする瑪瑙と翡翠に近寄る。と、気のせいだろうか? 臭気が強くなったように感じる。彼らの視線の先にあったのは一見、小動物の骨と毛を一緒くたにしたような・・・・なんとも説明し難い物体・・・・だが、これだけははっきりわかる。アレが悪臭の原因の1つだということ。
「ユリアル殿、これを見てくれ」
彼が指し示す物体を見るとユリアルはほの暗い灯りの下、マッパ・ムンディを開いて自分の知識と照らし合わせる。
「ジェルやスライムの類は、消化し切れなかったものだけを排出するのそうですが・・・・」
大きさからして迷い込んだ小動物だと思うが肉は殆ど残されていない。骨とそれにこびりつくように毛のようなものがこびりついている。よく見ると骨にも溶かされたような痕跡が見えた。
「という事は、この坑道のどこかにジェルがいる、という事か?」
「恐らく・・・・」
相手は判明したが新たな問題も浮上してきた。もし本当に相手がジェルなら・・・・獲物が近づくまで動かずにじっとしているかもしれない。もし、自分達が近づくまで動かず待ち受けていたとしたら?
「灯りを増やしたほうがいいかもしれませんね」
「そうだな」
蒼汰はその提案に即答した。
●枝道−襲撃−
冒険者達は適当な枝道を選び調査を始めた。
最初に「ソレ」に気づいたのはマロースだった。きっかけは視力云々ではなく、ただ灯りを持っていたから。
先頭のルーウィンが枝道に足を踏み入れたとき、マロースの視界の端で一瞬何かが光った。目を向けると、壁際の一角がまるで水にぬれたようにランタンの光を反射している。それほど下ってきたわけではないし、何しろ長い間放置された場所えq。何処からか雨水が染み出してきたのかも知れない、そう考え仲間の後を追おうとした、が・・・・何かが引っかかった。ふと足元に視線を落とすと、埃まみれのブーツが目に入った。
そうだ、もし雨が振り込んできて出来たものなら、当然入ってきた道もぬれているはず。だがあの道は水どころか、砂埃が舞い上がるほど乾燥していた・・・・
もう一度確かめようと思った時には既に、「ソレ」は本性を現していた。
嵐淡は前を歩くマロースの微かな動きに気が付いた。声をかけよう近づいたその瞬間、彼女越しに「ソレ」を見た。一見、水にぬれた岩肌のようなぬめりが、外見に似ぬスピードでマロース目掛け触手を伸ばしたのだ!
「いたぞ・・・・速いっ!?」
予想外の速度のために、とっさに背後からマロースを抱きかかえるような形で、触手と彼女の間に氷晶の小盾を捻じ込む! 黒灰色の物体はほんの一瞬だけ動きを止めたが、今度は行く手を阻んだ盾ごと嵐淡の腕を取り込もうと動き出す。
「あ、ありがとう御座います」
思いがけぬ体勢に少々動揺しつつも礼を言うマロースだが、嵐淡の腕に絡み付こうとする「ソレ」を見て、すぐさま魔法の集中に入る。同時に嵐淡と共に後方を警戒していた蒼汰が抜く手を見せず抜き打ちの斬撃で触手を切り払う!
「これは・・・・気をつけてください、グレイオーズです!」
ユリアルの声が陰鬱な坑道に響き渡る。−グレイオーズ−スライムの変種と言われるがそれらよりも動きが速く、遥かに危険な怪物。
と、ここで一足先に枝道を進んでいたルーウィンが戦列加わる。ソウルセイバーを抜き放ち、あわ立つ汚水のような物体に振り下ろす・・・・が、未だグレイーズの動きは鈍らない。
「これ1匹とは限らない、気をつけろ!」
盾に残った触手の残骸を振り払いながら嵐淡が警戒を促すと、ユリアルがランタンから火を移して松明を掲げ・・・・
「向こうの壁、何か光りました・・・・動いて、る?」
揺れる松明の灯りと劣悪な視界のため断言は出来ないが、闇の向こうで光を反射する何かが移動しているように見える。
「近づかれる前に片付ける!」
蒼汰は短く叫ぶと、大脇差・一文字を振るい続けた。
●坑道−出口−
「グレイオーズがいたのはここと、ここだったな?」
「ええと、そう・・・・ですね」
「ん? 崩れてたのはこの枝道だったか? 隣じゃなかったか?」
「いや隣は・・・・」
調査報告書の代わりにと冒険者達は記憶を頼りに、手書きの地図に細かい注釈をいれる作業に没頭していた。とは言えこの地図はリアルタイムにマッピングしたモノ、大きな齟齬もあるはずはないが。
後に、この地図を受け取った村人達はその正確さとは別に驚くことになるだろう。それは、坑道に漂っていた悪臭が明らかに薄まっているという事。
1人の冒険者の発案で、グレイオーズが消化し残した汚物や死骸を、時に魔法を用いて浄化して、時に自らの手で処分しておいたのだ。
誰も頼んではいない、文字通りの汚れ仕事。誰も気付かない陰の仕事・・・・もしも誰かが気が付いて尋ねたとしても、彼らは涼しい顔をしてこういうのではないだろうか?
「依頼を果たしただけ」
・・・・と。