子羊大脱走
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 41 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月13日〜05月17日
リプレイ公開日:2008年05月19日
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●オープニング
●ぽっかりと
「あららら〜」
「しまったなぁ・・・・さっさと直して置けばよかった」
羊飼いの夫婦は羊小屋の一角に開いた穴を見て、大きな溜め息。予兆が無かったわけではない。昨年の終わり、壁の一部が−今は穴があるばかりだが−痛んでいることに気がついた。すぐに直そうと思ったのだが・・・・ついつい先延ばしにしてしまった結果が、これだ。
「羊達はどうだ、皆いるか?」
彼は奥さんに羊達の確認を頼むと、自分は壁の応急処置に取り掛かった。
●依頼と経緯
と、いう話が合ったのが2日前。ところ変ってここはキャメロットの冒険者ギルド。
「・・・・と、言うわけなんです」
「なるほど」
羊飼いの、もとい。依頼人の話を聞き終えると、受付担当はお決まりの一言で理解の意を示す。
「ご依頼は子羊達の捜索と羊小屋修繕のお手伝い、という事ですね?」
「はい。何とかお願いできませんでしょうか・・・・」
依頼人は申し訳なさそうに頭を下げた。
あの後、奥さんが羊小屋を検めたところ。大人の羊が2頭、この春に生まれた子羊5匹の姿が消えていた。大人羊は小屋の側で草を食んでいた所を、大工道具を取りに戻った旦那が発見し事なきを得たのだが、問題は子羊たち。本来、親からあまり離れないものだろうが、子供はえてして好奇心旺盛なもの。ついつい遠出をして森に入り込んでしまった・・・・という事も考えられる。
「お兄さんに頼んで一緒に探して貰えないかしら?」
「そうだな・・・・いや待てよ。兄貴のとこはじきに子供が生まれるんだった」
「そうだ! あたしも手伝いを頼まれてたんだ」人手が欲しいのに人手を持っていかれる事態に。
この位のトラブル、いつもは身内で協力し合って解決するのだが、今回はそうもいかないようだ。とはいえ子羊3匹を見捨てるわけにもいかない。たかが羊と思う無かれ、たとえ1頭と言えど羊で生計をたてている彼らにとっては、大切な家族なのだ。
「・・・・仕方ない。人を頼んで見るか」
「あてはあるの?」
「ああ」
その日の午後。羊飼いは小屋の応急処置をすませると一人、キャメロットに向かった。
●いなくなったのは
「子羊が5匹。小屋の近くに森があるので、迷い込んだんじゃないかと・・・・」
その森にはモンスターがいるとか、野犬が住み着いているというわけでもなく、何の変哲も無い普通の森との事。
「小屋のほうは、木のきれっぱしを使って塞いでいるだけなのでもう少し見れるようにしたいな・・・・と」
冒険者にとっては物足りない依頼だが、彼らにとっては切実な問題。
「わかりました。さっそく依頼を張り出します」
受付嬢は請け負うと依頼書の作成に没頭した。
●リプレイ本文
●1匹目の子羊
「兄様・・・・兄様」
チョコ・フォンス(ea5866)の声に、ショコラ・フォンス(ea4267)は足を止めた。
「いましたか?」
「多分」
兄の問いに自信をもって答えられないのは、自分の目で発見したからではなく、定期的に使っていたブレスセンサーの魔法にソレと思しき反応があったからだ。
「どこです?」 「あの茂みの辺り」羊飼いの話では、この辺りに危険な動物はいないという事だったが、念のためにショコラは単身、妹が指差した茂みへと近づいていった。
残されたチョコはゆっくり遠ざかる兄の背を、頼もしいような・・・・なんだか懐かしいような気持ちで見守る・・・・と。茂みの下を覗き込んでいたショコラが振り向いて手招きをしている。
「?」
小走りに近づこうとすると「静かに」と、ジェスチャーで訴えるショコラ。何を伝えたいのかわからないが、取り合えず彼の言うとおり音を立てないように近づくと、兄はなんだか笑顔を浮かべながら茂みの下を指差している。何があったの? と聞きたい気持ちを抑えて覗き込むと、そこには・・・・
「・・・・あらら」
子羊が1匹、身体を丸めて熟睡していた。チョコの顔にも思わず笑みがこぼれる。ショコラは羊小屋から持ってきた柔らかな牧草を子羊の鼻先へ差し出すが、全く反応が無い。
「疲れていたんだろうね。全然目を覚まさない」
「こんなに小さいんだもの、しょうがないわよ・・・・」
もう少し子羊の寝姿を見ていたかったが、依頼人も母羊も心配しているだろう。チョコは意を決して。
「さぁ、お家に帰ろうね」
優しく声をかけると、茂みの下に潜り込んで子羊を抱き寄せた。
●2匹目の子羊
「子羊ちゃ〜ん、何処ですかー?」
水面の上をとても漠然とした呼びかけが響く。「子羊ちゃん」とは、子羊達にまだ名前が無かった為の窮余の策。声の主は、ルースアン・テイルストン(ec4179)、同じく水場を中心に捜索しようと考えていた、ファティナ・アガルティア(ec4936)と共に、森を横断するように流れる川を川上に向かって移動していた。
「私の故郷にもたくさん羊がいますの。今の時期はもこもこしていて・・・・ええ。もちろん、刈った後もかわいいのですけれど」
ファティナはルースアンの思い出話を聞きながら、小川の浅瀬や木々の密集している場所を中心に目を配る。足跡を判別できる技能や経験は無いが「こういう場所にいるのではないか?」 と言う推論を柱に探すつもりだった。
「どうしたの?」
ルースティアンは水際を避けるように歩いていた黒猫のドゥーフが足を止め、ぴくぴくと耳を動かしながらしきりに周囲を気にしているのに気が付いた。
「何か聞こえるのかしら・・・・」自分も耳を澄まして見るが、聞こえるのは小川のせせらぎと小鳥のさえずりばかり。羊飼いに教えて貰った羊寄せの合図をやろうかとも思ったが・・・・少々お行儀が悪いように思えて気が進まない。実は影で少しだけ練習して見たのだが・・・・
−ふひーふひー−なんとも悲しげな音しか出なかった。指笛って難しいものですわね。
「今、鳴き声がしませんでしたか?」
「え? ・・・・あ」
ファティナの指摘に、もう一度耳を澄ませる、と。・・・・めぇ・・・・めぇー・・・・聞こえた。小川の音に掻き消されながらも、一生懸命母親を呼ぶ小さな声。
2人の淑女は顔を見合わせ無言で頷く。助けを求める小さな命の元へと急いだ。
●3匹目と4匹目
「ここ齧られてますね」
フレイア・ケリン(eb2258)は、ロッド・エルメロイ(eb9943)の手元を覗き込む。彼の視線の先には若芽を齧りとられた下草が見えた。噛み口のサイズから推測するに齧ったのは子羊ぐらいの生き物だろう。
「この辺で試してみましょうか」
そういうとフレイアは羊飼いから分けて貰った飼い葉を取り出し、目立つよう陽だまりの中に置く。
−ぴぃーーーっ!−
ロッドは高らかに指笛を吹き鳴らした。後は待つだけ。2人少し離れた場所で成り行きを見守る。
「・・・・運動不足だったのでしょうか?」
「はい?」
独り言のような呟きに思わず聞き返してしまう。
「あ、いえ。どうして子羊達は逃げ出したのだろうって考えていたんです」
「運動不足、ですか」
羊に限らず大抵の動物は、ある程度成長すると活発に動くようになるものだ。それは遊んでいるように見えても、大人になる為の体力づくりを兼ねている。
では、もし子羊達が「運動不足」だったとしたら? 思わぬ自由時間に喜び勇んで飛び出していった・・・・そう考えられなくも無い。
やがて、−めぇぇ・・・・めぇ〜−木々の隙間から羊の鳴く声と、−かさ、かさかさ−草を踏む音が近づいてきた。
「まぁ」
「おや」
ほぼ同時に、溜め息のような感嘆のような吐息を洩らした。食事の合図に呼ばれてきたのは毛並みも顔つきもそっくりな、2匹の子羊。
「双子でしょうか?」 「よく似ていますね」
正直、動物に詳しい彼らでも一目見ただけでは子羊の区別は付かないし、実際「そう感じた」その程度の印象だった。だったが。寄り添うように飼い葉に近づく姿や臭いをかぐ仕草を見るに付け、きっと兄弟だろう・・・・そんな確信が沸いてきた。
「お腹が一杯になるまで・・・・」
見ていたい、きっとそう言おうとしたのだろう。
「そうですね」
子羊兄弟が飼い葉を食む姿を見つめていた。
●最後の1匹
「羊も踊る季節、ですか」
インフラビジョンで暗がりや木陰を覗き込みながら、フレイ・フォーゲル(eb3227)は呟いた。彼の前には子羊の臭路を追うボルゾイ、と・・・・
「もこもこ、もこもこたのしいな〜、ここはおりにまかせるのじゃ〜 」
わんこ・・・・彼の飼い犬の上で意気揚々と言った風の、鳳令明(eb3759)。飼い犬の上、と言うのは彼がシフールだからであって、決して間違ったわけではない。
彼らの創作方針は「犬の鼻を使う」事。それも2匹がかりなら間違いが起きようはずも無い。
それが証拠に・・・・ボルゾイの足が止まり。−うぉん!− 一声、短く吠えた。
「近くにいるようですね」
「うむ。わんこもそういっておるようじゃ〜・・・・おお!」
令明が何かを指差す。その先にいたのは・・・・当然ながら子羊。しかも元気一杯に倒木の上を飛び跳ねている。なかなかのやんちゃ坊主のよぉだ。
「いまこそこれの出番じゃ〜」
わんこに背負わせていた飼い葉を外すと、令明は子羊に向かって飛び立つ・・・・が。
「む? なんじゃ、腹はへっておらんのか〜?」
差し出された飼い葉に目もくれず、一目散に走り出す子羊。
「おりと鬼ごっこをしたいのじゃな? 望むところじゃ。それ。わんこもゆくのじゃじゃ〜!」
−わふ!− 待ってましたとばかりに子羊の後を追う令明とわんこ。
「・・・・」1人残された、もとい。1人と1匹で残されたフレイは、苦笑いを浮かべながら。
「ボルゾイ、先回りして逃げられないように。ああ、噛み付いてはダメだよ?」
−おん!− 元来、狩猟犬とっては相手を追いかける仕事はまさに本職。幾らすばしっこくても2匹の犬が相手では逃げられないだろう・・・・
フレイは生き生きと走り去る愛犬の背を見送った。
●羊小屋の修繕とか
「ショコラどの、ここをおさえて欲しいのじゃ〜」
「はい、こうですか?」
「うむ。しばしそのままで頼むのじゃじゃ〜」
−とんてん、かんてん−板を打ち付ける音が夕暮れ間じかの牧草地に響く。一人親方の令明ではあったが、流石に人間サイズの道具を扱うには無理がある。ゆえに他の冒険者の手を借りながら羊小屋の修繕をしていた。
「材料はまだありますんで」
依頼人の羊飼いが抱えていた木板を降ろす。
「遠慮く使わせてもらっているのじゃ〜」
修理のために準備をして置いたものだそうだが、生木での応急処置も考えていただけに、乾燥の終わった木材があったのはラッキーだった。
「チョコさんは絵がお上手なんですね。とても可愛らしい羊さんですわ」
ルースアンはチョコが描いていた羊小屋の看板に賛辞を送る。
「あは、色塗りとか模様を描くのは得意なんですよ」
照れくさそうに、でも率直な気持ちが嬉しかった。
「看板を上げる時は手伝いますわ」
「え? でも・・・・」
彼女はその、言い難いが、正直とても力仕事に向いているとは思えない。怪訝な表情で見つめるチョコに。
「秘密の呪文がありますのよ」
悪戯っぽく微笑んだ。
木材を置いたところで、羊飼いはロッドに呼び止められた。
「何か御用ですか?」
「唐突で申し訳ない」前置きを入れると。
「あの2匹に名前を付けても良いですか?」
視線の先にいたのは昼間、ロッドとフレイアが保護した2匹の子羊−確認したところ、姉妹だった−
「そう、ですね・・・・」
羊飼いは少し考え。
「これも何かの縁ですし、お願いできますか」
「ありがとう御座います」
快諾を得たロッドは用意してきた名前を告げた。
「メリーとコリー・・・・うん。良い名前をもらったなお前達」
自分の名前を知ってかしらずか、2匹の姉妹は寄り添うようにまどろんでいた。