住民総避難 乗っ取られた村

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月05日〜06月10日

リプレイ公開日:2008年06月12日

●オープニング

●災難な村長は語る
「いやまぁ、村っちゅーても小さな村なんですが・・・・」
 白髪の頭をかきながら人の良さそうな老人は話を切り出した。
「わしらの村は畑の他にリンゴも育てておりましてな、あの日は果樹園の手入れをしておりました」
 果樹園の事は良くわからないが、何でも良い果実を作るには色々と手間隙をかけてやらなければのだそうだ。
「お昼ごろでしたか、突然犬達の落ちかなくなって、しきりに臭いを嗅ぎだしたんですわ」

●災難がやってきた
「なんだか犬達が騒いでるんだが、どうしたんだろう?」
「なぁに熊でも出たんだろう。犬が騒いでるのを聞けば近づいてはこんさ」
 手負いや子連れでもない限り、熊は好んで争いを吹っかけてくる生き物ではない。こちらの存在を主張していれば向こうが避けてくれるものだ。若者は村長の落ち着いた態度に安心して仕事に戻っていった。
「ねぇ村長さん・・・・」
 今度は隣の家の奥方がやって来る。
「なんだい、あんたも犬の事かい?」
 無理も無い。何しろ平々凡々の毎日、ちょっと犬が騒いだ・・・・くらいのことでも格好の話の種になるのだ。
「いえね、うちの子達がへんなものを見たって言うんだよ」
「へんなもの・・・・なんじゃね?」
「褐色の肌で、がっちりした体つきで・・・・こう鼻が垂れ下がってるって」
 奥方が身振り手振りを交えて話す内容を理解すると共に、村長の顔からは血の気が引いていく。
「ねぇこれってもしかして・・・・」
 割と有名なヤツだが、話には聞いたことはあっても実際に出会ったことが無い者だっている。だが村長は子供の頃、この特徴にぴったりと合う怪物を見たことがあった。
「ほ・・・・」
「ほ?」
 「ホブゴブリンじゃぁ!」 村長は悲鳴のような声を上げたが、すぐに冷静さを取り戻すと。
「こうしちゃおれん。あんたは奥方連中に声をかけて隣村に避難しなさい」
 「ええ? でも・・・・」もし子供の作り話だとしたら・・・・そんな思いで躊躇する奥さんに。
「嘘なら嘘でも良いんじゃ。じゃがな」
 老村長の目に力がこもる。
「もし本当なら大変な事になる」
 いつもは温和な村長の変化に戸惑いながらも、彼女は一目散に村へと走っていった。

●災難を逃れた村人達
「それで?」
「女子供と年寄りを逃がしてから2時間ほどで奴ら、村にやって来ましたわい」
 涼しい顔で答える村長に受付担当は戸惑った。依頼人の素性を詮索するのは、あまり好ましい事ではないが・・・・言葉を選んでから尋ねる。
「それにしても、英断でしたね」
 ただでさえ農作業に力を入れなければ行けない時期。信頼性にかける情報で、普通では考えられないほどの選択と行動。だが現実にホブゴブリンが現れたにもかかわらず、村長の決断のお陰で村人には怪我一つ無いのだ。
 「なぁに」またもや村長は涼しい顔で「こんな大それた嘘をつく悪たれは、村にはおらんですからな」

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea9937 ユーシス・オルセット(22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

アニェス・ジュイエ(eb9449

●リプレイ本文

●隣村・情報収集とか
「あいつら西の森から来たんだよ」
「うんそうだよ、それでねそれでね・・・・」
 冒険者達はホブゴブリンに占拠された村の隣村−といっても徒歩で丸々1日ほど離れているのだが−で、最初に彼らを発見した子供達から情報収集をしていた。
「とすると・・・・迂回する形になるか」
 ヒースクリフ・ムーア(ea0286)は村と森の位置関係を頭の中で整理する。その間に、ユーシス・オルセット(ea9937)が子供達に問いかける。
「森と村の間は土道なのかな? それとも石畳みたいな感じ?」
「ふつうの道だよ」
「うん。ふつうの土の道ー」
「成る程。それなら森と村の間に罠を張って、ホブゴブリンを追い立てれば上手く行きそうですね」
 得られた情報を元に陰守森写歩朗(eb7208)はトラップの設置場所を吟味する・・・・と。屋外から羽ばたきの音が聞こえ、程なく扉を開けて、サリ(ec2813)が入ってきた。
「ただいま戻りました」
 「お帰りなさい」「どうでしたか?」 仲間の労いの言葉もそこそこに、サリは偵察で得られた結果の報告を始めた。
「ホブゴブリンは村はずれの倉庫のあたりにたむろしていました・・・・あの、なにか?」
 同じ部屋にいた依頼人・・・・村長の「してやったり」と言う表情に気付いた。
「いや何」
 村長は一つ咳払いをすると。
「食い物がある場所を教えてやれば、足止めできるかもと思ってなぁ。逃げ出す前に倉庫の扉を開けといたんですわ」
 「それは・・・・」素直にすばらしい判断力、そして行動力だと思った。そうは思ったが後の言葉が出てこない。何故なら無事に村を取り戻せたとしても、農作物や果実が収穫できるまで村人達は乏しい食料で乗り切らなければならないのだ。
 それに気づいたのは彼女だけではない。そこにいた冒険者全員が一瞬、陰鬱な表情を浮かべた・・・・が。
「はっはっは」
 村長の場違いに明るい笑い声がそんな雰囲気を一蹴した。
 「確かにわしらには化け物をおっぱらう力はありません」そこで言葉を区切って冒険者1人1人と顔を合わせ。
「ですが粘り強く生き抜く事にかけては、なかなかどうして捨てたもんじゃありませんわい」
 「・・・・そうですね」森写歩朗は納得して答えた。彼の国も土と生きる人々が多く、そして彼らもまた強く、しぶとく、自然と共に生きていた事を思い出したから。
「そうですね、貴方がたならきっと大丈夫です」
 巨人族の聖騎士もまたそう請け負った。

●逆襲撃・ホブゴブリンをたたき出せ!
 彼らは村長の手で開け放たれた倉庫の周りで、備蓄された食糧をあさっていた。小麦や小麦粉はどうしようもないがそれ以外の物、果実や酒等の樽をこじ開けては食欲を満たしていた。
 −・・・・・・・・−−がぅ?−
 表にいた1匹が何かを聞きつけ、あたりを見回す。
 −・・・・・・・・・・・・−
 その音は規則的に、そして徐々に近づいて来る。−蹄の音だ!− 経験豊かなホブゴブリン戦士はその音の正体に気付くと、斧を掴んで警戒の声を上げる。
 −があぁぁぁ!−
「気付いたみたいだね」
 愛馬・セクエンスを駆るユーシスはその雄叫びに呼応するように、倉庫からホブゴブリン達が飛び出してくるのを冷静に見つめる。
 「4・・・・5匹」道幅一杯に広がりこちらを威嚇するホブゴブリン。だが馬上の騎士は臆することなく大槍ラグナロクを構え、勢いそのままに壁のど真ん中に飛び込む!
 −どがっ−−ごあぁぁぁ!−
 鋭い槍の切っ先で肩口を貫かれたホブゴブリンが苦悶の悲鳴をあげる。
「・・・・」
 攻撃を受けなかったオーガ達は、そのまま走り抜けようとするユーシスを追って振り向くが・・・・その瞬間。
 −ぐおぉぉ!?−
 1匹の肩口が裂け、鮮血が飛び散る。痛みを堪え振り向くと人間の子供−体型的にそう見えただけで、実際はパラ−が、抜き身の短刀構えていた。だがどうして、どうやって? その子供は少なくとも10mは離れているのだ。
 子供・・・・サリは胸の前、空中に不思議な光点を浮かべたままカルンウェンハンを構えなおすと、もう一度同じ敵目掛けて振り下ろす。
「やぁ!」 
 通常は届くはずの無い斬撃、だが。振り下ろされた刃は空を切り裂き、真空の刃となってホブゴブリンの皮膚を切り裂く!

 ホブゴブリン達は遠ざかる軍馬を追うよりも、近くに現れた別の敵を組し易しと判断した。事実、1匹でも接近を許せばサリの腕前で対処するのは難しい。だが、彼女は自分1人ではなかった。
 −ふっ−頭上を大きな翼持つ獣の影が通り過ぎた。風を切る音に混じり−ピィィー!− 甲高い口笛が響くと、それに答えるように1頭の犬がサリの脇を走りぬけ、ホブゴブリンに襲い掛かった。
 −ぎゃぁぁ!?− −うがっ!−
 予想だにしないグリフォンの登場にホブゴブリン達はパニックに陥る。森写歩朗はグリフォンの背から飛び降りると草早の剣を抜刀し、相棒達に高らかに命じた。
「レオン、円。1匹も逃すな!」

●勝利
 僅か1分足らずで勝敗は決した。
 オーガスレイヤーの魔剣を振るう森写歩朗はホブゴブリンの斧を盾で捌き、瞬く間にホブゴブリンを1匹仕留めた。サリはレミエラの力を使い、レオンと円と共にオーガの命を削り取っていく。
 仲間を2匹失うにいたり、士気を失い我先にと逃げ出すホブゴブリンの前に、ユーシスが立ちふさがった。1匹はセクエンスの蹄にかけられ、もう1匹は大槍で貫かれ地に伏す。辛うじて攻撃を免れた1匹が転がるように遠ざかる・・・・が。3人の冒険者はその後を追おうとはせず、他に敵がいないか村の調査を始めた。

 あと1歩で森の中に逃げ込める! 助かった・・・・そう思った彼の行く手を、黒い影と霧のように白い白髪がさえぎる。
「ホブゴブリンどもが村を乗っ取る、か」
 巨躯の男は虚空を見つめ、台詞を言っているような風で呟くと腰の剣を抜き放つ。裁きの名を持つ刃は陽光を受けて眩く光った。
「人里襲うとならば、容赦は無用だな。成敗してくれよう」
 ヒースクリフは視界の中央に敵の姿を納め、ゆっくり剣と盾を掲げて身構えた。ホブゴブリンもまた生を求め、斧を握り締めて黒衣の騎士をにらみつける。
 一瞬の沈黙の後・・・・2つの影が交錯した。

 −何故だ?− あと一歩だった。あのでかいヤツをぶちのめせば逃げられたはずなのに・・・・何故自分は倒れているのか? 何故身体が動かないのか? ・・・・彼がその答えを得ることは、永遠に無い。

 手負いのホブゴブリンなど彼の敵では無い。振り下ろされる斧を盾で弾き、がら空きの胴をなぎ払う。
 −手応えあり−
 崩れ落ちる音と共に剣を鞘に納めると振り向く事無く、ヒースクリフは村へと向かった。と、ふと何かを思い出したように立ち止まり。
「・・・・落とし穴、後で埋めなおさないといけませんね」
 一言呟いた。

●そして何時もの日々
「おうおう流石じゃのう、大したもんじゃ」
 村長は村の建物や果樹園がほぼ無傷なのを確認すると、感極まったように冒険者一人ひとりの手を握ってまわった。
「実を言うとな、多少壊れるぐらいの覚悟はしとったんじゃよ」
 臆すること無く言ってのける村長に一同苦笑い。
 「それにしても・・・・」ヒースクリフは当初から思っていた感想を述べる。
「迅速且つ、的確な判断でしたね。余計な被害を一切出さずに済ませた、正に英断と言うべきです。騎士として敬意を表します」
 はっはっは。村長はカラカラ笑うと事も無げに。
「力が無いもんは無いなりに、な」
 牙も爪も無い生き物は一瞬でも早く天敵を察知し、素早く逃げる事で身を守るという。言い換えれば臆病さや逃げ足は力の無い者達が生きる残るための武器なのだ。してみれば村人達が今回の危機を乗り切れたのは、本当は当然の事だったのかも知れない。

「ねーねー、おねーちゃん」
 手を引かれたサリが視線を落とすと、自分より小さな少女が見上げている。
「何ですか?」
「この狐さん、おねーちゃんのお友達?」
 どうやら少女は、サリ側で寝そべっているイピリマに興味があるようだ。サリはくすっと微笑むと。
「この子はイピリマっていうの。とても賢いんですよ」

 聞きなれない異国の名前を口の中で、何度も何度も繰り替えす少女を見ている内に、自分達が取り戻したモノの大きさを感じたような気がして・・・・
 冒険者達は心の中が充実感で満たされていくのを感じた。