【グレッグの調査書】 人食い樹の護る洞窟

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月15日〜07月20日

リプレイ公開日:2008年07月18日

●オープニング

●熱意はわかりますが
「まずはこいつを見てくれ」
「・・・・はぁ」
 まさか依頼人を邪険に扱うわけにもいかず、受付担当は依頼人−グレッグ氏−が差し出した羊皮紙に目を落とした。そこに描いてあったのは・・・・
「手書きの地図、ですね」
「うむ」
 インクのかすれ具合から察するに。
「これは・・・・グレッグさんがお描きになったんですか?」
「うむ。それが何か?」
 「・・・・」何か? と言われても・・・・『お手製の宝の地図を持ち込んで、何を考えてらっしゃるんですか?』
 喉まで・・・・いや、もう舌の上まであがってきた言葉を無理やり飲み込む。
「・・・・」
「・・・・」
 体感で10分。実際には1〜2分程。気まずい沈黙と依頼人の暑苦しい・・・・もとい、情熱に満ちた視線に負けた。
「・・・・で、この地図がどうしたんです?」
「良く聞いてくれた!」
 グレッグ氏は我が意を得たり、とばかりに今回の冒険計画をとうとうと語りだした。

●近づきさえしなければ全く危険じゃない脅威
 「とある村で聞いた話なんだが・・・・」紆余曲折の末、尾ひれ胸びれに背びれまでつくので依頼人の話を要約する。
 山すそにある村の近くに鬱蒼とした森があった。当然のように村人は森からの恵みを得、日々の暮らしの助けにしていたのだが・・・・1つだけ。村人達の間には暗黙の了解があった。
 それは森の最奥。山と山に挟まれた場所には足を踏み入れない、という事。そこに何があるのかは誰も知らない。人を食う大木があると言う噂があるにはあったが、何よりも森の奥まで獲物を追うほど村人達は飢えているわけではなく。不気味な森を切り開いてでも通したい道があるわけでもない。要は・・・・
「そこまで行かなきゃならん理由が無い、っちゅー話じゃ」
「はぁ・・・・では何故そこを調査する気になったんですか?」
 −きらーん−依頼人の目が光る。「ああ・・・・乗せられた」心の中で呟く受付嬢。でもこれは仕事、私の仕事なの。
「村の年寄りから人食いの木の奥に洞窟がある、と言う話を聞いての・・・・」
 依頼人の目の奥に燃える火が炎に燃え上がる。
「霧深い森の奥、怪植物に護られた洞窟っ! これで闘志のわかん探険家がいるだろうか? いやおらん、おらんぞぉ!」
 倒置法まで駆使して熱弁をふるう依頼人はさて置き。受付担当は勤めて冷静に−冷めた、と言えなくも無いが−依頼書の作成に取りかかった。

●今回の参加者

 ea3451 ジェラルディン・ムーア(31歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 eb2488 理 瞳(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb7628 シア・シーシア(23歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb7636 ラーイ・カナン(23歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

レイ・カナン(eb8739

●リプレイ本文

●いきなり大ピンチ
「のわぁぁぁ!?」
 鬱蒼とした森の中に絹を裂く・・・・というよりはヒキガエルを締め上げたよーな男の叫びが木霊する。
「グレッグさん!」
 ジェラルディン・ムーア(ea3451)はガヴィッドウッドの蔓をシールドで受け流しながら依頼人の名を叫ぶ。
「・・・・その時だった。地面が蛇のように波打ったかと思うと、かの人食い樹木の蔦が私ことグレッグ・レイバーの足を絡めとりー!?」
 返事の代わりに口述筆記のような叫びが返って来る。
 「なんか・・・・大丈夫そうな、大丈夫じゃなさそうな感じだね」ジェラルディンは何だか肩透かしを食らった気分で、なおも獲物を求めて蠢く蔦にジャッジメントソードを叩き付けた。

 実際のところ、当の本人にはそれほど余裕があるわけでもなかった。人食い樹木−ガヴィッドウッド−の事は、人づてや文献を調べてある程度のことは知っていた。知ってはいたが、当然ながら実際に見るのは初めてだし、捕まるのも初めて。蔦のような触手で獲物を絡めとり、ぽっかりと開いた洞の様な口に放り込んで食べてしまうらしいのだが・・・・その洞の中で獲物がどうまるのかは誰も知らない。何しろ放り込まれて無事に帰ってきた者が居ないのだから仕方が無い。幾ら冒険家でも自分の体で試すのは・・・・さすがに抵抗がある。
「うむむ。痛いのは嫌じゃしのう」
 ちと、で済めば良いのだが・・・・人食い樹木に引き寄せられるスピードが鈍った。誰かが彼の身体を後ろから抱きかかえているようだ。
「おお瞳君、いつも済まんの」
「邪魔ニナル。動カナイ、デ、クダサイ」
 理瞳(eb2488)は身を捻って礼を言うグレッグに、直球な表現で動かぬようにと指示する。別に彼が嫌いなわけではない。ただイギリス語を覚えてから日が浅いので、比喩や砕けた表現が苦手なだけだ。
 別の調査に同行したことがあったので、グレッグもその辺りの事はわかっている。もっとも彼の場合、もともと細かいことに拘らない性質ではあるが。
「うむ」
 一言で同意の意思を示すと、瞳に全てを預けた。

「行くぞ」
「了解」
 シア・シーシア(eb7628)と、ラーイ・カナン(eb7636)は短く言葉を交わすとすぐさま行動を起こした。伊達に長い付き合いを続けているわけではない。
「ムーンアロー!」
 位置を調整し−最も近いガヴィッドウッドの蔦−を目標に月の精霊魔法を放つ! 狙い違わず光の矢が突き刺さる、が。引き寄せるスピードは鈍ったものの、蔦はなおも獲物を本体に引き寄せようと動き続け・・・・間髪おかずラーイが駆け寄り、ムーンアローが突き立ったその場所に大上段から破邪の剣を振り下ろす。
 −がっ−鈍い音と共に蔦が切り払われた。
 同時に瞳が動く。依頼人を小脇に抱えて−と言う表現がしっくり来るほど軽々と−戦闘の及ばぬ場所へと持ち去る。
「毎度済まんのー」
「静カニ」
 程なく2人の声と姿は木々の間にと消えた。

●何があったのかと言うと
 森に入ってから2時間は経っただろうか。近隣の村人から話は聞いていたが、出会った動物はといえば野ネズミやトカゲが殆ど、少し大きくて狐程度。
「ほんと何も無い森だねぇ」
 強いて言えばあちらこちらに蔦や下草が生えていて、彼女の体躯だと少々歩きにくいくらいだ。後ろからは。
「木々は枝葉を張り巡らし、蔦を絡ませ、我々の行く手を塞ぐかのように・・・・」
「そこは−行く手をさえぎるように−の方が良いんじゃないかな?」
 「む・・・・それもそうじゃの」前回の依頼でも気付いていたが、グレッグは書き物をする時に声を出す癖があるようだ。
 話術の得意なシアのアドバイスを受け、なにやら書き直す気配を感じる。エルフの吟遊詩人はこの老探検家を「面白い人間」だと気に入ったらしい。彼もまた歌と酒が何よりも好きと公言するだけあって、人生を楽しんでいるグレッグに共感したのかも知れない。
 
「・・・・」
 依頼人と幼馴染が意気投合する様を見ているうちに、胃が痛くなって来たのは気のせいだろうか? 列の最後方でラーイは、本日何度目かわからない溜め息をついた。正直にいえば今回はシアに引っ張り込まれて参加した依頼だ、溜め息を連発するのも仕方ない。とは言え、幼馴染とは違うが彼もまたグレッグに対して、敬意にもにた感情を覚えていた。老いてなお夢中になれるバイタリティは尊敬に値する、と。
 なんにせよ一度引き受けた以上は完遂するのが自分の主義。バックパックからとあるメモ書きを取り出そう、と・・・・一瞬、動きを止めた。そのメモ書きには、仲間が事前に調べてくれた目的地までの最短ルートが記されているらしいのだが。
 −ふぅ−
 ラーイはもう一度溜め息をつくと、頭の中からメモ書きの事を追い出した。初見の森を少しづつ進むのと、迷子の天才が調べた最短ルートを進む・・・・大差無いな、と思った。

「静カニ」
 瞳は道中延々とシアと冒険談義に花を咲かせるグレッグを一喝した。そのばっさりとぶった切るような指示に講義1つ無く沈黙する依頼人。どっちが隊長かわからない。
「・・・・静カスギマスネ」
「瞳君が静かに、と言うたではないか?」
「いや。そーゆう意味じゃないから、多分」
 グレッグの小ボケ−いや、マジボケかも−に律儀に付き合いつつも、ジェラルディンはゆっくりと腰の剣に手を伸ばす。
「下草の質が変ったようだ」
 シアもまた微妙な違和感を感じ取った。先ほどのように野ネズミやリスのような小動物がいれば、木の実や若い芽は適度に間引かれ、植物達は無秩序な繁殖を抑制されるはずだ。だが、ここは・・・・
 「のわぁぁぁ!?」 ここで冒頭につながる。

●決着・ガヴィッドウッド
 護るべき対象が安全な場所へ移った事を確認すると、冒険者は本格的に反撃を開始した。
「ガヴィッドウッドに攻撃」
 エシュロンのルナに攻撃命令を下すとシアは再びムーンアローの集中に入る。その前方、最前線では大樹を挟み込むようにジェラルディンとラーイの2人が、隙あらば絡み付こうと蠢く蔦を切り払い、盾で受け流しながら少しづつガヴィッドウッドの樹皮を削り取っていく。
 「・・・・っ」幾度目か切りつけた時、ラーイは左手の痺れに眉をしかめる。皮鎧や硬い鱗を切りつけるのとは明らかに違う鈍い衝撃は、手練れの騎士に一瞬の空白をもたらす。
「しまった!」
 とても植物とは思えない動きで蛇ほどの太さの蔦がラーイの腕に絡みつく!
「ラーイ!」
「・・・・問題ない」
 シアの叫びに即答すると渾身の力をこめて蔦を曳きかえす。暫く力比べを続け充分に力が加わったのを確認すると、破邪の剣をかかげ・・・・「!?」 その瞬間、視界の端に何かが走りこんで来た。
 −ばちぃ!−
 およそ植物が切れたとは思えない音を立て、蔦がはじけ飛ぶ。辛うじて転倒を免れたラーイは、飛び込んできたそれに声をかける。
「ありがとう、助かった」
「問題ナイ。デス」
 彼のフレーズを真似たのか返事を返すと、瞳は飛鳥剣を手に軽やかに攻撃をかわす。
「囮ヤルデス。ヨロシク」
 武器の短所は理解していた。彼女の武器は薄刃で、肉を切るのには良いが硬い物を切るには向かない。それでもラーイの腕に絡んだ蔦を一太刀で切断できたのは、蔦がさほど太くなかった事と極限近くまでテンションがかかっていたからだ。
「わかった。本体は任せてもらおう」
 左手の痺れは既におさまっている。ラーイは剣を握りなおすと瞳の横をやや大回りにすり抜け、ガヴィッドウッドの本体へと向かった。

●山と森と水と
 ガヴィッドウッドを倒し洞窟を発見した探検隊一行は、洞窟の中へと踏み込んだ。ジャイアントのジェラルディンが辛うじて通れるほどの広さはある。もっとも何処まで続くかはわからないが。
「やっぱり外で待ってたほうが良かったかな」
 列の最後尾を中腰気味で進んでいるのだが、気をつけないと天井に頭をぶつけてしまう。さっきなど額に直撃を食らってしまった。後悔しながらもランタンの灯りを少し高く持ち上げる・・・・と。
「わっ・・・・」
 いつの間にか前を歩いていたシアが立ち止まっていた。とっさに急ブレーキをかけて辛うじて衝突を免れる。
「行き止まりかい?」
「さぁ・・・・」
 どうやらシアの位置からも前は見えないようだ。もしかして別の敵かとも思ったが、どうもそういう雰囲気ではない。前に出ようかと思ったがシアの前にラーイがいるためそう言う訳にも行かず、最後尾の2人は前が動くまで暫くの間、ひたすらに待つしかなかった。
 
 止まったのと同じく突然前が動いた。恐る恐る先に進むと徐々に壁と天井の距離が広がり、窮屈な姿勢から開放される。
「ん〜・・・・はぁっ。助かったぁ」
 思いっきり伸びをして仲間に声をかけるが誰一人、あのグレッグですら乗ってこない。呆けたように闇の先を見つめている。
 「?」 彼らの視線の先に目を向けたとき。彼女もまた、言葉を失った。

 ランタンの光が照らし出す地下空間。そこには冷涼な水を湛える泉が広がっていた。その水面は小波一つ立たず、その水はそこに水があることすら忘れるほど限りなく透明。
 瞳は泉の畔にしゃがみこむと手を伸ばし、両手で泉の水をすくう・・・・と。鏡のような水面に走った波紋が照明を反射して、夜空に輝く星のように輝いた。

●調査書
 「・・・・人食いの木が守っていたのは山が浄化し、森が育んだ地底の泉であった。今もその泉は静寂と闇の中で清らかな水を湛え、地下を通り大地を潤す川へと注ぎ込んでいるだろう。−グレッグ・レイバー−」

 実はこの調査書、一部を除いて人目に触れることは無かった。その理由を彼はこう語る。
「有名になりたくてやっとるわけではないしの。それに・・・・」
 少し言葉を選び。
「彼らのバランスに手を加えてしもうた。せめてもの償いじゃよ」
 老探検家の矜持だった。