果樹園奪還 リンゴの樹とゴブリン射兵隊?
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:熊野BAKIN
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:09月30日〜10月05日
リプレイ公開日:2006年10月05日
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●オープニング
●起
キャメロットの近郊にある果樹園での出来事。
この辺りではリンゴの生産が盛んで、毎年多くのリンゴを収穫してはキャメロットの店先や食堂を賑わせている。
今年も例年通りにリンゴが赤身を帯び、収穫まであと一息。というところでトラブルが起きた。
●張り出された依頼
「果樹園の一角にゴブリンが住み付いてしまったんです」
件の果樹園の跡取り息子はそう切出した。
「数は多分7〜8匹だと思います。人を襲ったり、樹を切り倒したりとかの被害は無いのですが」
「ですが?」
先を促す受け付け担当。情報とは、例えどんな些細な事に思えても現場に赴く冒険者にとっては、金にも換えがたい重要なモノになる事もある。
「リンゴを的にしているんです」
「・・・・的?」石でも投げて遊んでいるというのか? 担当の怪訝な表情に気付いたのか、依頼人が言を続けた。
「粗末な作りなのですが弓を持ってるんです」
成る程、ゴブリンだって狩りをする事もあるだろう。ならば弓を持つ者がいてもおかしくない。
「集団の中に弓を持っている者がいる、と言う事ですね」
「いえ、その・・・・もっているモノと言うより・・・・」
「?」
「殆ど全てが持っていたような・・・・」
「はぁ?」
流石に虚をつかれた。1匹や2匹ならともかく、全部とは。
「あ、でも全然当たらないみたいで、それでムキになっていたような」
歴戦の受付担当は続きを聞きながら、すでに依頼の文面を思い描いていた。
数時間後。
【ゴブリン退治の依頼】
果樹園に住みつくゴブリンの退治。
数は7〜8匹。
周囲への被害(リンゴ、樹木)に付いては不問、依頼者確認済み。ただし限度有り。
備考。ほぼ全ての個体が小弓を所持している模様。充分に注意されたし。
●リプレイ本文
●落とし穴作戦
果樹園の一角、スコップをフル活用して穴を掘る男達がいた。
「はぁ、汗をかくにはいい季節だね」
グラン・ルフェ(eb6596)は相方に声をかけた。ラシェル・ベアール(eb7300)はにこやかに返事を返す。
「まさかリンゴ園で穴掘りをするとは思いませんでしたけどね」
声を合わせて笑う。が、ゴブリンに聞かれるかも・・・・同時に口を押さえた。
「まだ大丈夫よ」
頭上から女性の声が聞こえた。見上げた先にいるのはフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)。シフールのレディだった。
「それにしても、いい男が2人して穴掘りなんて・・・・勿体無いわぁ。お仕事でなければうんと楽しい事してあげるのに」
微笑するシフールのおねえさまに、苦笑いとも照れ笑いとも取れる表情で答える「いい男」コンビ。
フィオナはキャメロットから果樹園までの道のりをセクハ・・・・もとい、ウィットにとんだ大人の会話で皆を楽しませてくれた・・・・の、だが。
話の内容に加え、シフールながらも女性として完成されたそのシルエットに、男性陣は困惑・女性陣は赤面しきりだったのは恐らく気のせいでは無いはずだ。
「えーと・・・・そう、そろそろ仕上げにかかろう」
「は、はい。そうですね」
慌てて作業に戻る男達。彼等を眺めつつ「可愛いわぁ」と、声に出さず呟く小さな艶女。
まぁなんにしろ、果樹園には似つかわしくない光景ではあった・・・・似合う場所があるのか、と言われても返答に困るが。
●単騎林檎園に想う
「そういやぁ飛び道具相手ははじめてか」
日高瑞雲(eb5295)はそう呟くと手近のリンゴをもいで齧った。甘酸っぱい果汁が口一杯に広がる。生来の酒好きではあるが、たまには甘い物も悪くない。
別に遊んでいるわけではない。
緊張感の無さは言いかえれば、場慣れしているとも言える。後に控えている立ちまわりに備えて身体を休めているのだ。
「・・・・絶っっっっっ対やんねぇ」
休め過ぎて嫌な事を思い出したのだろうか? 猛烈な勢いでリンゴを完食すると不機嫌そうに目を閉じた。
●本陣
落とし穴の地点からやや離れた位置。ゴブリンを待ちうける、いわば本陣とも言える場所にいたのは3人の女性。
一人は華国出身の武道家、劉麗成(ea7978)。あとの2人は何れもジャパン出身の陰陽師で魔法学校生の衣笠陽子(eb3333)と 僧兵にして通詞の芦野芽与(eb7131)だった。
「あたしはここでいいかな?」
「私は陽子さんの隣で宜しいでしょうか?」
「ええと、は、はい。麗成さんはその辺りでいいと思います。そうですね、芽与さんは援護ですから私と一緒で大丈夫だと・・・・」
陽子はこの3人の中では最も依頼経験の多かった、必然的に彼女に質問が集まる。
元来、責任感が強い性質の彼女だが、ついつい思い悩んでしまう一面がある。その為にどうしても歯切れが悪い答え方になってはしまったが、彼女なりに自分の考えを伝えようと努力していた。
その気持を汲み取ったのだろうか、芽与が2人の母国語で語りかけた。
『皆で、一緒に頑張りましょう』
陽子は少し驚いた後、こくりと頷いた。
●主役登場
「来たきた」
上空から見張っていたフィオナが、果樹園を進むゴブリンの一団をみつけた。
常人ならば目の届かない程の距離と僅かな間隙、彼女の優れた視力だからこそ見つけられたのだ。
「さてと、お仕事お仕事」
数分後、『全部で7匹、予定通り練習場所に向かってる』フィオナのテレパシーによってグラン、瑞雲、陽子に情報がもたらされた。
小さな斥侯は迅速かつ正確に自分の役割を遂行した。
「そろそろ始めましょうか?」
ラシェルは相棒に声をかけた。
練習場所につくやゴブ御一行は徐に弓を構え、無茶苦茶な射法で矢を「飛ばし」だした。どれもこれも本職の2人から見れば「論外」としか言い様が無い酷さだ。
何しろ「何故そんな方向へ? 」と、彼らが首を捻るほどありえない方向に矢が飛ぶのだ。もしも新しい射法だ、と言い切られたら思わず納得してしまうかも知れない。
それでも狙った的の「3本隣の樹の実」に当ったりすると、やんややんやの大喝采が起きる。何処と無く微笑ましい光景でもある。
「頃合だね」
グランは愛用の弓に手を伸ばし・・・・「あれ? 」トラブル発生。実は彼が穴を掘っている際、弓が邪魔にならない様にするため、何時もと違う背負い方をしてしまったのだ。
せめてもの救いは携帯していた事だが、弓を降ろして構えるには少し時間が掛かりそうだ。何より敵に気付かれては挑発どころではなくなってしまう。
「ごめん、頼めるかな?」
グランの言葉に頷くとラシェル立ち上がり、流れる様な動きで弓を構えると矢をつがえ、放った。
ここ数日間、ゴブリン達はこの道具に夢中だった。
森で人間がこれを使って遠く離れた動物を倒すのを見た後、すぐに人間の小屋からこの道具を盗み出した。みよう見真似で矢を飛ばす事ができた時は、大いに盛り上がったものだ。
そんな折、たまたま1匹の仲間がこの果樹園を見つけたのだ。
練習(と言えるならば)もできるし食い物もある、この立地条件に彼らが大喜びで通うようになったのは、まぁ当然の成行きだろう。
そして一匹が弓に矢をつがえ、リンゴに狙いをさだめて・・・・
−しゅかっ−
彼が狙っていたリンゴが突然消えた。
辺りを見まわすと隣の樹の幹に矢が突き刺さっていた。その矢についていたのは、自分が狙っていたはずのリンゴ・・・・
一体誰が? ゴブリンたちは呆然と謎の射手を探した。
1匹のゴブリンが人間を見つけ叫び声を上げた。ラシェルは叫び声を無視する様に次矢を放つと、その矢もまた別のリンゴを射抜いた。
ゴブリンの的を先に射落として怒らせ、誘導する。これが彼らの役割だ。
何時でも逃げ出せるように身構える彼等に浴びせられたのは、見当外れの矢では無く。
−ぎゃはー! −−ぱちぱちぱちぱちぱち− 拍手喝采・・・・あまりの腕前に怒るどころか、感動してしまった模様。
「えーと」
「取り敢えず逃げよう」
困惑するヒーローに、弓を持ちなおしたグランが声をかける。リアクションはどうあれ、奴らを誘い出せればいいのだ。
彼らは喝采を背に走りだした。
●開戦
一頻り喝采した後、はたと我に返るゴブリン達。ひょっとするとと自分達は人間に馬鹿にされたのか? ひょっとしなくてもそうなのだが。
ふつふつと怒りが湧き上がる。そして喝采とは明らかに違う叫びを上げ、逃げた人間どもの後を追って次々と走り出した。
既に奴らは遠ざかっていたが、木々の隙間からちらちらと後ろ姿が見える。それを目印に追いかけて・・・・ふいに先頭を走っていた仲間が消えた、その後ろを走っていた仲間も忽然と姿を消す。
−何?−
彼らは罠のど真ん中に飛び込んでいた。
ゴブリンが落とし穴に掛かったのを見た麗成は、ミドルシールドを手に木陰から飛び出した。
彼女の脳裏に仲間のアドバイスが甦る「下手に動くとかえって危ない」その言葉を信じ、彼女は盾を構え自ら的となり仲間の壁に徹した。
大事な食べ物を遊びで的にするなんて・・・・許さない。芽与の瞳は強い意思をもって輝いていた。
仲間の背中を見据え、芽与はホーリーフィールドの詠唱をはじめた。魔法が完成すれば矢が飛んできてもきっと仲間を守ってくれるはずだ。
−頃合か−瑞雲は愛刀「霞刀」とミドルシールドを手に木陰から身を起こした。
敵が本隊に気を取られている隙に背後から強襲する、これが彼の役回りだ。危険な仕事だが今回の陣容で、この仕事をこなせる人材は彼を置いて他に無い。
瑞雲は不敵な笑みを浮かべ、敵陣へ向け走りだした。
もう一息で間合い、というその時。彼の足音に気付いたゴブリンが振り向いた。
まだ遠い、が「1本2本食らった所でどーってこたぁねぇ」瑞雲は足を鈍らせる事無く突進する。
「コンフュージョン」
−ぎひゃぁ!−
血飛沫が上がったが瑞雲の物では無い。こちらを向いたゴブリンが、矢を抜いたかと思うと隣にいた仲間に突き立てたのだ。
走る漢の視界にちらりと小さな影が映った。
「ありがとよ、フィオナの姉さん」
霞刀一閃。仲間に攻撃された事に驚きの声を上げる暇も無く・・・・哀れなゴブリンは絶命した。
「眠りよ」
落とし穴を迂回しようとした一体がくたりと崩れ落ちる、眠りを誘う月の魔術に捉えられたのだ。
自分には限られた力しかない。でもその限られた力でも使い方さえ考えれば、何倍もの結果を導き出す事が出来る。
その強い思いが陽子の表情から見て取れた。
●夕日の味
冒険者達は城下への帰路についていた。結果は圧勝。
場所を移動させた事で、只でさえ物真似程度の弓がまともに使えるはずも無く、先頭の2匹が落とし穴に落ちたお陰で戦力もがた落ち。背後から強襲されるわ、魔法で同士討ちさせられるわ、自分たちと打って変って正確な弓矢の攻撃で削られていくわ・・・・これほど「踏んだり蹴ったり」と言う言葉が似合う状況も無かろう。
終わってみれば、冒険者達はかすり傷1つ負っていない程の大勝だった。
「ラシェルさん、どうしたんですか?」
浮かない表情の彼を心配して陽子が声をかける。少しの間、何事か考えてからラシェルは口を開いた。
「殺したくは無かったですけどね、彼等を。我ながら甘いと思いますが」
「・・・・優しいですね」
そう言って苦笑する青年に陽子は微笑んだ。
彼は相手がゴブリンだったとはいえ、その命を奪った事に心を痛めている。10人に聞けば9人は「甘い」と笑うかも知れない。
でも「そんな冒険者がいても、良いですよね」陽子は心の中で呟いた。
芽与は果樹園から貰ったリンゴを見つめていた。これが自分達が守ったもの、冒険者として始めて得た物。ささやかだけど、何だかとても嬉しくて。
夕日を浴びて赤身を増したリンゴを一口、齧った。