占拠された池・・・・暑い!

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月04日〜08月09日

リプレイ公開日:2008年08月09日

●オープニング

●困った事態
「水場をホブゴブリンに占拠された、ですか?」
「ええ」
 受付担当の確認に神妙な面持ちで頷く依頼人。事態はきわめてシンプルで、解決も至極単純な方法になるだろう。
「ここのところ暑い日が続いたので、村の子供達が近場の池で水遊びをしていたんですよ」
 依頼人−話にあった村の村長−は、言葉を選びながら説明をはじめた。

 池の近くまで着いたとき、子供達は先客がいる気配に気がついた。
 −ぎゃぁ!− −うほはっ−
 ばしゃばしゃと水を跳ね飛ばす音と共に聞こえるのは、およそ人の声とは思えぬような叫び声。それも複数。子供達の中でも年長の少年が木の影から恐る恐る覗くと・・・・そこにいたのは、土色の肌をもったオーガ。少年はそのオーガの正体に心当たりがあった。以前、村の大人から聞かされた事があったのだ。
「あれは・・・・ホブゴブリンだぞ」
「大変だぁ、父ちゃん達に知らせなくゃ」
「あんちゃん怖いよぉ、早く逃げようよぉ・・・・」
 今にも泣き出しそうな年少組を幼馴染の少年に託すと、彼はもう一度木陰から水遊びに熱中するホブゴブリンの観察を続けた。

●水場奪回
「その子の話ではホブゴブリンは5匹。暑さのせいか池の側から離れんのです」
「・・・・随分と度胸の据わったお子さんですね」
 受付嬢は素直な感想をのべる。内訳は感心半分、呆れ半分といったところだ。
「ええ。両親にこっぴどく叱られたようですが、早くにお陰でわしらも助けを求める決断ができました」
 たとえ1匹でも村人にとっては十分な脅威だが、それが5匹となれば村の存続にかかわる大問題。冒険者ギルドへの依頼が即断即決されたのは当然と言えるだろう。
「それでは早速、人手を募ります」
「よろしくお願いします」
 キャメロットのある暑い、夏の1日の事だった。

●今回の参加者

 ea2206 レオンスート・ヴィルジナ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3246 セフィード・ウェバー(59歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

鳳 令明(eb3759)/ アンリ・フィルス(eb4667

●リプレイ本文

●村での情報収集
「こんなもんで良いですかね、旦那ぁ」
「どれどれ・・・・うん、いい感じね。お代は?」
「なぁに水場を取り返しに来てくれたんだ、これくらいは協力させて貰いますよ」
「悪いわね。きっちり仕事をして返すわ」
 レオンスート・ヴィルジナ(ea2206)は羊飼いの男に手を振ると、少々臭い出した−この暑さでは直に「少々」ではすまなくなるだろうが−羊肉を麻袋につめた。水場にたむろするホブゴブリンを誘き出すのに使う予定なのだが、このぐらいなら村人にとっても充分に食用となる筈だ。それを提供するのは、自分達を助けに来てくれた冒険者へのささやかな協力、という事だろう。
「それにしても暑いわねぇ・・・・オーガが水遊びしたくなるのもわかるわ」
 滴る汗を拭うと、リョーカは真夏の太陽を見上げた。
「後は池の周りの地形と奴らの食料、か」
 ぼやいていても仕事は片付かない。残った仕事を確認すると、長身の騎士は誰に尋ねるべきか思案をめぐらせた。

●真夏のバーベキュー大会?
 件の池の近く、といっても余りにも近すぎると相手に気付かれて「池から引き離す」と言う目的を達成できない恐れがある。そういうわけで適度な距離・・・・肉の焼ける匂いが届くであろう距離を見計らって、冒険者はバーベキューの準備を始めた。
「焚き火の位置はこの辺りで良いだろうか」
 一際体格の大きな男、マックス・アームストロング(ea6970)が担いでいた薪を降ろす。肉体自慢の彼にとっては大した荷物ではなかったが。
「ええ、結構ですわ。ご苦労様でした」
 メイユ・ブリッド(eb5422)がマックス労をねぎらうように声をかけた。本当に苦労するのはこれからなのだろうが、そこは歴戦の冒険者揃い。余分な力みや緊張は微塵も感じられない、実に自然体だ。
「いい具合に風が吹いてきましたね」
 リョーカが仕入れた肉を運んでいた、セフィード・ウェバー(ec3246)が足を止め空を見上げた。昼を過ぎ傾きだした日差しの下、一陣のそよ風が吹きぬける。上手い具合に風は池の方へと流れている。
「このまま池のほとりでお食事会なんて良いわね」
 「・・・・」その言葉に返事こそしなかったが・・・・この陽気の下だ、誰もが似たようなことは考えていただろう。

●炎天の下、香ばしい匂い漂う
 −うが?− −すんすん・・・・−
 今日もまた池で涼を取っていたホブゴブリン達は、そよ風のなかからとある欲求を刺激する香りを嗅ぎ取った。その欲求とは、ずばり食欲。池に住み着いてから冷涼な水のお陰で暑さは凌げたが、食料は池の周りで調達できるもの・・・・魚や野草に限られていた。この暑さから逃れるためとはいえ、泥臭い川魚に辟易し始めていたオーガにとってその匂いは、この上ない誘引力を発揮した。

「来た来た。本当に魚しか食べてなかったみたいね」
 リョーカは匂いに釣られて池を離れたオーガ達を待ち受け、呟く。この付近で得られる食料を村人に尋ねたところ全員が全員、池の魚、と。主になまずの類だろうと言っていた。
「やはり肉の焼ける香りには勝てぬようだな」
 自慢の大胸筋を揺らしながら−幸か不幸か鎧の下で見えなかったが−笑うマックス。この肉体を維持するためには、充分な修練と良質な蛋白源。即ち肉を欠かすことはでき無い。ただ一つ、心残りがあるとすれば・・・・自慢の肉体美を見せ付けることができ無い事ぐらいか。

 −くんくん・・・・−−ぐるるる−
 確実に近づいている。ホブゴブリン達は匂いを頼りに移動を続ける。余程慌てていたのか、1匹など皮鎧を脱いだまま、斧と盾だけをもって列に加わっていた。
 −があぁぁ!−
 先頭の1匹が雄叫びを上げた、匂いの出所を発見したのだ。彼らの視線の先には、焚き火を囲む人間の一団と・・・・串に刺され焚き火で炙られる、肉、にく、ニク。
 −うがぁぁっ!!− 斧を振りかざし、オーガは焚き火目掛けて走り出した。
 彼らのミスは2つ。1つは自分達のほうが人間より数が多く、脅しつければ逃げるだろうとたかを括っていたこと。もう一つは・・・・その人間達が彼らを誘き寄せていた、という事に気がつけなかった事。

●この間、数分ほど
 「コアギュレイト」「コアギュレイト!」
 メイユとセフィードが放った束縛の魔法で3匹のホブゴブリンが−1匹多いのはセフィードが高速詠唱を用いたからだ−自由を奪われ、凍りついたかのように固まる。
『どうした、臆したか?』
 突然、動きを止めた仲間に動揺したオーガに何者かが語りかけて来た。彼らの知能は高くは無いが、意思の疎通を図るのは−困難ではあるが−不可能ではない。その手段の一つがマックスの用いたオーラーテレパス。
『オレサマ、ツヨイ! オマエデカイダケ、オレサマ勝ツ!』
 伝わってくる思念に動揺が見えるものの戦意は未だ衰えず、と言うところか。
『その意気だ。お主の力、我輩が見極めてやろうぞ』
 ブリトヴェンを前面に押したて、モラルタを掲げる巨人に挑むオーガの姿は、軍馬に挑むモグラに見えたとか見えなかったとか・・・・

 軽くステップを踏んで薄汚れた斧をやり過ごすと、トリグラフの三叉槍を突きこむ! ・・・・手応えあり。ホブゴブリンの悲鳴を聞き流して再び間合いを取る。
 「ま。何ができるわけじゃなし、自分にできるやり方で1匹づつ倒してくしかないわよね」誰に言うとでもなく呟くリョーカ。その飄々とした姿にオーガはますます怒りを駆り立てられ、より激しく斧を振り回すが・・・・体術に勝るリョーカを捕らえる事ができ無い。
「はい、おしまい」
 幾度か交差を繰り返したのちオーガは騎士の槍を受け、崩れ落ちた。

 「人間の勝手ではありますが・・・・」
 3匹は魔法で拘束され、自由の2匹も熟練の騎士2人によって地に伏した。既に勝敗は決した戦いを眺め、セフィードは心の中でひとりごちた。共存の道を探ることはでき無いのだろうか? 交渉さえできれば命を奪う必要はなくなる。そうだ、マックスのオーラテレパスを使えば・・・・そこまで考えて首を振る。
 「交渉が成立したとして、彼らはこの後何処に行けば良いのだろう?」 もし行く先でも力無き人々の脅威となったら・・・・結論を先延ばしにするだけになってしまう。心優しき聖職者の慈悲と、邪悪を許さぬ気高き意思。そのせめぎ合いの中、セフィードは自分の取るべき道を決めた。

●夕涼み
 程なくして5匹のホブゴブリンは冒険者達によって討ち果たされ、池に静寂と平穏が戻った。いつの間にか日は山にかかるほど傾き、日中の暑さはささやかな水面を渡る風にのって薄れはじめている。
「池を汚さずに済んでよかったです」
 怪我人も無く計画通り事が運び、メイユは安堵したように微笑んだ。暑い中、わざわざ手数をかけてオーガを誘き寄せたのは池を汚すのを嫌ったから。村人は多少汚れても小川と繋がっているので大丈夫だとは言っていたが、やはり死体が使った池を使うのは気持ち良いモノではないだろう。
「これで子供達も安心して遊びにこれるわね」
「そうですね・・・・あ」
 一陣の夕風が冒険者の間を駆けた。風は頬を伝う汗を拭い、心地よい涼をもたらす。
「良い風だ」
「いい気持ちですね・・・・」
 明日になればリョーカが言ったとおり、池の周りは子供達の賑やかな声で満たされるだろう。でも、今この時間は・・・・4人の冒険者は少しの間、手を休めて。風の感触を、風の息吹を全身で感じる事にした。
 ささやかで慎ましくて・・・・考えようによっては、とても贅沢な時間。