お転婆狂想曲 お嬢様の帰還と盗賊団

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 32 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月15日〜12月21日

リプレイ公開日:2008年12月22日

●オープニング

●依頼人はやはりこの人
「と言うわけで、よろしくお願いしますわね」
 幾らなんでもはしょり過ぎです・・・・喉まででかかった言葉を、擬音が出そうなくらいの努力で飲み込むと、受け付け担当は聞き取りの体勢に入る。相手のペースに飲み込まれないよう、深呼吸を一つ・・・・いざ。
「それで本日はどの様なご用件でしょう?」
 −にこぉ−この短いやり取りの中で、何処が彼女を喜ばせたと言うのだろう? たのしそーな笑顔で受付嬢を真正面から見つめ、数秒・・・・数十秒後。
「わたくしの可愛い可愛い姪の出迎えと護衛を、ね」
 ようやく用件を切り出した。

●本題
「本当はもう少し早く来る事になっていたんですけどね・・・・ここ暫くの間、色々あったでしょう?」
「・・・・ええ、そうですね」
 普通の親ならば大切な娘を旅になど出せるはずも無い。
「それで日を見合わせていたのだけれど、そろそろ向こうが押さえきれなくなったらしくて」
 くっくっく。貴婦人は喉の奥で笑った。
「なるほど」
 件の姪御さんはこのご婦人をして「お転婆娘」といわしめた程の筋金入り、並み大抵の説得や脅しでは屈しないだろう。それにしても・・・・
「それで護衛、と言うのは?」
 まさか姪御様−メアリーアン嬢−が逃げ出さないように見張る、と言う意味ではなかろう。ニュアンスが違いすぎる。
「そうそう、その話をしなくてはね。メアリーアンのお目付け役、と思われてもいけないし」
 どき。まさか顔に出ていたか? いや、自分は完璧な営業スマイルを浮かべていたはずだ。表情を読まれるはずは、だがしかし。相手の微笑で自信が揺らぐあたり、まだまだ修行不足・・・・

●護衛の理由
「出入りの商人からよからぬ噂を聞きましたの」
 そのよからぬ噂とは、端的に言えば彼女の姪御が通る道に「追いはぎ、強盗」の類が出没するというのだ。
「荷を積んだ馬とか馬車がある一行しか狙わず、逃げるときは散り散りに逃げるらしいですわ」
 そして集合場所に現れない仲間がいたらすぐさま逃げるか。場慣れしているな、と感じた。
「ご大層な荷物を積んでくるでなし、見逃してくれるかも知れないけれど・・・・何しろわたくしに似て容姿端麗な子ですから」
 「は?」 反射的に、致命的な一言がギルド内に響いた。凍りつく空気。人が己の失態に気付く時、既に取り返しのきかない場所に立っているものだ・・・・何故に人間とはこれほどまでに愚かしい生き物なのだろうか? 後にこの受付嬢は同僚に「あの夜、はじめて白髪を見つけた」と嘆くのだがそれは別のお話。
 −閑話休題−
「そんなわけで姪の護衛をお願いしますわ」
「は、はい。承知しました」
 担当−何故か5歳ほど歳を取ったように見える−は貴婦人に一礼すると依頼書の作成に取り掛かる。
 「あ」聞き忘れていた事が1つ。
「盗賊の方はどうしましょう?」
 しばし考え。
「まずはあの子の安全を第一に。それが守られるなら後の判断はお任せしますわ」
 そういい残すとマーシネスは今度こそギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb3759 鳳 令明(25歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb4800 ゼノヴィア・オレアリス(53歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ec0212 テティニス・ネト・アメン(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)

●サポート参加者

フランシア・ド・フルール(ea3047)/ エリーシャ・メロウ(eb4333)/ シェリル・オレアリス(eb4803

●リプレイ本文

●お嬢様との謁見
 騎士の礼をもって名乗る、七神蒼汰(ea7244)と、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)。
「メアリーアン嬢、お初にお目に掛かる。俺の名は蒼汰七神。ジャパンの生まれだが今はこの国の騎士として働く者 です、以後お見知りおきを」
「ヒースクリフ・ムーアと申します。短い間ですが宜しくお願いします、リトルレディ」
 その2人にメアリーアンは。
「初めまして、メアリーアンですわ。よろしくお願いいたしますナナガミ卿、ムーア卿」
 淑女の作法で応えた。良家のお嬢様として恥かしくない立ち居振る舞いも、平素の彼女を知る者にとっては驚愕の進歩だったりする。
 (今のところ)お淑やかなお嬢様の鼻先で一人のシフール、鳳令明(eb3759)が器用に滞空する。
「おりは鳳令明なのじゃじゃ、張り切ってお嬢様の護衛をするのじゃじゃ」
「よろしくお願いします、鳳様」
 メアリーアンは令明の明るさにも負けない、華やかな笑顔で答えた。

 ゼノヴィア・オレアリス(eb4800)が挨拶のために現れると、少女の瞳が憧れとは別に羨望の熱を帯びる。
「ゼノヴィアといいます。道中お話し相手になってくださいね・・・・ええと、メアリーアンちゃん、と呼んでも良いかしら?」
「勿論ですわ! ゼノヴィアお姉さま。素敵素敵、とっても楽しみです」
 彼女にとって冒険者は憧れの存在と聞いたが、この反応から察するに余程の思い入れがあるようだ。「楽しい旅になりそうですね」エルフのレディは道中の話題に考えをめぐらせた。
「私が最後ね」
 メアリーアンの顔を褐色の肌の娘が覗き込む。経験が無いほどに近い距離、さしものじゃじゃ馬も押され気味だ。テティニス・ネト・アメン(ec0212)はにっこり微笑むと。
「テティニス・ネト・アメンよ。よろしくねお嬢さん」
「は、はいテティニスお姉さま・・・・ネト・アメン?」
「私の名前が何か?」
「あの・・・・わたくし以前、お姉さまと同じ姓の方にお会いしたことがありますの」
 「そうなんだ」どうやらこのお嬢さんは一座の姉妹と会った事があるらしい。別に隠すほどの事ではないが、どう説明すればわかり易いだろうか? テティニスはイギリスに来てからまだ日が浅い。日常会話はなんとかこなせるが、微妙なニュアンスまで言葉で表現できるだろうか? ・・・・暫く考えて。
「道々ゆっくりと、ね」
 結論、もう少し考えてみることにした。
「わぁ素敵! お姉さま方のお国のお話をしてくださいますのね。楽しみですわ」
 なんだか話すべきことが増えた気がするのは・・・・気のせいではない、多分。

●キャメロットへ向けて
「あー。狭くないかな? お嬢さん」
「メアリーアン、と。お呼び捨てくださいムーア卿。大丈夫ですわ」
「・・・・そうか。では私も「卿」は無しで、メアリーアン」
「はい、ヒースクリフお兄様」
 メアリーアンが乗ってきたのはつつましやかな一頭立ての軽馬車だった。定員2名の御者台兼客席にジャイアントの騎士と小さな淑女が腰掛けている様子は、何処か微笑ましく絵本の1ページのような光景にも見えた。予定より少々重い荷台を引くことになった馬は気の毒だったが。
 −くしゅん!−
 馬車の少し前方を行くテティニスがくしゃみを一つ。
「大丈夫ですか? テティニスお姉さま。お風邪を召されたのでは?」
 少女に問いかけられたアメン神の娘はラムセスの手綱を引いて馬車に併走させた。
「平気平気。でも昼間なのにこんなに寒いなんて、ここはアメン神の加護が薄いのかしらね」
「お姉さまのお国は冬でも暖かいのですか?」
 「暖かいどころか暑いぐらいだよ。私の国には砂漠ってのがあってね・・・・」異郷の話に目を輝かせて聞き入る少女に、テティニスは故国の話を語り聞かせた。

「うーむ。やはり見張りがいたのじゃじゃ」
 令明は天馬・御雷丸−今は翼を荷物のように偽装されて、迷惑そうだが−に跨る蒼汰の側でホバリングした。身振り手振り交えて、街道を外れた茂みや木陰に人影があったことを伝える。
「そうか・・・・」
 蒼汰も先ほどから何者かの視線を感じていた。そして令明の情報は彼の感に裏づけを与えた。
「皆にもお伝えするのじゃじゃ?」
「いや。その人数ならただの偵察だろう。その話は野営の時に」
 少女に余計な不安を与えたくない・・・・シフールの義侠は蒼汰の意図を汲みむと同意の意を示した。
「了解じゃじゃ」

「メアリーアンちゃん、ちょっと聞いてもいいかしら?」
「はい」
 少女は限られたスペースで器用に身体を動かし、ゼノヴィアに身体ごと振り向く。途中、スカートの裾が引っかかりバランスを崩しかけたが、ヒースクリフが手を伸ばし事なきを得た。
「ありがとう御座います、お兄様・・・・やっぱりズボンにすれば良かった」
 出発するときも服装でもめたのね・・・・動きやすい服装を主張するお嬢様と、それをなだめすかして説き伏せる家人の姿が思い浮かび、思わず笑みがこぼれた。
 「あ・・・・」愚痴を聞かれてしまったメアリーアンはバツの悪そうな表情を浮かべ、改めてゼノヴィアのほうを向いた。
「何でしょう、ゼノヴィアお姉さま」
「・・・・ごめんなさい」
 一頻り笑いの発作と戦い「どうして冒険者を好きになったのかしら?」 ようやく当初の質問を搾り出した。
 と。少女の顔がぱぁっと明るくくなると、堰を切った様にしゃべりだした。
「冒険者の方々は強くて優しくて、お仕事に誠実でらっしゃいますし色々な事を知ってらっしゃって・・・・」
 歯がゆくなるほどの賛辞の洪水が。
 「そして・・・・でらっしゃるの」とまった。
 −がたがたたん!− 最後の言葉は轍に乗り上げた車輪の音で掻き消され、隣にいたヒースクリフですら聞き取ることができなかった、勿論ゼノヴィアも。それでも。少女が冒険者にどの様なイメージを持ち、何故憧れるのかわかった気がする。
 少女が最後の言葉を発したとき見ていたものは、自分でも地面でもなく・・・・そら。

●闇に紛れて盗賊団
 テントをのぞきこむテティニスにヒースクリフが声をかけた。
「メアリーアン嬢は?」
「よく眠ってる。ゼノヴィアさんに任せて良いんじゃないかな」
 冷たい夜気が入り込まぬよう、すぐに入り口を閉じる。星の位置から察するに時刻は夜半過ぎ、そろそろ夜番交代の時刻だ。
「お客さんの様子は?」
 目を覚ました蒼汰が伸びをしながら尋ねる。
「まだいるんじゃないかな。多分・・・・」
 冒険者の中でも一際鋭い視力を持つテティニスは無造作に「あの辺」と藪の一点を指し示す。
「どうするのじゃじゃ、こちらからぺしこんしに行くのじゃじゃ?」
 令明これでこちらの戦力は揃った。しかし、実力は冒険者のほうが上だが、盗賊の数はこちらの倍近い。1人でも打ち洩らしてテントに駆け込まれたら・・・・テントにはゼノヴィアがいるとは言え、メアリーアンを危険にさらすわけには行かない。
「付いて来られても面倒だしな・・・・」
 ヒースクリフは焚き火から火のついた薪を取ると、テティニスが示した藪に向けて呼びかける。
「そこにいるのはわかっている。そのままで良いから聞け」
「我々を襲撃するなら一人残らず捕縛し役人に引き渡す」
 桜華を腰に下げた蒼汰がヒースクリフの後を受け、茂みに−茂みに潜む盗賊に−声をかけた。

 「どういうことだ?」 彼は藪の中に身を沈め息を殺していた。見つかるようなへまはしていないはずだ、それなのに奴等は「俺」に呼びかけている? いや、当てずっぽうで適当に叫んでるだけだ。そう自分に言い聞かせる彼の背後に人の気配。
「本当はね、盗賊なんて馬鹿な連中は捕まえてしまいたいんだけどね」
 テティニスは凍りついたように固まった盗賊に声をかけた。こわもて2人に気を取られている間に足音を忍ばせ、後ろに回り込んだのだ。
 とは言え、見張りを1人捕まえたところで盗賊が大人しくなるとは思えない。仲間を取り返しにくる可能性だってある。盗賊団の捕縛が目的ならそれも手だが、今回の依頼はお嬢様を無事に送り届ける事だ。
「出会わなければ無利には探さない・・・・わかるわね?」
 −コクコク−壊れた玩具のように頷く盗賊。それを見届けると、ジプシーの娘は来た時と同じように音も無く、その場を立ち去った。

●キャメロット近郊
 一行はキャメロットまで後半日と言うところまでたどり着いた。あの夜の脅しが効いたのか、あれ以降妙な視線を感じることも無く、平穏無事な道のりだった。
「もうそろそろいいか・・・・すまなかったな、御雷丸」
 蒼汰は呟くと荷物に偽装していた翼を開放してやった。心地良さそうに純白の羽を伸ばす天馬を見て、メアリーアンが驚きの声を上げる。
「蒼汰お兄様はペガサスとお友達なのですね!」
 友達。面白い表現をする子だ。貴族の子弟なら「飼い主」だとか「所有している」と言う言葉が出てきそうなものだが。
「メアリーアン嬢。道中良い子にしていて下さったご褒美に、空の旅にご招待したいのですが・・・・」
「わぁ素敵! もちろん喜んで!」
 言うが早いか御者台から飛び降りる。
 「メアリーアンですわ。よろしくお願いします、御雷丸さん」じゃじゃ馬ぶりを発揮したかと思えば、律儀にペガサスにも礼を尽くす。なんとも規格はずれなお嬢様だ。
 その姿に冒険者達は苦笑−もしかしたら微笑−を禁じえなかった。