出没! 野ネズミ盗賊団
|
■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:9 G 63 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月14日〜01月20日
リプレイ公開日:2009年01月20日
|
●オープニング
●公の依頼人
「年明けから景気良さそうだな」
「あら隊長さん、お久しぶりです・・・・すいません、少々お待ちください」
「適当に待たせてもらうよ」
衛兵隊長は顔なじみの受付嬢に挨拶すると、暖炉の側の席に腰を下ろした。「隊長さん」と言うフレーズを聞いた幾人かが、彼に好奇の視線を向けているが気にせず暖を取る。毛皮の手袋を外して薪の炎に手をかざしこすり合わせると、むずがゆい感覚と共に手のひらから指先へと熱が広がっていく。
「お待たせしました〜」
カウンターに目を向けると先ほどの受付嬢が手を振っているのが見える。こちらも手を上げて応えると、手の感覚を確かめてから席を立った。
「早速だが仕事の話をしても良いかな? できればもう少し温まっておきたいんでね」
「勿論です」
相変わらず食えない人だな・・・・担当は苦笑いとも微笑とも取れる表情で依頼人の前置きに付き合う。担当の表情と返事に満足そうに頷くと、彼は「仕事の話」を切り出した。
●依頼内容
「去年末から街道に出没している盗賊の件なんだ」
「あの、ですか?」
あの・・・・と言うのは件の盗賊団、彼女が担当した別の依頼でも絡んできた事があり、衛兵にも情報を提供していた曲者集団だった。
「それ、だ」隊長は頷くと先を続ける。
「今年に入って既に2件の被害報告が出ている。未確認の情報もあわせれば4〜5件になる」
「それだけの被害があるなら、そちらのお仕事になるのでは?」
冒険者ギルドは治安維持組織ではない。依頼の傾向でそのような印象を持たれる事もあるが、あくまでも「冒険者」に「仕事を斡旋」する場所。どちらかというと治安維持は衛兵や自警団の範疇といえる。
「それがな・・・・」
なんとも渋い顔。
「やつらは用心深いを通り越して、臆病なほど警戒心が強くてな」
●野ネズミ盗賊団
彼らは大荷物を運んでいる旅人しか襲わない。それも多くの護衛がついた商隊には手を出さないし、衛兵や自警団が現れようものならあっという間に逃げ出して、足跡1つ見せないと言うのだ。
「何よりも奴等、1人も死人を出していないんだ」
「1人もですか?」
「まぁ護衛の2〜3人はがつんとやられた事もあるようだが、命に関わる程じゃなかったそうだ」
被害者を生かしておくといつか何処かで足がつく恐れがある。だが・・・・その反面。
「死人が出なければ衛兵も本腰は入れてこない・・・・そう思っての事でしょうか?」
「そこまで考えているかどうかはさて置き。俺なら同じような被害があれば、死者の出たほうに人数を裂くだろうな」
・・・・暫し考え。
「村に野犬とネズミが出たとして、どちらを先に追い払うか・・・・すまん、まずい例えだ。忘れてくれ」
ネズミは食料を荒らすだけだが野犬は家畜や人にも牙を剥く、そんなところか。
「という事は猫、いえ野ネズミなら狐ですね・・・・ご用命ですか?」
「・・・・そういうことだ」
例えで返された隊長は苦笑いで肯定した。
●情報と協力
「ネズミは7匹。内2人が見張り兼射手。残りが実行部隊だ」
被害者が生還すればするほど、相手の情報も正確かつ詳細になる。隊長は1枚の羊皮紙を取り出しながら盗賊団の情報を語った。
「被害者の特徴は大荷物の旅人か護衛がいない、もしくは少数だった商隊だな」
襲撃は殆どが夜襲で、いつの間にか包囲されていたらしい。
「ちなみに護衛が多い隊や我々の先遣隊が出向いたときは、見張りすら姿を現さなかった」如何にも冒険者然とした格好では捕まえる以前の問題になりかねない、という事か。
「できれば7人全員捕まえられれば言うことは無いが、4人も取り押さえれば大人しくなるだろう」
最低でも4人は捕まえろ、と。
「それから、これは特例のさらに特別だが」苦い表情で言葉を搾り出す。
「もし、どうしても、何が何でも、必要なら・・・・小さな荷馬車を1台手配できる。ただし馬はそちら持ちだ」
「擬装に使えますね。助かります・・・・何か?」
依頼人の「苦虫を1ダース纏めて噛み潰した」ような表情が気になり、尋ねる。
「あー」暫し躊躇い。
「できれば無事に戻して欲しい・・・・女房の実家の馬車でな、壊れた時の修理費は俺の自腹なんだ」
●リプレイ本文
●爪を研ぐ狐達
「馬車の準備はどうだ?」
「下準備が終わったところだ。天幕を張るのを手伝ってくれ」
雀尾嵐淡(ec0843)と、木賊真崎(ea3988)は持参したテントを引っ張り出す。借り受けた荷馬車に嵐淡が木枠を取り付け、テント布で幌を取り付けようというのだ。
今回の依頼の肝は、いかに野ネズミ達を引っ張り出し、一網打尽にするかと言う2点。後者の方は集まった冒険者の人数と技量を考えれば造作も無いだろう。問題はむしろ前者の方・・・・集まった各人がキャメロットはおろか、国中にその名が知られる凄腕の冒険者だということだった。リースフィア・エルスリード(eb2745)の言葉を借りるならば、「狐なら化かさないと」ならないわけだ。
「皆、レミエラは外しているか?」
キット・ファゼータ(ea2307)の心配もその点にあった。相手の警戒心が強いなら堅実に行くべきだ。
「俺の役回りは護衛の雇われチンピラだ。問題ないと思うが? しかし・・・・」
−こういうのが似合う騎士ってのも、どうなんだろうな−セイル・ファースト(eb8642)は残りの台詞を苦笑混じりに飲み込む。キットの指摘ももっともだが、全てのレミエラは強く発動しない限り−例えば攻撃をするか受けるか−紋様が浮かぶことは無い。しかも他の魔法の品と違って出回っている量も多く、護衛やそれ相応の人物なら持っていても不自然ではない。これが原因で盗賊を取り逃がすとは考えにくかった。
「積荷を持ってきたわよ」
見ると愛馬に樽を括りつけた、シエラ・クライン(ea0071)が手綱を引いて立っていた。道中、3人ほど馬車に乗り込むのだが、このままではただの乗合馬車。幌を取り付けていたのは、彼らの隠れ場所を作るため。さらに樽を積んでおけばその影にも隠れられる。
後はネズミの出方次第。
●ネズミの生息地
小さな幌馬車は荷主と護衛を従え、雪道を進んでいた。雲ひとつ無い快晴だったが、かえって日の光が積雪に反射されて眩しい。御者−エメラルド・シルフィユ(eb7983)−はフードを深く被るとぬかるみに車輪が取られぬよう、慎重に手綱を操る。
御者台から見る限り下草は半ば雪の下に埋もれ、白銀の平野に隠れるのは難しいように思える。とは言え油断は禁物。ここで彼らが狩人だと気取られれば、ネズミ達はその姿を見せる事無く逃げてしまうだろう。
「この辺りは盗賊がでるんですってね。大丈夫かしら?」
「あんたらと荷物は俺が守るよ」
「よろしくお願いします」
御者は仕事をこなしながら、商人役と護衛役の掛け合いを聞いていた。
同時刻。「体痛い」「・・・・」「・・・・」
揺れる馬車の中で誰かがぽつりと呟いた。沈黙は恐らく同意の意だろう。毛布や防寒具を持ち込み、少しでも快適な空間を・・・・と努力はしたが、それにも「空間」と言う限界がある。
隠れている中でも身長の高い真崎は足を伸ばすこともままならぬ状況。まさか鍛えた忍耐力がこんなところで役にたとうとは。そして仕事とはいえ、うら若き乙女が殿方−しかも2人−と枕(?) を共にしているリースフィアの心境は以下ばかりか・・・・
「あら?」
寝息が聞こえた。どうやらキットのようだが・・・・この環境でも眠れるというのは凄いな。おかしな感心の仕方ではあったが、ここは彼を見習って体力温存に勤めることにした。
「ここから西へ、か・・・・街道に沿ってるね」
1人馬車とは別行動をしていた、アシュレー・ウォルサム(ea0244)は不自然に踏み固められた地面を見下ろして呟く。狩人の可能性も無くは無いが、それならもう少し獲物がいそうな場所を見張るだろう。
「後はネズミが餌に食いついてくれば良し、と」
アシュレーは呟くと足跡を辿って西へと向かった。
●蠢くネズミ
「人数は?」 「護衛が1人に商人が3人」「荷は?」 「酒樽が2つ3つ、轍の沈み具合を見ると他にも・・・・」
夕闇が迫る中、薄暗い掘っ立て小屋で情報を交換している男達。ひいき目で見ても堅気でない、と言い切れるその雰囲気。彼らこそ街道を騒がしている野ネズミ盗賊団だった。
「護衛ってのは腕が立ちそうか?」
短弓を肩に掛けた男がもう1人の弓を携えた男に尋ねる。
「そこまではわかりませんが、随分と落ち着いてやした」
「単に鈍いのか度胸が据わってるのか。どうしやす?」
口調から察するに、先に発言した弓の男がボスのようだ。
「護衛が1人に商人が3人。仮にもう1〜2人護衛だったとしても、荷主を抑えちまえば済むか」
流石に小心者盗賊団。色々な可能性を吟味しているが、まさか全員が護衛だとは予想外。
「・・・・やるか」
ボスの裁可が下りた。
●ネズミ狩り−そして狐は去った−
獲物である馬車はすぐに見つかった。普通の旅人であればそう大きくは街道を外れたりしない。方向さえ正しければ見つからないほうがおかしい。
「もう少し暗ければな」
ボスは夜空に浮かぶ三日月を見上げた。とは言え都合よく新月の夜にあたる訳もなく、条件は悪くない。
「そろそろか」ボスは弓に矢をつがえると全神経を耳に集中し、時を待った。
「来ましたね」
「・・・・」
シエラの呟きにセイルが無言で頷く。こういう仕事を長く続けていると、気配と言うか「空気が変る」と言う感覚を味わうことがある。それは「夜中に翼を休めていた水鳥が一斉に飛び立つ」など、現象を伴うこともあれば感覚的なものの場合もある。今回は後者だが、幌の中に隠れている者も含めてそれを感じていた。そしてその感覚の正確さは、真崎のバイブレーションセンサーが裏付けていた。
エメラルドはゆっくり立ち上がると幌の中に体を突っ込み、何かを探しているような音を立てた。その音にあわせ、中の3人も飛び出す体勢を整える。
一呼吸、二呼吸。「うらぁぁぁ!」 「うおぉぉっ!」 四方から声が上がった。
始まったか。ボスは立ち上がると番えた弓を引く、護衛の男を黙らせればすぐに終わるだろう。狙いを定め・・・・「!?」
次の瞬間、左腕を射抜かれた。突然の衝撃と激痛に得物を取り落としてしまう。驚愕の表情を浮かべ、矢の飛んできた方向を見るが誰もいない・・・・いや、いた。
「こちらも慎重に事を運んだけど、上手く釣り上がってくれたね」
何も無い空間に−何らかの魔法だろう−長弓を携えた男の姿が現れた。
「はめられた!」 即座に指笛を吹き鳴らして退却の合図を送ると、自分も敵に背を向けて走る。
「さーて、罠にかかった野鼠は駆られるだけというのを存分に教えてあげるよ」
慌てず騒がず、狩人は2本目の矢を悠然と番えた。
もう1人の射手はいきなりの退却の合図に戸惑った。しかし自分達が生き残ってこれたのは過剰なまでの臆病さのお陰だと自分を納得させた。弓を下ろすと男は月明かりを頼りに逃げ出した。自慢ではないが逃げ足の速さには自信がある、馬相手でもなければ逃げ切れると思っていた・・・・
−バサバサっ!−
大きな羽ばたきと同時に、頭に火箸を押し付けられた様な痛みが走る。
「うひゃぁ!?」
情けない声を上げて転倒する男。口の中に入った砂利交じりの雪を吐き出し、顔を上げると目の前には詠唱を終えた嵐淡の姿。
かくして2人目のネズミは裁きを受ける前に、再現神の裁きを受ける事になった。
突撃の合図を聞くとセイルは悠然と立ちあがり辺りを見回す。5匹のうち2匹が自分を狙っているようだ。続けざまに振り下ろされる長剣を鎧の曲線を利用して受け流し、篭手付きの鉄拳を手近な方の顔面に叩きこんだ。
「四方から5人近づいて来る」
「俺は右手」
「それじゃ私は左ね」
既に敵の位置を把握していた馬車組は持ち場の確認済ませ、飛び出すタイミングを待っていた。
「へぎゃ!?」 セイルの拳で鼻っ柱を砕かれた男の悲鳴が響く。同時にエメラルドも黄金剣と盾を取り出し、別の盗賊に向かって走る。入り口があくや否や、3人の冒険者も荷台から飛び出す。
新手が現れた事に気付くと、明らかに盗賊達の出足が鈍った。直後に指笛が響くと一斉に逃走をはじめた。
リースフィアは嵐淡に法王の杖を投げ渡すと、そのまま左手の敵を追う。軽装のお陰もあって、1人の盗賊に追いつきその退路を立つ事に成功する。
「生死不問とのことでしたので、遠慮はしませんよ」
サクエンスを抜刀した金毛青眼の騎士は淡い月光と雪明りを受け。美しく、そして容赦なく。悪をなす者の前に立ちはだかった。
鼻を押さえ逃げようとする盗賊の足を剣の腹で払うと、男はあっさりバランスを崩してひっくり返る。
「死にたくなければ降伏しな」
男が必死に首を縦に振って降伏の意を示したのを確認すると、セイルはもう1人が逃げた方向に目を向ける。
「な、何だこりゃぁ、どうなってんだぁ!?」
男は立ち木に抱きつかれ身動き取れなくなっていた。植物を操る魔法か、真崎と一瞬背先を交わすと盗賊の捕縛に取り掛かった。
「・・・・食らえ!」
キットの放った真空の刃が逃げる男を切り裂く! 背後からの一撃に足がもつれた相手を追って駆けた。振り向き様に横薙ぎの斬撃を見舞われるが、これを危なげなく交わし男の首筋に刃を突きつける・・・・勝負あり。男が抵抗を止めたのを確認すると声を張り上げ。
「全員降伏しろ! そうすれば・・・・」
−ごおぉぉぉ!−
20mほど離れた場所で瞬間、炎の円柱が吹き上がる。瞬く間に消え去った魔法の炎の跡に残されたのは・・・・全身から煙を上げる最後の1人。降伏と言うより逃げる気力を無くしたのか−パタリ−雪の中に突っ伏した。
振り上げた拳ならぬ声を咳払いでごまかしたとか。
実力差は最初から歴然、野ネズミを誘き出せた時点で狐の勝利は決まっていた。だが盗賊達を引っ張り出し、更には全員を捕らえることが出来たのは彼らの作戦と忍耐の賜物。
野ネズミ盗賊団駆逐は冒険者の完全勝利で幕を閉じた。