【蠢動する悪意】 序章

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 44 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月15日〜03月02日

リプレイ公開日:2009年02月20日

●オープニング

●グロスター
 キャメロットの西方約200kmに位置し、陸路と水路に恵まれた交通の要所として発展してきた。古の城跡の他、修道院や大聖堂など文化的な一面も持つ、歴史ある町である・・・・

●グロスターの霧
「司祭様ぁ! 出ました、今夜も霧の悪魔が現れました!」
「そうですか・・・・」
 マーシ大聖堂を預かる司祭・マリエータ・オーガストは、その報告を聞くと暫く目を瞑り。
「オールスン神父とシスターグレースを呼んでください」
「は・・・・しかし、シスターは・・・・」
 「ああ、そうでした。そうでしたわね」シスターグレースは昨日の悪魔祓いで、胸に大怪我を負っていたのを失念していた。体の傷はすぐに癒せるが心に受けたダメージ−痛みや恐怖−は容易には回復しない。また無理をさせるわけにはいかない。
 大聖堂に集まる人は多くても、戦いの経験がある者はほんの一握り。下級のデビルとは言え連日連夜の出没に敬虔で使命感の強き使徒達は少しずつ、しかし確実に。体力と気力を削り取られていた。
「それではオールスン神父は自警団と合流して頂きましょう。そのように」
「承知しました」
 グロスターに霧の悪魔・クルードが出没するようになってから既に1週間が過ぎていた。1匹や2匹なら何とか対処できたかもしれない。しかしグロスターに現れるのはその倍、時にはそれ以上の数のデビルが出現した時もあった。大聖堂の神父・信徒達は自警団とともに町を悪魔から守ろうと、懸命の努力を続けてはいたが・・・・戦いなれていない悲しさ、日一日と疲労の色を濃くしている。
「どうか・・・・間に合って下さい」
 マリエータ司祭は書状を託した使者の無事と、一刻も早い到着を祈った。

●たどり着いた使者
 その男性はギルドの扉を開けるとそのまま崩れ落ちた。修道士のような姿だが、はたして修道士が冒険者ギルドに依頼を持ち込むモノだろうか? とにかくほおって置くわけにも行かない。受付担当は急いで席を立つと男へ駆け寄る。
「どうしました、大丈夫ですか? ・・・・誰か水と手ぬぐいを!」
 遠巻きに見守る野次馬を視線で牽制すると同僚に指示を飛ばす。
「・・・・・・・・」
 男の喉はヒューヒューと声にならない空気を吐き出すだけで、意味のある音を送り出すことができ無い。言葉を断念した彼は震える手で鞄から羊皮紙を取り出すと、受付嬢に押し付けるように差し出した。
「これは・・・・これに事情が書いてあるんですね?」
 「・・・・」必死の形相で2度ほど頷くと、男の体力は限界に達し・・・・気を失った。

 男を同僚に託すと、受付担当は託された羊皮紙に目を落とす。
「これは・・・・ねぇ、この封印て確かあの大聖堂、ええと・・・・ほら、あの〜」
「マーシ大聖堂のじゃない? グロスターにあ・・・・」
 「そうそう! そのマーシ大聖堂のシールよ、これ!」 若干食い気味に叫ぶ受付嬢。些か憮然とした表情の同僚はさて置き、担当は急いでシールを切ると羊皮紙を広げた。

●張り出された依頼書
 ・グロスターにクルードが出現。自警団、大聖堂がこれに対処するも苦戦。デビル駆逐のための人員を募る。
 ・デビルの正確な数は不明ながら、例に無い数との事。
 ・遠方なれど移動手段は各自用意されたし。
 ・なお、この依頼はマーシ大聖堂のマリエータ・オーガスト司祭より出されたものである。

●今回の参加者

 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

若宮 天鐘(eb2156)/ ベルトーチカ・ベルメール(eb5188

●リプレイ本文

●22時頃
 今夜もグロスターに霧が現れた。夜とはいえここは交通の要所、霧が現れる前までは夜半過ぎても往来には行き交う人々がいたもののだが、いまはその姿は無く。ただ物々しい雰囲気を纏った自警団が篝火を掲げ、霧の来襲を見守っていた。
 そして霧は意思があるかのようにマーシ大聖堂に向けて移動をはじめた。

「照明、高天、頼むぜ」
 霧を確認した、日高瑞雲(eb5295)はグリフォンと雷のエレメンタルビーストに合図を送る。それぞれの方向へ散っていく戦友を見送ると瑞雲は野太刀の柄に手を伸ばす。それは故郷の名工の手による一振り。無造作に抜刀すると刀身が篝火を反射し光を放った。皮袋から一口、水を含むと酒飛沫ならぬ水飛沫で柄を湿らすと握りなおした。
「余裕がありますね」
「クルードは昔にやったことがあるンでな。ツレからの情報もある」
「なぜ大発生したのか気がかりですが、今は退治ですね」
 声の主、ソペリエ・メハイエ(ec5570)の方を見やる。
「時に、全てのクルードを相手にするなら休憩を挟むべきでは?」
 「そうだなぁ」瑞雲は他の仲間へ視線を投げ、後を続ける。
「やばいと思ったらあそこに転がり込むさ」
「・・・・わかりました」
 開いた穴は自分が塞ぐ、声にはしなくてもその決意は確かに伝わった。

 マロース・フィリオネル(ec3138)は広場の一角に燭台を置いた。ホーリーキャンドルを立てると芯に火をつける。柔らかな灯りがマロースを照らすと同時に、キャンドルを中心にデビルを拒む結界が張り巡らされた。
「ここでお願いします」
「わかりました」
 戦い慣れていると言うのは本当みたいね・・・・普段は僧衣であろう神父は使い込まれた皮鎧−真新しいしい傷も見える−を着込んでいた。立ち居振る舞いは自然体に見える、が。今夜が山場だという予感が頬に現れていた。視線に気付いた神父は頬を抑え、苦笑を浮かべる。
「やはりボロがでますなぁ。やはり皆さんのようには行きません」
「いいえ、神父さんは立派に勤めを果たされています」
 鳴弦の弓を携えた少女・・・・では無く。異国から来たパラの娘、サリ(ec2813)が声をかける。決してお世辞ではない。負傷者を出しながらも今日まで悪魔と戦い、町を守ってきたのは誰でもない彼ら自身だ。
「恐れ入ります」
 サリは神父に鳴弦の弓を託す。
「お借りします」
 神父は弓を受け取ると、「恐縮ですが今夜は楽をさせて頂きます」レディ達を前におどけて見せた。

●同日・14時
 冒険者は午後の早い時間にグロスターに到着した。話に聞いたとおり行き交う人も多く、道路も舗装されていて交通の要所といった雰囲気だが・・・・
「何と言いうか・・・・活気がありませんね」
 ソペリエの感想が違和感の正体。
「通り過ぎるだけの連中はともかく、町の人は大分参ってるな」
「不安と恐怖で満足に寝れていないんでしょうね」
 「とにかく大聖堂に急ぎましょう」各々の方法で同意を示すと、目的地へと急ぎ向かった。

 大聖堂は住民に場所を聞くまでも無く見つかった。と言うのも主要な道の大半がマーシ大聖堂に繋がっていたからだ。
「それにしても見事な建物ですね」
 溜め息をつくサリ。大聖堂の名の通り、100mをゆうに超えるであろう全幅に一際目立つ尖塔がそびえている。華美な装飾は無いが正面の広場は綺麗に清掃され、市民の安らぎの場となっているのだろう・・・・普段ならば。
 一行は大聖堂に入ると出迎えたシスターに用向きを伝えると、程なく1組の男女が現れた。
「遠路ご苦労様です。私が司祭のマリエータ・オーガストです」
 心身ともに憔悴しているであろう司祭は、それでもはるばるキャメロットから来た冒険者達を柔らかな笑顔で迎えた。
「ご足労恐縮致します。ソペリエ・メハイエと申します」
「マロース・フィリオネルです」
 司祭に騎士の礼を取るソペリエと、恭しく辞儀をするマロース。マリエータ司祭は2人の騎士に「慈愛の光あらん事を」祈りをもって応えた。
 挨拶もそこそこに司祭は一行を執務室へ通した。日は刻一刻と傾き、悪魔の夜が迫っていた。

●同日・15時
「早速ですがクルードの件はオールスン神父に聞いてください」
 紹介された神父は一礼すると町の見取り図を広げる。
「ほ、こいつは凄い」
 感嘆の声を上げる瑞雲。見取り図には「何時」「何処で」「誰が戦った」等、事細かにメモ書きが書き込まれていた。
「見た所、現れる場所に共通性は無いようですね」
「大聖堂に繋がる道が多いかしら?」
 思いついた点を述べる冒険者達。そのうちに瑞雲は奇妙な共通点に気付いた。
「・・・・何で纏まって現れるんだ?」
「と、仰いますと?」
 不安げな声で尋ねる司祭に、瑞雲は出来るだけわかりやすい言葉を選んで答える。
「引っ掻き回すだけなら、町中に散った方が効果的って事ですよ」
 瑞雲の指摘通り、数こそ違えどデビル達は一団で現れていた。まるで何かを試すように・・・・
「デビルには何か別の目的がある、と?」
「杞憂なら良いんだがな」
 大聖堂での悪魔の大発生・・・・地獄の情勢が嫌でも気にかかる今、どうしても頭から離れない。

「司祭様、そろそろお部屋に案内しようかと思うのですが」
 神父の提案が沈黙を破る。
「そうですわね。長旅でお疲れでしょう、一先ずお休みを・・・・」
「司祭様、私に看護を手伝わせて下さい」
 マロースは負傷者の看護を申し出た。
「ですが、そこまで甘えるわけには・・・・」
 思わぬ申し出に言葉をつまらせる司祭、さらに。
「私にも手伝わせてください」
 小さな手が上がった。仲間に先を越されはしたものの、空き時間には看護の手伝いをしようと思っていたのだ。マリエータ司祭は少し躊躇ってから。
「・・・・お願いできますか?」
 「はい!」 心優しい娘達の声が陰鬱な空気を打ち消すように響いた。

●同日・22時半
「魔法ではないんですね」
 エックスレイの魔法で強化されたサリの視界に、本来は霧のカーテンで隠れているはずのクルードがはっきりと映る。とは言え効果時間が短いため些か不便ではある。
「デビルが5体、来ます!」
 ほぼ同時にマロースが魔法の探知範囲内に入ったデビルの数を叫ぶと、次の魔法の準備に取り掛かった。

 最初はディテクトアンデッドでデビルの位置を把握しながら戦おう思ったが、彼女の魔法では感知できる時間が短い。前衛にとってはかなりのロスになる。ならばと腰に吊り下げていた袋から一掴みの灰を握りだし、盾に振りかけて念じると・・・・瞬く間にもう1人、ジャイアントの騎士が現れた。
「前へ進め!」
 ブロッケンシールドの効果で現れた自分の分身に先行を命じると、ソペリエは盾を前面に霧に踏み込む。乳白色の闇に視界をふさがれながらも分身に神経を集中する・・・・
 −ひゅっ−風を切る音と共に目の前の影が灰に戻る・・・・一瞬、細い影が視界に入った。
 「!」 強靭な脚力がソペリエの巨躯を前方に弾く! 数歩走ると地面すれすれにおぼろげな影・・・・迷わず剣を掲げ。
「トゥシェ!」
 長身の更に上から振り下ろされたストームレインの刀身がデビルの体を浅く切り裂き、路面を削る。
 −きぃぃぃ!!−
「逃がさない!」
 巨人の騎士は霧の中に逃れようとする影に追撃を放った。

「相変わらず何もみえねぇな」
 照明にダズリングアーマーをかけさせているのだが、それでも霧のベールは重く視界を遮っている。いつぞや見た光景と寸分も変らない。だが彼の方はあの時から一回りも二回りも成長している。
「ま、どーでも関係ねぇか」
 無造作に野太刀を担ぐと半身で腰を据える。暫しの瞑想の後、開眼! 同時に胸の前、空中にレミエラ発動の紋章が浮かぶ。
 一閃。
 レミエラの効果により範囲を拡大された剣風が霧ごとクルードをなぎ払った。

「自警団の方は霧に入らないで、篝火を守ってください」
 マロースは血気にはやる団員に警告を発するが・・・・
「うわっぷ!」
 霧の中から飛んできた水球をまともに受け、自警団のメンバーがうずくまる。
「水? 魔法か・・・・サリさん援護を!」
 返事の代わりに涼やかな鈴の音と風を切る音が霧に吸い込まれた。
「大丈夫ですか?」
 魔法を受けた男に駆け寄ると、彼は驚いたように目を見開き。
「全く問題ないっす。いやぁ美人さんの加護は効き目が違いますね!」
 事前にマロースが施していたレジストデビルが役に立った。目に見える被害は鼻っ柱を赤くしたぐらいだ。それより何より、余りに能天気な一言に呆れ。
「聖堂の前でそんな事を言うと罰が当たりますよ?」
「いけねぇ・・・・今のは聞かなかった事に」
 本気で拝み倒す姿に、思わず苦笑いがこぼれた。

●同日・23時
 戦闘開始から十数分で5体のクルードはことごとく討ち果たされた。被害は自警団員数人が擦り傷を負った程度。昨夜まで恐怖に静まり返っていた町は一転、歓喜の叫びで満ちた。
「素晴らしい! さすがですね。さっそく司祭様に報告を・・・・」
 行きかけた神父は足をとめ、瑞雲に向き直る。
「色々調べてみたんですが、お尋ねの冠については何も」
「・・・・そうかい」
「聖堂も昔は修道院だった場所ですし、貴重な物品も特には・・・・ただ」
 瑞雲の目を真正面から見据え。
「あえて言うなら、信仰とマリエータ司祭が我々の宝です」
 そういい残すと神父は今度こそ走り去った。

「何をなさっているんですか?」
 路上で何か探しているサリが気になり、ソペリエは声をかけてみた。
「矢を探してるんです」
「矢を?」
「使えるものは使わないと勿体無いですから」
 騎士にとって矢は消耗品、回収するという概念は無かった。
「勿体無い・・・・そういう考え方もあるんですね」
 感心したように呟くと矢を探し始めた。今度はサリが驚いたように見上げ・・・・
「ありがとう御座います」
 小さな声で礼を言うと、鼻歌交じりに作業を再開した。

 回収結果・・・・2本。