雪どけ恋しや小鬼は怖し
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月03日〜03月08日
リプレイ公開日:2009年03月09日
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●オープニング
●ある親子の会話
「どーだ親父ぃ、鹿か兎の足跡でも見つけたか〜?」
「・・・・」
ほら見たことか、息子は心の中で舌をだした。唯でさえだだっ広いだけが取りえの雪原だ。冬毛の兎はともかく、鹿でもいようものなら遠目でも見つけられる。もし見つけたとしても、矢が届くところまで近づけるはずも無い。つまり彼は・・・・父親の酔狂で使う機会があるかどうかもわからない弓を担ぎ、未踏の雪面と格闘させられているわけだ。
「だから無駄だって言ったじゃないか、言い出したらきかねぇんだから・・・・」
愚痴の一つも言いたくなる。
「よぉ・・・・」
「大体親父はいつも我がままなんだ。まだ干し肉が残ってるんだから、それで我慢すりゃいいのに・・・・」
「おい、おいってば!」
「え? ああ、なんだい?」 つい愚痴に没頭してしまったらしい。問い掛けに慌てて返答すると、雪を掻き分けながら父親の元へ急ぐ。
「兎の足跡でも見つけたかい?」
ようやく父の側にたどり着くと、彼が見下ろしている雪面に目を向ける・・・・と。確かに足跡が残されていた。しかし兎や鹿の類ではない、例えるなら人間の子供のような痕跡だが。
「この時期、こんなとこまで子供が来るはず無いよな」
「ああ・・・・」
「んじゃこいつは何の足跡なんだい?」
「・・・・」
答えはない。恐らく幾つかの可能性は思いついているのだろうが、口にしたくないのだろう。何故わかるのかって? 俺もそうだからだ。
親子は顔を見合すと阿吽の呼吸、素晴らしい速さで逃げ去った。
●ギルド・依頼カウンター
ペンを片手に羊皮紙とにらめっこをしている受付嬢に同僚が声をかけた。
「さっきの方の依頼書ですか? 確か敵が不明とか聞きましたけど」
「う〜ん。状況から考えてオーガ・・・・多分、ゴブリンの類だと思うんだけどね」
子供ぐらいのサイズと言う状況から、小柄なオーガだろうと推測できる。種類の特定は生息地域による統計、コボルトならもう少し山に近いほうに出るだろう、と言う・・・・勘だ。
「だと思うんだけど・・・・」
「けど?」
推測で依頼書を書くのは冒険者達に対する裏切りのような気がする・・・・表情が雄弁に語っていた。同僚は生真面目な受け付け担当の姿を暫く楽しんでから助け舟をだした。
「それならこうしたらどうです?」
「?」
●依頼書
「募集。雪原に住み着いたオーガの討伐。正確な数・種類は不明ながら、目標は「小型のオーガ」複数と推測される」
●リプレイ本文
●第一段階−かんじき作成−
「こないな感じでええですか?」
ジルベール・ダリエ(ec5609)は焚き火の熱を利用して木材をゆっくりと曲げていく。
「もう少し曲げたほうが良いな」
寒冷地での行動術を身につけている、雀尾嵐淡(ec0843)はジルベールの手元を見るとアドバイスした。かんじきとは靴の下に装着し、雪上で体が沈みこむのを防いでくれる道具の事。雪深い場所での必需品で、これがあるのと無いのとでは疲労度や移動に大幅な差がでるのだ。
そんなわけでパラの、クル・リリン(ea8121)−僕の身長では雪に埋まってしまうの必定です−
「僕、埋まりたくないです!」
思わず声に出るほどの主張につながる訳だ。
「クルさん、いきなり力をいれたら折れてしまいますよ」
木工の心得のある、ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)が優しくたしなめる。
「そんなに心配しなくても、君の体重ならそこまで沈むことはない」
シェル・カロニコフ(ec6081)が至極まじめにフォローを入れた。
レイア・ファランス(ec6214)は一揃えのかんじきを持って、ヨーコ・オールビー(ec4989)の元へ近づく。彼女の側にはボーダーコリー−テオと言うそうだ−が控えていた。
「これ貴女の分」
「ありがとぉ」
ヨーコは独特なイントネーションで礼を言うと、差し出されたかんじきを受け取る、が。レイアの表情に緊張のような、不安のような・・・・影があるのに気付いた。
「どないしたん?」
「・・・・」
レイアは少し躊躇ってから。
「初めての仕事だから、勝手がわからなくて・・・・あたし足手まといにな・・・・痛っ」
−ぴし!− ヨーコの突っ込み一閃。額を押さえて見上げるレイア。
「誰かて初めてはあるんや」
ニカっと笑うと。
「あんたは1人や無い。うちらがついとるんや、幾らでもフォローしたるから任せとき」
「・・・・頑張ってみる」
うん、多少はましになったわ。先達は満足そうに微笑んだ。
●第二段階−地上班−
「・・・・あー、歩きづらいなぁ」
「確かに。せやけどこれのお陰で雪をかき分けんでもええんやから、文句言われへんわ」
ヨーコの言う通り、お手製のかんじきを装着したお陰で何とか雪上を歩くことが出来ている。しかしその反面、なれない装備で思うように距離が稼げていないのも事実だ。
「あの・・・・足跡があった場所と、言うのは・・・・まだでしょうか?」
2人の後ろを何とか追いかけるものの、お嬢様育ちのラヴィには少々過酷な道のりではある。弱音を吐くまいと思うものの、ついつい本音の様なものが口をついてしまう。
「ぼちぼちやと思うわ、もう一頑張りな」
ジルベールは振り返って答える・・・・と。
−ウォン! ウォンウォン−
「お、うちのわんこがなんかめっけた見たいやで」
前方でテオが冒険者達を待っている。早く来い、とでも言いたげな表情だ。
「鬼が出るか蛇が出るか・・・・ま、小鬼やけどな」
ジルベールは「オーガの生態」と銘打たれた写本を取り出し、テオの元へと急いだ。
●第二段階−空中班−
「シェルさん、どうだった〜?」
「北の森は空振りだった。そちらは?」
クルはその問い掛けに首を振って答えた。2人はフライングブルームと空飛ぶ絨毯で遠方の捜索を受け持っていた。魔法の絨毯と箒は高度を落とし、搭乗者は集合場所である野営地へ降り立った。
「嵐淡はまだのようだな」
「一番遠い場所ですからね、もう少しかかるんじゃないですか」
焚き火跡をかき回して火種を探すが見つからない。諦めて新たに火を起こしにかかる。上空では地上よりも風の影響を強く受ける・・・・具体的に言うと「寒い」。それぞれ防寒対策はしていたつもりだが、やはり一刻も早く暖を取りたかった。
「真っ白な世界だからな、動くモノがあれば目に付くはずなんだが・・・・」
「僕、雪を見続けて目が痛いですよ〜」
寒さとは別の敵もいた。雪の照り返しは目に負担をかける、視力の良い2人ならなおさらだ。暫く目を閉じ、雪で冷やしたりして思い思いの方法で目を休めていると。
−ばさっ!−
その巨体からは信じられないほど静かな羽ばたきで、1羽のジャイアントオウルが舞い降りる。見る間に大梟の形は崩れ、人の姿へと戻っていった。
「西が当りだと思う。岩の裂け目にそれらしい生物が5匹」
焚き火に手をかざし、調査結果を告げる。
「ゴブリンですか?」
「大きさから推測すると、恐らく」
断言では無いのは直接見たからではなく、デティクトライトフォースによって感知したものだったからだ。
「後は地上班が帰って来てから、だな」
勢いよく燃え上がる炎に手をかざした。
●第三段階−餌で釣ろう作戦−
足跡の捜索を終えた地上班と、空から広域を捜索した空中班の調査結果をすり合わせた結果。やはり西の岩場が有力、との結論にたどり着いた。その夜のうちに、足跡の集中する場所、風向き等を考慮して罠を仕掛ける場所を決める。
「ようやくこれとおさらばできるわ」
ジルベールは厳重に包まれた包みを取り出す、中身は強烈なにおいを放つ保存食だ。友人がにおい消しのハーブを仕込んでくれているのだが、それでもほのかに香りがこぼれているような気がしてしょうがない。慣れれば大丈夫だと人は言うが・・・・
「うーん、明日にはお別れとは寂しいわぁ〜」
なにやらご機嫌で酒瓶を抱きしめるヨーコ。不審に思ったクルが酒瓶を観察する、と。
「あー、ヨーコさんお酒飲んじゃってるじゃないですかー!」
「だってぇ〜、未開封で怪しまれたらあかんやん」
「そ、それはそうですけど・・・・」
「クルはんもお一ついかが?」
悪びれる様子は皆無。むしろ楽しんでいるようにも見える。
「・・・・」
レイアはあまりの緊張感の無さに言うべき言葉が見つからなかったとか。
●番外編
−ぎゅるるるる・・・・−彼らの有様と反比例するように腹の虫が鳴った。群れのリーダーは疎ましげに自分の腹を見下ろす。勿論、睨んだところで腹がふくれるわけではないが、他にどうしようもない。ここ数日、入り口から獲物−出来れば人間−が通らないかと見張っていたが人間どころか兎、どころか野ネズミ1匹見当たらない。
体力が残っているうちに移動するか・・・・そう思っていた時だった。
−・・・・−
一陣の風が冷涼な外気と共にそれを運び込んできた。それに気付いたのは彼だけではない、手下達もざわついている。
これは・・・・この匂いは・・・・
−うがっ!− 食い物だ!
●第四段階−攻撃−
「出てきた出てきた、やっぱりここが当たりでしたね」
「ああ、余程腹を減らしていたんだな。先を争うように・・・・ん?」
気取られぬよう高度を上げて監視していたクルとシェルの目の前で、ゴブリンたちが競い合うように食料に殺到する・・・・しかし。1匹のやや大柄なゴブリンが仲間達を殴りつけ、食料を独占してしまった。
「あれが群れのリーダーか」
クルは頷くと腰袋に手を入れた。
「独り占めはあかんやろ」
「仲よう分け合わんと信頼なくすで、ほんま」
地上班は少し離れた場所で成り行きを見守っていた。
「・・・・そうゆう問題なのでしょうか?」
控えめに突っ込むラヴィ。
「しっかし、こんなん履いて追いかけっこせなあかんのかいな」
「これがほんまの鬼ごっこちゅーやつやな」
「おー、ジルベールはん上手い事言うな〜」
「・・・・」聞こえなかったようだ。何というか生半可な話術では太刀打ちできない気がする。
「そろそろみたい」
上空班の動きを見ていたレイアが仲間に告げる。見上げると投網の準備をしているようだ。さて、と。誰かが発した一言と共に、冒険者の表情が引き締まった。
梟と言う鳥は獲物目掛けて滑空するとき、殆ど物音を立てない。それは彼らの獲物の多くが警戒心が強く、臆病な生き物だからだ。そしてこのジャイアントオウルもまた、微かに風を切る音と共に獲物の頭上を通過し・・・・ゴブリン目掛けて掴んでいた投網を投下した。
−ばさぁ!− −ぎひゃぁ!?−
掴んでいた網を投下しただけなので、充分に広がらず1匹には逃げられたが、もう1匹は目の細かい網に絡みつかれ雪面に転がる。突然の襲撃に混乱するゴブリン達。本来なら群れのリーダーたるゴブリン戦士が指示を出すのだが。
−げふぅ−
彼は食料と共に置かれていた鬼毒酒を飲み干し、酩酊状態真っ只中。更に「それっ!」 クルが放った追儺豆がゴブリン戦士の額に命中する。
−ぎひゃぁ!−
全身を走る嫌悪感に悲鳴をあげてしまう。長の悲鳴は手下のそれとは意味が違う。群れの中で最も強い存在が負けを認めたのだ。この時点でゴブリン達の戦意は雪よりも儚く、溶けた。
背後から放たれる矢と光の矢に倒れていくオーガ。頭上に現れた水球が1匹を飲み込んで雪へと押し込む。その光景を横目にレイアは逃げようともがくゴブリンに、酷薄な刃を振り下ろした。
●第五段階−作戦終了−
「全部は無理でしたね〜」
折れた矢を手に呟く。放った矢は折られたり鏃がかけたりで、使い物にならなくなるものが多い。それでも何本かは回収できたので良しとしよう。
「何をなさっているんですか?」
ラヴィはスコップで雪を掻き分け、更に凍った地面まで掘り起こしているジルベールに声をかけた。
「野ざらしもあれやし、埋めといたろかなーて」
「え?」
「ほら、小鬼らもまだ悪いことしたわけでもなさそうやし、気の毒やろ?」
「・・・・」
「春になったら、木や花のひとつでも芽吹くかもしれんしな」
今のところ誰に迷惑をかけているわけではない・・・・そう思っていた。だからこそせめて祈りを、と思っていたのだが・・・・同じ考えを持った人がいた、いてくれた。思わず言葉が口をついて出た。
「私にも手伝わせてください」
雪原の日差しには春の暖かさが感じられた。雪が溶ければ色とりどりの花、青々と茂る草木が大地を埋め尽くすだろう。勿論、この場所からも。