【蠢動する悪意】 急転

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 20 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月15日〜03月30日

リプレイ公開日:2009年03月18日

●オープニング

●グロスター
 その町はキャメロットの西方約200kmに位置し、陸路と水路に恵まれた交通の要所として発展してきた。古の城跡の他、修道院や大聖堂など文化的な一面も持つ歴史ある町である。
 冒険者の助力により霧の悪魔を退け、町は平穏を取り戻した、と。・・・・誰もが信じて疑わなかった。

●若き自警団
「まだたんねぇ・・・・もっともっと鍛えなくちゃ・・・・」
 時刻は宵の口ではあるが、折からの小雪で人影の無いグロスター。1人の若者がランニングを行っていた。
 名はキイル、彼は生まれ育ったこの町を守りたいと自警団に入団した。しかし先のデビル襲来の折、何も出来なかった自分と冒険者との力の差にはじめは憧れ、仕方がないと自分を慰めた。しかし時が経つにつれ、憧れは羨望と焦燥−俺だって、俺にもあれだけの力があったら−にも似た感覚に変質していく。そして不幸にも彼はそれを自覚できる客観性を持ち合わせていた。
「ん?」
 暗がりに慣れた目が何かを見つけた。修道士のローブみたいだったけど・・・・マーシ大聖堂を擁するグロスターには、他にも幾つかの修道院がある。つまり町中に修道士がいても全くおかしくは無いのだが・・・・キイルの中で何か引っかかった。それは明確な言葉には出来なかったが、確実に違和感として彼に行動を促す。若い自警団員は導かれるように修道士の後を追った。

●深夜の密談
 暗い夜道の追跡ではあったが、雪明りとうっすら積もった雪に助けられ何とか見失わずにすんだ。人影はとある建物の前で止まると、慎重に辺りを確認してから中へ入った。
 彼の記憶ではこの建物は去年から空き家になっていたはず。漠然とした違和感に裏づけを得た気がして、キイルは慎重に迂回してその建物に近づいていく。
 「・・・・」「・・・・」
 窓際にたどり着くとささやくような声が聞こえた。やりとりから察するに男性が2人、多くても3人だろう。
 「このままだと・・・・司祭長・・・・は・・・・」「・・・・それ・・・・る、だが・・・・」
 切れ切れに聞こえてくる会話を聞き漏らすまいと耳を澄ます。大司祭? また大聖堂がらみなのだろうか・・・・考えに浸りかけた次の瞬間。
 −かつっ− ほんの僅かな音が、彼には雷鳴が轟いたように聞こえた。心臓を鷲づかみにされたような衝撃。
 中を覗こうと身をよじった時に小石を蹴飛ばしてしまったのだ。冷涼な空気に響きそうなほど脈打つ胸を押さえつけ、精一杯身をちぢ込ませる。
 5秒・・・・10秒・・・・
 永遠とも思える時間が過ぎた。幸いにもその音は中に届かなかったようだ。キイルはそっと建物から離れると、自警団の詰め所へと走る・・・・と、不意に違和感の正体に思い当ったる。
「馬鹿か俺は! 修道士がこんな時間まで出歩けるけるわけねぇじゃねぇか!」

●自警団の決意
「先ほどまで誰かいたようですな」
「そのようだな・・・・話の真偽はともかく、空き家に潜り込んでまで秘密を守りたかった会話、か」
 ランプの芯が先ほどまで使われていた事を照明している。 
「間違いないですよ! この耳ではっきり聞いたんです、マリエータ司・・・・んが!」
 団長は声を張り上げかけたキイルの口に、皮の手袋ごと右手を突っ込んで黙らせる。
「どうします? 団長」
 密談の内容は聞き捨てなら無い重大なモノだった。とは言え、新米の立ち聞きが情報源ではいかにも弱い。さらに密談の人物が誰だったのか? それすらわからず、どうすれば良い・・・・行動を起こすのは良い、しかし悪戯に町を騒がすだけではないか?
「ぺっぺ・・・・ひでぇなぁ、ったく。あ〜・・・・団長、俺に考えがあるんすけど?」
 悩める団長にルーキーが示したのは、まさに度肝を抜かれる提案だった。

●大聖堂からの使者
 −バタン!− 蹴破らんばかりの勢いでギルドに転がり込んできたのは、以前にマーシ大聖堂司祭・マリエータの書状を運んできた彼だった。
「ようこそ冒険者ギルドへ・・・・あら? 貴方は確か・・・・」
 見覚えのある依頼人、そして前回よりグレードアップした登場に不吉なモノを感じる受付担当だが・・・・
「大変なのです・・・・マリエータ司祭様がさらわれました!」
「え・・・・だ、誰にですか! もしかしてまたデビル・・・・?」
「それが・・・・自警団に、なんです!」
「何ですってえええぇぇ!?」
 その衝撃は彼女の予想を遥かに上回った。

●詳細
 使者の話を要約するとこうなる。
 その日の深夜、自警団の団員が大聖堂に乗り込んでくると「司祭に伺いたい件がある」といって、有無を言わせずマリエータ司祭を詰め所に連れ去ってしまった。夜が明け、自警団に正式に説明と抗議の申し入れをしたが一向に取り合わない。ただし、説明に関しては「自警団、大聖堂の双方に対して中立な立会人」が用意できれば応じる、と。

「司祭様が連れていかれる時、抵抗なさらなかったのですか?」
「オールスン神父や他の司祭様が止めようとなさったのですが、マリエータ司祭様が・・・・」
 「・・・・成る程」後は聞かなくても想像がつく。司祭なら自分が付いて行く事で、無駄な争いが避けられるなら・・・・そう考え、行動する人だ。
「それでは今回の依頼は自警団と教会、両者に対して中立の立会人・・・・と言う役回りですね?」
「はい。どうかお力をお貸し下さい・・・・」

●今回の参加者

 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5300 サシャ・ラ・ファイエット(18歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●グロスターの暗雲
 自警団が何か勘違いして暴走したのか? 依頼元であるグロスター大聖堂の前で、日高瑞雲(eb5295)はつかの間、物思いに耽った。
「取りあえずは依頼人のお話を聞かせて頂かなくては、ですね」
 サリ(ec2813)が瑞雲の横に並ぶ。事情はまるっきりわからない。これから一つ一つ、自分達の手で埋めていかなくてはならないのだ。何にせよ・・・・
「できるだけ穏便に解決させてえとこだな」
 瑞雲はサリに向き直るとニヤリと笑った。

 彼らが大聖堂の入り口に立つと、転がるような勢いで1人の神父が飛び出してきた。前回の依頼に参加した人にはお馴染み、初めての人ははじめまして。マリエータ司祭の側近、右腕であり最大の理解者オールスン神父だ。
「お久しぶりです、神父。大変な事になりましたね」
 ソペリエ・メハイエ(ec5570)は神父に声をかけた。
「これはご丁寧に・・・・いや、そうでは無くて良く来ていただけました。もう如何して良いやら検討もつきません」
「まずは詳しい話を聞かせてください」
 サシャ・ラ・ファイエット(eb5300)のおっとりとした・・・・もとい、柔らかな笑顔を向けられた神父は深呼吸を数度、気を落ち着かせると冒険者を聖堂へと招きいれた。

●一癖ありそうな
 通された部屋には男性が2人、気難しげな表情を浮かべて彼らを待っていた。衣服から察するに司祭位だ。
「司祭、こちらが立会人を務めてくださる冒険者の皆さんです」
 オールスンが一同を紹介すると2人の男性は立ち上がり、
「司祭を務めているブロウトンです」
「同じくグレイスと申します」
 小太りなほうがブロウトン司祭、細身なのがグレイス司祭っと・・・・わかりやすい特徴を掴んだ瑞雲は会釈で応じる。
「それでは皆さんのお話を・・・・」
「何を悠長な事を言っておるのかね!? さっさとあの罰当たりどもからマリエータ司祭を取り戻してくれ!」
 サシャの言葉が言い終わらぬうちに小太りの−ブロウトン司祭−が噛み付く。これがごく普通の人だったら些かなりとも効果はあったろうが、相手は歴戦の冒険者揃い。誰一人動じず動かず、次の言葉を待った。
 「・・・・それがですね」オールスン神父が沈黙を破る。
「話と申しましても、全くもって寝耳に水の事でして」
「自警団が言い残した言葉以外、お話できることは無いのですよ」
 細身の−グレイス−司祭は腕組みをしたまま、不機嫌そうに言葉を吐き出した。そのまま沈黙を決め込んだか口をつぐむ。
「話し合いの時間は?」
「今晩になるかと」
 窓の外を見るとまだ日は高い、時間は充分にある。
「それまで自由にしててもかまわねぇかい?」
 「勿論です」微妙なニュアンス。瑞雲はオールスンの目を見る。むしろ動き回って欲しいって顔だね。
「ああ1つだけお願いが。この件はまだ町の人々には内密に・・・・」
 事が事だけに、発表するにもタイミングが重要らしい。
「わかりました。それでは後ほど」
 会話の内容を書き留めていたソペリエが立ち上がると、自然と解散の空気が出来上がった。

●町の声
「自警団かい? ああ、強面だけど気の良い奴らさね」
「皆、グロスターかこの近辺の出でさ。生まれとかじゃなくて、自主的に町を守りたいって人が集まってるんだ」
「へぇ、そいつは感心だな」
 瑞雲は荷が着かないとかで早仕舞いした荷積みの男達に混じり、エールの満たされたジョッキをあおった。悪魔から町を守った冒険者の話は隅々まで届いているらしく、何処へ行っても声をかけられた。その上、自警団や大聖堂について少々踏み込んだ話も気軽に応じてもらえた。
「あの瑞雲さん?」
 聞き込んだ情報を記録していたソペリエが瑞雲に声をかける。あまり細かいことを言いたくないが、今は仕事中。酒を飲みながらと言うのは・・・・
 「ああ、これか?」 良かった、すぐに察してくれた、と。安心したのもつかの間。
「おーい、こちらの姉さんにも1杯頼むわー」
 1人の男が新しい酒を注文してしまう。
「いえ、仕事中ですので・・・・」
「まぁまぁ、硬いこと言わないで。酒場に来たら何か頼むのが礼儀ってモンですぜ」
 「ですが・・・・」視線で瑞雲に助けを求めるものの。
「勧められた杯を空けるのも礼儀だよな」
 ダメだった。生来の素直な性格、礼儀と言われては逃げ場も無い・・・・ジャイアントの淑女は酒場の習いに乗っとり、差し出されたジョッキを受け取ると、剛毅に飲み干した。

「何かわかりましたか?」
 サシャは黙って首を横に振った。2人は密会場所である空き家の調査に出向いていた。
 スティンエアワードで空気の澱みから情報を得ようと試みたが、自警団が建物の捜索をした時に密会時の澱みは流されてしまったようだ。
「そちらはどうでしたか?」
「皆、何かを感じているみたいです。何だか嫌な感じがするって言ってます」
 獣達は人間よりも危険に対して鋭敏な感覚を持っている。サリはテレパシーリングで彼らと意思の疎通をしていたが鳥や猫、ネズミに犬・・・・種類は違えど彼らは一様に「漠然とした不安」を訴えてきた。
「まだ会談まで時間ありますね」
「もう少し調べてみましょう」
 パラとエルフの娘は思い思いの方法で空き家の調査を再開した。

●説明会、と言う名の宣戦布告
 約束の時刻。
 冒険者達はそれぞれの調査を終え、自警団詰め所に集まった。用向きを伝えるとすぐにホールへと通される。既に聖堂側の参加者−ブロウトン・グレイス両司祭にオールスン神父の3人−も席についていた。
 程なく奥の扉から壮年の男性−自警団の団長だろう−と若い自警団員が姿を現した。席に着く前に団長と思しき人物は冒険者達に向かって礼を述べた。
「遠方から立会いを買って出てくれた皆さんに感謝を。自警団長のオリバー・グレイと申します」
 若い団員、キイルも団長にならって頭を下げる。
「さっそく本題に入りますが、この件に関して大聖堂側の質問は受け付けられません」
 「何ですと!?」 「説明等どうでもいい、一刻も早く司祭を解放して・・・・」
「まずは彼らの話を聞きましょう」
 冒険者の仲裁に出鼻をくじかれ、司祭達は取り合えず沈黙。オリバーは目礼すると話を続けた。
「発端はキイルがマリエータ司祭に関し、よからぬ情報を得たからです」
 後ろに控えていたキイルが一歩前に出る。
「よからぬ噂?」
 2人はアイコンタクトを交すと、ずばりと切り出した。
「マリエータ司祭に危害を加える、という趣旨の情報です」
 「な・・・・そんな」 「・・・・」
「それは事実ですか!? 誰です、そんな恐ろしい事を企てているのは!」
 ブロウトン司祭は滝のような汗をかき、グレイス司祭は真っ青な顔色で今にも倒れんばかりの様子だ。唯1人、オールスン神父は普段の温厚さからは考えられないほど激高していた。
 ソペリエは会話の記録を取りつつ、自警団側の2人を観察する。全く揺らぐ事の無い姿からは、少なくとも嘘をついているとは思えなかった。
「我々の行動はご理解頂けたかと思います。以上で説明会を終わります」
 団長は動揺の収まらない場を無理やり収束させる。別室に控えていた自警団員が「丁重」に司祭と神父の退席を促す。
「なお立会人には暫くお付き合い願いたいのだが」
「私達もお尋ねしたい事があります」
「お話を伺いたいと思います」
 団長は満足そうに頷く、が・・・・司祭らが退室したのを確認すると、団長は崩れるような勢いで椅子へ体重を預けた。
「慣れん事はするもんじゃないですな」
 この数分で10歳ほど老け込んだか? オリバーは苦笑いを浮かべた。

●自警団の言い分
「御見苦しい所をお見せした。手の内を晒したくなかったもので」
 まずは謝罪の言葉を述べる。
「町の人はマリエータ司祭を信仰の支えだと仰っていました。そんな方に害意を持つ人がいるなんて」
 信じられなかった。サシャは沈痛な面持ちで口を開く。
「オールスン神父には残って頂いても良かったのでは?」
「司祭を退室させたのに神父を残すわけにもいかんでしょう。それに・・・・」
「誰が敵で誰が味方かもわからない、と」
 団長は頷くと
「これからどうなさるおつもりですか?」
 サリの質問は自警団側にとって頭の痛い問題だった。迂闊な行動を取ればグロスターの町を引き裂く程の、大事件に発展する可能性すらある。
「事情をお話して、急病になって頂くしか・・・・」
 無難な線だが稼げる時間はそう多くは無い、聖堂の運営にも支障が出る・・・・そう言えば。
「マーシ大聖堂には司祭長はおられないのですか」
「いない訳ではないんですが、マリエータ司祭が御自分の就任を固辞されたんです」
「それであのお二方も二の足を踏んでるってわけですよ」
 信者のみならず町の住人からも信頼厚い人物を差し置いて・・・・引け目と言うヤツだ。
「もっともブロウトン司祭も商人からの受けは・・・・」
 「滅多なことを言うな!」 口を滑らせ叱責されるキイル。
「グレイス司祭はどんな人物ですか?」
「一言で言うなら裏方、ですな」
 20年以上も聖堂の事務・雑務をこなして来た人物で、古参の神父やシスターの中には彼の支持者が少なくないそうだ。
 動機を司祭長の座と考えるならこの2人を疑わざるを得ない。とはいえ証拠も裏付けも無い現状、こちらから打つ手はもう無かった。出来る事といえば、
「後は相手の出方を待つ」
 ことだけ、実にもどかしいが。

●理解できるが故に語らず
 守るもののために力を欲する・・・・その気持ち、我が身の事のように理解できる。だからこそ、彼の危うさが気にかかった。
 だが冒険者は全ての言葉を飲み込んだ。あいつなら何時かは気付くだろう、気付くはずだ。一人で出来ることの限界を感じた時、自分の周りにいる志を同じくする人、自分を支えてくれる人・・・・「仲間」の存在に。
 若い自警団員と、彼の仲間達を見て確信した。