ゴロツキと多恵ちゃん

■ショートシナリオ&プロモート


担当:べるがー

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月19日〜12月24日

リプレイ公開日:2004年12月26日

●オープニング

「い〜い依頼があるんですよ、今度こそ本っ当に!」
 新しい依頼が入ってないだろうかと冒険者が声を掛けたとたん、ギルド員の親父は喜色満面の顔で振り返った。
 しまった、声を掛けるんじゃなかったかもしれないと後悔しても、時既に遅し。
「モンスター退治でなく、ゴロツキ退治です。しかも、困ってる13歳の少女を救える二度美味しい話!」
 浮かれた話口調はいかにも怪しい依頼なんですと言っているようで。
「まぁそう警戒しないで下さい、少女の家に居座ったそのゴロツキ達をどうにかして追っ払ってくれ、って依頼なだけですから」

 本当に話は簡単だった。
 依頼人の名前は多恵。多感な少女期を日々仕事に費やしている13歳の女の子だ。
 本当の父親と母親を事故で亡くし、母の妹である叔母夫婦に引き取られ生活している。
 そこも決して裕福ではないし、同年齢の娘もいるため、お洒落をしてみたりとか友達ときゃあきゃあ遊んだり、というのは出来ない話で。
 少女は13歳という若さで繕い物や近所の店の手伝いなどをして家計を助けている。

 そんな中、ある日家に帰るとどう見てもゴロツキの親分と言えそうな親父が上がりこんでいた。
 周りには手下と見られる男達が目つきも悪く座っている。叔母夫婦と娘は怯えている。
 その親父が言うには、多恵の父親の友人だというのだ。

「その多恵ちゃんね、随分困ってるみたいなんですよ。近所の目もあるし、叔母夫婦には迷惑をかけてしまうし。だからね、なけなしのお金で冒険者を雇って、そのゴロツキ集団を追い払って下さいって」
 ゴロツキ集団は父親から何か渡されたものはないか、言付けられたことはないかとしつこく聞かれているらしい。
 その態度も友人と言うには怪しすぎると多恵は言っている。
 多恵が両親から貰ったものは、愛情とお守り袋だけ。家や家具、着物の類は売り払ってもうないという。
「親分と見られるデブのおっさんが一人、それとその子分と見られる男達が8人、との話です。多恵ちゃんが困ってるので、引き受けて下さいませんか?」

●今回の参加者

 ea2369 バスカ・テリオス(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea4138 グリューネ・リーネスフィール(30歳・♀・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5988 冬里 沙胡(31歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea6402 雷山 晃司朗(30歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea6463 ラティール・エラティス(28歳・♀・ファイター・ジャイアント・エジプト)
 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 ea8799 ジャン・グレンテ(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●五日間だけの友達
「友達ですっ!」
 天下の大通りで多恵が叫んだ。彼女の肩に手を置く冬里沙胡(ea5988)は目を瞬かせ、庇うように前に立つ雷山晃司朗(ea6402)も思わず振り返っていた。
「友達ぃ?」
 ゴロツキの一人が引きつった口元で、指さした。その先にはジャイアントのラティール・エラティス(ea6463)が困った顔をしている。
「友達ですっ」
 年齢が釣合わなかろうがそぐわなかろうが多恵は言い張った。冒険者を雇ったなんてバレたら何をされる事か。それを恐れ、咄嗟に口をついて出たのが『友達』というデマカセであった。
 ゴロツキの指がさまよい、それを遮るようにジャン・グレンテ(ea8799)が口を挟む。
「友達ですよ」
 そこへ大宗院亞莉子(ea8484)が止めを刺すように言った。
「聞くだけ野暮って感じィ」
 グリューネ・リーネスフィール(ea4138)も毅然とした態度で多恵に寄り添っている。まぁ彼女は姉のような存在に見えなくもないのだが‥‥。
「‥‥友達?」
 ゴロツキがトマス・ウェスト(ea8714)を指した。
「けひゃひゃひゃ、我が輩のことは『ドクター』と呼びたまえ〜」
 ドクターの奇怪な笑いに、多恵も一瞬言い淀む。
「かっ、彼も‥‥友達ですっ」
 言い切った。今日から五日間だけの友達である。

「しかし、ゴロツキと言えどそこまで暇ではない筈。女の子一人に嫌がらせをして利益などあるのでしょうか? いや、まさかあるのか‥‥?」
 バスカ・テリオス(ea2369)はゴロツキの嫌がらせにしっくりこないものを感じているらしい。しきりに首を傾げている。ジャンも頷いた。
「彼らの狙いが分かるまで、友達としてここに居座りましょう」
 依頼はならず者達を追い出すことだが、ゴロツキは執拗に少女に絡んでいる。目的を根絶しなければ意味がなさそうだった。
 ほんの僅かな会議を終えるとバスカがその場をそっと離れた。多恵のような少女に成人男性数人が友達なのもおかしい。そんな理由で今回彼は通行人を装って仲間達のフォローに回っている。
 直後、入れ違いのように店から多恵と亞莉子が出てきた。山のような荷物を抱えた二人にわらわらと冒険者たちが駆け寄る。
「まさかこれ、全部次のお仕事ですか?」
「幾らなんでも多くはないか」
 ラティが驚いたように声を上げ、晃司朗が顔を顰める。ドクターも積み上げられた着物にしげしげと見入っている。
「ほらぁ、もっと気楽に生きればいいって感じィ」
 亞莉子に言われ、多恵がしゅんとした。
「だって‥‥この歳で出来ることって、これくらいしかないから」
 沙胡とグリューネが思わず顔を見合わせて苦笑する。どうやらギルド員が言っていた『いい子』というのは、本当らしい。

「なっ、何だテメエら、とっとと帰れよ!」
 友人と言って多恵から離れようとしない冒険者たちに向かって、ゴロツキの親分であるデブが口角泡を飛ばしつつ文句を言った。
 気の弱そうな夫婦にそこの娘、そして目当ての娘は何の力もない子供だと踏んで居座っていたが、今日になって多恵の友達だと言う人間が7人も現れた。
 その台詞に夕飯用の包丁を手にしたグリューネがニッコリ振り返る。
「あなたに言われる筋合いではありませんから」
 亞莉子の軽蔑した視線が突き刺さり、晃司朗がじろっと睨みつける。
 夕飯に取り掛かっている多恵と叔母の周りには沙胡やラティ、玄関前にはジャンが掃除と称し陣取っている。おまけに白衣姿の怪しい医者にはもっと怪しげな薬を持ってにじり寄られるし、近づこうにも何だかんだと邪魔をされ、結局今日一日は多恵に尋問の一つも出来なかった。
「この薬はね〜とっても体にいいのだよ〜。試してみるか〜? けひゃひゃひゃひゃ!」
 ゴロツキ達の計画が、けひゃひゃひゃと音を立てて崩れていく気がするのだった。

「ちょっといいかね〜、そのお守りの中身を見せてもらえないかね〜」
 ドクターが多恵の前に屈み込み、真剣な目を向けた。いつもの逝かれた雰囲気はどこへ行ったんだろうきっと彼も冒険者だから色々あるんだわと一人勝手に納得した多恵はそっと差し出した。
 ちら、と見ただけだと思うが中身の紙片を確認すると多恵の手へと戻す。その後のドクターの顔はすっかりいつもの顔に戻っていた。

「お金?」
「なるほどな」
 ラティが眉を顰め、晃司朗があっさり頷いた。
 そう、ドクターがお守りを確認したのはそれが親から唯一残された物だったからだ。きっと何かゴロツキが欲しいものがあるのだろうと思っていたが‥‥まさか有り金の地図とは。
「ゴロツキが狙って来るのだから、それは恐らく彼らのもの、と見た方がいいんでしょうね」
「だから多恵ちゃんは狙われたんですね‥‥」
 ジャンの言葉に沙胡が頷いた。
「それじゃあ〜」
 店から出てきていた亞莉子が多恵に腕を絡ませる。瞳にはイタズラな笑み。
「私と代わりましょう。それに女の子なんだからもっとお洒落しなくちゃ」

●ならず者に制裁を
「多恵殿!」
 深夜、通りを全力で走ってくる少女をグリューネが呼び止めた。ミミクリーを発動し、地蔵へと変身する。その姿が多恵をゴロツキの目から隠し、代わりに多恵に変身を遂げた亜莉子が駆け出す。少女が入れ替わった事に気付いた気配はない。

「いらっしゃいませ」
 ゴロツキ達の間で動揺が走る。さっきまで追いかけていた多恵がそこにはおらず、何故かジャイアントの女性が待ち構えていた。それも何故か満面の笑顔で。
「な、何しやがるっ」
 いつの間に近づいたのか、ジャンが一人のゴロツキの腕を掴んで立っていた。
「一度だけ言います。彼女に付きまとうのは止めて貰えますか?」
 淡々とした表情で告げた。別段腕に力は込められていない。ゴロツキはブッと唾を吐きかけた。その様子に、動じたわけでもない言葉が響く。
「凍傷になりたいようですね」
 冷たさが触れられた部分から這い登ってくる。気付けば腕が凍り始めていた。ゴロツキの間に動揺が走る。
「‥‥少しは頭を冷やすべきですね」
 呟くと、顔を空へと向けた。‥‥空にあるのは月だけ。ゴロツキは空を見た後ジャンの顔を確認し、見てしまった事を激しく後悔した。彼の瞳には狂気が宿っている。
「何も知らずに平穏に過ごしている女の子に迷惑をかけるなんて許せませんね」
 じり、とラティが近づく。手には六尺棒。相手が小娘一人だと思っていたためにろくな装備をしてこなかった事に今頃気付いた男達は焦った。揃って後退りしていたが、背後の闇から大きな影が現れ、それを阻む。同じくジャイアントの晃司朗である。
「ここは一つ、非常の鬼となって悪漢を懲らしめるとしよう」
 更に右手側の闇からも、静かに怒った声がする。鳥に変身し、戦いに戻ってきたグリューネである。
「お金の為に少女の平穏を乱し、なお恥じる所のない悪人達に容赦は無用です。叩きのめして多恵殿の平和を守りましょう」
 囲まれている。それに気付いた時には既に遅かった。暗闇の中からバスカの怒りに満ちた声が響いた。
「吹き飛べ!! いたいけな少女の生活を脅かす、外道共がぁ!! ‥‥っと、地が出てしまいましたね。失敬‥‥破ッ!!」
 飛んできた衝撃波がゴロツキを襲い、吹っ飛ばしていた。
「何しやが」
「平和に暮らす人々を欺き、欲によって他者を傷つける者たちよ! 必ず心ある者が神意を代行し悪を裁く。人それを『天誅』という」
 グリューネの朗々とした声にゴロツキの一人がブラックホーリーをまともに受ける。それを見た数人が逃げ出そうとしたが、体の大きな晃司朗にツッパリで突き戻された。
「何だこの匂い‥‥?」
 攻撃を食らっていない数人が、ふと顔を上げると一人の少女が手を翳しているのが見えた。そう、まるで眠りに誘うような香り。
「ぐわっ」
 こけつまろびつ逃げようとした奴をラティの六尺棒が阻み、ついにはゴロツキの親分以外全てが深い眠りについてしまった。
「亞莉子さんのおかげであまりすることがなかったですね」
 沙胡が苦笑した。
 手下全てが眠りについたデブは、辻きりに出会った小娘のように打ち震えている。こいつだけ残したのは、これから全員で今後多恵に絡まないよう『説得』するためである。
「さて、どうするか、ですが‥‥」
「けひゃひゃひゃ、これを使うといい〜」
 ゴロツキの親分とその後の処置に困っていた仲間たちに向かって、ドクターが次々と縄を放った。
 用意周到なドクターを見、縄とゴロツキを交互に眺めていた晃司朗は、何を思い立ったか口元に笑みを刻む。
「この立ち回りの一回でゴロツキが諦めるかは判らんからな。ここは一つ、この冬の寒空に最も似つかわしい仕置きをせねばなるまい」
「きゃああ晃司朗さんっ!?」
 ラティが絶叫した。驚いたグリューネも沙胡もそちらを見て、即座に視線を逸らす。
 晃司朗は何を思ったか、手当たり次第に着物を脱がし始めた。亞莉子のおかげで抵抗されることなく余裕でひっぺがしている。
「は、裸で縛り上げて野ざらしですか!? この冬の寒空にそれはっ‥‥って、きゃーっ!! 脱がすのは私が後ろ向いてからにして下さい〜っ!」
 真っ赤になっているラティをよそに、ジャンは狂化続行中のためニヤニヤ笑って見守っている。
「さて‥‥と」
 ごそごそバックパックを漁っていた沙胡は振り返ると、筆記用具を手に微笑んだ。デブがじたばたともがいているが、既に準備万端である。
「変態、悪党、へのへのもへじ‥‥どれがいいかしら?」
「沙胡殿、ついでに『この者共、いたいけな少女につきまとう破廉恥者なり』と書いておいて貰えんかな」
「うふふ、任せて下さい」
 バスカはといえば、ぐるぐる巻きにされたゴロツキの親分の元へ近づくと、優しく肩を叩き。
「次があったら、今度こそ死なすぜ?」
 ぼそりと囁き、デブを震え上がらせていた。

●多恵ちゃんとお守り
「お金? あの人達の?」
 多恵は冒険者から聞かされたお守りの中身に目を白黒させて驚いた。
 黄ばんだ紙に書かれていたのは、父親が書いたゴロツキ達が人から奪ってきたお金。自分にはお守りと愛情だけだと思っていたから、唯一残されたお守りにそんな秘密が隠されているなど思いもしなかった。まさかあの父があの男達の仲間だったなんて。
 複雑な顔で黙り込む多恵を気遣い、冒険者たちの間にも沈黙が下りる。
 探すと言うなら手伝おう、という話になっていた。きゅ、と多恵が両手を握り締める。
「私が貰うわけにはいきません」
「いいのか?」
 晃司朗が静かに尋ねると、ハッキリと頷いた。
「私のお金じゃないし、届け出ようと思います」
 ゴロツキ達と一緒に。
 ネコババの発想のない少女に、冒険者たちは微笑んだ。お洒落の一つもしたい年頃だろうに。
「いつまでもお父さんとお母さんは多恵ちゃんの側にいて守ってくれてるからね」
 沙胡に頭を撫でられ、嬉しそうに頷く少女。
「それじゃあ〜、お洒落も必要なくなるくらい綺麗になれる方法教えてあげるぅ。ズバリ! 綺麗になるコツは恋をすることってカンジィ」
「えっ、あの、亜莉子さんっ!?」
 亞莉子が多恵の手を取って大通りに向かって駆け出した。どうやら仕事の最後に年頃の楽しみを教えるつもりらしい。
「本当に良い子ですね‥‥多恵殿は」
 見送ったグリューネが呟いた。
 結局保存食を使うことなく、出来立てのお弁当を毎日食べることが出来たバスカもうんうんと頷いている。ちなみに今手にしているのも多恵特製の弁当だったりする。
「あの少女には幸せになってもらいたいものだな。‥‥色々大変かとは思うが」
「大丈夫でしょう、きっと」
 晃司朗の言葉にジャンが頷いた。それは幸せになって欲しいという希望かもしれなかったが。
「けひゃひゃひゃ、心配などいるものか〜」
 ドクターがいきなり笑い出した。お宝が山でも森でもなかったため、興味を示さなかった男にしては楽しそうである。
「そのための両親からのお守りだろう〜? 袋の中身ではなく、想いそのものがこもった〜」
 あ、と幾人かの冒険者たちの口が開いた。
「なっ、ナンパなんて出来ませんよ〜っ」
「ほらぁ。あっ! そこのお兄さん、お茶ご一緒しなぁい?」
 きゃあきゃあと騒ぐ多恵と亞莉子の声が聞こえてきた。その声は年頃の女の子の可愛らしい声で。
 ───ゴロツキから多恵を守ることが出来て良かった、とどの冒険者も思うのであった。