子守と大掃除

■ショートシナリオ&プロモート


担当:べるがー

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月24日〜12月29日

リプレイ公開日:2004年12月30日

●オープニング

「まぁ年末ですからなぁ‥‥」
 ギルド員の男は顎を撫でさすりながらとある依頼を紹介し始めた。
「今回の依頼はあるお家の大掃除です。蔵などもありまして、結構広いとの事ですので‥‥え、人の家の掃除が依頼か? いやいやぁ、違うんですな。正確に言うと『一緒に掃除して下さい』という依頼です」
 年末ですから。
 そう前置きして語り始めた依頼とは───

 ジャパンの年末。それはつまり、志新たに新年を迎えるための準備をしなければいけないということ。依頼人の家も同じであった。
 埃をはたき、箒で掃き、廊下を磨く。その最中にはいらいないものを捨てる。
 それは毎年やってきた事。やってきた事なのだが。子宝に恵まれ、今年は8人の子供付きの作業である。
 子供達の名は壱、次郎、二葉、三郎、四郎、五郎、六郎、奈々、八重。男児名は何故か全員『郎』がつくのでわかりやすい。
 上は十三歳から下は乳飲み子まで。こんなにたくさん抱えた状態で、どうやって家中の掃除をしろというのだろう?

 壱は最年長の利発な少女(十三歳)だが、長女故に気苦労が耐えない生活を強いられ、最近ヒステリー。
 次郎は男の中では最年長(十二歳)だが、ちょっと目を離すとすぐに一人で勝手に出歩く放浪癖アリ。
 二葉(十一歳)は頼りになる姉に全てを任せ、お洒落に最近目覚めている。
 三郎四郎(共に十歳の双子)は二人で行動を取る事が多く、その分イタズラの被害も倍になる。
 五郎(九歳)は男児の中では最も大人しいが、大人しいが故に使いっ走り状態になっている。
 六郎(五歳)は最近母親に構って貰えないため、駄々をこねやすくなっている。
 奈々はまだ二歳児だというのに好奇心旺盛で、あちこちのものをすぐ口に入れようとする。
 八重は今年生まれたばかりの乳飲み子で、言うまでもなく手がかかる。
 
 奥さんに休みはない。その上、年末の大掃除が待っている。
 旦那さんはこれはもうどこかで人材を調達するしかない、と思った。

「そういうわけで、冒険者の皆さんには『子供の相手をしつつ、掃除を終わらせる』依頼をお願いしたいのです」
 ギルド員はちょっと苦笑して、付け加えた。
「奥さんに五日ばかり、休暇を与えてやって下さいよ」 

●今回の参加者

 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea1309 仔神 傀竜(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea2319 貴藤 緋狩(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2657 阿武隈 森(46歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4972 劉 冷蓮(17歳・♂・僧侶・シフール・華仙教大国)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea8878 レイン・フィルファニア(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8921 ルイ・アンキセス(49歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●対面、地獄絵図
「おっす! 劉冷蓮だよ」
 子守を生業とするシフール、劉冷蓮(ea4972)が人好きのする笑顔を浮かべて挨拶する。が、それも束の間、すぐに顔が一変した。
「って痛て! いてぇって、奈々! おいこら、私はアンタの食べ物じゃねーって!」
 二歳児に食われている。潤美夏(ea8214)は呆れて声も出ない。子守が食われてどうするのか。
 そこへ穏やかに笑う僧侶の二本の腕が伸びた。食いついて離れない奈々を抱き上げる。 
「あらあら、それはお口に入れては駄目よ。お腹壊すでしょう?」
「それはどういう意味だっ!」
 仔神傀竜(ea1309)の言葉に反論しながら飛び退る。すると即座に二体の子供に取り付かれた。
「うわあ、これ本物の羽だ〜」
 今度は無邪気な三郎四郎に羽を毟られそうになっている。傍観を決め込んでいた貴藤緋狩(ea2319)が冒険者が一人減る前に捕まえた。悪戯好きそうな双子を前に、屈みこむ。
「お手柔らかに頼むな」
 その少々情けない顔に刺激されたのか、すぐさま二人はターゲットを緋狩に移したらしい。倒れ伏したシフールは放置された。
 唾液まみれになったシフールに驚いた八重は泣き出し、その八重を五郎が抓った。慌ててルイ・アンキセス(ea8921)は八重を、レイン・フィルファニア(ea8878)は二人を引き離したが、今度は壱が苛ついたように叫ぶ。
「煩い!」
 ますます八重は泣き叫び、五郎は暴れ、六郎は気遣わしげな目をさ迷わせている。二葉はこの事態が見えてはいないらしい。
 壬生天矢(ea0841)と阿武隈森(ea2657)は思わず顔を見合わせた。
 ───どうやら想像以上に殺伐とした兄弟のようである。

●子守と兄弟
「ついて来ないでよっ!」
 壱が吠えた。その後ろをぞろぞろついて来ていた冒険者と兄弟は、だるまさんが転んだのようにぴたりと止まる。
 目で殺してやると言わんばかりの殺気を放つ壱に声をかけたのは、これまた弟妹がいるレインであった。
「あら、ついて行ってるつもりはありませんわ。ただ掃除なんてメリハリをつけた方が断然早く終わるのですから、その役割分担をしようと思っただけですわ。───そうですわね、馬鹿力のありそうな二人には家具の持ち運びからお願いするですわ。埃を一掃することが肝心ですもの」
 緋狩と森が頷く。このメンバーで力仕事が出来るといったらこの二人しかいないだろう。
「あなたはどうせ汚れるのがお嫌とか仰りそうですから、障子の張替えなどで結構ですわ」
「だってさ、二葉ちゃん。着物汚れないよ」
 まさに的確な指示。天矢も二葉も全然異論はないらしい。
「後は私たちで掃き掃除からするですわ」
 レイン・ルイ・冷蓮・傀竜が頷いた。これだけの人数がいるのだ、きっと二日三日で終わってしまうに違いない。

「なんて言ってたのになぁ‥‥」
 ルイが箒片手に呟いた。眼前に繰り広げられる光景は雇用期間五日間というものを全く無視した大掃除。
 ガタンッ! ばちゃーん!!
 廊下に桶の水いっぱいが広がった。廊下に突っ伏しているのはガタイのでかい緋狩である。
「わーい、また引っ掛かったぁ!」
 きゃあきゃあ喜びながら水浸しの廊下を双子が駆けて行く。緋狩もすぐさまドタバタと追い駆け出した。
 ルイの背後でははたきの音がどんどん大きくなっている。そう、騒音が増すほど障子をブチ破らんばかりに。
 ばしばしばしばし。ぶすっ。
「それでは掃除の意味がないのですわ」
 レインが壱の手元を見ながら呟く。ぶるぶると肩を震わせた壱は激昂した。
「うるさいなぁ、ほっといてよ! アンタもお母さんみたいに命令するのっ!?」
 言葉も表情も刺々しい。対するレインは飄々としたもの。逆に疑問に思っていたことを問いかけた。
「あら、別に命令する気なんてありませんわ。私はお金を貰って掃除のお手伝いに来てるだけですし。それより壱さんは殴らないんですの?」
「えっ?」
 顔から怒りが抜け落ちる。何言ってるのこの人、という顔である。
「私も弟や妹がいるのでわかるのですが、奴らの我が儘っぷりには拳骨で応じたものですわ。壱さんはどうなんですの?」
 殴って当然、むしろ殴れと言わんばかりの美夏の台詞に逆に戸惑ってしまう。
「手を痛めない殴り方を教えて差し上げましょうか?」
 ルイは『子守がそんな事を教えてもいいのか?』と疑問に思いつつ背中に背負った八重を揺すり上げる。赤子など眠ればさほど問題はないので他のメンバーに比べると掃除に集中出来ると言える。が、自分一人が頑張ってもこれでは大掃除は終わらないのじゃないだろうか、と思わずにはいられないのであった。

 五郎くんも大変よね〜、まだ九歳なのにっ。
 レインは外に連れ出した五郎を見つめた。上と下に人数が多いせいで見落としがちだが、五郎だって我が儘なだけじゃない筈。実際、自己主張をして貰おうと自然の多い河川敷に連れ出してみたが、可愛らしい笑顔しか見せていない。驢馬も気に入ったらしく優しく接しているではないか。
「実はこのコ、まだ名前が無いのよね」
 夢中で驢馬に触れていた五郎が、ぴくりと反応する。驢馬の頭をポンポンと叩き、レインは笑いかけた。
「でね、もし良かったら五郎君が名前付けてあげてくれない? 私達が帰る時までに考えてくれればいいからさ」
「名前‥‥付けていいの!? 僕がっ!?」
 やっぱり男の子の反応だ。例え母親の愛情が足りないと甘えてみたところで、風や川の流れを感じ、体全部で動いて動物に接すると、もう忘れて夢中になっている。レインは自分の試みが成功したことを感じた。
「もちろん! いい名前を付けてね」
 この子になら、いい名前を付けてもらえそうよね。

「目を離すと一人で放浪するらしーじゃん? なら、『一人で』放浪しなきゃいいんじゃん!」
 同時刻、冷蓮が逃亡しようとした次郎を追い駆け、店の前でとんでもないことを宣言していた。
 町を出歩くと必ず壱や両親が怒る反応を見てきた次郎は、ぱちくりと目を開ける。え? いいの? 本当に?
「私も一緒に放浪に付き合うよ。さ、冒険の旅に出発しようぜ! 歳が近いし、仲良くなれるって。へっへー♪ 次郎、よろしくな!」
 ───冷蓮、大掃除放棄。


 まともに子守らしき姿は傀竜だろうか。
 拭き掃除用の雑巾ですら口にしようとする奈々を優しくなだめ、喚くと穏やかに諭す。
「だぁめよ、奈々ちゃん。これはお口に入れるものじゃないの。そう、出して。いい子ね、奈々ちゃん」
 僧侶というより男というより子守というより‥‥。
「何か慣れてないか?」 
 緋狩が雑巾を被ったまま傀竜のいる部屋に現れた。どうやらまた双子の悪戯に嵌められたらしい。
「うふっ、これでもあたし、一時期は子育てした事あるのよ♪」
 それは父親として? それともまさか母親として?
 瞬時に緋狩の脳裏に疑問が渦巻いたが、考えない事にした。今やるべき事は他にある。
「そういえば、三郎四郎くんにイタズラされてばかりなんですって?」
「ん? ああ───まぁ見てろって」
 傀竜の目には余裕の笑み。傀竜のような子守は自分にゃ出来ないが、子供と遊んで掃除まで導くことは出来るのだ。

 奇跡的に、と言おうか何と言おうか。壱にしてみたらあり得ないほど三郎四郎が掃除の邪魔をしない事に気付いた。カリカリしていた気分が薄れたからだろうか、兄弟がどんな事をしているか周りを見る事が出来る。
 依頼から数日経って、掃除をせずに緋狩を罠に嵌めることばかり考えていた三郎四郎は気付けば立場逆転、緋狩に命じられちゃんと掃除をしているではないか。
「蔵の中にゃ、イタズラに使える面白い道具が見つかるかも知れんぞ」
 壱は知らなかったが、緋狩は立場を逆になったのを機にそんな事を言っていたらしい。三郎四郎は掃除をしているというより、掃除をしつつ緋狩に仕返しするための道具を探しているのだった。
 更に普段は兄弟に悪し様にされている六郎が見当たらない。三郎四郎にちょっかいをかけられず、五郎から引き離されたためか。森と共に、蔵の掃除に奔走していた。
 一番変わったというのなら二葉だろうか。壱は成人男性(天矢)の言葉にいちいち真剣に頷いたり時には真っ赤になったりする(一体何を言われているのだ)妹を見て、次郎や五郎がよくいなくなる(掃除をサボっている)事実もどうでもよくなってきた。レインにストレス発散法を教わったからかもしれない。
「見た目にこだわって、中身(教養)が伴わない女はすぐに飽きられてしまうよ。だから、今の時期はしっかり家の手伝いをして、賢い女性としての準備をし、それから見た目を磨くといい。二葉ちゃんには沢山の時間がある。才色兼備な女性を目指しなさい」
 ‥‥とりあえず子守というより淑女教育を施されている二葉は掃除をちゃんとやっているようだった。

 五日の大掃除期間なんて何て短いのだろう。子供のドタバタに付き合ってると、五日など一瞬に等しい。
 そこへ、サンタクロースが現れた。異国出身のルイだからこその発想で、レインはピンときたものの他の冒険者は子供達と一緒になって驚いている。子供達は順応が早いのか、物をくれる存在には敏感なのか、すぐにルイにまとわりつく。
「一年間良い行いをしてきた子供にはサンタクロースからの贈り物があるんだよ」
 箒や布巾を持った子供達にお菓子をプレゼントする。急に現れた不思議な存在に、すぐに歓声が起こった。
「サンタって本物かっ?」
 レインから色々聞いたらしい五郎が突っ込む。真顔で答えた。
「俺はサンタの代役だから」
「代役‥‥」
 レインが呆れたように呟いたが、気にしない。子供にはご褒美をくれる存在が必要なのだから。
 ついでに子守をやり遂げている冒険者仲間にも配る。緋狩は無邪気に喜び、森は六郎の口に放り込んでやる。傀竜は袋ごと食おうとする奈々からお菓子を取り上げている。ちなみに冷蓮と次郎は今日も不在。
「でも、そうだな‥‥立派に家の手伝いをしていると、来年もサンタクロースの贈り物があるかもしれないな。‥‥今度は本物のサンタクロースかもな」
 ルイの語る話は夢物語、現実離れ。そしてその姿も。けれど子供は夢を食べて成長するものだから、今日この日はサンタクロースでいよう。

●遊んでくれてありがとう
 依頼初日には想像もつかなかったほど、兄弟は子守に懐いた。
 他の兄弟のように周りに迷惑をかけず、一生懸命蔵の掃除を手伝った六郎を、森が豪快に褒めた。
「さすが、六郎はお兄ちゃん、だな!」
 がしがし撫でられ手の下で、え? と丸い目が更に丸くなって森を見つめていた。
「ぷっ、何て顔してんだよ、六郎」
「だって、僕、お兄ちゃんだからって褒められたことなんかないし‥‥ホント!? 僕、偉い!?」
「おお! お前は偉いぜ、胸を張れよ六郎」
 その微笑ましい子守振りの横で、見事二葉を家事手伝いもするレディに変え、あまつさえお茶屋でデートまでしてしまった天矢に二葉は躊躇いがちに声をかけている。
「そのっ、た、天矢さん‥‥」
 ───天矢さん!?
 まるで大人の女性の如き口をきくようになった二葉を、兄弟と冒険者が口を開けて見守る。
「ん? 最後のお願いかな、二葉ちゃん」
 戦闘ばかり繰り返してきたとは思えぬ優しい顔で、二葉を見つめる。
「私、頑張って淑女目指すから‥‥また会いに来てくれる? 私が十五くらいになったら‥‥」
「ふ。その時まで、俺との約束を守っていたら‥‥会いに来るよ」
 ───おいおいおい、天矢っ。
『あー…なんか、俺、いいお父さんになれそう』なんて漏らしていたが、それはきっと多分お父さんじゃない。

 初日に挨拶した殺伐さはどこにもない。うんうんと頷いていたルイは、直後顔から色が抜け落ちた。
「? どうした?」
 緋狩が三郎四郎に両手を取られながら聞いてくる。ルイの顔面は掃除をする前の雑巾のように白い。
「うちのお姫様達の事をすっかり忘れていた‥‥」
 子守じゃなくて、実際の。
 サンタクロースの出番は、まだあった。