男と女の関係、い・ろ・は

■ショートシナリオ&プロモート


担当:べるがー

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月29日〜01月03日

リプレイ公開日:2005年01月06日

●オープニング

 ギルド員は勤務中だというのに締りのない顔をしていた。
「いやぁ、今回ご依頼下さった女性は大層美人なオネエサンでして」
 でへへぇ、なんて擬音も付きそうな面である。
「依頼内容もね、いかにも美人ならでは! のお悩みですよ」

 依頼人は艶やかに着物を着崩した遊女。
 真っ赤な紅を引いた唇の下、黒いほくろが一つぽつんとある。
 その瞳は蟲惑的。
 下心を見抜いた上で誘惑する仕草───。
 この女性に惹かれない男などどこにいるだろう?

 その女性が冒険者ギルドに依頼を持ち込んだ。
 彼女にとって、モンスターより厄介な存在。それが『しつっこい男』。
 女だって伊達に体一つで生きてるわけじゃない。頭で、体で、面倒ごとは避けて通ってきた。
 それでも、中には手ごわい敵もいるものだ。

「何でも、イイとこの坊ちゃんが手下を引き連れて付回すんだそうで。身請けしてやるとか、俺の女になれだとか。まぁ女に慣れてない遊女に初めてハマる坊ちゃんなんざ、そんなものかもしれませんなぁ」
 坊ちゃん自体は小心者の雑魚だ。それでも金を使い、暴力沙汰に慣れた男連中を雇われると、かなり厄介な敵になる。
「仕事になりゃしない、と愚痴られてましてねぇ‥‥最近じゃ仕事に行くことも出来ないほどだそうですよ」
 冒険者ギルドに辿り着くまで、二刻かけてまいてきたらしい。
「金はある、出来るだけ多くの冒険者を、ということです。あ、でも手下の明確な人数が分からないそうなんで‥‥その辺が危険ではあるかもしれませんねぇ」
 敵の人数は不明。報酬は多め。依頼人は美人な遊女。
 ギルド員はちら、と目を向けた。
「どうです、この依頼受けてみませんか?」

●今回の参加者

 ea4383 篠原 桜鬼(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6091 結城 誠一朗(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6463 ラティール・エラティス(28歳・♀・ファイター・ジャイアント・エジプト)
 ea6963 逢須 瑠璃(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8650 本多 風露(32歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 ea9853 元 鈴蘭(22歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9861 山岡 忠臣(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9916 結城 夕貴(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●女と男、女と女、そして女と冒険者
「もうちょっとの辛抱だ。ウザいガキをテキトーにあしらってやっからさ。寂しい奴に追われるってのは‥‥って聞いてるか、白河サンよ?」
 篠原桜鬼(ea4383)がそう言うと、聞こえてないのか聞く気がないのか、白河は無言で冒険者8人を見回した。そして話しかけた桜鬼ではなく、結城夕貴(ea9916)の頬を両手で挟む。
「うふ、可愛い。遊女の格好をすれば、きっとすぐにお手つきされちゃうわね」
 それってどういう意味ですか? 夕貴はたらりと冷や汗を流している。次にラティール・エラティス(ea6463)の耳に触れると、ふっと息を吹き掛けた。
 ───何故に?
 驚いて直立不動になったラティから離れると、今度は逢須瑠璃(ea6963)の手を取った。何故か瑠璃だけ動揺していない。
「貴女、ひょっとしたら同業者かしら?」
「あら、わかる?」
 体が強張るどころか指を絡め返す。ずずず、と本多風露(ea8650)が茶を啜る音がやけに大きく響いた。
 何というか───空気が桃色なのは気のせいだろうか。

 桃色な空気から一変し、結城誠一朗(ea6091)は桜鬼と共に白河を狙う男の屋敷を訪れていた。
 白河から話を聞くに、その男はあるお役人の息子で金を積んで周りを固めているらしい。手下と呼んでいいかは不明だが、あまりにも入れ替わりが激しいので明確な人数もわからない。ならば内部に潜り込むしかないと踏んだのだ。
 屋敷の前で待つこと半刻。扉を開けて数人の男達が出てきた。中心にいるのは一番上質の服を着ているアイツだろう。二人顔を見合わせ、歩み出た。
 相手が気付く前に、ウインドスラッシュを繰り出す。
「なぁ、兄ちゃん。用心棒として雇わねぇか? 腕はこの通り、保障するぜ」
「食を保障して下さったら喜んでお仕えしますよ」
 二人は穏やかに声をかけたが───上質な着物は、容赦なく切り刻まれていた。

「いつの時代も、やな男はいるわね?」
 瑠璃が帯を結んでやっている白河に向かって苦笑した。
「仕方ないわ、あんなでもお客だもの」
「まぁ選べないから、しょうがないわね。ってラティさん、何してるの」
 ギリギリ見えるまで着物をずらされたラティは、羞恥心からずり上げようとしている。
「もう、ラティさんったら。男である夕貴さんがあんなに完璧に着こなしてるのに、女として遊女になりきれなくてどうするの!?」
 一般女性は遊女の真似事をする必要はないのだが、白河達に染められたのか。ラティは妖艶な中に可愛さを醸し出す真実男性の夕貴を見てショックを受けた。
 夕貴は遊女の着物を身に纏い、逃げるでもなく白河の指示通り女座りを学んでいる。正真正銘女であるラティより、現状をよほど受け入れているらしい。
 ───なぜ。なぜ風露さんが付き人で夕貴さんが遊女見習いなんですかっ。なぜっ!
 一人混乱するラティに呑気に茶を啜る風露、異様に仲良くなってしまった妙齢の女性二人。異様な空気の中、夕貴は鏡の前で品を作りつつ呟いた。
「こうやって女装へ目覚めて行くんですね・・・」

「何してるんですか?」
「うひゃおうっ!?」
 背後から首筋に冷たいものを押し当てられ、山岡忠臣(ea9861)が飛び上がった。いくらこの店の小間使いに扮しているからとはいえ、遊女の部屋を必死に覗き込もうとしている姿は紛うことなき不審者だった。うっかり小太刀を突きつけてしまったほどだ。
「お、おお風露‥‥いや何、遊女に扮してる奴らが何を手ほどきされるんだか、すげー興味がある。男としてここは覗くしかねーだろ?」
 詫びずに胸を張った。
「ごろつき共とお坊ちゃんを追い返して、白河に良いとこ見せるぜ! あーゆー別嬪さんに感謝されたり、あまつさえ一目惚れされちまったらどーするよ! 俺!」
 ───それはないと思います、忠臣さん。
 一人で照れて身悶えしている忠臣を生暖かい目で見守り、小太刀をしまう風露だった。

「小物ですね」
 元鈴蘭(ea9853)はたった一言で片付けた。
 白河の護衛でもなく、用心棒として潜入してもいなかった鈴蘭が何をしていたかというと、実は用心棒をかき集めている酒場でターゲットに近づいたのだった。
 相手は明らかに女性に免疫がなく、おまけに手下を従え続ける能力もない。今現在雇っている用心棒は、桜鬼と誠一朗を含め五人だ。もちろん補充するためにこうして酒場にやって来ていたのだが、先手を打って鈴蘭がこれ以上の用心棒を雇わないよう妨害した。ついでに桜鬼と誠一朗の実力に太鼓判を押し、信頼させた。
 故に、現在用心棒は味方含め五人。咄嗟に敵対するのはたった三人だ。

●女と男の関係、ぶった切る
「だっ、騙したな!?」
 夜中に連れ出された用心棒とその雇い主が吠えた。罵りを受けた桜鬼は肩をすくめ、誠一朗はのんびり尋ねた。
「白河さんを諦める気はありませんか?」 
「ああああるわけなかろう! おいお前達、コイツらを叩きのめせ!」
「逃げようとするごろつきも徹底的に叩きのめせば、二度と白河さんに付きまとう事はないのかな‥‥?」
 遊女に完璧に化けていた夕貴が可愛らしい仕草で呟いた。確実に遊女教育は浸透している。
「おおお前ら、金は余分に払うから、こいつらを始末しろっ!」
 三人の男が小太刀やナックルを取り出した。武器を前に、もはや説得は不可能と冒険者の目も変わる。

 まず誠一朗が一人の手首を叩き、武器を落とした。拾わせる余裕なく、そのまま意識を奪う。鮮やかな手並みに雇った筈の男が及び腰になり、逃げないよう忠臣が押さえ付ける。
「夢想流小太刀二刀、本多風露参ります!」
 風露が隠し持っていた小太刀で切りつけ、夕貴が踏み込んでダガーを叩き込んだ。殺す気はないが、戦意を喪失するくらいは痛めつける必要がある。
 倒れ込んだ用心棒の一人が燭台を倒した。慌ててラティが火を鎮火させ、桜鬼が男に殴りかかる。
 室内で武器を奪われ四対八。冒険者側の圧倒的勝利であった。

「‥‥忠告は一度きりでございます」
 室内が真っ暗になった勢いで狂化した鈴蘭が、三人の男を踏みつけ右手をちらつかせた。蛇毒手。その右手には毒を帯びている。
「これ以上無法な行為をするようならばこの場で始末します。この先白河様や私達に付き纏うようであれば容赦なく首を跳ね飛ばしますよ。二度と姿を現さないで下さいね」
 風露がバサバサになった髪のままで小太刀を突きつけて凄んだ。妙な呼吸で喋っているのはアイスブリザードに巻き込まれたせいである。
「俺ぁ権力者は嫌いだが、七光りで威張る奴はもっと嫌いだ。お望みなら思う存分、楽しませてやるぜ? あぁ、誰かはいわねぇ? 俺らは家族も捨てた身。白河サンにまた、手ぇ出したと聞きゃ、お前さんの命を奪いに行く位、造作もねぇんだからな」
 桜鬼も日本刀を坊ちゃんに当て、目をぎらつかせて牽制した。

●女と女の夜明けの関係
「瑠・璃・さん‥‥ふうっ」
「あんっ」
 戦いを終え、緊張感のない声が響いた。見ると白河が瑠璃の首に息を吹きかけている。先ほどの心ときめく声は瑠璃が驚いた声らしい。
「え? 何、私女よ? どうしたの‥‥わかったわ朝まで付き合えば良いのね」
 くすくすイチャイチャするように指を絡め、べったりくっついた二人の間から恐るべき言葉が発せられた。
「暇だしお相手するわよ、どっちが先に倒れるのかしら‥‥」
 忠臣がごくりと唾を飲んだ。
 ───これはまさか、まさかとは思うがひょっとして?
「し、白河、サン?」
「うふっ、じゃあそういうわけだから」
 かけられた声を完全無視し、目を限界まで見開いた男達に向かって、二人の妙齢の女性は手を振った。男達は喉がカラカラに渇いていたので幸いにも声をかける事が出来なかったが、意外にもここで待ったをかけたのはラティであった。
 一斉に注目される中、ラティが真っ赤になったまま二人の元へ近づき、小声で呟いた。
「えっと‥‥その、男女のことについてなのですが‥‥私、こういうことについては全く疎い上に、想い人の方は朴念仁なんです。どうすればそんな男の方を振り向かせることができるのでしょうか?」
 普段は寺子屋や冒険者の仕事で相談する機会がない。遊女のこの女性なら───と思ったのだが。
 ラティは思い切り目測を誤った。
 白河が意味ありげに瑠璃を見、それに納得したように瑠璃が頷き、がっちり両脇から腕を絡ませる。え、とラティの目が見開いた。
「た、確かに私はあの方とねんごろになって‥‥結婚して、子供は3人くらい欲しいなーとか思ってますし‥‥こ、こういうことの知識も必要なんでしょうけど、み‥操は守りたいんです〜〜〜!」
 語尾は半泣きの悲鳴になってたような気もするが、それも彼方へと遠ざかって行った。
「え、えーと‥‥何だ、い、依頼無事解決?」
 桜鬼が尋ね、誠一朗が首を傾げた。
「いいわけがねぇっ! 何のためにこの世に男と女がいるんだ!? 何で女と女が夜明けの関係になる!? えっ、誰か教えてくれ!」
 忠臣が仕事の報酬、いや白河のご褒美がなどと言っているが、残る女性陣は冷めたものだった。
「仕事の終わった後のお茶はとてもおいしいですよ。 どうです、これからご一緒に」
「いいですね。お茶が好きなんですか? 華国のお茶のお話でもしましょうか」
「ぜひお聞きしたいです」
 この二人も和やかに去って行った。背後では夕貴がこの着物貰ってもいいでしょうか、などと呟いている。
 男と女、女と女、恋愛のいろは───実は奥深いのかもしれない。