フラれ男の悪あがき

■ショートシナリオ&プロモート


担当:べるがー

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月07日〜01月12日

リプレイ公開日:2005年01月15日

●オープニング

「いや、まぁ、男なら分からんでもない依頼ですな‥‥ハハハ」
 ギルド員はそう言って笑った。
 今回の依頼はフラれ男の悪あがき。それでも、恋する気持ちは止められない。恋は盲目なのだ。

 依頼人は二十歳になったばかりの青年である。この度、積年の想いを告白すべく幼馴染に体当たりし、見事玉砕した。
『だって、好みじゃないんだもの』
 幼馴染の飾らない言葉に撃沈し、三日ほど灰になっていたのだが、相手は幼馴染。会いたくなくてもご近所だ。
 ある日見かけた幼馴染の畑は一部ぐっちゃぐちゃに荒らされていた。両親はすっかり肩を落とし、幼馴染も肩を震わせて激怒している。
 灰になっていた間は気付かなかったのだが、ここ数日連続して畑を荒らされているとのこと。
 何でも小鬼が食い散らかし、かつ盛大な嫌がらせをしている───ようなのだ。少なからず目撃談もある。

「その依頼人さんって何と言うか‥‥撃沈したのにイイカッコ見せたいようでねぇ」
 苦笑してるが、気持ちはわからんでもない。そんな曖昧な笑い。
「自分一人じゃ無理だが、冒険者の方と協力して小鬼を殲滅したいんだ、って言ってますよ。ふふ‥‥どうです? 聞いてて恥ずかしくなってくるでしょう?」
 それはきっと数年前の自分を見ているかのような‥‥恋に一直線だった頃の自分を思い出すのだ。
 好きな人には良い所を見てもらいたい。そして振り向いてほしい。何としても。
「だからね。受けてやってくれませんか? この方と一緒に‥‥恋の悪あがきを」

●今回の参加者

 ea6072 ライラ・メイト(25歳・♀・ナイト・シフール・イギリス王国)
 ea8685 流道 凛(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8876 宗祇 祈玖(17歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea8878 レイン・フィルファニア(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8903 イワーノ・ホルメル(37歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0028 鬼刃 響(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●恋に溺れる者と冒険者
「初めまして。ナイト、ライラ・メイト(ea6072)と申します。この子は相棒のオーキス。よろしくお願いしますね」
「は?」
 ライラの挨拶に、涼は目を点にした。初めて会ったシフールに宜しくされる謂れはなく、家の扉を開けたまま固まってしまう。その背後から、ひょこりと背の高い男が現れた。
「ああ、あなた方がギルドから派遣された冒険者ですか! どうぞ中へお入り下さい」
 平助である。予想以上に集った冒険者達にニコニコしている。その人間に対する態度と変わらない様子にホッとしたイワーノ・ホルメル(ea8903)も、ライラに続き挨拶を述べた。
「どンも、よろすくだぁ。俺ぁロシアの国から来ちょう、山師のイワーノ・ホルメルっちゅうだよ」
「‥‥誰?」
 涼は平助を睨んでいた。

「だからアンタの事好きじゃないんだってば」
「おっ、お涼〜。それでも好きだあああ!」
 冒険者が同席しているにも関わらず、依頼人の平助と涼は不毛な会話を繰り広げていた。
 どんなに袖にされても退かない平助と、淡々と袖にする涼。小鬼の出没場所や時間帯を聞き出していた筈が、いつの間にやら二人のやり取りが中心になり、もしや冒険者の存在忘れてませんか貴方達? という所までいっている。
「小鬼退治ぁもちろんだども、平助どんの株もちったぁ上げてやれっといいだなぁ」
 可哀相過ぎる片想い青年に、イワーノが呟いた。
「平助さんの気持ちも分からなくはないからね。それに、必死になっている人は応援したくなるものだよ。あはは」
 ケイン・クロード(eb0062)はニコニコ笑って見守っている。
「ワタシの黒の呪法デ、少しでモお役ニ立てルよウ‥‥努力しマス」
 宗祇祈玖(ea8876)もこくりと頷いた。

●片想い青年とつれない幼馴染
「さて俺は見回りにいくかね」
 小鬼が本当に出る事は涼の話からわかった。畑の様子や周辺を下見しておいた方がいいだろう。
 そう言って立ち上がった鬼刃響(eb0028)を見て、流道凛(ea8685)やケインもそれに習う。小鬼退治を有利に進めるために、色々しておきたい事があるのだ。
「平助どんさ怪我せんうちに、さっさと小鬼どもとっちめるだ。んで、お涼ちゃん家さ荒れた畑ぇ、平助どんに復旧させて株を上げさせるだぁよ」
 イワーノがぱしん、と両手を打ち合わせた。冒険者の視線の先には、懸命に口説く平助と涼がいる。

「あ、お涼〜!」
「こんにちは」
 平助がぶんぶんと手を振った。傍で話をしていた藍月花(ea8904)が、本当に華のような微笑を浮かべて会釈する。
「彼女出来たの? おめでとう」
 ぴしりと平助の顔にヒビが入った。月花は傷つくでもない幼馴染の顔を見て、脈のなさを感じる。しかもそのまますたすたと去って行ってしまった。
「どうしたものでしょうか‥‥色恋沙汰には疎いもので」
 その様子を気遣わしげに見ていたライラが馬上から呟くと、
「脈なさそうよね」
 すぱっとレイン・フィルファニア(ea8878)が返した。そのハッキリした物言いに、凛が苦笑する。
「あれ? ケイン、その藁何?」
 レインに尋ねられ、ケインが担いでいた藁の束を見せた。
「襲撃は夜だと思うからね。あはは」
「? 意味、わかった?」
「さあ‥‥?」
 木陰では祈玖が瞑想をしている。平和な昼下がりであった。

「俺も連れて行って下さい」
 平助が土下座していた。冒険者達はそれぞれ顔を見合わせる。
 武器もなければ小鬼と戦ったことなどない依頼人を、果たして戦場に連れて行って良いものか。
「ほら、小鬼って結構怖いですからやめておいたほうがいいと思いますよ」
 諦めさせるため凛が声色を変えて過剰なまでに小鬼の恐ろしさを再現してみせても、頑として首を縦に振らない。涼以外は全てアウトオブ眼中。恋って素晴らしい。
 ライラがじゃあ、と愛馬を呼んだ。バックパックから幾つか武器を取り出し、手渡す。
「お勧めはこの十手ですね〜‥‥力があるのなら、ちゃぶ台でもいいですけど。何でしたら、この小太刀を使ってみますか?」
「若いってのはいーね。でもな、人にゃ出来る事と出来ない事があるって事、忘れるなよ?」
 武器を選ぶ平助に、響が念を押した。

●炎の中で君が好き
「そろそろ来るだぁな」
 物陰に隠れていたイワーノが呟き、毛布に包まり控えていた祈玖も頷いた。背後で息を飲んで待っている平助に、提灯と余分な油と火打ち石を渡す。
「暗くちゃ俺らぁも戦えね。小鬼どもさ来てから点けてくんろ」

 響は闇の中、浪人衣装を脱いで本来の自分へと戻っていた。装束と鬼面の面当てをつけ、誰に言うでもなく囁く。
「妖を‥‥滅ぼす」
 それが鬼刃の忍。

 室内で耳を澄ませていたレインが顔を上げた。───小鬼が、来る。

 飛んで巡回していたライラが、勢いよく飛んで来るのが見えた。小鬼を待つ冒険者達に、警告するために。
「来ます!」
 ライラの警告を受け、ケインがすぐさま駆け出した。やはり情報通り夜中にやってきたか。下準備しておいた事は成功だった。 

 小鬼数匹が歩いて来る音が近づく。最近よく荒らしているという涼の家の畑へと。
 その数m手前に踏み込んだ途端、まるで小鬼を照らし出すかのように真っ赤な炎が立ち上がった。ケインが油のかかっている藁に火を点けたのである。
 闇に浮かび上がった小鬼は全部で四匹。先手必勝、レインが呪文を完成させアイスブリザードを放った。
 五mと離れていない小鬼を人為的に生み出した吹雪で凍えさせる。
 吹雪に煽られ、斧を振り回し、あるいは取り落とす。完璧に不意を付くことが出来たのだ。
 のた打ち回る小鬼の前へ、響とケインが飛び出した。響が一匹を忍者刀で斬りつけ、そのまま蹴り飛ばす。
 ケインは別の一匹に斬りつけた。
「ブラインドアタック‥‥見切れるかな?」
 イワーノが鉄鞭を振るい、小鬼を容赦なく打った。
 その間に祈玖の呪文が完成し、ブラックホーリーを放つ。
「堕ちなさイ、無間地獄へ‥‥阿鼻・叫喚(アヴィーチ・ラウラーヴァ)‥‥! 術式開放‥‥踊りなさイ‥‥フフ‥‥アハハハ‥‥!!」
 斬り付けられ流れた小鬼の血を見たためか、狂化も起こしている。
「凄い‥‥!」
 自分の運動神経を遙かに凌駕した早い太刀筋、無駄のない動き、自然をも従える魔法。ぐらりと起き上がった小鬼達から呆気にとられている平助を守るため、月花がすうと平助の前に立ちはだかった。
 闇の中、そこだけは炎に照らされ明らかだった。まるで舞台上で繰り広げられている演技のよう。
 ケインが小鬼を切り伏せ、イワーノの鉄鞭が振るわれる。祈玖のブラックホーリーも綺麗に決まり、再びレインのアイスブリザードが襲った。
 凛がふらふらと小鬼に近づいて行く。警戒のない動きに、一匹の小鬼が斧を振り上げた。すっと避けると、日本刀がするりと動き、日本刀が叩き込まれた。
 直後、凛の髪をかすめるようにオーラショットが炸裂した。振り返って確認すると、ライラが手を振っている。その傍らには涼の姿がある。
 それを目の端で確認すると、小鬼の反撃を素早い身のこなしでかわした響が、刀で小鬼の意識を奪った。そのまま平助に視線を移す。
「好機は最大限に活かせ‥‥」
 平助は、無我夢中で炎の中心に飛び込んだ。

「平助さん、やったわね」
 反撃に出た他の小鬼から守るべく月花が間に入った。
「‥‥ゴブ‥リ‥‥ン? ‥‥堕ちろ!」
「避けろ!」
 何らかの理由で狂化してしまったと思われるレインが呪文を唱えたのを耳にし、響が叫んだ。
 ケインが手助けしながら炎の中心部から平助を引っ張り出す。
 ゴウ、と風が唸る音がして吹雪が全ての小鬼を飲み込んだ。狂化してコントロールが変わったのか、周囲の炎も一部消えた。
 炎の灯りに照らされた赤い顔で、平助が何を思ったか叫んだ。
「うおおお好きだーッ! お涼!!」
「‥‥」
 少し離れて見守っている涼がいた事を、平助はまだ知らない。
「南無‥‥ソノ魂ガ、輪廻を経て浄化されんコトを‥‥」
 祈玖の小鬼のために呟いた。

●フラれても好きなんだ
「フラれた相手の為にギルドに依頼する人って中々いないわ」
 同性の第三者的視点でフォローを入れるのは、月花だ。涼は無言で掘り起こされた畑の修復をしている。
「誰かの為に必死になれる‥‥ちょっと羨ましいかな、あはは」
 二人の背後を通りすがり際、藁の後片付けをしているケインが呟いた。涼の手がぴたりと止まる。
「うおおお、あともう少し!!」
 畑に高速で鍬を入れているのは、炎の中恥ずかしげもなく吠えた平助だ。
 畑の修復を手伝っている何人かがくすりと笑った。こちらが照れてしまうほどの真っすぐな想いは、少し羨ましくもある。
 ちなみにレインは、
「ま、がんばってコトで」
 とアッサリ先に帰ってしまった。
 響も平助に姿の変わりように質問され、
「誰でも触れて欲しくない事ってあるだろ?」
 と言い残し、去って行った。

 涼が青々とした空を見上げると、昨夜の炎の中の告白が夢のように思えてくる。
 それでも、同じ畑で一心不乱に鍬を使う叫びは聞こえてくるわけで。
「自分の為に一生懸命になってくれる人がいるって事、けっこー幸せな事だぜ?」
 謎の浪人(?)響の去り際の台詞も心に残っている。
「男性としてかなり良い人だと思うんだけど」
 畑仕事をしながらの月花の言葉にも───今なら何だか頷いてしまいそうな自分がいた。