めぐり会い、犬鬼

■ショートシナリオ&プロモート


担当:べるがー

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月16日〜01月21日

リプレイ公開日:2005年01月24日

●オープニング

 呪われてると言ってもいい。むしろ前世が犬鬼だったんじゃないかと疑うくらいだ。

「犬鬼退治、ですね。数も少ないので、そう大変なことではないでしょう」
 ギルド員は笑って告げた。
「依頼人の名前はもうすぐ結婚予定の直次さん、退治して欲しい犬鬼の数は三匹。場所はさほど離れていない農村。既に幾つかの農家も畑を荒らされたようですが、依頼人のお家は無事だそうです」
 そう言って、ふと首を傾げる。
「ああ、でも‥‥この依頼人さん、不可思議なこと言ってらっしゃいましてね」
 こき、こき、こき。
 首を傾げるついでで、肩の凝りをほぐす仕草をする。
「何だっけかな───ああ、『自分は犬鬼に呪われているんだ』とか何とか」
 気が済んだのか、ふうーっと息を吐いた。
「何でも異様に犬鬼との遭遇率が高いらしいですよ。詳しくは聞いてませんが───『必ず人生の転機に犬鬼に遭遇する』って」
 あはははは、何のことでしょうねぇ〜。
 ギルド員は笑った。呪いだの犬鬼との高遭遇率だの信じちゃいないんだろう。
「で? どうします? この依頼、受けますか?」
 この依頼、犬鬼三匹のくせにちょいと報酬高めでいい話だと思うんですよねぇ〜。

 ───さて、あなたはこの依頼、受ける?

●今回の参加者

 ea8428 雪守 明(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8502 大空 北斗(26歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9853 元 鈴蘭(22歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9861 山岡 忠臣(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb0188 ゲオルグ・バンガード(15歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0479 露草 楓(20歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●犬鬼退治、終了?
「邪悪な者どもよ、天の裁きを受けなさい!」
 柳花蓮(eb0084)の声が戦場に響き渡り、仲間に向かって剣を振り上げていた犬鬼がブラックホーリーをまともに食らった。
 その隙を逃さず、露草楓(eb0479)が日本刀を叩き込む。一匹を倒した雪守明(ea8428)が助走をつけて飛び込み、鋭く斬り付けた。幾度となく刃を受けた犬鬼がついに剣を取り落とし、残る一匹も大空北斗(ea8502)による背後からの攻撃で、緩やかに前にのめり込んだ。

「もう大丈夫ですよ」
 元鈴蘭(ea9853)が先ほど繰り出した蛇毒手の疲れを取るように、手首を回しながらニッコリ笑った。依頼人の直治がその笑顔に、何故か気の晴れない様子で、ハァと頷く。
 その様子に首を傾げつつ、ゲオルグ・バンガード(eb0188)が直治に質問した。さすがに昼日中、依頼人の前で狂化するのは気が引けるので、あくまで犬鬼の出血を見ないようにして。
「必ず人生の転機に犬鬼に遭遇する───って何か条件でもあるんですか?」
「良かったら、これまでの経験も聞かせてくれないかな。何か参考になるかもしれないしね」
 カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)も興味深げに口を挟んだ。
 依頼通り、無事三匹の犬鬼を倒したというのに浮かない顔をしていた直治は、何から話せばいいのか、とこめかみに指を押し付けた。
「よく、分からないんです‥‥今回は結婚ですけど、母親が死んだ時とか、父親が職を変えて貧乏になった時とか、働きに出るようになった時とか。わけが分かりませんが、とにかく犬鬼が回りにうろつくんです」
 それはもう呪われてるとしか思えないほど。
 憂鬱そうな直治に、それは災難だ、とどの冒険者が顔を見合わせたが───非常に楽しそうな者が二人。
「人生の転機に犬鬼に遭遇する‥‥楽しそうな、話ですね‥‥」
 何故か瞳が爛々としているような気がしないでもない花蓮が、無表情に呟いた。
「花嫁さんが俺の格好いい活躍を見て、惚れっちまったら大変だなぁおい。そういや冒険者にも美人が多いぞ‥‥モテモテだな俺!」
 何故か頬を染めた山岡忠臣(ea9861)は手近なカヤをばしばし叩きながら照れている。もちろん、その言動に根拠はない。
 その冒険者の様子を見た直治が、酢を飲んだような顔をしていたのは‥‥言うまでもない。

●犬鬼退治、その2?
「ま、用心に越した事はないだろう」
 そう言ったのは、明だ。
 犬鬼の高遭遇率を呪いと一概には言えず、さりとて高遭遇率を否定するわけにもいかず、用心のため問題の三匹を片付けた後も直治の家に冒険者は留まった。出没時間は夜の方が多いとの事で、自然、見回りも夜が多くなる。
 昼は鈴蘭、花蓮、ゲオルグが出来るだけ直治と共に行動し、夜は明、忠臣、楓、カヤ、北斗が見回りをする。
 そして二日目の今夜も自前の提灯を手に明が先頭に立って歩き出し、楓は松明を持って先頭に立った。直治の家の右側、左側に別れて見回るのである。
「キミ、何やったの?」
 呆れたようにゲオルグが問いかけ、楓がキョトンと忠臣を見上げた。赤く腫れ上がった頬が何を意味するのか、ちょっと想像がつかないのだ。忠臣は悪びれる風もなく真顔で答えた。
「そこに美人の尻があるからだ」
 鈴蘭は今頃激怒している事だろう。

 もう一方、明達は直治の高遭遇率を信じる目に遭っていた。
 この場に優良視力を持つ者がいればまた変わった展開になっていたのかもしれないが、生憎この場にはいなかった。
「いない、ですね」
 北斗の台詞に、何気に相槌を打とうとした明は提灯を危うく落としそうになってしまった。
 眼前にいるのは、四匹の犬鬼。昨日三匹、今日四匹。直治の呪いを彷彿とさせる展開に呆れてしまい、北斗に黙って目で合図する。
 北斗は小さくあ、と呟いただけであった。しかしこちらの気配を察したのか、畑の傍でうろうろしていた犬鬼達が、一目散に明後日の方向へ逃げ出した。
 一瞬追い駆けようか迷った二人だが、こちらは二人である。無闇やたらと追わず、計画を立てて確実に追い詰める事にしてとりあえず見送る事にした。呪いの如き高遭遇率が本当なら───また、奴らは来る筈だ。

●犬鬼退治、その3‥‥
 四日目の夜。昼と夜とに別れていた冒険者達は全員外に出払い、犬鬼達がやって来るのを待ち構えていた。幸い八人いる事で、戦力の分散も問題はない。
 そんな中、一番始めに気付いたのは楓であった。松明を傍の木の枝に挟み、日本刀を構える。他の場所に散っている者にも聞こえるよう、腹に力を込め、声を上げた。
「雪守様!」
 すぐに数人が気付き、武器を手に小走りに駆けて来る。
 犬鬼だ。やはり四匹。冒険者達の気配に気付いたのか、やはり逃げようとし‥‥穴に、落ちた。
「用意周到にこしたことなし」
 楓が会心の笑いで呟き、穴掘りに加担したカヤ、花蓮も笑いを見せた。
 原始的な方法ではあろうが、落とし穴に見事引っかかったのが二匹。まずは残る二匹が相手、という事だ。解毒剤を奪っているとはいえ、毒にやられるリスクは出来るだけ回避した方がいい。
「ひゅぉぉぉぉーー‥‥ぢぇーーいっ!」
 明が突っ込み、勢いをつけたまま一匹の犬鬼に斬りかかった。北斗がもう一匹に詰め寄り、日本刀を振り下ろす。その直後、忠臣の声が上がった。
「危ねぇ!」
 北斗と明の真横を花蓮のブラックホーリーが掠った。代わって、カヤのグラビティーキャノンがせっかく落とし穴から這い出そうとしていた犬鬼を巻き込み、突き飛ばす。
 ぐらりとよろめきながら立ち上がり、北斗、明に剣を振り上げるも、あっさりかわされ剣の重みにつられるようにのめった。その様子を見た明と北斗が笑みを交わし、日本刀を振り下ろす。鈍い音が響いた。
「続きます!」
 鈴蘭が駆け出し、蛇毒手を繰り出した。犬鬼を殴りつけ、その毒で以て動きを封じた。
「お二人の門出を、血で汚すわけには参りません!」

 直治の家にも、武器のぶつかり合いの音が聞こえていた。何かが木にぶつかる音。誰かの叫び声。肉を切る音‥‥。
 不安そうな直治に向かい、ゲオルグはゆっくりと肩を押し戻した。
「僕達に任せて下さい。大丈夫ですよ」
 穏やかに告げられ、直治はこれまでの犬鬼達との遭遇と、これからの遭遇を思った。
 犬鬼に他人より高確率で出会う自分と、明日には一緒になってくれる女性の事を。
「あまり悪い方ばかりに考えていても得な事はありませんよ。悪い事があったのだから、次は必ず良い事があると考えた方が気も楽でしょうし、何かある度に身構える事も無いでしょう?」
 北斗の台詞も、ふと心によぎった。

●素敵な幕開け
 そして、結婚式当日。
 犬鬼の存在に戦々恐々していた直治が、でれえっと新婦を見つめている。今日この日、こんな顔が出来たのも当日までしっかり見守ってくれている冒険者達のおかげだろう。今日ばかりは、手放しで喜びたかった筈なのだから。
「願わくば、あの方ともこの花道を共に歩きたいものです‥‥」
 思い出すのは愛しい恋人か。幸せそうな二人を見て、鈴蘭がうっとりと囁いた。その隣で忠臣がぼやく。
「で、結局何だったのかね。まさか昔犬鬼に優しくしてやったから恩返しに来た、ってオチじゃねぇだろうな?」
 結局直治の犬鬼遭遇率の高さは謎のまま。
「今度は餓鬼が産まれるときか? 難儀な話だ」
 明も肩をすくめた。原因がわからなかったのだから、そういう事にもなりかねないだろう。
「大丈夫、これまでだって何とかしてこれた君だから、きっと人より幸せになれるよ」
 二人の会話を聞いていたカヤが穏やかに微笑み、楓も生真面目に頷く。
「今後のためには、あなたたちが頑張らないといけないですね」
 直治は笑顔で答え、北斗の心からのお祝いにまた照れた。
 その瞬間を狙ったかのように、笛の音色が響く。ゲオルグの楽しげな音楽に、お祝いに集まった人々が手を叩く。
 皆笑顔であった。依頼人も、参列者も、冒険者も。
「楽しかったわ‥‥」
 花蓮のこの台詞は‥‥犬鬼との戦闘を思い出しての台詞、であったが。