茶屋の自慢看板娘

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月31日〜02月05日

リプレイ公開日:2005年02月08日

●オープニング

 見栄って誰にでもあるでしょう? そう、誰にでも、きっと───。

「美しい人、可愛い人を募集してるそうですよ、この依頼」
 何か真新しい依頼はないか、と足を運んだ冒険者たちの前に、依頼書をひらひらさせてギルド員がニッコリ笑った。
 ───美人募集、とは?
 怪訝な顔をする冒険者に詳細を説明するギルド員。‥‥心なしか嬉しげ。
「依頼人さんは江戸にある、とあるお茶屋さんの旦那。ちょっとした見栄で、ある人物に『うちの茶屋には美人看板娘がいる!』と嘘ついちゃったんだそうです。何でも昔から意地を張り合ってる幼馴染の方らしくて」
 見栄で嘘。よくある話だ。
「その幼馴染さんが江戸にやって来ることになってですね、その江戸滞在の間看板娘を演じてくれってことでした。で、ね」
 にぃぃっこり。
 正体不明の不気味な笑顔でギルド員は言った。
「この美人看板娘、例え男でも『美人看板娘』に見えるなら、OK、との事ですよ」
 ───つまりそれって女装してでも美しくなれ、という事でしょうか。

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0214 ミフティア・カレンズ(26歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea1011 アゲハ・キサラギ(28歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2700 里見 夏沙(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6963 逢須 瑠璃(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8470 久凪 薙耶(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●集いし看板娘たち
「ほほう、愛らしい看板娘たちがたくさんだな♪」
 天螺月律吏(ea0085)が満足げに頷く。
 褒められたミフティア・カレンズ(ea0214)とアゲハ・キサラギ(ea1011)は共に踊り子らしく、身軽にターンしてみせた。
 店の半被と桜色の襷、動くたび手首の鈴がちりりと鳴るミフティア。大きめの帯で舞うその名の通り蝶のようなアゲハ。きっと人目を引く看板娘になるだろう。
 柳花蓮(eb0084)と久凪薙耶(ea8470)は無表情で黙り込んでいるが、容姿は間違いなく可愛い。 が、背後で。彼女たちと一緒くたに褒められてしまった里見夏沙(ea2700)は複雑な顔をしてぼやく。
「看板娘‥‥」
 自分の未来を憂い、一瞬遠い目になってしまった。里見夏沙、18才。現在進行形で間違いなく男である。
「‥‥とりあえず、男性陣には負けないもん、うん」
 アゲハはミフティアに手を振られてるのも気付かず、気合を入れた。

「狭いな」
 白翼寺涼哉(ea9502)が看板娘の遙か頭上で呟いた。男である自分や夏沙、律吏も結構背があることだし、依頼を受けた人数は8人と聞いている。
「ならば私は店の外で呼び込みでもすることにしよう。まずは最初が肝心、と言うだろう」
 律吏がすぐに応じ、ミフティアがはいはいっ! と元気に手を挙げた。
「お団子とか、お店の前で試食ってどうかな〜?」
 店内の混雑が解消し、かつ呼び込みにも人数が回せるというナイスアイデア。その機転のきいた台詞に茶屋の旦那は嬉しそうである。そこへ。
「う〜私、早起き苦手なのよね〜。昨日は、遅くまで相手していたし‥‥」
 問題発言と共に8人目の看板娘が登場した。逢須瑠璃(ea6963)、昨夜の雰囲気を引っさげたままなので妙に色っぽい。
 依頼人はようやく幾つかの問題点に気がついた。集った冒険者は全員顔はいい。むしろ平均点以上だ。だが。
 傍らに立つガタイのでかい涼哉を見つめ、首を傾げる。───この人は、どうやって看板娘を演じるのだろう‥‥?
 それまで無表情で立っていた花蓮がふっと口元で笑った。
「‥‥楽しそう」
 彼女は今回の依頼で大いに楽しめることを期待している。

●ここの看板娘です
「まっかせて♪ お店番なら前にもやったことあるんだぁ〜」
 と明るく宣言したミフティアは手際よく客を招いている。ただ型通りの挨拶でなしに、
「疲れたら ちょっと一息いかがですかぁ? さっぱりお茶で きぶんそうかい 美味しいお団子で 元気回復♪ そうでなくても 私の元気を分けちゃうっ」
 キュートな歌に乗せてそんな愛らしい笑顔を向けられたら、抵抗なんて出来ようか?
「とっても美味しいから一口どうぞ〜」
 言われるがまま試食の団子を手に取り、心臓を鷲掴みにされたままぽーっとしていると、すすすと背後から近寄ってくる謎の女性。もちろん同じ冒険者の律吏である。
「彼女、可愛いだろう」
 こくこく頷くとにっこり微笑まれ、店内に引きずり込まれるのである。

 中に入ると、鉄壁の無表情を誇る薙耶がさすが生業としているだけあって待たす事無く出迎える。疲れ気味のお客さんに温かなお茶を差し出し、注文を聞く。
 その姿は鋼鉄とも言えるが、ふとした拍子に手が触れると‥‥。
「あ‥‥失礼致しました」
 感情のなかった顔に薄っすらと朱がさし、恥ずかしげに手をそっと引く。垣間見ることが出来た客はその一瞬のはにかみに、一発で落ちるのだ。
 その年頃の娘らしい恥じらいの背後で、また趣の異なった女性、瑠璃がお客さんの呼び声に応じている。
「あら? いらっしゃいませ、ゆっくりしていってくださいね?」
 襷をかけ、てきぱきと手際よく片付ける様はまるで人妻の様であるが、口にする言葉は尋常じゃなかったりする。
「あらご冗談を‥‥今は駄目よ。そうね〜夜になったら、たっぷりとお相手してあげるわ」
 茶屋の看板娘にあるまじき台詞であったが、大人の男性がこれに落ちない筈はない。
 もちろん、今回依頼を受けた看板娘、もとい冒険者は一味違う。ミフティアとはまた違った元気よさ、可愛さを武器にお客の心を掴んでいる者もいる。
「いらっしゃいませっ」
 満面の笑みで『貴方が来てくれて嬉しい』オーラを出しながら中年男性を案内するアゲハ。普段妻からも娘からもこんな嬉しげに出迎えられていない男性陣にはめちゃめちゃきく。
 慣れない仕事で元気さが空回りしてお客さんに熱い茶をぶっかけたとしても、ちゃんと心得ている。相手が怒鳴る前に、先手必勝。
「す、すみません‥‥」
 瞳をうるうるさせて、上目遣いに謝る。う、と客の文句が引っ込んだところで、きゅ、と客の着物の袖を掴む。もちろん上目遣いのまま。
「お団子‥‥食べてくれるよね?」
 キラキラキラと擬音が付きそうな純粋(そうに見える)瞳におじさん達は引くに引けなくなる。結局茶をぶっ掛けられた挙句なぜか食べる予定のなかった団子まで食っているのである。
 黙って見守っていた夏沙が呆れたように呟く。
「‥‥何か違う店に来たみたいに見えねぇか?」
 薙耶の珍しいはにかみ顔を見るために何度も注文をしている男たちや、瑠璃に夜の予定を聞いている男たち、アゲハにいいように踊られている中年男性たち。どう見たって茶屋の光景ではない。
 夏沙の言葉が聞こえたのか、アゲハがすれ違いざま子悪魔の笑みで呟いた。曰く、『ボクの最大の武器は笑顔だからね♪』。
 まぁ、一番『違う店』に見える原因は‥‥彼なのかもしれないが。
「しっかり稼ぎな、おなごども!」
 遊女屋の女主人のように声を張り上げるのは、女性にしてはいささか身長のある巫女装束の看板娘───熟女ぶりを発揮している涼哉である。
 ミフティアやアゲハ、薙耶や花蓮の年齢層が十代であるためにあくまで色からは離れた初々しさで人気を得ているが、緋色の行灯袴から見え隠れする足は瑠璃同様男を挑発するものだった。しかも若い男性ほど哀れなくらい騙されている。
 ───アレが男だって知ったらこの茶屋の親父、殺されんじゃねぇか?
 夏沙は自分の事より涼哉の事が気になっていた。と、夏沙のお尻部分に気色の悪い感触が───。
 ぎぎぎと首を笑顔のまま向ける。いやらしそうな笑顔を浮かべた若い男であった。
「‥‥お客さん、ここはそーいうお店じゃないですよ」
 微妙なアクセントがついてしまったが、精一杯看板娘らしく微笑んだ。言葉も我慢した。だが。
 なでなでなで。なでっ。
「いい加減にしろっつってんだろ!」
 ドガッ! バキッ! ずしゃあっ。
 しぃん、と店内が静まった。同じ冒険者、もとい看板娘たちもぽかんと夏沙を見つめている。
 なぜに茶屋の看板娘で暴力が? しかもキレイに決まったあの拳とお盆は何? アレは武器?
 ハッと夏沙が息を飲んだ音が響いた。茶屋の旦那がガランと団子の乗ったお盆を落としていた。律吏も出入口から顔を覗かせている。
 ゆるゆると両手を頬に添えた。瞳に星を入れる。さあ言え、夏沙。これも仕事だ。
「あらやだ、私ったら」
 その可愛らしい仕草にまた茶屋に常連客が増えたという‥‥。

「子供が入らない茶屋なんて嫌なんですが‥‥」
 店を閉めた後、茶屋の旦那が言いにくそうに言った。襷を外していた冒険者たちは一様に黙る。
 確かに自分たちが来てからというもの客は増えた。お客さんから『可愛いっ‥‥! こっち向いてくれ、ハニー!』とか、『美しい! 今夜君と我愛迩』だとか声は引っ切り無しに上がっている。しかしそれは美貌に(幾人かは騙されている)フラフラと呼び込まれた大人たち、ミフティアの笑顔に癒される者達が多く、子供は一人もいない。
 それというのも店内の怪し過ぎる雰囲気のせいなのだが、ここらで一つ、お団子の好きな子供にも集まってもらいたい。『大人の店』だとか噂が立ち、幼馴染にバレる前に。
「‥‥‥‥」
 冒険者たちが考え込む中、あまり仕事をこなさなかった花蓮がくすりと微笑んだ。

「ありゃ何だ?」
 今日も一日『こんな美人はなかなかいないと思わないか?』などと看板娘たちをアピールすべく呼び込みをしようとしていた律吏が、店の前にでんと立っているそれを見て呟く。
 ちなみに男性客ばかりがゲットされていく中で、女性が少なからず店内に入っているのは彼女一人のおかげである。
 普段は男の格好をし男口調で話している分、いくらスラリとした格好の良いお姉さん風の衣装に身を包んでいたとしても、女性はその身のこなしとふと漏れる言葉に男を感じさせられてしまう。
 可愛い妹がいるため、可愛らしい人物を見ると抱きしめてしまう律吏。それは客にもいえる事で、クールに『愛らしいとは素晴らしい。存在だけで癒される』などと耳元で囁かれては落ちない女性はいない。
 そのクールな彼女が店の前の人物にポカンとしていた。
 子供が不思議そうにすすすと近寄っている。先ほどから微動だにしない人形‥‥いや花蓮。
 そう、店の前に看板持って佇んでいるのは花蓮であった。ちなみに彼女は看板娘とは何かイマイチ把握しておらず、看板を持っているのがその証拠である。
「何だろぉ、これー」
 母親の手を離れた数人の子供が、きゃあきゃあと花蓮の回りを取り巻いた。すると。
「いらっしゃいませ‥‥」
「うわー!!」
「きゃー!!」
 音を立てず微笑みを浮かべた花蓮がいきなり口をきき、人形だと思い込んでいた子供達は一斉に飛び退った。
 ‥‥距離は遠いが、見て取れた。
 花蓮は子供達が驚く様子を見て思いきり愉しんでいる。

●茶屋の看板娘‥‥?
「‥‥‥‥」
 幼馴染の店を訪ねた男はお下げのそばかすだらけのちんまりした看板娘の想像を力いっぱい破壊され、思わずどさりと手荷物を落としていた。
「褌包帯でシメるわよ?」
 見え隠れする足を撫でさすった男を蹴飛ばし、涼哉が煙管をふかす。
 その手前の席では客にがっしと手を掴まれ、困ったように俯く薙耶。
 その傍らではキレた夏沙が盆を巧みに操り忍び寄る男の手を叩き。
 瑠璃は男たちに(何故か女性も手を挙げているのが気になるが)夜の予定を聞かれている。
 ぼーっとしてると手に団子を持たされた。
「お土産にお一つ買ってって♪」
 ニッコリ笑うミフティア。癒し効果抜群。
 ───嘘だ。アイツがあんな茶屋如きでこんな人材豊かな看板娘を揃えるだなんてっ。
 男は黙って踵を返した。‥‥もう、江戸には用はない。
「また来てくださいね〜?」
 とアゲハが可愛らしく手を振り、そのまた後ろで花蓮が楽しそうにくすくすと笑っていた。

 団子も食わず出て行く男を見送り、律吏がぽんと手を叩いた。
「ああ。あれが見栄張ったお相手かな」
 看板娘になりきった他の冒険者たちは気がつかなかった様だが───無事、依頼人の見栄を守れたようである。