茸は非常識の味がする

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月04日〜02月09日

リプレイ公開日:2005年02月12日

●オープニング

「大紅天狗茸ってどんな味なんですの?」
 大切に、大切に箱に入れて育てて来た娘がイキナリこんな事を言い出した時、両親は誰がこんないらない知識を───と、使用人の胸倉掴んでがっくがっくと揺さぶったという。

「えー、依頼人は超激お嬢様の静様‥‥のご両親ですねお金払うのは。理由はさっき言った通り『大紅天狗茸が食べたいですわ』で、一緒に茸狩りと調理をやってくれる冒険者の方を探してます」
 特に危険というほど危険ではなく、報酬も通常通り支払われる。とっても楽な仕事‥‥に思えるのだが。
「問題は、このお嬢様のお相手をする事にあるかもしれませんね。何しろこのお嬢様、包丁を見た事もなければ自由に外出した事もないそうですから、きっと常識通じませんよ」
 きっと子供の作り方も知りませんよ、あははははは───と危うく口にしかけて、ギルド員は慌てて口を塞いだ。
「っととと、まぁそういう依頼ですね。お嬢様のお相手と茸狩りと調理。楽なようで楽じゃないかもしれない依頼───受けてみませんか?」

●今回の参加者

 ea0685 林 麗鈴(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8878 レイン・フィルファニア(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9616 ジェイド・グリーン(32歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9805 狩野 琥珀(43歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0059 和泉 琴音(33歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0806 伊崎 雄乃介(24歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0971 花東沖 竜良(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●静お嬢様と冒険者
 ジェイド・グリーン(ea9616)はひたすら静の顔を気にしていた。手はお上品に、口元。そして目は見開かれたまま。その様子を一言で表すなら『まあ』だろうか。
「ちゃんと飯食ってっかジェーイド! それにしても久々だ、でっかくなったな」
 ぞりぞりぞり。
 狩野琥珀(ea9805)の身の毛もよだつ髭感触がたまらない。せっかくがっしと静の手を握り、『俺、まだこの国に慣れていないからさ、お嬢様と一緒に色々勉強しようと思ってるよ。手を取り合って‥‥腰でも良いけど、楽しく茸狩りしようぜ!』なーんて口説いていた真っ最中に琥珀の髭攻撃。誤解されてるような顔が気がかりでならない。
 それに背を向けるように、和泉琴音(eb0059)と林麗鈴(ea0685)の二人が静に挨拶をする。
「初めまして、私は和泉琴音と申します。本日は静様とご一緒に茸狩りやお料理をしたいと思って参りました。どこに大紅天狗茸があるか存じませんし、お料理の方もおぼつきませんが宜しくお願いします」
「ハオ♪ 私、林麗鈴ね。よろしくですね。私、ジャパン語やジャパンの知識まだまだですけど、頑張りますですね♪」
 琥珀はようやく気が済んだのか、今度は伊崎雄乃介(eb0806)と花東沖竜良(eb0971)と握手をし、かつ熱い抱擁を交わしていた。それを避けるように、レイン・フィルファニア(ea8878)が静を促す。
「そーいえば、お嬢様‥‥、静様? ま、どっちでもいいわよね、減るモノじゃないし。あなた、コレ何か分かる?」
 手には保存食。もちろん静は首を傾げた。この調子では食べ物である事すら気付いてなさそうだ。余分に保存食を用意しておいたレインは賢明だったわねと自分を褒めた。
 ジェイドはナンパし、琥珀は熱い抱擁を続ける。不安満載の台詞を言う琴音に麗鈴。静の両親が無言でケイン・クロード(eb0062)の胸倉を引っ掴んだ。
「だいじょーぶですよぉぉ、あはは〜」
 何が。どこが。
 そう言いたくなるほど満面の笑みで笑っているケイン。茸狩り楽しみだね〜と言いつつ刀を握っているのも不安を煽るのだった。

「はぐれるとダメですから、静さん私の左手をぎゅっと握って離れないでくださいです♪」
 悲鳴を上げる大紅天狗茸から守るためもある。手を繋ぐ麗鈴と静を微笑ましげに見つめていた琴音たち。しかしこのお嬢様の口から出る言葉は全然微笑ましくはなかった。
「それで、子作りってどうやるものなんですの?」
 爆弾投下。冒険者の間に沈黙が下りる。
「まぁ、皆さんもだんまりなんですの? 茸狩りは良くて子作りは駄目ってもががっ」
 レインが強引に口を閉じさせた。知識がないとはいえ、子作り子作りと連発されては堪らない。同行者は女性だけじゃないのだ。
「まったく、子供じゃないんだからさぁ‥‥」
 雄乃介も呆れている。山に登る時に前からさんざんはしゃいで早速疲れた静お嬢様である。まさしく子供並であった。
「子作りなら俺が実地で教えてや」
 ジェイドは台詞を全部言う事が出来なかった。雄乃介に取り押さえられ、笑顔のケインに口を塞がれる。レインは眼力でアイスブリザードを起こしていた。
「人は失敗して学んでいくのですから」
 達観しているかのような琴音の呟きが辺りに響くのだった。

「こういうところに茸生えてるんじゃ‥‥ぎゃぁ!? 虫の屍骸ぃぃ!?」
 ざかざか山中を探索している状態で、雄乃介の悲痛な叫びが上がる。虫も見た事がないのかわざわざ見に行く静。手を繋いでいる麗鈴も諸共見に行く破目になる。直後には二人揃って『見なければ良かった』という顔になっていた。
「あれ。目印なくなってるね」
 あはは、と何でもない事のようにケインが地面を見て笑った。
 目的の茸を以前食べたことのある琥珀が一人先に先導して進んでいるのだが、その目印が途中で消えている。あれ? と冒険者が首を傾げた後に、どどどどどと琥珀が駆け戻ってきた。どうやら優良聴覚で聞き取ったらしい。
「しまった! 目印は軽くて丈夫が一番と判断したが、煎餅の欠片じゃ野生動物に食われるのか‥‥野生の嗅覚って凄い」
 しかも感動している。ここは感動するべきなのかしらと素直に反応している静の肩を抱き。
「良いか静、おじちゃんの課外授業だ。茸の事は茸に聞け、そして呼べ。茸に会いたい想いを叫んでご覧、さあ!」
 えっ、叫ぶの? と何人かが疑問符を浮かべたが、偶然か? 丁度琥珀が指を指した方向に目的のものが生えていた。‥‥ありえない。
 普通の茸の何十倍もある大きさの茸が、極彩色ででんと生えていた。何だか随分とマズそうな茸ではある。
「まぁ、あれがそうなんですの?」
「お、美味しそう‥‥なんでしょうか」
 静がキラキラと瞳を輝かせる。あれすらも美味しそうに見えているようだから、きっと毒茸の存在も知らないに違いない。竜良はあれを食べるのかと不安になった。
 呆れる冒険者をよそに、静(と、麗鈴)が踏み込む。途端、地面に張り巡らせた菌糸を踏んだか、見た目も恐ろしい茸が恐ろしげな叫び声を上げた。
 すぐさま琴音が飛び出し、刀を抜き放った。竜良もソニックブームを打ち出すべく構え、叫び声に仰天した静を抱き、琥珀が山を駆け下り始める。
「落ち着け俺‥‥落ち着け俺ぇ‥‥」
 雄乃介も呼吸を整え、だっと飛び出した。が、が。
「ああーっ、避けるですっ!!」
 麗鈴の悲鳴が上がる。レインの呪文が完成し、慌てたように飛びのいた琴音たちの髪を煽りながら茸一帯をアイスブリザードが襲った。
 巻き上がる吹雪に全員が地に伏せる。そして、風が収まった時には。
「ゆ‥‥雪茸?」
 群生していた茸に真っ白な雪が積もっていた。白い雪から仄見える真っ赤な傘。ちょっぴり怖い光景だった。

●調理しましょ
「俺は茸ご飯とかが食いたいなー」
 料理未経験の雄乃介が、雪茸、もとい、大紅天狗茸のありったけを室内に持ち込んだ。
 レインがアイスブリザードで黙らせ、全員で急いで叩きのめして採取してきた茸である。見た目はかなりグロイが、試食済みの琥珀は味に太鼓判を押した。
 静の両親と交渉して鍋など調理道具一式を用意してきたケインが、持参した油でもって火をつけている。『何でうちの娘は倒れてるんですか』と錯乱した両親に胸倉掴まれてがっくんがっくん揺さぶられていた筈だが、全く一体全体どう納得させたものか。
 既に目を覚まし、雪茸をつついていた静が今度は調理道具に飛びついた。
「まぁ、これが土鍋‥‥重!」
 あっさり手放した土鍋をジェイドが見事受け止めた。そっと土鍋を脇に置き、静の手を取る。
「これは静ちゃんには重過ぎるよ」
 またもニッコリと口説きにかかるが、琥珀に容赦ない蹴りを浴びせられ、室内からジェイドの姿が消えた。
「縦に割けるのが無毒で良い茸の証しだぞ静。簡単だろ?」
 危険性のない調理を経験させるべく、茸を手に講釈を始めた。琴音も別段気にするでもなく、水を張った土鍋を釜にのせ、茸を手に調理法に頭を悩ませる。
「お料理は茸鍋に焼き茸に‥‥ナマは無理ですか? 人生何事も経験と申しますが」
「‥‥うん、じゃあ、茸切ってくれるかな‥‥ってオイオイ、何してんだ?」
 包丁を取り出し手渡そうと振り返ると、なぜか琴音は日本刀を鞘から抜いていた。
「斬ることは得意ですので、私は材料の切り込みを。スマッシュで一刀両断です」
 真顔の台詞の後に、レインまで愛刀を取り出す。
「テキトーにぶった切ってテキトーにいじくり回してテキトーに串に刺してテキトーに火で焼けば何とかなる‥‥ハズよハズ!」
 開き直った台詞に、琥珀は無言で刀二本を奪った。今回家事スキルを持つ者は琥珀のみである。

「おー、すっげぇー良い匂い」
 雄乃介がぐつぐついってきた鍋を二つ前にし、わくわくと目を輝かせる。香りはとても品のよいものであった。
 食卓の上には、調理スキルなしのメンバーを考慮し、焼く・煮るを中心とし、味付けは全て琥珀一人が担当した。茸を湯に通すしゃぶしゃぶ、焼いて軽く味を付けるだけでも美味いが、やはり野菜と一緒に煮込んだ茸がメインだろうか。
「熱っ! 猫舌なの忘れてた」
 琥珀が口元を押さえて呻く。麗鈴はニコニコと静の顔を覗き込んだ。
「静さん、美味しいですか? お食事でみんな仲良しです」
 熱々の茸を頬張りながら、静は幸せそうである。山中でレインに保存食の味も教わったが、やはりほかほかの食べ物が一番だ。
「こうやって皆で料理して、それを一緒に食べるのは楽しいね。あはは」
 ケインがニコニコ笑って言った。静の言動や親の心配に揺さぶられたが、鍋を大勢で囲むと仕事の疲れも癒される。ジェイドもうんうんと頷いた。
「皆で料理ってワクワクするよな。料理に限らず、何かを作るってのは楽しい事なんだぜ」
「何かを、作る‥‥」
 静がふと箸を止めた。
 ───わたくし、そういえば質問するばかりではなかったかしら。折角茸狩りにお手伝いに来て下さった皆さまの足を引っ張ることしか出来ませんでしたし、皆さまがするお話にもついていけませんでした。わたくしは『普通』ではないのでしょうか‥‥?
 ようやく自分の言動と人の言動を比べだした静の肩を、レインがぽんと叩く。
「ま、張り切って悩みなさいってね。何も知らずに家の中いるとキノコが生えてくるわ、きっと」
  それは彼女なりの励ましであった。
「───きっと、子作りも『普通』のことなのですね」
「ぶほあっは」
 静は真剣に呟いたのだが、熱い茸を頬張っていた冒険者たちはむせるばかりであった。

「今回の経験が静様に実りあるものとなりますよう」
 騒ぐ若人たちを前に、穏やかに見守る琴音である。