京都へ向かう本音の4日間

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月16日〜03月20日

リプレイ公開日:2005年03月24日

●オープニング

 ──華やかな江戸を出、京都に向かう冒険者たちよ。覚悟はいいか?


 江戸の冒険者ギルドで熱弁を奮った清河八郎の言葉は、深く、静かに、冒険者の胸に響く。

 明るい日差しの下、江戸の元気な女性たちが物を売る声が聞こえる。恵みを受けた野菜を売り、お洒落を嗜む人々が呉服屋を見て歩く。人々の間にあるのは、笑顔。
 ギルド員は活気のある通りを眺めてから、清河に依頼された内容を語りだした。
「京都は、ここ江戸の雰囲気とは大分違うらしいですよ、ええ。活気がない、だけでなく魑魅魍魎もうじゃうじゃいるとか‥‥おお、こわっ」
 ぶるぶるぶる、と震えて見せた。
「そういう処ほど冒険者ギルドのような機関が大切なのでしょうけど。ええ、今京都の冒険者ギルドは開店休業状態らしいんですよ。人員不足、実力不足、それで清河八郎ってお侍さんは来られたようですわ」
 依頼内容を書き留めた依頼書をひらひらかざす。
「もちろん江戸で経験を積んでいるとはいえ、皆さんは初めて京都へ行かれるのですから」
 ギルド員がにやりと笑った。
「向こうへ着くまでの移動時間の間、ある程度の意思の疎通は図れるよう、しておかなければならない事もご用意されておりますよ‥‥くっくっく」

 ──京都移動は船で4日間。貴方は他の冒険者たちと仲良くなれるか?

●今回の参加者

 ea1426 鬼剛 弁慶(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6963 逢須 瑠璃(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8878 レイン・フィルファニア(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0503 アミ・ウォルタルティア(33歳・♀・レンジャー・エルフ・インドゥーラ国)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●仲良くなれっ!
「平和な旅になりそうだな」
 ふっ、と口元に笑みを刻み、肌の黒い男──鬼剛弁慶(ea1426)が全身に海風を浴びながら腕を組む。
 これから百鬼夜行と戦うのだ、その前に船旅を楽しむのもいいだろう。そう思っていたのだが、背後で妙な呟きが聞こえる。
「眼福じゃな〜」
 坊主の袈裟着た男が、同乗予定の女性を前に目をキラキラさせていた。八幡伊佐治(ea2614)、冗談でなく職業、僧侶。
「私、ジャパンの色々な場所を見てみたいです」
「ふふ‥‥一体何が、待ち受けているのかしらね?」
 アミ・ウォルタルティア(eb0503)が好奇心いっぱいに逢須瑠璃(ea6963)に話しかけ、瑠璃は色っぽく髪をかき上げながら応じた。‥‥背後で鼻血を押さえてガッツポーズをしている男は目に入っていないらしい。
 そのまた後ろでは、オカマにしか見えない筋肉質な女が一人の女に技をかけている。
「んもうッ、何て可愛いのかしらッ」
 ‥‥いや、愛でているつもりらしい。百目鬼女華姫(ea8616)、恐るべし。
 ぐりぐりぐりっと力に任せて抱き締めると、もがいていた手がぱったり落ちた。レイン・フィルファニア(ea8878)、気絶。
 弁慶が視線をさ迷わせると、にっこりにこにこ笑っているカヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)と目が合った。微笑みかけられ、思わず無愛想ながら応じる。と。
「一応最初に言っておくけど、僕の事はカヤって呼ぶの禁止ね。うっかり呼んじゃったら──」
 ふ、と前髪の下で笑った。
「途中、思いも寄らない事態に遭遇しても責任は取りません」
「‥‥‥‥」
 ──依頼内容はこのメンバーと仲良くなる事。

●友情を釣れっ!
 ヒュッ、ヒュッ。
 青空の下、悠然と進み始める船の上から釣り糸が放たれた。海の上では争い事も何もなく、長閑な時間が流れる──筈である。
「‥‥何やってんの、八郎おじさん」
 甲板をうろうろし始めた伊佐治をレインが追究する。妙に詳しい海釣りの知識を教授した人が釣る気配がないのは何でだ。
「あ、あー。瑠璃殿はどこじゃろなぁ〜と‥‥あ、他の女性陣でもいいんじゃが」
「‥‥」
 オジサンの前にいる私はじゃあ一体性別何なんだと思いつつ、台所、と呟いた。今頃未知の領域である日本食の手引きをアミは受けている筈だ。
「そ、そうじゃったか‥‥」
 いささか引きつっているのは何でだろう。弁慶はちらと一瞥したものの、何も言わない。
「じゃあ引き釣りの準備でもするかのぉ〜」
 そう言い、釣竿に手をかけた瞬間であった。
 ふわふわわ〜、と。お化けが伊佐治の前に現れた。

「釣りは良い‥‥癒される‥‥何といっても風情がある。釣れるかどうかは問題じゃ無い‥‥」
 どぼーん、と。何かが落ち、魚が逃げて行く様子を見て弁慶は呟いた。決して現実逃避からではない。

●友情を料理せよっ!
「うわあ、美味しそうだね!」
 つい先ほどサイコキネシスのお化けで驚かし、伊佐治を海に突き落としたとは思えぬ明るい笑顔でツヴァイは出てきた料理を褒めた。同席者は沈黙している。
「あれ、どうしたの?」
 食べないの? とツヴァイが余計な一言を発した。さっきまでニコニコ『さあどうぞ、召し上がれ!』などと言っていたアミの表情がどんどん曇り、傍らの巨体、もとい女華姫が身を乗り出し、瑠璃が半眼になった。それに気づいた弁慶と伊佐治がついに『それ』をがっしと掴む。口に運ぶ前に横目で確認すると、料理を担当した女性陣がじーっと見ている。二人はついに覚悟を決めた。
 ばくっ、もぐもぐもぐっ‥‥もぐもぐっ‥‥ぐっ、ぐふっ?
 咀嚼がどんどん勢いを失っていったが、二人は己の衣服を掴んだまま踏ん張った。頑張れ、あともう少し! 喉を越えれば、きっと‥‥!
 弁慶は無意識に濁酒の瓶を握っていた。きっと生存本能に違いない。しかし弁慶は目の端に映った女性陣の表情を見て乗り越えた。
 ごっくん。
 干物を飲み干すのに50年かかったような疲労を覚えたが、汗の中二人は言い切った。
「美味い」
「美味しいよ。逢須殿の手作りなら尚更だ」
 伊佐治、それはアミが塩加減をめいっぱい間違えて作ったおにぎりなんだが。
 二人は舌が痺れる握り飯を初めて食べた。ちなみに中身は何だかドロリとしていて、それが何だったのか非常に気になる。が、怖くて聞けない。アミ・ウォルタルティア、インドゥーラ出身。日本に来たのは最近です。
 アミが作った握り飯は不恰好を通り越してある意味芸術的な様相を呈し、伊佐治が釣り上げた魚は妙な捌かれ方をしたのか、開きの刺身と化していた。ちなみに包丁を使った女華姫はまだマシで、レインは何故か包丁を使わず己の愛刀で頭を落とした焼き魚を出し男性陣をのけぞらせている。斬新な切り口。死体を確認する同心の気持ちにさせられた。
 瑠璃はつまみのようなおかずを並べているが、中に一部取り返しのつかない味付けになったものも混じってしまった。どれが当たりかは食ってみればわかる仕組みだ。
 戦闘のない船上パーティ。これ程平和な依頼はないと思ったのに‥‥思ったのに‥‥。誰かの本音が木霊した。
「ジャパン人の食文化って不思議だよね」
 ツヴァイは無邪気に誤解した。

●友情を贈れっ!
「逢須殿の贈り物が僕の元へ来たら‥‥それはきっと二人の運命と思わんか?」
「あら‥‥ふふ、伊佐治さ・ん・た・ら」
 えい。と白魚のような手が伊佐治の頬をつつく。真面目な口説き方に満更でもなさそうだ。──いやそうじゃなくて。
「そこの怪しい二人っ。い〜い、クジは一度きりだからね」
 弁慶の大きな掌に隠された紙をそれぞれ一本ずつ摘まみ、レインが念を入れる。
 船からは既に京都と思われる街が見えていた。それを直前に、誰の物が誰の手に渡るか分からない、スリル溢れる贈り物交換会。出来れば幸先の良いものを引き当てたい。
「では、よござんすね?」
 どこで仕入れてきたのか、ツヴァイが音頭を取る。
 せえ、のっ!!
「‥‥鉄鞭?」
 ぼそりとレインが呟く。贈り主である瑠璃が、あら、と微笑んだ。
「使い勝手は色々よ? 戦闘色事何でもござれ‥‥うふっ」
 レインは鉄鞭を手に悩む。何をどうしたら戦闘と色事が同列になるのか? レインの素朴な疑問は瑠璃の微笑みを前に雲散霧消した。きっとオトナの女性ならではの使い方があるに違いない。‥‥多分。きっと。
「あ、それ伊佐治さんの手元に渡ったんだ!」
 邪気のなさそうな笑顔でツヴァイがニコニコ笑っていた。伊佐治は自分を海に突き落とした衣装を見て複雑そうにしている。しかも変装道具など一体どうしろと?
「伊佐治さんなら最適だよね! きっとナンパする時に面白い口説き方ができるんじゃないかな?」
「‥‥‥‥」
 本当に悪意はなかった。‥‥多分。
「あら、懐かしいわね」
 可愛らしい蹴鞠を持っているのは瑠璃。ぱっと明るくなった伊佐治の前に、天晴れ扇子が開かれる。
「最後まで瑠璃なのねぇ? あ・た・し・は?」
 女華姫が迫った。再現されるのは船旅初日の惨劇。レインがこっそり逃れている。
「それ、豪華ですね?」
 ツヴァイの元には、他の贈り物の中で飛びぬけて豪華にラッピングされて目立っている贈り物が渡っていた。アミが興味津々とばかりに覗き込む。これは相当金がかかっているのではなかろうか?
 レインがにやりと笑っている事には気づかない。
 ──何だろう、ここまで豪華だと貰うの気がひけるんだけど。
 恐る恐る包装を取り除くと。
「‥‥‥‥‥‥‥‥ねこ?」
 実物より断然硬い触り具合の猫。世に言う、招き猫であった。豪華過ぎて何かと思ったが、置物用猫。
 一瞬の後、爆笑する声が響いた。

 ちなみに愉快に笑い合う仲間達の背後では。ぶるぶるぶる、と弁慶は贈り物を手に震えていた。
 リカバーポーション。一気に飲み干せば、傷を癒してくれる治療用品。戦闘依頼には欠かせません。
 視界の隅で、てへへ、と贈り主と思われるアミが手を振っていた。運命の悪戯か、自分の用意した商人セットを嬉しげに着ている。
 弁慶の脳裏に走馬灯のように食事風景が蘇った。
 ──せめて食事会の前に贈り物交換会が済んでいたら、自分はあれほど苦しまなくて済んだかもしれない。