【黄泉の兵】村人を救え!

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月22日〜03月27日

リプレイ公開日:2005年03月29日

●オープニング

「取り残された人たちがいます」
 冒険者たちにとって新天地、京都での初依頼となるであろう内容を、ギルド員は厳しい顔つきで告げた。
 昨今京都を騒がせている、南より攻めてきている妖どもの勢いは止まらない。既に幾つかの村は襲われ、京都見廻り組と新撰組も休みなく借り出されている。
 ‥‥人数が、圧倒的に足りない。人がまわらないのだ。
 だからこそ、清河が江戸で呼びかけた。そして、応じた。応じたのは江戸にいた、勇気ある冒険者たち──。

 寂れてしまった外の通りを見て、ギルド員は唇を噛み締めた。
 いつからこんな事になってしまったのか。次々現れる妖は一体何なのか。奴らのせいで、一体何人の人間が犠牲になったか。
「襲われた村に向かい、生きている人間がいれば救い出してきて頂きたい」
 村を襲ったのは、人間と見れば喰いついてくる死人憑き。手遅れかもしれないが、村の何処かに隠れ生き延びている可能性もある。
「もし生きている人がいれば、その人たちの命優先で行動して下さい。こちらで確認してるだけで妖は死人憑き6体。ですがひょっとしたら増える可能性もある。‥‥とにかく、命の優先を」

 ──京都を攻めてきている妖の数は侮ってはいけない。

●今回の参加者

 ea6967 香 辰沙(29歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea8878 レイン・フィルファニア(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9465 御崎 零羽(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9947 周 麗華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1618 千々岩 達馬(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●出発直前
「ない? それってどういう事?」
 カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)の確かめる声音に、死人憑き対策を練っていた仲間が顔を上げる。周麗華(ea9947)は肩を竦めた。
「言った‥‥通り‥‥」
 嘘でしょ? と呆れた声を上げたのはレイン・フィルファニア(ea8878)だ。香辰沙(ea6967)が首を傾げる。
「せやけど、もし怪我してはったら帰り困るんやないやろか‥‥」
 彼女の言葉はもっともだったが、麗華にはどうする事も出来なかった。ギルド曰く、荷車荷馬車の類は他の人間が使っており、空きはないとの事だ。
 遅れて事情を聞いたレベッカ・オルガノン(eb0451)は占術用のカードを弄ぶ。空きがないというのは、この異常な妖の数がそれほど多いという事だろう。もっと占いの力を磨けば、京都に何が起きているか分かるだろうか?
「私の近所に住む者は誰一人としてこの京都に逃げ延びておりません。どうか、どうか助けて下さい!」
「そんなに酷いのでござるか。これは一刻の猶予も無いでござる」
 香山宗光(eb1599)は逃げ延びたという青年のあちこちについた血の痕を見て、立ち上がる。荷馬車がなくとも何としても救ってやらねばならない。
 御崎零羽(ea9465)がこくりと頷いた。

●村人を救え!
「‥‥ほな、行きますえ。囮の皆様は‥‥気ぃつけはってな‥‥」
 おっとりと京言葉を残し、その身を鷹へと変えた辰沙が飛び立つ。仲間の頭上を旋回した後、水先案内人として乗り込んだ。その下で冒険者達が鳥を追って駆け出す。彼女が仲間達の目となり耳となり、危険を回避しながら村人の元へ導いてくれるだろう。

 目的の馬小屋はまるで燃えているかのように真っ赤に染まっていた。馬の血か、人の血か。その上空を辰沙は飛んでいる。人のみ興味を示す死人憑きはまだ冒険者には気づいてはいない。
 囮のツヴァイ・麗華・レインがそろそろとその場を動くと、レベッカが麗華に向かって呼子笛を放った。意図を理解し、軽く吹く。
「四体!」
 精霊魔法で察知した情報をツヴァイが短く告げ、レインが姿を見せた。馬小屋の影に隠れていた死人憑きが思った通り、追い駆けてくる。
 腐臭も酷い死人憑きが囮を追い駆けて完全に去って行くのを見守った後、クリスタルソードを装備した千々岩達馬(eb1618)がそろりと馬小屋の扉に手をかけた。
 ──ガタン!
「おーい、大丈夫?助けに来たよ?」
 音を聞きつけ、達馬の背後からひょいと身を乗り出し零羽が場違いに明るい声をかけた。片手に剣、一見ちんぴら風の達馬では安心して姿を見せまい。
「冒険者ギルドからの要請で助けにきました!」
 レベッカの明朗活発な声が馬小屋に響く。食い散らかされたと思われる馬の死体の影から、幾つかの小さな頭が出現する──子供だ。

「大丈夫でござるか。これを食するといい。慌てず少しづつでござるよ」
 わんわん泣いていた子供達は、今では宗光のあぐらの上に座り保存食を貪り食っている。丸三日食べなかったというが、精神的な回復と体力の回復は目覚ましい。それでも冒険者から離れないのは、人肌の恋しさからであろう。
 レベッカがその様子に安堵していると、どこからともなく雄叫びが聞こえてきた。
「辛気クセェ所だぜ‥‥チックショォ‥‥こんな所に俺を送り込みやがってあの野郎!」
 囮も帰って来てないというのに、外で吠えている達馬に目を丸くする。零羽がからかうように笑った。
「子供に嫌われた腹いせかな?」
 ──怯える子供に向かって『オラァさっさと走れ! 死人の餌なんて無駄なモンになりたかねーだろ!』などと言ったせいであろう。子供達は達馬に近寄る気配はない。

「ッ‥‥!」
 麗華の肩に朱が走った。竦んで動けない女を庇い、防御する暇もなく死人憑きの爪をくらったのだ。
 遠目に援護をしていたツヴァイも気づいていたため、即座にサイコキネシスで板を飛ばし壁を作る。死人憑きが顔面にぶち当たった板切れを外した瞬間、レインがミストフィールドで視界を覆った。麗華がよろけながらも、女を立ち上がらせて仲間の元へ逃げる。レインも手を貸し、その場を何とか逃げ出した。

「助けることが出来て‥‥良かったわ」
 ミミクリーを解いた辰沙がおっとりと笑う。傍らで血に汚れた麗華がポーションを一気飲みしている。その姿を見て狂化したくないツヴァイは背を向けて、レインは逃げ込んだ扉に手をかけたままへたりこんでいた。

 合流した仲間達は疲弊し尽くしている村人を介抱している。中には怪我が酷いのもいて、辰沙に抱かれポーションを飲んでいる。ここにいる村人は死人憑きに命を奪われなかっただけ、マシという事か。
「疲れてるようだね。ほら、何か言う前に食べる」
 腰に子供を纏わりつかせたまま宗光は保存食を少しずつ食べさせ、零羽も食べられないと訴えている少女を諭している。
 ──多めに保存食を持ってきていて良かったな。
 ツヴァイが仲間にバックパックを示しながら微笑む。
 子供達は数人ずつ固まるよう指示されて掘っ立て小屋や甕の中、屋根裏から床下と身体の小ささを活かし生き延びていた。もちろん全て助けることは出来なかったが‥‥それでも食われずに済み、保存食をがっついている姿は安心する。来た甲斐があるというものだ。
 ‥‥無数の死体は脳裏に焼きついてしまったけれど。

「これで全部なの?」
 レインが何気なく震えている女性達に酒を飲ませている。水はないのだから致し方あるまい。
「建物は全部確認したんだ、レベッカのサンワード、辰沙のデティクトライフフォース、だっけか?」
「うん、間違いないよー」
 ニコニコとレベッカが、おっとりと辰沙が頷く。
「んじゃ帰っか!」
 達馬がクリスタルソードを振り回しながらガラリと扉を開けた。
「‥‥‥‥」
「どうしたの?」
 ツヴァイが覗き込む。思わず一緒に沈黙した。
「‥‥全員走れるな?」
 達馬がぼそりと呟く。異変に気づいた冒険者達が武器を手に立ち上がった。
「大丈夫。後は逃げるだけだもん」
 レインが励ますように言った。ちなみに今現在、死人憑きが建物を取り囲んでいるのは彼女が狼煙の如く火を焚いてしまったからかもしれない‥‥助けた村人達を暖めてやろう、と思っただけなのだが。
「折角助けた村人25人、無事京都まで送り届けてやろうじゃねぇか」
 達馬が不敵に笑った。

「知ってる? カミサマはね、輪廻転生っていう素晴らしい決まりをつくったのよ。何でって? 放っておいたらあの世が連日満員御礼で大変じゃないの。だから、さっさと成仏しないと迷惑なのよ、あなた達みたいな中途半端な連中は!」
 言葉と共に、レインがミストフィールドを繰り出す。一瞬のうちに濃い霧が視界を奪った。その直後に救い出された村人が一直線に駆け出した。目指すは、村の外。
「‥‥飛天相破‥‥!」
 怪我が癒えた麗華が技を繰り出し、手を伸ばしてきた死人憑きを勢いよく倒す。
「むう‥‥こっち来ないでくれる? って、ああ来ちゃったよ。‥‥だから近づくなっつうに!」
 霧の中、零羽の声と一緒に死人憑きが弾き飛んだ。
「この子が最後だよ!」
 レベッカが三歳児を背負って建物から出てきた。後は一目散にここから脱出するのみ!

 霧が晴れゆく背後は、今もこちらを追い駆けてきている気がする。その気色の悪さと取り囲んでいた死人憑きの数を思い、宗光は一人胸中で呟いた。
 ──あの妖どもはいったい何でござるか。このまま騒ぎが収まることを祈るでござる。
 京都は今、原因不明の暗雲に覆われている。妖という名の暗雲に。