【黄泉の兵】音信不通村の謎
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■ショートシナリオ
担当:べるがー
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月11日〜04月16日
リプレイ公開日:2005年04月17日
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●オープニング
陰陽寮にある、書庫の一室。高価な灯火のか細い明かりの元、陰陽寮の長官、陰陽頭・安倍晴明は、山のような竹簡の中から一つを手に取り、視線を走らせて小さくつぶやいた。
「ふむ、陰陽村、か‥‥」
「一体、どのような村で?」
「過去、我々の先達が作った村だと記されているな」
目を細めて竹簡に書かれた文字をたどりながら、晴明は部下の問いに答える。
「面白きことにその村は、飛鳥の宮の在りし、南に作られたとされている‥‥何か、におわぬか?」
「‥‥此度の亡者どもに、何か関係あるとでも?」
その問いかけに薄く笑みを浮かべて応えると、晴明と供の者は廊下に足音を響かせた。
京の都の南より現れる亡者たち。それはただその数に任せて押してくるだけのものもいれば、強力な力を誇り、ただ一体で村を滅ぼしたものもあった。
冒険者ギルドを通じて市井の冒険者の力を借り、いくつかの亡者たちには対処を始めてはいるものの、なぜ亡者が迷い出たのかの理由は、いまだ分かってはいない。
なんにせよ、南よりの災禍はまだ尽きる様子はなく、被害も、それを抑えるための依頼も数多くある。
そんな中、陰陽寮からの新たな依頼があげられた。
その内容は南に向かい、奈良にある陰陽村を探ること‥‥。
──しかし、周辺の村の人間は何か異変に気づかなかったのだろうか?
昨今南から雪崩れ込んで来る妖怪どものため、いささかギルド員の仕事は忙しい。陰陽寮から陰陽村についての依頼を受けた依頼書も、束となって置かれていた。
「えーっと‥‥あった、これこれ! 妖怪退治でなく、陰陽村周辺の調査依頼!」
これは妖怪退治がメインじゃないんですよ、とギルド員は笑った。けれど。
音信不通となった、陰陽寮ゆかりの村。南から続々とやって来ている妖怪ども。──タイミングが合い過ぎてやしないか?
「陰陽寮の、依頼人の話によると、陰陽村自体の調査は勿論行われるんですが、慎重を期して周辺の村からの訊き込みも行いたいとの事です。最近妖怪どもの数も半端じゃなく増えてますからね‥‥もし何か関わりがあるのでしたら、大層危険な依頼です」
ひょっとしたら、今まで見た事もない妖怪がいるかもしれないのだ。
「ですから、今回の依頼はあくまで訊き込み調査。何か恐ろしいものに遭遇した場合は即逃げて下さい、との事です。何がいるかわかりませんから」
本来の調査目的は陰陽村。しかし、この依頼はその手前の村での訊き込み調査が目的だ。
陰陽村の調査は彼らよりもてだれの冒険者に任されるらしい。分相応、いや保険か‥‥。
────京都へ送り込まれる大量の妖怪たち‥‥陰陽村という小さな村で起こっている『何か』が謎を解き明かすヒントとなるだろう。
●リプレイ本文
●陰陽村へ!
「代わりましょう」
夜明けを迎える前に毛布を持った神木祥風(eb1630)が声をかけた。うとうとしかけていた蘇芳正孝(eb1963)がはたと顔を上げる。
祥風の案で二組に別れ、寝ずの番をしていた交代の時間らしい。寝袋に手を伸ばしかけ、ふと不安が口をついて出た。
「陰陽村‥‥名前からしていかにも何かありそうな」
今回調べるのはその手前の村とはいえ、何事もなく済みそうにはない。
初仕事同士として気持ちがわかるのか、静月刹那(eb1888)が柔らかく微笑む。
「初めてのお仕事ですね。失敗しないように頑張りましょう」
これから訪れる村の危険性を危惧しているのは、何も初仕事のメンバーばかりではない。江戸とは違う陰気な夜空を見上げ、グリューネ・リーネスフィール(ea4138)も口を開く。
「これで、アンデッドの大量発生の原因がつかめればいいのですが‥‥」
「一体京都に何が起こってるんだろ? 周辺の村調査で何か分かると良いな」
レベッカ・オルガノン(eb0451)の占いにはまだ何も映し出されていない。
●いざ突入!
「んっと、この村で間違いナシ!」
ギルドで聞いた通り、とレベッカが書き写してきた地図を見て言う。幸い占いを生業とするレベッカと、陰陽師である白神葉月(eb1796)、刹那が星を読める。
「渚、危険を感じたら先に家に帰ってね」
綿津零湖(ea9276)が愛馬に声を掛けた。
「この村にアンデッドはいませんね。今はとりあえず、と言った方がいいのかもしれませんが‥‥人もいます」
白鷹から姿を戻したグリューネが上空から知り得た情報をもたらすと、仲間達がホッと息をついた。少なくとも、いきなり村中で襲われる事はないのだ。
「落ち合う場所はここで。訊き込みの時間は今日しかありません。ギリギリまで訊き込みを続けて、明日帰途につきましょう」
刹那が念入りに最終確認を入れる。零湖が付け足した。
「緊急の時には、太鼓を鳴らしますね」
ドオン、と軽く一打。
「こっちはコレね」
レベッカが呼子笛を吹いた。
「では、二手に別れて参りましょう」
山本佳澄(eb1528)の瞳は既に村を見据えている──今日一日でどれだけの情報を得られるだろうか?
「あくまで周辺での調査が私達の担当とは言え、責任は重大です。気を引き締めて参りましょう」
祥風の真剣な呼びかけに全員が頷く。京都に襲い掛かる謎は自分達が必ず解き明かすのだ──。
●陰陽村を調査せよ!
「人が生活している気配はありますね‥‥」
祥風の五感はご飯が炊かれる匂い、鍋がくつくついう生活音を感じている。最悪の事態は考えなくて良さそうな事に安堵した。
「お前さんたち、京都ギルドで依頼を受けたんか? つまり、ようやくあの気味の悪い死人どもの討伐隊が出たちゅうことか?」
目の前の老人が勢い込んで聞いてくる。佳澄が目ざとく見つけたこの老人は怪我をした様子はないが、いささか顔色が悪い。理由が分からない祥風が尋ねる。
「最近妖怪の活動が活発ですが、この村は大丈夫ですか? 怪しい者が陰陽村の方に行ったり‥‥或いは出て来たとか」
京都では相当数の妖怪が出没しているのである。近くの陰陽村が音信不通になった事といい、何かは感じている筈だ。
「‥‥陰陽村?」
ふと沈黙した老人に言葉を促すように、零湖が突っ込む。
「今でも連絡は取れますか?」
困惑したように老人は冒険者の顔を見回した。
「知らんかったんか? ──死人どもに襲われ、陰陽村は滅びたぞ」
「な──くな、った?」
愕然となった。かろうじて口に出来たのは、最年長の葉月。傍らのグリューネの肌は普段より一層白くなっている。
偶然冒険者に声をかけられた女は洗濯物を手にしながら目を伏せた。レベッカが陰陽村に親戚はいないかと尋ねて口を噤んだのは、そのせいだったのかもしれない。
彼女達を守るべく家の出入口に立っていた正孝は強く着物を握って堪えている。苦い初仕事となりそうな予感がした。
「村長に聞いたんや‥‥黄泉人、っていうのが来てるって」
ヨミ人? と首を傾げるグリューネ、葉月も首を傾げる。
「黄泉‥‥既に死にはった人を指すんやろか‥‥死人憑きの事やなくて?」
聞いた事がない。
「音信不通になる前に何か変わった出来事とか噂とか知りませんか?」
レベッカが問うが、女も首を傾げてしまった。
「うちもそんな詳しないから。村長からなら詳しぃ聞ける筈やけど‥‥」
女の話を聞いているその時。
ドオン、ドン、ドン! 合図の太鼓が聞こえた。
「襲われたか!?」
正孝が勢いよく飛び出す。こちらは太鼓を叩いていない。とすると、二手に別れたもう一方に危険が迫っているという事に他ならない!
グリューネが正孝の後を追った。葉月とレベッカも後を追おうとするが、女の悲鳴に振り返った。
「あっちは‥‥村長の家の方!」
あちらは先に村長の情報を手に入れていたのだ。
正孝が駆けつけると出会い頭に老人を背負った祥風と激突しそうになった。慌てて壁に張り付いて避ける。後をついて走っていた刹那がへなへなと座り込みそうになり、咄嗟にグリューネが手を差し伸べた。
「刹那殿、大丈夫ですか?」
全力で走ったのか、息も絶え絶えな刹那の代わりに抜き身の日本刀を持った佳澄が口を開く。着物の袖から血が滴っている。
「死人憑きと遭遇しました」
「私たち‥‥だけじゃ、戦えな‥‥はあっ、くて」
零湖も血塗れた小太刀を手にしたままレベッカの手を借りて休んでいる。どうやら肩をやられたらしい。自分の荷からリカバーポーションを手渡すと、ちゃんと飲むように言って光るものを取り出した。今は全員の命を守るために自分が動かなければ。
──モンスターは近い?
レベッカが金貨を介し、太陽に問いかける。
「ん、近くはないって。そのくらいしか聞けないけど、すぐには来れる距離じゃないから」
先ほど間近に腐った死人憑きを見てしまった祥風、刹那、佳澄、零湖はほっと胸を撫で下ろす。小太刀を掴んだものの刀の扱いには自信がない零湖も、初仕事である刹那も、あの死人憑きたちとやり合える自信は全くなかったのだ。
「この向こうに死人憑きが‥‥」
「行ったらあきまへん!」
正孝が身を乗り出し数歩行こうとすると、葉月が鋭い声で注意する。自身も死人憑きと対峙した事がない。もし味方に何かあっても適切な助力が出来るかわからないのだ。
「無理はせぬ」
心配げな仲間にそう返したものの、自分の未熟さは熟知している。屍兵死霊の類については知識も乏しい。今は逃げる事を選ぶしかない。
情と仕事に揺れる正孝に、同じ気持ちなのかグリューネが呟く。
「‥‥それが、私達の任務、です」
錫杖を握り締めた。神聖騎士として、目の前に迫る妖怪を放置しておくのは許しがたい。けれど今は自分たちの命と任務を優先させなければ。
「そうした方がいいでしょう、ね」
祥風が背から村長を下ろし、佳澄の傍らに膝をつく。村長を庇う際に傷ついた佳澄に自分のリカバーポーションを差し出した。
「これを。──とりあえず、音信不通だった陰陽村に何があったのかわかりました」
まだ村長から詳しい話を聞いてない四人が顔を上げる。正孝、グリューネ、葉月、レベッカの目を見返す。
とんでもない事実だ。これを陰陽寮が、いや京都に住む人々が知ったらどんな混乱が起きるものか。自分もまだ整理出来ない。
「死人憑きの大量発生は何かの意思が働いてた、いう事どすな?」
葉月の言葉に頷く。
「村長が言うには、伝承に黄泉人という喋る事の出来る死人憑きがいるとか。私たちが遭遇した死人憑きも口をききました。‥‥連絡の取れなくなった陰陽村は奴らによって襲われた可能性があると」
●そして、報告
「伝承上の存在? ‥‥黄泉人? 口をきく死人憑き!?」
京都ギルド員の男は絶句した。何か起こっているに違いないとは思っていたが、まさかそんな伝承があったとは思っていなかったのだ。しかも陰陽寮ゆかりのある陰陽村を襲撃するとは──。
「わかり、ました」
口の中が乾燥する。嫌な話だった。
「伝承に詳しい村長に聞いてもわかるのはそれだけでした。本当に黄泉人なのか、どんな意図でやって来ているのか。普通の死人憑きとしゃべる以上にどう違うのかも。異常な数の増え方といい、知能の高い黄泉人が死人憑きを増やしているとも考えられますが‥‥やはり憶測の域は出ないと。私たちでは村に潜入した死人憑きを倒す事も出来なかった‥‥」
「‥‥ああ」
グリューネの苦しい言葉に、初仕事となった正孝も唇を噛む。武術の道を究めたい。そして受けた仕事以上の事が出来たらいい。こんな思いはもうたくさんだ。
「新たな討伐の手の者をお願いします」
祥風の願い出に、背後で控えていた刹那と佳澄が頷く。本格的な調査と、陰陽村に生き残りがいたなら救い出さなければならない。
二日がかりで帰ってきた京の都は、既に真っ暗闇に包まれていた。
「渚‥‥」
暗闇を歩く零湖が愛馬の鬣を優しく撫でる。レベッカは調査に使った金貨を指で弾いた。
「月は江戸と変わらへんのやなぁ‥‥」
葉月は月を見上げ、京都にも江戸のような華やぎが戻る事を祈った。