神社で追いかけっこ

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月27日〜05月02日

リプレイ公開日:2005年05月05日

●オープニング

「あなたが鬼よ、うふふふ」
 京都のある古い神社で、色を感じさせる女の声が響く。
「お、おいおい、これから鬼ごっこかい?」
 男は困惑して手を伸ばす。女はその手をかいくぐった。化粧を施された顔が艶やかに笑う。
「うふふ、まだ十数えてないでしょう? あなたは鬼なんだから」
 女の楽しげな声に、男は笑って手を下ろした。
「じゃあ、目を閉じて。今から十数えたら私を探してね」
 目を瞑る。
 ひと、ふた、みよ‥‥‥‥ここのつ、とお。
「十数えたぞ、さあ見つけてやるぞ!」
 男は勇んで神域を歩き回る。
「どこだ? お鏡ー、お鏡ー」
 鳥居の影には隠れていない、参道を歩いて茂みを探る。社の周囲をうろうろしたが、そのうち疲れ果ててしまった。
 ──彼もまた、彼女を捕まえる事が出来なかったのだ。


「女を一人、捕まえて頂きたい」
 ギルド員の男は言った。
「名はお鏡(きょう)、化粧をしているのでよく分かりませんが、見た目二十歳といったところでしょうか。何でも京都のある神社に出没する奇怪な娘っ子らしくて」
 住んでいる場所も、素性も分からない。名が本物かどうかも怪しい。
「依頼人は五人の男性です。そのお鏡という女に金子を取られたという事で」
 それが不思議なのだ。彼ら全員、いつスられたか分からないという。しかも必ず鬼ごっこをさせられるのだと。
 しかし、狐狸の類ではない証拠に金を奪われている。これはあくまで犯罪だ。
「ただでさえ情勢不安な京都、しかも神域で起こった事を見逃すわけには参りません。お鏡を必ず捕らえて下さい!」

●今回の参加者

 ea6877 天道 狛(40歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9276 綿津 零湖(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0807 月下 樹(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0855 光翼 詩杏(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1759 イリス・ブラックマン(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2074 不破 和馬(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●鬼が張る罠
 ──この辺りがいいかな?
 境内前で暇そうに座り込む男との位置を計り、イリス・ブラックマン(eb1759)は身を潜ませる。ポイントはお鏡の顔をちゃんと覚えてもし逃しても再チャンス出来るようにする事。今頃他の仲間たちもそれぞれ神社内に配置している筈だ。
 しかし‥‥・。
「五人もカモにされるなんて、男の人って情けないな〜」
 先ほど面通しをしてきた男達の顔を思い出しつつぼやいてみる。綺麗な花には毒がある事を知らないらしい。

 一方、5人もの冒険者たちに監視されている月下樹(eb0807)は、囮役として出来るだけ隙があるように寛いでいた。
 腕を着流しに突っ込むと、布袋に指が触れる。気合を入れて、自身の有り金全部入れてきたのだ。あまり少ないと獲物になり得ないし、逃げる時の荷物になればいい。それに。
 重みのある財布の中に紛れさせた、『ある物』に気づかせないためでもある。
 軽く伸びをして、座り込んだ。被害者の男達に聞いた、誘い文句に乗る台詞を考えながら‥‥。
 ──女スリ師を捕まえるためとはいえ、全財産を賭けるんだから必ず捕まえてやる。

「来たわね‥‥」
 境内の丁度裏手、緑生い茂る中に身を潜ませていた天道狛(ea6877)は小さく口の端で笑う。
 少し甘えたような声が耳に飛び込んできた。誘いに乗るように、お鏡に名を聞く男の声もする。
 ──鬼ごっこをしましょう?──俺が鬼なのかな?──そう、私を捕まえる事、出来る?──
 樹の数を数える声。そして逃げ始める足音。
「観念なさい、私たちから逃げることなんて到底出来ないわよ」
 そうして狛はその身を白狼へと変える。

「どうッ! どうどうッ!」
 追うように愛馬・渚を駆けさせていた綿津零湖(ea9276)は白狼を見つけ、手綱を引いた。ある建物を見つめていた白狼が尻尾を振る。
「道を走らなかったから、私を追い駆けるの大変だったでしょう?」
 変身を解くと見事な毛並みについていた葉っぱが髪に引っかかっていた。一体どんな道を辿ったものか。
「知り合いの誰かさんのおかげで忍者との追いかけっこは慣れてるんだけど‥‥お鏡さんの場合、単に逃げ足が速いみたいね」
 馬では神社の中を駆け回れるにも限度があるし、ミミクリー能力がなければ追い駆ける事は出来なかっただろう。
「でもあたしはお鏡の顔は覚えていないから‥‥他のメンバーに聞いてみましょうか」
 この建物にいるのは明白なのだから。

●お鏡の正体
「‥‥どこにそのお鏡がいると?」
 不破和馬(eb2074)が建物内の『子供達』を見ながら呻いた。お鏡と話し、目の前で見ている樹までもが首を傾げている。
 そんな馬鹿な、と絶句する狛に対し、建物の持ち主に話を聞いてきた山本佳澄(eb1528)が首を振る。
「ここには20代30代の女性はいないそうです。10代でも12〜13才程度の子供しかいないそうですし‥‥子供達の面倒を見ているのは50過ぎの女性ばかりです」
 つまりここは。
「孤児院‥‥?」
 零湖の言葉に佳澄が頷いた。
「ここにはいないって事だな。一度隠れたにしてもすぐ出てったのかもしれん。もう一度罠を張り直そう」
 和馬が狛を励ますように肩を叩いたが、イリスが『ちょっと待って!』と叫んだ。
「‥‥イリスさん?」
 ある一点を見つめたまま動かないイリスに佳澄が声をかける。
「髪‥‥は、ほどけばああなるかな、でも顔は‥‥ううん、化粧も厚かったし‥‥着物も‥‥」
 その瞳は真剣に細められている。先ほど物陰で『狛さんの犬姿、初めて見た〜。感動だよー』とほのぼのした感想を言っていたように見えない。
「うん、多分そうっ!!」
 青の瞳が輝く。両脇にいる和馬と樹の腕を引っ張って、
「捕まえてっ! その子、お鏡だよ!」
 叫んだ。
「ああ?」
「まさか?」
 和馬も樹も目を点にする。必死に『あの子だよ〜!』と一点を指さすイリスの視線を追っても、ちんまりとした少女しかいない。イリスの勘違いだろう。
 だが。
「早く捕まえてよ〜‥‥って、こらー!! 逃げるなーっ!!」
 イリスが言うように、小さなお下げの女の子が逃げた。身を翻した少女を追うようにして狛もその身を変化させる。
「多分あの子は神社に行くから貴女達も来てね」
 何であの神社? と残された誰もが思ったが、狛なりに追い駆ける事で気づいた事があるのかもしれない。零湖はすぐに愛馬の名を呼ぶ。慣れた馬は繋いでなくともすぐに主の元へ駆けて来た。
「神社に逃げ込むか‥‥障害物があれば俺達には不利だ、足止めの攻撃も出来ない。ならば」
 神社内で鬼8人が都合の良い場所に追い込めばいい。

「いい足してるじゃないの、でも『変化のコマ』の異名にかけても絶対逃がさないわ」
 白狼姿のまま神社内を追いかけ回す狛は、本気でビビっている(何しろ正体不明の狼が自分めがけて追い駆け回すのだから)お鏡ににじり寄る。この姿では捕縛出来ないが、仲間もすぐさま追って来る筈だ。
 ‥‥何故、この神社でなければならなかったのか。
「まさか、この神社のすぐ裏手に孤児院があるとはね」
 道理で自分の庭の如く駆け回れる筈だ。お鏡は間違いなく子供にしか見えないあの子。
「狛さん、あのご神木の下に彼女を!」
 和馬に言われた通りの指示を出し、零湖が並走した。仲間達も和馬の指示通り、四方八方から彼女を取り囲んでいる。
「ふふ‥‥ちょっとお灸を据えてあげないといけないわね」
 子供であれ、スリは犯罪なのだから。

●鬼ごっこ終了
「とまりなさい! 拒むなら、この矢で貴方を射ます!!」
 零湖が馬上から威嚇する声が響く。一旦足が止まりかけたものの、それでも走ろうとして甲高い少女の悲鳴が響いた。
「俺は足の速さは人並みだが、力には少々自信がある。‥‥下手な真似はしない方が身のためだぞ」
 放たれた真空波の影響で吹き飛びそうになった所を和馬が捕らえた。追い込む役を頼んだ仲間達も神社内のあちこちから出て来る。
「‥‥本当に子供ですね」
 驚いたのは佳澄だけではない。囮として眼前でうろうろされた樹もまじまじとお鏡の顔を見ている。‥‥実は和馬が言っていた『とんでもない年上説』はあるかなと思っていたが、まさか『年下』が出てくるとは思わなかったのだ。
「大丈夫ですか?」
 自分がやったわけでもないが、妖怪でもない相手に真空波を放った事で零湖が心配する。
「うん、怪我はしてないね〜」
 ぱたぱた着物についた土を払ってやりながら、イリスが頷く。
「何故こんな事を? 財布をスることはいけない事です」
 きつく聞こえないように佳澄が言うと、がっくり肩を落とす。降参、の態度だ。

「最初はね、遊女になった姉さんに化粧をしてもらって出歩いたらナンパされて、お茶してただけなの。‥‥ホントだってば!」
 5人の依頼人達は可愛らしく拗ねる少女を前にして、顎を落とさんばかりに驚いている。和馬の横に座り、浮いた足をブラブラさせる姿は間違いなく子供。あの誘いをかけた女に見えなかった。
「でも、そのうちあたしを売ろうとしたお父さんの事思い出しちゃって‥‥悔しくなって、お財布取ったの! それだけ!」
 彼女の父親は娘2人を遊女に売り飛ばそうとする最低な奴だった。女が好きで、早くに子を作ったから歳も若くて。
 和馬がそっぽを向いたお鏡の頭をポンと叩いた。樹も分かる。盗みは、寂しさから──だったのかもしれない。
「でももう止める。お父さんの代わりにオジサン達が捕まえてくれたし‥‥お金も全部孤児院に置いてあるから。番所に突き出すんでしょ?」
 本当は捕まえて欲しかった。お父さんに。盗みを叱って、怒ってくれたら。構ってくれたら。
「遊びはもう終わりにするよ。鬼に捕まったし、ね」

「お鏡ちゃん、どうなるのかしら‥‥」
 狛が冒険者ギルドを振り返りながら言う。零湖も心配で何度も後ろを振り返っている。
「あ、そうだこれ、狛さん。香木ありがとうござ」
 いました、と最後まで言う事が出来なかった。全財産を入れた財布を開けると、何故か香木がない。見間違いかと何度も覗き込んでしまった。
「あー、お金も数えた方がいいかもね〜」
 うんうんイリスが頷いている。しかしスる時間なんてあったのか、と樹はまだ立ち尽くしている。茫然自失状態の樹を和馬がポンと叩いた。
「俺達雇うか?」
「今なら半額です」
 神妙に言う佳澄も本気で言ってるのか冗談なのか分からない。だが。
「‥‥勉強料だと思う事にしましょう」
 空はもう茜色だ。