ふぁっしょんしょーっぽいもの 円ちゃん版

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月11日〜05月16日

リプレイ公開日:2005年05月19日

●オープニング

「円ちゃんのバーカッ!」
「尚ちゃんのバーカッ!」
 額を突き合わせて、睨み合い。そして申し合わせたかのように。
「フンッ!!」
 ──いい歳した親父がやる事ではない。


「っていうわけですよ、ギルド員さん!」
 ふんがーと怒り狂った鼻息が荒いこの親父、歳は55のいい歳したオッサンである。ちなみに顔は眉毛も髭も濃くて、鼻もでかい。家では妻に味噌汁をかけ、娘の帰宅時間に文句を言いそうなオッサンだ。──偏見だが。
「ちょっと聞いてますかい、ギルド員さん!」
 胸倉を掴んでガックンガックン揺さぶられ、ギルド員の首は激しく上下する。
「き、聞いてます、おち、落ち着いてっ」
 太く短い体毛の濃い腕を掴み、何とか落ち着かせる。
「た、ただね、円小路さん、あなたまだ依頼内容言ってませんよっ」
 ぴたり。眉毛ボーンな親父が目をかっぴいた。
「ありゃ? 言ってませんでしたっけか?」
 ──言ってない!
 ギルド員は涙ぐんだ。
「つまりね、尚ちゃん、さっき喧嘩したっつぅ幼馴染なんですけども」
「はあ」
 50半ばの親父同士の喧嘩ではないと思うが。
「わしのこの服装が理解出来んっちゅうわけですよ!」
「はあ‥‥」
 ギルド員は曖昧な返事しかしない。ムッとしたのか、円ちゃん、いや依頼人がまた目を吊り上げた。
「あんたもそう思ってんですか!」
 むううっと睨まれ、涙が零れそうになった。
「い、いや、その、個人の趣味をどうこう言うつもりは」
「悪いと思っとるじゃないか!」
 ──言ってない!
 反対はしないが。
「まあ、いい。わしの趣味は京都ギルドの若もんにゃ理解出来んのだろう」
 ふっ。
 笑う円ちゃんに突っ込みは通じない。
 ──それ、本気で言ってるんですか?
「ふん、要するにあんたは理解出来る、趣味のい〜い冒険者を紹介してくれりゃあいいんです」
「‥‥え」
「近所に住む外人さんに聞いたんですよ、わしのような趣味のいい独自の衣装を作り出す人間が人に服着せて、町の中を練り歩かせる習慣があるって」
 ──それはどこの国の話だ。
「何だ、ふぁっしょんしょーとか言うんだったかな? とにかくそれっぽいのがしたいんですわ」
「‥‥つまり、」
 ふぁっしょんしょー(っぽいもの)をするためにこの円ちゃんの服を着る犠牲者、もとい冒険者を寄こせということらしい。

「ふふん。わしの趣味が理解出来ん尚ちゃんには負けんぞー」
 ふぁっしょんしょーは、対戦式。

●今回の参加者

 eb0201 四神 朱雀(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1759 イリス・ブラックマン(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2033 緒環 瑞巴(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2313 天道 椋(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●立て、勇気ある冒険者たちよ
 四神朱雀(eb0201)は初めそういうつもりではなかった。しかし気づけばそうなってたんである。
「ありがとうございます、これが依頼の詳細です、よろしくお願いします‥‥!」
 涙ぼろぼろの顔で両肩を掴まれ必死に頼み込まれると、人は『うん』と言ってしまわないだろうか? 少なくとも朱雀はこの手に弱い。
「わ、わかった」
 ギルド員に無理やり握らされた紙は、謎のふぁっしょんしょーのモデル依頼。

 一方、自分から片足どころか全身突っ込もうとしている冒険者がいた。
 壁に張り出された依頼書をじーっと熱い視線で眺めている女の子二人に、琵琶を持って佇む男が一人。
 お互い金髪の共通点があるからか、はたまた隣で同じように依頼書を見呆けている女の子が気になるのか、緒環瑞巴(eb2033)は思い切って声をかけた。
「ねぇねぇ、あなたもこの依頼出るの?」
「ん? 面白そうだよね〜♪」
 イリス・ブラックマン(eb1759)、イギリス代表として自ら乗り込む気満々。
「じゃあこの依頼、二人で受けない?」
「うん、いいよー♪」
 バリッと依頼書を取ろうとすると。
 がしっ。手を掴まれた。え、と振り返ると、どう見ても瑞巴と同い年くらいにしか見えない男がニコニコ笑っている。天道椋(eb2313)、彼もまたチャレンジャーな性格をしていた。
「それ、俺も出るから」
 べべん♪ 何故か琵琶音楽付き。
 これにて依頼参加者四名決定、ふぁっしょんしょーは否が応にも決行される事になる。

●着るんだ、冒険者たちよ
「初めまして! 依頼を受けたイリス・ブラックマンで〜す♪」
 朱雀の隣、頭一つ分下に輝かんばかりの笑顔で笑う仲間がいた。反対側に立つ端巴も物怖じせずに依頼人に握手を求めている。椋も特に逃げる気はなさそうだ。
 ──これが、今回の依頼人‥‥。
 朱雀だけはかなり顔色を失っている。
「今回は円小路さんの考えた服が着られて嬉しいです〜♪ 僕、見事着こなしてみせますよ!!」
「一体どんな衣装が出てくるのか楽しみだよね」
 素肌に鎖帷子、何故か膝丈しかない袴からにょっきり浅黒い足を覗かせた男を前に、どうしてイリスと端巴は正気でいられるのか? 朱雀にはわからない。

「どうだ、ン? カッコイイ衣装だろ?」
 円ちゃんが見せびらかすように服の山を積み上げた。
 冒険者ギルドから直行して彼の家に集った冒険者は、驚きのあまり声も出ない。朱雀が震える手で一枚のチャイナドレスを摘み上げた。
 ──スリットが16箇所も入っている。
 それはもう足チラリどころか見えなくていい所まで見えそうな勢いだったが、それより問題は上半身部分の生地が半分しかない事だろうか。問題点があり過ぎてどこから突っ込めばいいのか困る。
 冷や汗の中ちらりと他の冒険者を見てみると、椋は片手に収まる股間隠しを持っていた。着用場所に悩んでいるのか、それとも自分の社会的地位を秤にかけているのか。
「あははは〜これ可愛い〜♪」
 きゃらきゃら笑っている端巴が持っているのは、怪しいレースのブラウス。セクシーさを出したブラウスの胸元と袖・裾部分が全て透け透けのレースに替えられおり、より一層妖艶さを醸し出している。捕まる事請け合い。
「僕これ着てみたいな〜」
 イリスがインドゥーラ化された巫女衣装を手にとって体に当てている。色は萌黄色でとても目に優しいのだが、布がマズイ。巫女緋袴がびらびらのゴシックスカートに変貌を遂げ、上衣が踊り子風胸当て。イリスが着た状態を想像し、朱雀は思わず奪い取って貴族風ジャケットを渡していた。
「止めとけ、似合う年齢になるまで」
「ぶー」
「えー、朱雀ちゃんカッターイ! あっ、でもこれってイギリス風って奴? 可愛いー」
「端巴ちゃんとお揃いで出てみようかな〜。きっと楽しいよね!」
「ねー♪」
 女性二人はとんでもない服を前に楽しそうだ。
「おうおう、気に入ってくれたようだな。『しょー』って奴には、こん中から選んだものを着てってもらうからな。楽しんで選んでくれ」
 ──マジで?
 朱雀はこの部屋に入ってからまともな衣装をまだ目にしていない。
「うーむ。イリスちゃん、この服どこかおかしいとこねぇ?」
 何着か持って隣の部屋へ移動していた椋が帰ってきたらしい。顔を上げると、そこには。
「うわあ、うわあ、椋ちゃんかっわいー!!」
「私も付けるー!!」
「‥‥‥‥椋」
 照れるね、と顔をちょっぴり赤くしつつもノリノリなのは見間違いではあるまい。そこにはセクシーなレザードレス(しかも網タイツてアンタ)にウサ耳を付けた謎の琵琶法師が立っていた。
「これで名前を売れるな!」
「それでか!?」
 嬉しそうな椋に思い切り突っ込む朱雀であった。

●試着タイム
 さんさんと部屋に差し込む陽の光が温かい。けれどそれ以上に熱くなっているのは冒険者達だ。
「椋ちゃんこっちも着てみようよー。あははは〜かわいい〜♪」
「朱雀ちゃんっ。この粋な着流し!! すっごいよー、襟元にボア、腰紐は純白レースリボン! 裾は無限の広がりを見せるフリルだよ!!」
 ──俺が着るのか!?
 中性的な綺麗な顔立ちが仇となったのか。何故かイリスと端巴は妙なものを着せたがる。いや、傍らの男も大概なのだが‥‥。
 ちろ、と衣装を着替えている椋を確認すると、噺家としての血が疼くのか、桃色のナイトウェアに身を包んだ椋がそのまま胡坐をかいて琵琶を奏でている。斜めに切られた裾がセクシィ。
 べべん、べん〜♪ 俺の今のココロはナイトウェア〜。べべんっ♪ 裾から覗く無垢(=椋)な足が貴女を誘う〜♪ べべべべべっ♪
 ──やめれ。
 陽光の中、朱雀は謎のフレアースカートを穿いて遠い目をした。

●ショーでその勇気を証明しろ
「精霊魔法?」
 ショー当日。金髪の女子二名と琵琶法師と恥を捨てきれない男がふと目を細める。
 どんどんと視界を奪っていく霧は明らかに人為的に作られたもの。今にも人前に歩き出そうとしていた面々は、驚いて足を止めてしまった。
「なんっ」
「あ、ああっ! 朱雀ちゃん、椋ちゃん、あれっ!!」
 誰よりも早く優良視覚で見てとった端巴が声を上げた。自分達が乗り出そうとしていた街道のど真ん中が既に誰かに乗っ取られているではないか!
「先越されちまった、な‥‥うっ」
 霧が晴れた中に目を突き刺す虹色の何かが見えた。

 ぴぴっぴぴ、ぴぴっぴぴ〜♪

「なん、なん‥‥」
「サンバだね、楽しそうー♪」
 イリスが目を輝かせた。端巴も同様だ。隣の椋は。──既に琵琶を持って駆け出していた。
 一人二人と仲間が加わっていく様子を見ながら、裾を掴んだ。──仕方あるまい、こうなればショーは対戦でなく合同だ。

「俺も混ぜてくれえぇ!」
 琵琶を持った椋が一番中心で目立っている女に声をかけた。銀髪の極彩色を来た女に。
「一緒に踊るのよ、熱き風にその身を預け、胸に溢れかえるこの情熱を踊りに託して!」
 正気で聞いたら5回は聞き返すだろう台詞だったが、この時は酔っていた。この異国のリズムに。

「にゃはは〜♪ 皆が僕らを見てるね〜♪何だか有名人になった気分だよ〜♪」
 トトトとステップを踏みつつ踊るイリスは上機嫌だ。魂を解放するこの踊りのせいか? ギザギザに切り取られたイブニングドレスは『ちょっとそこで暴行に遭いまして』といった有様だったが、本人は至って楽しそうだ。
「ウサ椋ちゃん、サンバと琵琶って合うねぇ!」
 そんな馬鹿なという事を端巴が言っている。彼女は陰陽師が着そうな狩衣を大胆にも薄いブラウス化したものを着けており、動くたびにお臍がちらりと覗いている。ちなみに下衣はプリーツスカート。若いって素晴らしい。
 椋はもちろんノリノリでギャラリーに向かって琵琶を奏でていた。そんな激しい楽曲がジャパンにあっただろうか。
 ──皆が俺を見ている。
 朱雀は軽い眩暈に見舞われた。自分の黒のレースをベースにした忍び衣装が風になびく。性別を誤解されたのか、踊っている最中に何度も声援を送られた。『可愛い! 後で茶ァしばきに行こうよ!』『いいや今夜俺とデスティニー!』などとわけのわからない誘い文句も山ほど浴びた。
 ──後は、もう、どうにでも‥‥。
 なれ、と思う前にバニーなメイドになっている椋に、バンと肩を叩かれた。
「胸張って堂々と行こうや!」
 ──俺は強くはない‥‥だが弱くもない‥‥。
 何だかとっても泣きたくなった。

●報告
「ぶふふぐぬうううっ」
 四人が依頼終了の報告を届けに来た時、ギルド員が妙な発作を抑えていた。
「大丈夫〜?」
 イリスと端巴はその妙な発作音に驚いて背をさすろうとするが、ギルド員は二人の顔を見た瞬間、またも堪えきれぬと言いたげに笑い出す。
 べべーん♪
 会話代わりか琵琶の弦を弾いた椋に、再びギルド員の発作は起こった。
「ぐ、ぐるじっ‥‥」
「‥‥おい?」
 朱雀が不審げに声をかけると、振り返って丁度目が合ったギルド員は──思い切り笑い転げた。
「‥‥‥‥‥‥」
 冒険者ギルドに妙な沈黙が降りる。
「ず、ずみばぜ‥‥うぶぷっ」
 人の顔を見て笑い出すようなこの男の涙に騙され、自分はあんな依頼を受けたのか‥‥朱雀に消える事のない記憶が蘇る。
 べべ〜ん♪
 合いの手のように琵琶を奏でた椋に、ギルド員の震える指が指した。
「何? 椋ちゃんがどうしたの〜?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥物凄い琵琶法師」
 ぱったし。
 笑い死にでついにギルド員が力尽きた。冒険者四人が顔を上げると、とっさに顔を逸らされる。‥‥まさか?
 ──あのサンバ・ショーは凄かったなぁ‥‥。
 ──ああ、あの衣装は凄かったぜ‥‥。俺にゃ着れねぇよ‥‥。
 ──何たってウサ耳だもんなぁ‥‥。
 ──ああ、サンバのリズムに乗って琵琶奏でてた‥‥。
「‥‥‥‥‥‥‥‥知名度、上がって良かったな、椋」
 朱雀は椋の肩だけを叩いたが、恐らく四人の噂は京都中に広まっている筈である。