ふぁっしょんしょーっぽいもの 尚ちゃん版
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■ショートシナリオ
担当:べるがー
対応レベル:3〜7lv
難易度:易しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月11日〜05月16日
リプレイ公開日:2005年05月19日
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●オープニング
「円ちゃんのバーカッ!」
「尚ちゃんのバーカッ!」
額を突き合わせて、睨み合い。そして申し合わせたかのように。
「フンッ!!」
──いい歳した親父がやる事ではない。
「ってなわけなんでございます」
けろり、とひょろ長のおじさんはそう言った。見た目は50過ぎといったところか。青白い顔と着物の下の肌は白い。何か病気もちのように見えるのは気のせいですか。
「‥‥あの」
「何でしょう?」
「まだ事情、話して頂いてないんですが‥‥」
おずおずと切り出したギルド員に、あらま、と依頼人のオジサンは目を見開いた。
「言ってませんでしたっけ?」
「言ってませんっ」
まだ、要領の得ない喧嘩話しか聞いてない。
「幼馴染の円ちゃんと喧嘩したんですけどね」
──それは聞いた。
「私、どうしても円ちゃんの趣味が理解できないんでございます」
「‥‥は? はあ」
「服の趣味なら私の方がいいに決まってるでしょう? ねぇ?」
「‥‥えっ」
即答は出来なかった。
「む。貴方も理解出来ないなどと仰るんですか」
「はあ‥‥いや、その」
「いいんですよ、別に貴方は理解出来なくとも。私の趣味は高尚ですので」
断言した。
「あ、そ、それなら依頼は‥‥」
「だから。どちらが趣味が良いのか。それを対戦して決めよう、と言っているのです」
初耳だ。
「そ、それで」
「だから。何人か、私の趣味を理解出来る方を寄こしなさいと言ってるんです」
『ふん、理解しない人ですね』
ギルド員は声なき声を聞いた。
「近所に住む外人さんがいらっしゃいましてね。その方が、趣味のいい、私のような人間の独自の衣装を人に着せる大会があると仰いましてね。町を練り歩かせるのだとか」
──それはどこの国の話だ。
「確か、ふぁっしょんしょーと言うのだとか」
ギルド員も詳細は知らないので、否定も肯定も出来ない。
「そのふぁっしょんしょーをするために、人手がいるのですよ」
『わかったか?』
そう言いたげな視線だった。
「う、つ、つまりそのふぁっしょんしょー(っぽいもの)をするために犠牲者、あわわ」
鋭い眼光にそれ以上言えなかった。
「ふん。私の趣味など大会をすれば一目瞭然です。円ちゃんが出るのなら尚更、ね」
ふぁっしょんしょーは、対戦式。
●リプレイ本文
●立て、勇気ある冒険者たちよ
「このお仕事受けるとジャパンの衣服が着られるですか? それはぜひとも参加したいです♪」
ぱあああっ、と光り輝くようなアミ・ウォルタルティア(eb0503)の笑顔に、ギルド員は目を潰される思いがした。
白い肌、金髪の髪、碧の瞳。確かインドゥーラから来たばかりで、ジャパン知識が曖昧だと聞いていた。そんな純白な彼女にこの仕事を振ってしまった事を後悔しかけたが、尚ちゃんの怒る顔が脳裏に浮かび、つい『じゃ、宜しくお願いしますね』と言ってしまった。
「楽しみです♪」
視界の端にニコニコ笑っているアミが映ったが、ギルド員は極力見ないようにした。
「ふぅん、異国風の派手な衣装ねぇ‥‥」
そしてここにも謎のふぁっしょんしょーに片足を突っ込みかけている女が一人。御堂鼎(ea2454)だ。
張り出された依頼書に目を通している。物々しい化け物退治依頼がひしめく中、その依頼だけは異彩を放っていた。
──面白そうじゃないか。
くすりと笑うと、冒険者が軒並み無視していくその依頼書を手に取り、引き剥がした。
「あれ。結構少ないわね」
藤浦圭織(ea0269)が集合場所まで来た時、先客は四人しかいなかった。モデルは最高八人だったと思うが、ひょっとして逃げたのだろうか? 依頼人の色彩感覚はもはや人間じゃないとギルド員から聞いている。
──私は楽しみなんだけどね‥‥っと、あのざわめきは?
町人のどよめく声が聞こえる。モデル仲間も何事かと声の出所を探す。
「いくら私の衣装のセンスが宜しいからといって、騒ぎ過ぎにございます。周りの方に迷惑がかかりますから、離れてご覧下さいな、ほほ」
高飛車な男の声と共に、冒険者の目の前から人垣が割れていく。そして現れたのは。
「貴女方が冒険者ギルドの方々ですか? ふぅむ‥‥少し地味な召し物のようですが、まぁ宜しいでしょう」
やたら顔色の悪いひょろっとした男が、自分達を値踏みする。直後圭織の背後で誰かの荷物が落下した。
──凄ッ!!
レイン・フィルファニア(ea8878)、物凄く正直な感想。
●着るんだ、冒険者たちよ
「ふみ、これが今回の衣服ですか?」
積み上げられた服をアミがしげしげ眺めている。彼女はインドゥーラ出身というから、自国の衣装を探しているのだろうか?
「‥‥ジャパンの衣服、色合いが不思議ですねえ?」
彼女の手には、黄色と黒で彩られたセクシーランジェリーが握られていた。警告的な印象を受けるのは何故だろう?
──うん、こんな下着、私も初めて見たわー‥‥。
圭織も激しく納得した。エチゴヤがこんなものを売り出したら確実に消費者にボコられるだろう。
「ふぅん‥‥色は派手だけど、服のセンスはいいんだねぇ?」
鼎が綺麗に裁断されてあるチャイナドレスを手に取った。アミが握り締めている下着は警告色だが、他にもバラエティはたくさんだ。保護色、目潰し、原色、だんだら、何が原料かわからぬ怪しげな発色のものまである。ちなみに鼎が手にしているのは、苔色に紺色と橙色が混ざった薔薇模様。見ていると気分が沈む不思議カラーだ。
──『もでる』は圭織、アミ、レイン‥‥ね。皆可愛いじゃないか。
ふと口元に笑いが浮かぶ。これだけ若い女が集まったんだ、少しは遊んだっていいだろう?
「尚、せっかく、もでるってやつにこれだけ綺麗所が揃ってるんだ。もっとこう服のデザインは艶っぽくしたらどうだい?」
ふぁっしょんしょー、尚ちゃんサイド、鶴の一声でお色気路線に決定。
●宣伝活動
「兄さん、綺麗に着飾った娘は好きかい?」
鼎が酒瓶片手に酔った男達に話しかけている。赤ら顔の男達に『もちろん好きだ』と声を上げさせると、手前の男に酒を注いだ。
「じゃあ四日後に来てご覧よ。‥‥ふふっ、いいものが拝める筈だよ」
鼎のこの台詞のおかげで、夜の盛り場ではふぁっしょんしょーの話が瞬く間に広がった。
「うちの旦那、昨夜遅くに帰って来たと思ったらね、何かおかしな事言ってるんだよ」
「あ、アンタんとこも? ウチのも言ってるよ! 何だったかねぇ、ふぁ、ふぁ、何とかっていう‥‥」
「ふぁっしょんしょー」
「そう、そのふぁ‥‥っはい!?」
井戸端会議の奥さん達が、ぎょっとしたように背後を振り返る。髪を後ろ一つに纏めた女性が、颯爽と去っていくところであった。
「あ、あの人誰だい‥‥?」
実はモデルの圭織だったりする。
●ショータイム
試着期間は瞬く間に過ぎ、ショー当日となった。
ちらしまで張りまくった圭織と夜な夜な酒場に繰り出して話題を広めた鼎、更には情報屋としての耳と口を活かしたレインのおかげで、何故か朝から街中に繰り出して今か今かと待っている連中は多い。
「多くの人が居る大きな通りをみんなで歩けば、きっと注目されると思うですよ? 楽しくにこにこ笑顔で歩きましょうです♪」
どの通りが一番人が集まりやすいだろうかとかリサーチ済みのアミが全員に報告している。今回レインは『どうせやるなら派手にやりたいじゃない?』などと言い出し、大掛かりな演出を考えているためこの下準備はありがたい。
「円ちゃんが来たようです、頼みましたよ皆さん!」
依頼人が出番を告げに来た。
「了解。じゃ、まずはコレからね」
──ミストフィールド。
すー、と自然にスモーク代わりに使った霧が引き始めると、目を一気に奪う色が飛び出した。
その人を混乱に叩き陥れる服に目を奪われた観客は、吸い寄せられるように彼女達『もでる』の動きを見守る。目を閉じていた彼女達がゆっくりと見開く。
ぴぴっぴぴ、ぴぴっぴぴ〜♪
誰がどこで笛を吹いたのか。ジャパンにあるまじきリズミカルな音楽。それに乗って彼女達は舞い始めた。
──そう、それはココロ揺さぶる大地の踊り。神秘の踊りサンバ。
「何っじゃこりゃああ〜!!??」
ギャラリーから悲鳴が漏れている。レイン達は気にするでもなく、霧の晴れた広い街道のど真ん中で陣営を組んで踊った。
「うふっ‥‥それっ!」
圭織がスリットが大胆に入ったチャイナドレスで大胆な投げキスをする。おおっ、と観客がどよめく。取れもしないものに手を伸ばしたのは哀しい男の性か。その様子に微笑を返し、去り際に細い指先で髪をかき上げて白い項を披露する。露出した足もサービスだ。‥‥銀地に桃色というどうしようもない龍の刺繍が入っていたが、気づく者はいなかったようだ。
「ふふ‥‥あんたも虜かい?」
怪しげな言葉を囁きながら鼎が襟ぐりの広い胸を張る。豊満な胸でそれは犯罪と言ってもいいほどで、腰砕けになった男達に流し目でトドメをさす。ぶっ倒れた男達も一人や二人ではない。それを見てまた鼎は艶やかに笑った。
「あっ、あれはあちらのモデルさんですか?」
アミが短いフレアスカートを翻しながら指を挿した。敵だった冒険者達がこちらに向かって駆けて来ていた。
「俺も混ぜてくれぇっ!」
飛び込んできた男にレインがニッコリと笑顔を返す。その男は摩訶不思議な格好をしていたが、今はこのリズムのせいか全く気にならない。
「一緒に踊るのよ、熱き風にその身を預け、胸に溢れかえるこの情熱を踊りに託して!」
──そんな台詞を言っちゃったのもきっとこのサンバのリズムのせいだ。
●ショーの後に残ったものは
「えーと」
たらりとレインの額に冷や汗が伝った。つい先ほどまで一緒に踊っていた仲間達も今は踊りを止めて微動だにしない。途中参戦してきた円ちゃん側のモデルも同様だ。
「‥‥円ちゃん」
「‥‥尚ちゃん」
二人の依頼人はすっかり人気のなくなった街道を見て呟く。何人飛ばされてしまったのだろうか、と。
「えーと」
べべん、と隣で謎の格好をした(正気に返ると仰天した)琵琶法師が弦を弾く。確かに魔法を繰り出したのは自分だが、逃がすつもりはない。一蓮托生、その耳に生えている長いウサ耳を掴んで放さない。
「‥‥ごめんなさい」
レインは謝った。ギャラリーを全て吹き飛ばした事を。
サンバの魂を解放する踊りとは恐ろしい。花に見立てた粉雪を降らそうとした筈が、つい全力でアイスブリザードの呪文を唱えてしまったのだ。結果、観客まで舞い散った。
「大体、尚ちゃんがこんなセンスの悪い冒険者なんか連れて来るからだっ」
「な、何を!?」
確かに自分の着ている極彩色のクレリック風衣装(通常は無地)は悪趣味だ。むしろ神を冒涜していると言ってもいいだろう。何たって極彩色。でも。
「そちらのエプロンドレスは何ですか!? このウサ耳は!?」
琵琶法師がべべん、と返事した。一見童顔に見えるこの男、実は成人男性という。レインも一緒に踊った事が信じられない。
「尚ちゃんが!」
「円ちゃんが!」
「あんたら、才能の方向性が違うんだから、非難しあうんじゃなくって補い合ってみな。追随できるやつなんていやしないよ」
呆れたように鼎が間に入った。
「一緒にやれですって!?」
いきり立つ依頼人に、そう、と頷く。
「これだけ京の町衆の反応が凄かったんだ‥‥今は飛ばされちまったけど。尚と円が協力しあったら、さぞとんでもないのが出来上がるんだろうねぇ」
「そうです、依頼者さんだけでこんなに凄いんですから、相手の人と一緒だと、もっと凄くなる気がするですよ?」
微妙な褒め言葉を吐いたのはアミだ。
「そ、そうですかね‥‥?」
「そうそう、だってホラ、皆すっごく注目していたし!」
レインも慌ててフォローする。実はさっきのアイスブリザードの事は早く忘れて欲しいのだ。
「わかりました‥‥では、次の『しょー』の時は」
「考えさせて下さい」
レインは即答していた。