病気の母のために

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月16日〜06月21日

リプレイ公開日:2005年06月24日

●オープニング

「えっと、ほしいのはイケてるおとこのひとと、おとこをだますようなましょーのおんなと、えむてきなそしつをもったおとこと、もえちゃうおんなのこなの」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 ──最近の幼児教育は失敗してるんだなぁとギルド員は思った。
 ギルド員の前にいるのは、ちっちゃな女の子。五つかそこらだろうか? 長い黒髪に赤いリボンが結んでいる。顔も整った日本人形のようだ。
「ちょっと、きいてるっ?」
 ──しゃべらなければ。
「お嬢ちゃん、あのね‥‥どこでそんな言葉覚えてきたのか知らないけど、滅多な事でそんな言葉使っちゃいけないよ」
 首を振って言ってみたが、女の子は唇を突き出して非常に不満そうだ。
 しかしやはりギルド員はこんな可愛らしい子に怪しげな言葉を言って欲しくない。さっさとお引取り願おうと女の子の背を押した。
「さ、お家へ帰ってお母さんに絵物語読んでもらいなさい」
「ちょっとぉっ!」
「お、おおこんな所に!」
 何故か第三者が乱入し、ギルド員はギルドの出入口で立ちすくむ事になった。
「お嬢様、こんな所にいらっしゃったんですか!」
「じいっ!」
 一人のお年寄りが、足をがくがくいわせながらついに女の子の前に座り込む。女の子はその顔を覗き込んだ。
「ちょうどよかったわ。じい、このわからんちんなぎるどいんをせっとくして!」
「わ、わからんちん‥‥」
 何故かショックを受けた。
「ぎ、ギルド員さん、どうか、どうかお嬢様のお願いを聞いてあげて下さいまし!」
 しかも何故か足腰弱そうなお年寄りに涙ながらに縋られるのだった。
「どうか、どうかお嬢様のために、イケてる殿方と男を騙す魔性の女と、M的素質を持った男と、萌える美少女を!」
 やはり大人から聞くと一味違うなぁとギルド員は思った。

「その子の母親が病気?」
「はい‥‥」
 ギルド員は結局二人から話を聞く事になり、涙ながらに話す年寄りと何か絵物語を持った女の子を前に、困っていた。
「お嬢様が病床にいる奥様にぜひ演劇を見せて差し上げたいと。それで役者を募りたいと仰ってるんでございます」
 いい話ですねぇと爺は涙を拭った。だが待て、納得出来ない点がある。
「それで何でイケてる男と魔性の女とM男と萌え系美少女なんだ?」
 自分で口にし、自滅する破目になった。
 しかしその演劇、病床の人間に果たして見せていいものなのだろうか。ぶっちゃけ健全なのか?
 爺と呼ばれた老人は目を細め、何かを思い出すように微笑み傍らの少女の頭を撫でた。
「お嬢様が眠る前、必ず奥様が読ませていた物語なんです‥‥」
 それってどうなんですその奥様。

●今回の参加者

 ea3096 夜十字 琴(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0503 アミ・ウォルタルティア(33歳・♀・レンジャー・エルフ・インドゥーラ国)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1048 グレン・ハウンドファング(29歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1320 三剣 琳也(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2508 ブルー・サヴァン(18歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ミラルス・ナイトクロス(ea6751

●リプレイ本文

●舞台裏
「夜十字琴(ea3096)です。精一杯頑張ります‥‥」
 ぺこんと頭を下げた少女の更に下、じーっと彼女を見上げていた依頼人の童女が頷く。
「もえるおんなのこね、ごうかくよ」
 ホッとした雰囲気が漂う。詠子は次に、『いけてるおとこはあなた?』とグレン・ハウンドファング(eb1048)の足を掴む。
「違う。私は琴君の父親役だ。イケてる男役は」
「お母さんのために、頑張って演じるですね♪」
 アミ・ウォルタルティア(eb0503)が男装する事になっている。キョトンとしていたものの、童女は反論するでもなく頷いた。意外に素直だ。
「M的男役は僕だよ、よろしくね♪」
 カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)が詠子の目線に合わせると、
「ふっ。ぴったり」
 笑った。
 しゃがんだまま固まったツヴァイを放置し、最後の主要女優を確認する。
「おとこをだますましょーのおんなは? ちょっとわかいけど、あなた?」
「あははー、ハズレー♪」
 レベッカ・オルガノン(eb0451)が傍らの少女を指す。ブルー・サヴァン(eb2508)、齢は十五歳。
「ええっ、まだこどもじゃない! だってそのむねとかむねとかむねとかむががっ」
「えーとそれじゃ早速練習始めますかー」
 三剣琳也(eb1320)、円滑な依頼運びにすべく詠子の口を封印。ナイス・フォロー。

●そして幕は上がる
 準備の整った広い和室は布団を敷いた母と傍らに寄り添う娘の姿だけ。
 襖を開けて隣の部屋から出てきたのは、見た目怪しすぎるレベッカの姿であった。彼女は今回、天の声担当である。
「昔々、ある所にイケてる男がいました‥‥」
 ──そう、それはイケてる男が小さな女の子を好きになったお話。

「さあ病気の父上に、ご飯を持って行きましょう」
 十ほどの小さな女の子・琴が父の元へと走っています。
「あきゃあ!?」
 こけました。こういう子はドジっ子だと相場は決まっているのです。
 そして、その一部始終を見つめて胸を押さえているイケてる若い男。年下の少女に熱烈フォーリンラブしてしまった瞬間でした!
 涙を堪え、それでも走り出した少女を見送り呟きます。
「ああ、何と可憐な娘さんなのか‥‥!」
 どうやら年齢差には支障を感じていない様子。
 それはともかく、この少女には貧しさのあまり医者に見せる事も叶わぬ病気の父がいました。
「父上っ!」
 ぐほぉっ。
 少女にとってたった一人の肉親、たとえ病身の父でもコミュニケーションは怠りません。
「な、ナイスタックルだね琴‥‥」
 涙ぐんで咳き込んでいるのは恐らく娘の激しい挨拶のためだと思われますが、娘は気にしません。『てへっ』と可愛らしく笑顔です。
「さあご飯を食べましょう」
「娘やいつも済まんのぅ‥‥ごほごほっ」
 ああ、何て健気な親子なんでしょう! しかし、そんな彼等に不吉な影が‥‥。
「オ〜ッホッホッホ!」
 高飛車な笑いで登場した彼女、下僕の男をはべらせた魔性の女であり、この親子に金を貸している金貸しです。
「そろそろお金を返してもらおうと思ってね。胸はないけど自信はありあまってるブルー様が怒る前に出した方が」
「お黙り、ツヴァイっ!」
 げしっ。余計な一言を発した下僕が蹴られています。どうやら禁句を敢えて言った様子。そう、彼はマゾ気質なのです!
「ああっ、胸のないブルー様お許しをっ」
「ええい、わざとなの! このっこのっこのっ」
 げしっげしっげしっ。主従の熱い営みを前に、親子は呆然としています。
 ‥‥おや、そんな彼女達を影から見守る怪しげな男が。
「うんうん。やっぱりブルーは可愛いなぁ〜♪ ははははは」
 あまりにも至近距離から見守っていたため、さすがの魔性の女も目が点です。
「‥‥兄様?」
「ブルーは今日も元気だね〜。あ。こんにちはカヤ君。いつもブルーがお世話になっています」
「あ、こんにち‥‥ってカヤ?」
 踏む女と踏まれる男と踏む女の兄。異様な光景です。しかもマゾな彼から怒りのオーラが。
「カヤって呼ばないでって言ったよね!?」
 何気に精霊魔法の呪文を紡いで吹っ飛ばしてしまいました。あーと遠のいていく声が距離を物語っています。窓が開いていたのが彼の不幸だったのでしょう。
「ついでにもう一発!」
 何故、一体どうして。病身の父が一体何をしたというのでしょう、多分私怨で彼もまた吹っ飛ばされてしまいました。
「ちっ、父上ー!!」
 娘は当然泣き叫びます。錯乱のあまり心臓マッサージと人工呼吸を同時にしてしまいました。足が痙攣していますがそれはきっと元々の病気のせいでしょう。
「やめろっ!」
 人工呼吸で止めを刺していた娘に言ったのではありません、イケてる男は魔性の女に向かって言い放ちました。
「彼女に酷い事はさせない!」
 むしろ今現在人工呼吸で殺されかけている父が酷い事をされているのですが、そんな事を気にしていたら話は進みません。父の足の痙攣と呼吸が止まったところで話は再開です。
「しっ、死んでしまいましたー!!」
 わあっと泣きだしたのは仕方ありません、だってたった二人の家族だったのですから。この際誰が止めを刺したかなんてどうでもいいのです。
「ああ可哀想に! 大丈夫かい?」
「は、はいっ」
 何故か急に手を握りいい雰囲気を作る若い男と十の少女。間には父の死体を挟んで両想いになろうとしています。
 と、そこへ。
「うわあっ」
 二人の仲を邪魔するようにツヴァイがスライディングしてきました。父上、下敷き。
「ふんっ」
 魔性の女、何が気に食わないのか下僕を蹴飛ばして二人の邪魔をしました。そのまま少女に向き合います。
「忘れないで頂けるかしら、貴女がまだ借金持ちだって事。お金が払えなかったら体で払いな!」
 ぐぅりぐりと足元のツヴァイを踏みつけながらにやりと笑んで断言しました。もしや十ほどの少女を売り飛ばすつまりでしょうか? 何て過酷な運命! 父は今亡くなったばかりなのに!
「うんうん。やっぱりブルーは可愛いなぁ〜♪ ははははは」
 何故かグラビティーキャノンをくらっても復活してきた魔性の女の兄、琳也。顔が血だらけなのは気のせいでしょうか? 笑顔で窓枠にしがみついている様はホラーです。
「金は私が返そう! 必ず!」
 感情を大きく表すあまり、下にいたツヴァイと父を踏みつけにしてしまいましたが、それはともかく二人の恋に訪れたピンチ。この後彼等はどうなってしまうのでしょうか?

●物語は迷走する
「ふふん、いい加減にしないともっともーっと嫌がらせしちゃうよ!」
 魔性の女の言う事を聞き、下僕が毎日アミと琴の二人の前に現れます。しかも何か彼には憑いていました。
「‥‥あの〜」
 琴がおずおずと後ろを指差します。
「彼女を救うためなら、私はどんな事だって耐えられるだろう‥‥しかしこの視覚的暴力は!」
 アミ、絶叫。ツヴァイの背後には何故か長弓を構えた半裸の父がへばりついています。目の錯覚だと思いたい。思いたいけれど彼はニッコリ笑っていました。
「萌え萌え〜」
 しゃべるんだ! と、大いにのけぞりましたが、彼は恐らく背後霊となり琴を見守っているのでしょう。多分。きっと。
 一方、実はイケてる男に横恋慕していた魔性の女は涙を流して身を捩っておりました。
「私達は結ばれぬ運命、これが許されぬ恋」
 よよよと泣いておりますと、やはり怪しい笑顔の兄登場。
「あの二人を優しく見守ることも、美しい愛なんだよ‥‥」
 心配のあまり至近距離で囁いていますが、あまりの鬱陶しさに同心に連れて行かれても魔性の女は黙っていました。
「え? いえ、私は怪しい者ではありませんよ。私はただあそこにいる可愛いプリンセスを見守っているだけです。ははははは」
 全然説得力のない台詞が遠ざかっています。
「ああ! 可愛いブルー! 私がいなくなっても強く生きていくんだよ。私はいつでもブルーを見守っているよ〜!」 
 実らぬ恋は兄が捕縛されても盲目のままでした‥‥その光景を見るまでは。
「‥‥ツヴァイ?」
 マゾのMはマッドのMでもあったのでしょうか、イケてる男の元に戻った時は半裸の父をボコボコにしてしまった後でした。
 仕方ありません。
「最後は私が相手だよっ!」
 占い師乱入。右手には占い用カードを指に挟み、左手には占い用水晶。一体何をするつもりだレベッカ。
 何故か最後になって対峙したのは魔性の女と占い師。
 そこへ。
「うんうん。仲良き事は美しき哉。いや〜。愛って,本当に良いものだね〜♪ ははははは」
 奉行所に連行された筈の兄が舞い戻ってきた。取り調べがある筈なのに、何故。その笑顔はもはやサスペンス。
 はははははと琳也の笑い声が響く中、俳優達が沈黙する。
「もう、どうでもいい‥‥詰まる所、愛は勝つのさ」
 魔性の女は抱き合って震えているイケてる男を見て呟いたのでした。

●舞台裏再び
「‥‥おかあさま」
 黙って閉められた襖を見て、詠子は手にしていた絵物語を取り落とした。あの演劇を見た後では拾う気にはなれない。
「なに?」
 言いつつ母は布団に突っ伏し肩を震わせている。母は青白い顔ではなく、高潮した赤い頬で涙を流していた。
「もうこのものがたり、ねるまえによむのやめるわ‥‥」
「ぶっくっく」
 酷い母親は演劇によってやっと物語を理解した娘の様子に爆笑していた。