波に乗れ町内会
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■ショートシナリオ
担当:べるがー
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや易
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:07月04日〜07月09日
リプレイ公開日:2005年07月12日
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●オープニング
「あっついですよねー‥‥」
「ええ、ホントに‥‥うちなんか、最近火ぃ使った料理見てないっすよ‥‥」
「ふふ‥‥」
「ははは‥‥」
大丈夫なのだろうかこの人たち、と京都冒険者ギルドのギルド員は思った。徒党を組んでやってきたおじさん達は、何故か遠い目で語りだしている。
話し始めて早一刻。依頼の話はどこへ消えてしまったのだろう。
「そういやぁ、子供たちも着物脱いで遊んでましたよ、さっき‥‥いやぁ、若いっていいですなぁ‥‥」
「はは、ほんとに‥‥」
「私らがやったら即女性に騒がれますからな、ふふふふふ‥‥」
話が進まない。しかも全員目線が合ってないのが気になる。それで会話が成立するのか。
「あの、依頼なんですけどー」
若いギルド員の男がイッちゃったおじさん達に声をかけると、『依頼‥‥?』と不可思議な反応が返ってくる。
ここんとこ暑さでヤラレちまった客ばかりで困る。若手ギルド員は溜め息を吐いた。
「依頼ですよ、依頼。町内会のどうの、って言ってたじゃありませんか。そのために来たんじゃないんですか?」
言うと、やっと『あー』と返事が返ってきた。それでも物凄く間延びしている。
「いや、最近暑いでしょう?」
また飛んだ。
そう思ったギルド員は『京都の夏なんて』と窓から見える外に目をやったが、ちゃうちゃうとおじさんは言う。
「うちの嫁もね、子供らもすんごい夏バテてるんですわ。夏本番はこれからなのにね。私も職場ではもー、意識飛びっぱなしで」
ははははは、と笑う。
笑い事だろうか。
「うちわじゃ飛ばないこの暑さ、みんなで海でも行ってスカッとしようってね」
「そーそー、こう暑くっちゃね、海でも行ってパーッ! と泳いで一度スッキリしないと耐えられませんわ」
「だからね、町内会のメンバー引き連れて、海でイベントやって欲しいんですわ。費用はこっち持ちますんで」
だれ〜ん、となったおじさん達は言った。
おじさんおばさん子供に年寄り、そんな混合メンバー引き連れて、海でちょっとしたイベント。考えるだけでちょっと楽しい。
「でもそんなあやふやな‥‥」
ギルド員は困る。何て言って声をかければいいのか。
その様子を察したおじさん達は、じゃあね、と条件を突きつけた。
条件
1.海の中で楽しむイベント一つ
2.砂浜で楽しむイベント一つ
3.救護班の用意(お年寄りも子供もいるため)
4.イベントが面白くなければ金は払わない(娯楽依頼のため)
「‥‥こんなの誰が受けてくれるんですか」
若手ギルド員はおじさん達が去った後、己が作った依頼書を見て溜め息を吐いている。なんてアバウトな依頼だろうか。しかも面白くなければ報酬は支払わないなどと。
「全く、もう少し自分達で考えてくれればいいのに‥‥」
やはり脳の溶けた親父どもは使えない、とギルド員は思った。
●リプレイ本文
●溶けた脳に海開き!
──黄泉兵との決戦も何とか一段落つきましたし、このような息抜きの依頼も良いですね。
日下部早姫(eb1496)は照りつける太陽の下歩く人々を見つめ、汗を拭った。まだ七月というのに京都のこの蒸し暑さ! 脳が溶けてしまいそうだ。蜃気楼すら見えそうな気がしてきた時、冒険者一行は本当に幻を見た。
「遅かったな、迷わなかったか?」
青い空、輝く太陽、白い褌。突如視界に飛び込んだ笑顔満面な男に、海にやって来た冒険者達は思わず荷を取り落とした。後ろに続く町内会の参加者も唖然呆然。その男に思い切り見覚えのあったカヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)と菊川旭(ea9032)が引きつった時、長い赤髪の女が手荷物を武器に殴り飛ばした。青空の下男が一人飛んでいく。
「場所取りは出来たようだな」
旭が淡々と日除けのテントを張り始める。『さっきのは幻』と思う事にした模様。
「しかし暑いですね、こう暑いとなんだか体が融けてしまいそうです‥‥」
「華国も暑ぅおしたけど、京都も負けへんわ‥‥ってふふ、本当に溶けてますえ?」
文字通り溶け始めるグリューネ・リーネスフィール(ea4138)に、それを見ておっとり笑う香辰沙(ea6967)。子供の悲鳴が各所で上がったが、暑さで溶けてる脳には到達しない。それどころか父親達は別のものを見て奇声を上げていた。
「ふうっ、このごろ暑いわよね〜。で、海水浴? 暑さを飛ばすのには、ちょうどいいんじゃない?」
ぱさっ、と砂浜に着物を落とした逢須瑠璃(ea6963)の白い肢体が親父共の目を釘付けにする。 布を胸に巻いていてもその豊満な胸を収めきれず、露出を隠してる筈の布はちらちらと見える足で男心を挑発する。何よりその艶やかな微笑みが悩殺ものだ。
「はいそこ、女の子の体ばっかり見てないでこっちも見てね〜」
ツヴァイが声をかけると、ここまで来るだけでへばっていた一行がへ? と間抜けな顔を向ける。辰沙とグリューネが海に飛び込んだ。
次に海に上がってきた時にはイルカとシャチの姿。もちろん何の生物かは分からないが、人の身から海の生き物へと瞬時に変わったのはわかった。
「何、どんな魔法!?」
瞳をキラキラした子供達がそれぞれの冒険者の足元に絡みつく。掴みはOKだ。
「泳ぐだけが海じゃない‥‥ってね!」
えいやっ! とディーネ・ノート(ea1542)が精霊魔法の呪文を紡ぐ。目の前の湯のみに入ったお茶が絶妙な硬さで凍りついた。
「ほら、この炎天下の下砂浜にいるのは暑かったでしょ?」
「冷たい‥‥お水もあります」
ディーネと共に水の精霊魔法を用い、柳花蓮(eb0084)が冒険者の海の生き物ショーに興奮していた子供に配って廻る。こんな暑くて気持ちが高ぶった時には白湯など飲んではいられない。
ツヴァイが海の真上に浮き上がり、海の水で輪っかを作る。その中にイルカに扮した辰沙が飛び込む。海中ではシャチに扮したグリューネが手毬を体に乗せてすいすい泳いでいる。凄い! と歓声を上げ気を取られている人々を横目に、冒険者達は彼等を驚かせるために更なる準備をする。
「次は地引網じゃ。昼がかかっておるぞ」
紅麗華(eb2477)が母国のミニ民族衣装を着て男達の前に立っている。男達はあくまでそのすらりとした足に見惚れていたが、麗華の薔薇色の目に射抜かれると、すごすごと網を引き始める。
「ほれ、もっと腰を入れて引かぬと魚が逃げるぞぇ」
普段地引網に慣れていない男達が、失敗に笑いながら網を引く。合間に偉そうに命令してくる麗華の台詞にも思わず笑ってしまった。脳が本当に溶けてしまったのだろうか? 何故かめちゃくちゃに楽しい。
「‥‥おい、女性陣はいいにしても、何でツヴァイ殿が手伝わない?」
朝から力仕事をずっと担当している旭が、麗華と一緒になって音頭を取っているツヴァイを見て呟く。空中から落下した時にわざわざ自分の頭上へ落ちてきたのも納得がいかない。
「え〜? だってほら、僕は力仕事向かないし。旭君二人分よろしく♪」
可愛らしく肩を叩いてくる自分より年上(の筈)の男を見て余計に脱力した。‥‥これは絶対暑さのせいではない。
「‥‥冬狐殿」
字冬狐(eb2127)が子供達を引き連れ戻ってきた様子を目にし、捌いた魚を手にした麗華が首を振る。
「え‥‥何ですか?」
自覚のない冬狐は両手に子供の手を繋ぎ、黙って視線を逸らしたツヴァイと旭の様子に首を傾げ、食い入るように自分を見つめるおじさん達に首を傾げる。何だろうか、目が血走っている気がする。
ディーネが『あっちゃあ〜』といったように顔を手で覆い、日陰で水分補給係をしていた花蓮が鉈を振り下ろした。指差し、一言。
「透けて‥‥見えてる」
その感情のない突っ込みに、冬狐は笑顔のまま考え、三拍置いた後、子供の手を振り切って駆け出した。
透けて、見えてる。それは‥‥。
「もったいねぇええええ!!!」
微妙に肌色に透けた背中を見送り、おじさん達は奥さんに殴られる覚悟で叫んだという‥‥。
「お姉ちゃあん、さっきみたく遊んでよ〜ぉ」
少年少女が冬狐の体にまとわりつく。着ていた肌着は冗談にならない程透けてしまっていた。冬狐が困ったように微笑み返していると、『それっ』という声と共に冬狐と周りの子供達に水がかかった。
「ひゃあっ!?」
冷たい感触に、子供達が目を瞬かせる。冬狐の着物も乾いた部分がついになくなってしまった。
「る、瑠璃殿!?」
髪を頬にへばりつかせ、攻撃を仕掛けてきた瑠璃を見る。透けるのを全く気にせず、それどころか一層伸び伸びとした動きで太陽の下彼女は笑っていた。
「あら? ごめんなさい〜でも色っぽいわよ」
くすくすくすと笑い声は響く。全く反省の色はなかった。
「ひあっ‥‥ま、また見られてますっ」
浜にいるおっさん共がじとーっと冬狐の透けた着物を見ていた。涙ぐみながらどんどん海に沈んでいく冬狐。より一層透けてしまうのだが、それにも気付いてはいない。海辺で子供たちと砂山(限りなく実物に近い京都御所が築造されている)を盛っていたディーネは呆れたように見守っている。
「はあー‥‥気持ちいいですね」
日差しは強いのに、海の中に入っているととても心地よい。ボケていた頭が嘘のようだ。早姫の台詞に、すがってくるおっさん達を適当にあしらっていた麗華も頷く。辰沙もおっとり頷いた。
「普段出来ひん事ばっかりやと思うから‥‥楽しんでくれたらええなぁ」
「‥‥そろそろ宝探し、始めましょうか」
グリューネの瞳には、旭が海中でツヴァイにおんぶお化けされながら溺れている姿が映っていた。
「えーっと、じゃあそろそろ宝探し! しよっか?」
いやはや溺れちゃったよーみたいな明るいノリで、ツヴァイは司会者に戻っている。背後でゲホゲホいっている旭に視線が集中した。
「うーん、あたしらはもう疲れちゃったから‥‥子供達だけでいいんじゃないかい?」
奥さん方が、そろそろ疲れたねぇと言い合っている。おっさんは完全に冬狐と瑠璃の好け着物に集中し、子供は蜘蛛の子を散らすように駆け出した。そろそろテンションが下がってきたか、と冒険者が納得しかけた時、
「何じゃ、せっかく綺麗な簪も宝にしたんじゃがのぅ」
子供にやるのも勿体ないが、仕方あるまいと麗華が呟き。
「大当たりで‥‥薄絹の単衣も入れてみたんやけど」
辰沙のあらぬ方向を見ての台詞に色め立つ。
──綺麗な簪ですって!? そういえば子供が出来てからは新調してない!!
──ううう薄絹の単衣を砂の中に!? 一生着れないと思っていた絹の単衣が砂の中に‥‥!?
今度はおばさん達が蜘蛛の子を散らすように散って行った。疲れていたわけではない、呆れた旦那の行動と、元気過ぎる子供に少しテンションが下がってきていたのである。それを引き上げたのは、冒険者の宝の餌。
「なるほどね。おばさん達にも魅力的な宝を埋めれば良かったのかぁ」
と既に月道から冒険者ギルドまで作って一大巨大砂山京都を盛り上げたディーネが指をパチンと鳴らす。
「夏バテ防止のハーブの詰め合わせも喜んでもらえると思いますよ」
今年の夏は特に暑そうですから、とグリューネ。既に彼女は乾いた着物に着替えている。
「これからどうしますか? 何やら着物が塩漬けになったような‥‥」
早姫が肌に張り付いた着物を指でつまんでいる。ばったり倒れていた旭を介抱していた花蓮がふと顔を上げた。
「温泉‥‥なんてどうかしら‥‥さっぱりと汗を流して帰りの旅につきましょう‥‥」
「ああ、いいですね」
「ふふふ、旭君。混浴だってぇ〜」
「だだだ誰が入るか!」
何故かツヴァイは最後の最後、太陽が海に沈もうとしても旭をからかい、
「混浴‥‥楽しそうね?」
「いえそのっ‥‥手、手を離して下さい瑠璃殿っ」
瑠璃はものの見事に顔を真っ赤に染め上げる冬狐の指に自分の指をからめてくすくす笑っている。
海に残ったのは、冒険者がハイテンションにさせた町内会の熱気と、京都を模したどでかい砂山だけ。
「‥‥もう置いて行きましょうか?」
何だか今日は楽しかったような物凄く疲れたような、といった風情でグリューネが呟き。
「別の意味で脳が溶け始めた気がするわ」
とディーネが冷静にコメントを寄越した。
──京都の暑い、熱い夏は、もう目の前に迫っている。