【源さん】行きつけのお店

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月16日〜07月21日

リプレイ公開日:2005年07月24日

●オープニング

 その男は、真面目だった。真面目で、誠実で、仲間が大事で、京都が大事で。そして少〜しばかり固かった。
 しかし冗談を解さないというほどでもなく、相手を色眼鏡ナシに見るその瞳は実直そのもの。そんな彼は『源さん』と呼ばれ、慕われていた。
「源さん、げ〜んさん!」
 町のおばちゃんが気安く声をかける。到底新撰組六番隊組長、井上源三郎にかける言葉ではない。しかし源三郎は振り返った。
「市殿。何か困った事でも?」
「あら嫌だ、あたしと源さんの仲じゃアないか。用がなくたって声くらいかけていいだろう?」
 亭主がいるおばちゃんの問題発言にもそうだな、と真面目な顔でただ頷く。彼に付き従う隊員は思った。誤解されるからそこで何か突っ込んで下さいと。
「ああ、そうだ。今度店改装する予定なんでね、ついでに目玉商品を作る事にしたんだよ」
「ほう」
 源三郎の目が何故か嬉しげに細まる。
「で、試作品が幾つか店にあるんだがね、食ってくかい?」
「ぜひご相伴に預かろう」
 即決即答。気付けばスタスタと歩き始めていた。同行していた隊員は溜め息を吐く。前方の組長の背中はどこかウキウキしていた。

「ふむ‥‥形といい色といい、目の保養となるな」
 『新作』をじっくりと見つめた後、口に含む。普段真面目一直線の組長の幸せそうな顔に、思わず一緒になって笑ってしまった。
「ふむ。ふむふむふむ。味も素晴らしい、さすがお市殿だ」
「ありがとよ」
 率直な感想におばちゃんは嬉しそうに微笑む。団子を練り続けて十数年。おかで腕は太くなったが、味は新撰組の組長に認められる腕前だ。
「ん、正之助、食べんのか?」
 若い隊員は苦笑しながら受け取った。
 最初は剣に対する思い入れの強さに感銘を受けて彼の元に来たのだが、今では美味そうに団子を口に含む組長も親しみやすくていいと思う。
「でもねぇ。店の改装を手伝う若い衆がいなくってねぇ、ちょっと厄介なんだよねぇ。木の椅子なんか、あたしや親なんかにゃ運べないしさ」
 貴女の腕ならば平気では、と正之助は思ったが、源三郎が頷いたので黙してやり過ごした。しかも何か考え込んでいるのが不安を煽る。
「‥‥ならば」
「ダメですよ、どうせなら冒険者ギルドに依頼してもらって下さいっ」
「む」
 正之助、伊達に六番隊に入ってから一年経過していない。自分を使えと言い掛けた組長を制し、冒険者ギルドを推す。
「ああ、それ考えてたんだよ、まさか新撰組の人に頼めないからね」
 自分よりよっぽど付き合いのある団子屋のおばちゃんが、苦笑して言った。歳若い隊員と甘いもの好きな組長のやり取りがおかしいようだ。
「常連客の源さんを無料奉仕させるわけにゃいかないだろ?」
 太い腕を腰に当てて、ウインクして見せた。カッコイイ。
「店構えも色々目立つようにしてもらうつもりなのさ。センスのある冒険者が来てくれりゃあいいんだけどね」
 この団子屋には源三郎もしょっちゅう出入りしているのだ。ぜひセンスのいい店構えになってくれるといいなぁと正之助は思った。

●今回の参加者

 ea0214 ミフティア・カレンズ(26歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea4138 グリューネ・リーネスフィール(30歳・♀・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1241 来須 玄之丞(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1496 日下部 早姫(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2535 フィーナ・グリーン(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

サクラ・クランシィ(ea0728)/ リュー・スノウ(ea7242)/ 霧島 小夜(ea8703)/ イリス・ブラックマン(eb1759

●リプレイ本文

●お団子屋さんと冒険者
「あ、あの‥‥」
 フィーナ・グリーン(eb2535)がおろおろと手を伸ばし、周囲に助けを求めて視線をさ迷わせたが来須玄之丞(eb1241)はひょいと肩を竦めただけであった。
 ──お団子好きなら仕方ないのでしょうか?
 混乱したフィーナの目に映るのは、
「ふむふむ、ここが源三郎さんが常連になってるお店、ね」
「うわ美味しい! おばちゃん良い腕! んん、こんな感じの改装だね。了解!」
 何が了解なのか親指をピッと立てるレベッカ・オルガノン(eb0451)にうんうん頷いているカヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)。両者非常に満足そうに皿を平らげている。
 お市が呆気に取られているため、何とかフォローを試みようとするフィーナ。差し伸べた手に団子が添えられる。
「美味しいよ? このお団子」
 ──いえ、問題は味じゃないんですが。
 ミフティア・カレンズ(ea0214)の全開の笑顔にツッコミが入れられない。挨拶もそこそこに始まった試食会に、フィーナだけが冷や汗を流していた。しかし店の主の市は嫌な顔をするどころか、フィーナの肩を叩く。
「あっはっは、いいよ気にしなくて! アンタも食べな、ほら他の皆もさ!」
「有難く頂くでござる」
「では、私も‥‥」
 香山宗光(eb1599)と日下部早姫(eb1496)の指もその串に伸ばされる。玄之丞は出入口の方を見ているので、グリューネ・リーネスフィール(ea4138)は串団子片手に尋ねた。
「どうか?」
 いや、と玄之丞は首を振った。
「ここは六番隊組長さんの行きつけの店って聞いてね」
 グリューネの周りでは既に仲間達が歓声を上げ、尚且つおかわりをしている。ぱくり、と口に含むとしつこくない甘さが口の中に広がった。
「‥‥なるほど。是非とも良い雰囲気のお店に改装を成功させて、私も常連になりたいですね」
 ジャパン人でなくても受け入れられそうな味に、グリューネはふむと頷いた。

●店内大改装っ!
「座席配置はちゃんと考えた方がいいでしょうね。これからの季節風の通りが店の入りに影響しますし、店員のためにもなります」
 早姫が窓の位置を確認して、傍にあった卓をコンと叩く。木製で重たそうだが、力仕事なら自信はアリだ。
「はいはいっ! お店の衣装の提案しまぁすっ」
 ミフティアが勢いよく手を上げる。
「えっとね、前掛けにあっぷりけとか刺繍とか出来ないかな? 図案はね、お団子にリボンを付けたお花が添えてある感じとか」
 季節ごとにお着替えしたら素敵♪ と目を輝かせる。フィーナは穏やかに微笑んで自分も挙手した。縫い物なら得意だ。
「今の季節、7月だと朝顔や蓮、8月なら夕顔や‥‥あ、でも四季ごとに変えるのも良いですね」
 フィーナの具体案により一層輝くミフティアの瞳。自分の美的感覚にイマイチ自信がない宗光は早姫に倣う事にした。
「拙者は力仕事担当でござるな」
「せっかく異国の冒険者が集まったんだから、異国情緒も取り入れたいよね♪」
 レベッカの提案に、ツヴァイがふと思い立つ。
「ジャパン語以外の言語でのお品書きの準備もしようかな」
 グリューネが頷く。誰にでも読めるお品書きがあったら国を越えて愛される食べ物になりそうだ。
「では、私は『団子を妨げず引き立たせて美味しく見える器』を選んで来ましょう」
 貴族としてのセンスはあるつもりだ。
 仲間の話を聞いていた玄之丞は何気にくたびれた暖簾を手に取り、
「あたしは暖簾に屋号を染め抜いてみようかな」
 と呟く。ごちゃごちゃしたものは団子屋に合わない。美味しい団子を食べたくなった時、すぐに見つけられる事が出来るよう分かりやすく、かつ、野暮ったくなく春夏秋冬に対応出来るもの。
「季節の花を生けるのもいいねぇ‥‥大袈裟でなく草花を小粋に、ね」
 あの源さんだって、派手派手しい外観よりずっと気に入ってくれるに違いない。

●源さんチェック
「‥‥犬がいるな」
 源三郎が呟くと、傍らにいた正之助がそれは冗談ですかマジですかと聞きたそうな顔をしたが、まるごとわんこを被ったフィーナがミフティアに裁縫の基礎を教えている様子は確かに犬がじゃれ合ってるように見えなくもない。しかし何故着ぐるみを着ているのかは謎だ。
「源三郎殿、先日は世話になったでござる」
 宗光が建物内から運び出していた椅子を手に、軽く頭を下げた。
「やあ井上隊長‥‥いや今は非番か」
 なら源さんでいいかい? と、続けて玄之丞が襷をかけ両腕をさらしてやって来る。現在染物挑戦中なのだ。
「構わん。しかし随分本格的にやっているようだな」
 今の店は卓や椅子を運び出し、暖簾も全て取り払っている。太陽の下、店内の掃除に元気よく立ち回っている冒険者の姿が見えた。
「器を買いに行ってるグリューネとレベッカがもうすぐ帰って来るんだ。まだ一日目だし、源さんの話も聞かせとくれよ」
「店に通うようになった経緯など、聞いてみたいでござるな」
 団子片手に。
 魅惑的な誘いをかけられ、六番隊組長は──もちろん、誘いを蹴る筈がなかった。正之助は既に諦めている。

「組長さん組長さん、これ見て、あっぷりけ〜♪」
 ミフティアが前掛けと団子を手にしながら寄ってきた。源三郎は微笑む。団子を手にして。
「上手いな」
 『美味い』と言ったのかどうか判別はつかなかったが、ミフティアは嬉しそうにてへへと笑ってくるくる廻っている。踊り子のため身軽なのだ。
 微笑ましくミフティアのステップを眺めていると、ツヴァイがちょいちょいと源三郎の袖を引いた。
「えっと、その‥‥先日はお世話になりました。」
 嬉しかったですと照れ笑いをしていると玄之丞が団子片手に頷いた。確かハーフエルフの身を気にしていた彼を一喝したのだったか。
「気にするな‥‥んむ?」
 源三郎が食べ終えようとしていた団子の串をじっと見ている。フィーナも己の串に目をやると、二本、筋が入れられていた。
「じゃーんっ! それ、おみくじ団子だよ。こちらが占い結果です♪」
 妙に達筆な筆遣いで恋愛運などが書かれている。思わず己の串を注視する冒険者達。
「おみくじっぽくわくわく感もあったら女の子喜びそうだなぁって思って。どうかな?」
「本日大吉也、出会い運良好‥‥」
 早姫が己で書いた占い結果で最良に良いものを引き当て、少し嬉しそうだ。
「本日中吉也、掘り出し物見つかる‥‥ってこの器の事でしょうか」
 グリューネが市で見つけていた超安価の皿を手に頷いている。あと別種のものを数枚、揃えたいと考えている。
「恋愛、揉め事アリ‥‥思いきり当たってる、当たってるよレベッカ」
「ツヴァイ殿、顔が引きつっているでござる」
 ツヴァイの肩にそっと手を乗せる宗光。
「えへへ、これから一年以内に運命の人と出会うって〜」
 照れたミフティアが浴衣の袖で顔を隠している。
「源さんはどうだったんだい?」
 難しい顔をしている源三郎の串を玄之丞が覗き込む。そして占い結果を見つめる事数秒。
「‥‥レベッカ。お前さん、『今回は』真面目に占いするって言ってなかったかい」
「ええっ? 真面目だよー」
「んじゃこれは何だい──笑吉、ってのぁ」
「ええー!?」
 占い結果に占った当事者が驚いた。レベッカは慌てたが早姫の震える肩を見て脱力する。
「早姫さーん」
「す、すみません‥‥つい」
 二人の様子に冒険者がなるほどと笑いを浮かべたが、源三郎は──
「源さん、どうかしたかい?」
 まさか怒ってるなんて事は‥‥と余計な考えが浮かんだのも束の間。源三郎は心底困った顔で呟いた。
「笑吉とは、一体どんな占い結果になるのだろうか?」
「組長‥‥」
 疲れたような正之助の台詞に冒険者はツボを突かれた。
「な、何だ?」
 あくまで真面目な顔で困っている源三郎の周囲で冒険者が突っ伏して笑い転げている。
 笑吉──意外にもこの占いは当たっていたようである。

●改装、完了! お団子屋の新たなる旅立ち
「出来たよー♪」
レベッカの声と共に髪を結い直されたお市が照れながら出てきた。外で待たされていた冒険者は、『天下市屋』と流麗な文字が藍染で染め抜かれた暖簾がふわりと舞うのを見る。そして。
「ほう」
「似合―うっ!」
 宗光が驚きの声を上げ、自分の手作りの前掛けを見つけたミフティアが声を上げた。
「頑張った甲斐がありましたね」
 裁縫スキルのないミフティアに忍耐強く教えたのはフィーナだ。にっこり笑い合っている。
「さあさあ、今日は皆のために店を開けるよっ! 何でも注文しといで」
 あの力強く逞しい二の腕が盛り上がった。
「お市殿」
「すみません」
 改装完了後にも何故かまた源三郎が現れた。と同時に謝っている若い隊士が可笑しい。
「おや、源さんも来てくれたのかい。どうだい? 見違えただろう!」
 冒険者の前で胸を張るお市は本当に嬉しげで自慢げだ。それを見てツヴァイもほっと笑顔になった。──誰が来ても楽しい気持ちになるお店、どうやら成功したみたいだ。

「ほら、こいつを持ってっとくれ!」
「はい」
 グリューネが店内に移動した冒険者達に皿を出していく。源三郎の前に皿を置くと、『この皿は』と声を掛けられ、心が浮き立つのを感じた。自分のセンスで選び抜いたものを気付いてもらえたのは嬉しい。
「はい、レベッカ殿と私とで選んだものです──如何ですか?」
「この団子によく合っている──ありがとう」
 宗光が聞いたところによると、このお市特製団子との付き合いはもう五年になるという。客の揉め事を聞きつけて店内に入ったが、そのまま客としてよく来るようになったとか。
 手にした団子に一口、齧りついてみる。
 ──この焼き目の香ばしさがたまらないでござる。
 源三郎が殊の外お気に入りだというのも今ではよく分かる。
「やはり働いた後は甘い物が一番ですよね」
 力仕事を積極的に行った早姫がほうと息を吐いた。辛党ゆえ甘味を食す機会はあまりないが、このくらいの甘さならば十分いける。
「はいっ、お市さんのお団子食べて頑張って下さい♪」
 ミフティアが褒められた前掛けを自分も付け、給仕している。店の依頼は踊ってる時と同じで、お客さんと一緒に笑顔一杯でいられるから好きなのだ。
「ありー?」
 レベッカが驚きの声を上げた。
「招き猫何でこんなにあるの!?」
「一、二、三、四‥‥うわあ、五匹いるよ」
 ツヴァイが硬い猫の頭を撫でている。
「ああ、それか。この店が繁盛するように、だな。越後屋で買ってきたところだ」
「‥‥」
 一緒になって五匹の招き猫を持って来た正之助が物凄く遠い目をしている。
 ──五匹の招き猫下さい。
 フィーナの脳裏に越後屋で招き猫を買う六番隊組長が過ぎり、思わずくすっと笑ってしまった。
「まったく‥‥源さんらしいよ、ほんと」
 ばん、と肩を叩く玄之丞にもう遠慮はなくなっている。誠実で、真面目で、時にその気質が面白くて。そして若い隊士も遠い目をする源三郎。
「うわっちゃあ〜‥‥うちの一匹上げようと思ったんだけど、さすがに六匹目はマズイかぁ」
 レベッカは苦笑している。六匹目はさすがに客が驚きそうだ。
「ありがとよ、店の改装だけで十分さ。‥‥ふふっ、いい風だねぇ」
 さわ、と優しい午後の風が店内に入り込んできた。早姫の提案で窓からの風がよく入る位置に自分達はいる。暑苦しくなくて心地よかった。
「依頼は成功でござるな」
 宗光の台詞にもちろん全員が頷いた。