【飛脚】盗られた荷物を取り返せ!

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:3〜7lv

難易度:易しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月07日〜09月12日

リプレイ公開日:2005年09月25日

●オープニング

 その男は、ちょっぴり不幸だった。
 飛脚として一生懸命にお客様の元へ手紙を運ぶ毎日。行き先や道中で子供につかまれたり犬に噛み付かれたりといった事もザラだ。けれど泣く事はあっても、愚痴った事など一つもない。
 ──なのに、何故。自分ばかり、こういう目に遭うのだろう‥‥?
 子供に奪われた手紙の束を追う手をそのままに、道のど真ん中で。
「か、返してくれえぇぇ〜〜〜〜!!!!」
 絶叫。子供は、既に人込の中。

「おっさん、俺困ってんだよマジ困ってんだつかもうこれ以上ないほど困ってんだよ俺ー!!」
 がしぃっ! と掴んだ『頭』を、そのままがっくんがっくん前後に振る。
 京都冒険者ギルドの番頭、おやじギルド員は空中に浮いた虫、もといシフールに情け容赦なく頭をシャッフルされ、昼日中から悪酔いした。
「ま、まて、あ、あたま、て、はな、ぅおえっ」
 吐いた。
「おっさん、俺荷物盗られちまったんだよ、大事なお客さんの手紙なのにっ!」
 吐くギルド員の背後で、一匹のシフールがほろほろほろと泣き始める。全てを吐いて楽になったギルド員は、その小さな青年の肩を叩いてやった。
「まぁ落ち着けよ、時間ねぇから冒険者ギルドにやって来たんだろ? まず場所を教えてくれよ」
 泣いていたシフールは、少し引きつった。
「‥‥前」
「前?」
「だから、このギルドの前っ!」
「‥‥‥‥」
 アホだな、と何となく思った。しかし目の前で泣く虫、じゃなくシフール青年の至って真面目そうな顔を見ると、そうも言えなくなる。
「よりによって地図まで奪われちまったんだよ、あああ明日から仕事どうしようっっっ!?」
「‥‥地図ないと配達出来んのか?」
「出来ない!!!」
 飛脚なのに方向音痴。手に負えない。
「と、とにかく奪われた荷物を探すんだな、盗られた相手は?」
「子供だった。多分、最近多発してる子供スリ集団だと思うけど‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
 黄泉人の侵略のせいで親兄弟を失った子供が、スリで身を立てているという話がある。一部の子供だし素人だが、中にはこういうまぬけが引っかかるというわけだ。空を飛べるくせにまぬけな話である。
「俺は至って真面目に働いてるのに、何でこんなトラブルばっかりっ‥‥」
 ほとととと、と涙を流す青年シフールにかける言葉はなかった。
「わかった、依頼書を書こう。まず、そうだな‥‥名前は何ていうんだ?」
 俯いていた茶色の頭が上がる。何となく純情そうな目だった。
「ヒューウェイ。‥‥王虎尾(ワン・ヒューウェイ)‥‥」

●今回の参加者

 ea0758 奉丈 遮那(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9164 フィン・リル(15歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb1655 所所楽 苺(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

所所楽 杏(eb1561

●リプレイ本文

●振り返れば奴がいない
「荷を奪われたのはこの辺りか?」
 どんくさいシフールの依頼を受けた冒険者の一人、奉丈遮那(ea0758)はギルド前でぐるりと周囲を見回した。今のところ、怪しい子供は見かけない。
「うわ結構人多いよね、シフールだと大変そー」
「なのだー」
 ねー? とレベッカ・オルガノン(eb0451)と所所楽苺(eb1655)が仲良く笑いあう。戦闘依頼ではないし、切羽詰った感はない。──いや、この時点ではなかったのだ。拍手阿邪流(eb1798)が『その事』に気付くまでは。
「‥‥おい」
「何なのだ? 阿邪流もちゃんと皆に協力して、虎尾くんの荷物を取り返すのだー」
「いや、そうじゃなくてな」
 馴染みの苺に窘められ、再度確認する。前方、仲間の遮那、レベッカ、苺。背後、フィン・リル(ea9164)と依頼人‥‥っがいねぇ!
 ──依頼一日目にして、仲間の一人と依頼人が行方不明。

「ああ、いつも停車場にいる有名シフールかい? そういやさっきまで居たねぇ」
「どうも!」
 ──ふざけんな虫。
 と何人の冒険者が思ったか。それは不明だが、フィンを除いた冒険者全員が、依頼調査もせずに行方探索。
「あっ、今度は越後屋って出たよ!」
 長い髪を乱したレベッカが一枚のカードを手に訊き込みをしていた阿邪流達に手を振る。
「なっ、さっき行ったじゃねぇか!」
「無駄だ、あの虫は何も考えてないんだろう」
「もっ、もっ、もう疲れたのだああ〜!!」
 苺の叫び、ごもっとも。既に陽は暮れかかっている。

 その二刻後。
 ──ふざんけなよ虫。
 と何人が思ったか。ざざーん、ざっぷーん、と派手に波飛沫が上がる夜の停車場で、戦闘直後のような着乱れた冒険者と百鬼夜行に遭遇したかの如き面相をしたシフールの姿があった。
「え、えーっと、だなっ」
 虎尾、微妙に口元が震えております。
「その、ギルド前で皆の後付いて行こうとしたら人の波に捕まって、気付いたら知らない町にいて、戻ろうと思ってそんで」
「‥‥それが何故停車場にいる?」
 しぃん、と再び静寂が支配した。冷静に遮那に突っ込まれた虎尾は蛇に睨まれた蛙。ダラダラと冷や汗を流して俯くのみ。
「紐に繋いどくと逃げらんないのだ」
 名案だ! とばかりに苺が荷物を探り出す。生憎紐はなく諦めかけたが、遮那が黙って自分の縄を差し出した。まさか依頼人をこの手で縛る日が来ようとは。
「つ、繋ぐなよ依頼人をっ」
「んじゃ毟るか?」
 その羽をな、とわきわきと手を動かしにじり寄る阿邪流。顔は笑っているが目は怒っている。虎尾がひぃと息を飲んだ。
「た、助けてくれっ」
 レベッカの方を見ると、人好きのする笑顔でにっぱり笑われる。
「どうせなら私の占い、依頼に役立つ事に使いたいんだよね♪」
 ──それは遠まわしに『こんな事に占い使わせんなこの野郎』って事かー!?
 逃げ場がない虎尾は、最後に一緒に迷ってくれたフィンを見る。そうだ、彼女は同じシフールだ、まさか毟るなんて言わない筈‥‥!
「な、なぁフィン!」
「そっか! 何だっていっつも停車場にいるんだろうと思ったら」
 ぽむ。両手を打つなりどびしっと指を突きつけた。
「虎尾、キミは毎回迷っていたんだね!」
 ──話全然聞いてねええええ。
 飛脚シフール、羽を無くす日は近いかもしれない。

「とりあえず子供の人数は何人かな? あっ、あと性別も一応聞いた方がいいよね」
 レベッカ、太陽に近隣の子供の現在地を伺いつつ質問。
「子供相手だから罠を仕掛けた方がいいかもしれんな」
 遮那、きゃあきゃあ騒いでる子供が親に纏わりつくのを見て提案。
「あ、あたしがシフールの飛脚の振りして囮になって、犯人達がスったところを皆でとっ捕まえるの。同じシフールなら、引っかかる可能性高くない?」
 仲間のうち唯一シフールであるフィン、立候補。
「だな。じゃあもっと確かな情報がいるか‥‥なら、コレしかねぇだろやっぱ」
 懐に手を入れると、じゃらりと重い音がする。にやりと笑う阿邪流。
「ど、どこ行くのだ?」
「子供の溜まり場。逃がすなよ、その虫」
「逃がすなって‥‥」
 ふよふよふよ。手にした縄の先を苺が見ると、さめざめと泣く依頼人の姿があった。
 ──シフール凧揚げ、なのだ〜‥‥。
 依頼人にしていい事なのか、非常に謎だ。

「さって、神社の境内ね」
 近所のおばさんの話だと、子供同士でつるむ姿は境内でよく見るという。傍の神社に阿邪流が入り込むと、確かに鞠をつく少女に出くわした。着ているものが少し薄汚れているのに目が留まる。
 着乱れた懐に、片手を突っ込んだ。
「なあなあ、スリの小僧どもって何処にいるか知らねぇかい?」
 ──いいネタがありゃいいがな。

●荷を取り返せ!
「黄泉人の戦いで親を失った子供達かぁ‥‥」
 何か思うところがあるのか、ギルド前で手持ち無沙汰に見えるようタロットカードを爪弾く。友達を装って苺もその傍らで話を聞いている。
「近所のお寺とかで子供預かってもらえないかなぁ」
「仕事が見つかればスリをしなくてすむと思うんだけど」
 あたしだって神楽舞してるし、と鈴を鳴らしてターンするフィン。怪しい子供を見かけたら人込に紛れ囮をする予定だ。
「ギルド辺りで仕事なり親代わりなり探して面倒見てくれる人を探すのもいいかもしれないな」
 一人くらいはお人好しがいるだろう、と遮那。どうやら無表情の下、子供達の事もしっかり考えていたらしい。
「お、アイツじゃねぇか?」
 依頼人で遊んでいた阿邪流が、聞き出した情報を照らし合わせる。流石に名前までは売ってくれなかったが、ボス格については聞く事が出来た。行って来るね、と元気にフィンが飛び出した。
「お、あっさりシフールに狙い定めたな。虎尾で味占めたんじゃねぇか? おお、おお人数増えてくな、おお──すげえ」
 一方方向から着物を引っ張ったかと思うと、即座に反対方向から引っ張る。バランスに慌てた所で背後から荷物を抜き去った。
「んじゃー行くか」
「阿邪流っ、術は『めっ』なのだ!」
「へーへー」
 ほのぼのと会話を交わす阿邪流と苺の背後を付いて行こうとして、レベッカの足は止まった。足元に落ちている『それ』に。
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥気にするな」
 ぽん、と肩に掌を乗せたのはあくまで動じないクールな辛口、遮那だった。
 ──縛って、怒鳴って、凧揚げて。虎尾くん、どこまでも不幸体質だなぁ〜。
 レベッカは取りあえず縄の端を持って追い駆けた。

「放せえええ、人殺しぃぃぃ」
「‥‥殺してないだろうが」
 予め予想していたように、やはり子供の人数は多く、一人を捕まえ逃走を図った冒険者に見事少年少女が泣きながら追い駆けてきた。誘い出し成功。
 ボス格と思われる少年が、ぎっと襟元を鷲掴みする阿邪流を睨み、春花の術をかけほとんどの子供を眠りにつかせた遮那を睨む。遮那は人殺し呼ばわりされ、無表情で『心外だな』と呟いた。
 そんな彼が依頼人を言葉攻めで息の根を止めかけたのを仲間は皆知っている。が、ここで大切なのはそんな事じゃない。レベッカの握る縄の先で引きずられてズタボロになったシフールがいるのもどうでもいい。
「盗ったお手紙なくて困ってるシフールがいるから返して欲しいのだ」
 苺がね? とお願いしてもそっぽを向く。レベッカの『ひょっとしたら既に捨てられてたり破かれたりしちゃったりして?』との呟きにひぃいと一匹のシフールが泣いた。
「こっ、困る! 地図もないと困るんだっ! なあ返してくれよおおお怒んないからあああ!!」
「ひぎゃあああ!!」
 飛べなくなった虎尾はレベッカに力いっぱい引きずられてきた。よって地面と顔面キスと殴打を繰り返した虎尾の顔は恐ろしいものになっている。しかもその体は。
「‥‥阿邪流、あれはどこで習ってきたのだ?」
「さてなぁ」
 謎の緊縛法は苺の不審げな顔を見ても一発で分かる。何かわかるよーな‥‥分かっちゃ駄目大人になってから、っていうような‥‥。
「オレ達みたいなのはまだ他にもいるよ、親だっていないし‥‥」
 虎尾の形相に泣いた少年が、別の理由で顔をゆがめている。
「面倒みる方大きいからってどこも‥‥働かせてくんないし‥‥」
 ただでさえ、生き延びた若人達や老人達、周辺の村々の人間もこの町に幾らか移住して来ている。子どもの手など要らない、むしろ手間隙掛けて育てる余裕などないのだろう。
 悲しい現実に、レベッカが頭を優しく撫でた。この子達もけして好きでこんな事をやっていたわけじゃないのだ。
「ん〜? じゃあ」
 ふよふよと飛べないシフール飛脚と比べて身軽なフィンが、何かを思いつく。
「お手紙届ける仕事はどうっ!?」
「はあっ!?」
 ぐいー、と耳を引っ張られた虎尾はぎょっと目を見開いた。何だか‥‥何だか嫌な予感がするのは気のせいか!?
「スリやってるんならきっと素早いよ! ね、よくない? よくない!?」
 フィンの目が今までにないほど目が光っている。
 ──え。
「フィンちゃん、ぐっどあいでーあっ!」
 ぐっ、と何故か親指を立てるレベッカ。
 ──えっ。
「おう、そういう事だ」
「手紙も帰ってくるし、依頼は無事解決! なのだ〜」
 ──どこが!? 何が!?
「虎尾くん、ガンバってね応援するよ、あ、何なら応援の舞とか踊ろうか!?」
 ──踊ってどうな‥‥おいおい、もう踊ってるよ!
 虎尾、とあくまで無感情な声が虎尾を突き刺す。
「合計十六名の子供の養育先と働き口、よろしく頼む」
 俺達五人が応援してるからな、と無表情な中無理やり上げられた口角を見て──

「不幸度が倍増した気がする‥‥」
 その日から背中に子供、両手に子供、地図を口に挟んで京都中を奔走する飛脚シフールがいたとかいなかったとか‥‥。