遊女、ならず者を仕返す
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■ショートシナリオ
担当:べるがー
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:02月08日〜02月13日
リプレイ公開日:2006年02月20日
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●オープニング
二月の京都。とある花街の一角で、一人の女を年老いた夫婦を見送っている。
「お竜ちゃん、ごめんよ、ごめんねぇ‥‥」
「いいのよ、おっかさん。全部アイツらが悪いんだから」
「もう少しわしらに力があれば‥‥お前を追い出さずに済んだものを」
涙を浮かばせた四つの瞳に、お竜と呼ばれた化粧の濃い女が空笑いをする。
「アハハ、元はと言えばアタシの口の悪さが原因だもん。客相手に、しかもあのならず者共に喧嘩売っちゃうなんて、アタシって馬鹿よねー」
と言いつつも、店の妹達に暴力を振るった男を懲らしめたのは後悔してなかったりする。
十八歳、この世界五年目にして妹達に慕われるオンナ。遊女だからと言って馬鹿にするのも金で全てだと思われるのも許せない。でも、権力には如何ともし難かった。
「アタシが出てけばここに嫌がらせはしないっていうし、しばらく一人旅でも満喫するわ」
「ごめんね、ごめんねぇっ‥‥」
自分を育ててくれたともいえる夫婦に笑顔で別れを告げ、そのまま真っ直ぐ冒険者ギルドに向かう。
──女だからってナメんなよ。
「遊女を八人‥‥ううん、その半分の四人でもいいわ。用意して」
夫婦に見せた柔らかな笑顔はそこにない。あまり来た事のなかったギルドの番頭に告げたその目はギラギラしていた。
「ゆ、ゆゆ遊女ですか? あ、あのここは冒険者ギルド──」
「分かってるわよ! ただの遊女じゃ駄目。演技力と魅力と力のある遊女が欲しいの」
「は、はぁ冒険者の方にはそういう方もいらっしゃるかと‥‥」
お竜のギンギラ輝く瞳にビビッた新人番頭がとっちらかしながら筆を握る。
「敵は四人。いつも源太郎って居酒屋に居座ってる四人組よ‥‥そいつらを」
「そ、そいつらを?」
ごくり。
「この町にいられないくらい恥ずかしい目に遭わせてやる‥‥」
──貴方はこの依頼、受けるか?
●リプレイ本文
「それでね、宴に招待したのだけど男同士ですっかり良い雰囲気になっちゃって‥‥」
目の前であんな事もこんな事も、ついにはああんな事もまで始めてしまうし。ほんと失礼しちゃうわ。
立腹したように話す銀髪の遊女の台詞に詰まるとか躊躇うとか良心が痛むといった気配は見えない。むしろ嬉々として語っていた。
「うぅっ! 僕っ‥‥僕っ!」
何を思い出して嗚咽するのか。突如として少年は顔を覆って泣いた。迫真の演技。ギルド員も呆然。
「き、君はまだ子供では」
「十二ですっ! わあーッ」
ギャラリーは号泣する少年の言葉を鵜呑みにした。ひでぇ、何て不埒な野郎だ! そういやこの前遊女に乱暴したとかいうじゃねぇか、最低だな!
「ええ、本当に。最低ですね」
おっとりと上品に微笑むその青年が影で裏でちゃっかりしっかりばっちり何をしてしまったかギルド員は知っている。この手元にある事件報告書、もとい依頼報告書に赤裸々に微細に書き込まれていた。
●遊女変身
「女性相手に腕力で物を言わせて乱暴を働こうなんて、いい大人のする事ではありませんよね」
着物が散乱する、とある宿屋の一室で。酒井貴次(eb3367)は依頼人の話を聞いて大いに頷いた。
「つまりは言いがかりだったんですね」
同じ冒険者の瓜生ひむか(eb1872)も不愉快そうだ。自分と同じ年頃の少女が問答無用で殴られたと聞いて、立腹している。
「最ッ低な男共よ!」
「女の敵ね、腕が鳴るわ‥‥っと、まだ動いちゃダメってば」
「‥‥苦しい」
「着物はそういうものなの」
激するお竜に同意した花東沖総樹(eb3983)はナミ・ツユダーク(eb2472)の苦情を受け流す。無表情の中の眉間が本音を物語っていた。
「はい、完成。‥‥ってまぁ、あそこまで慣れなくてもいいけどね」
総樹の示す先にはリュヴィア・グラナート(ea9960)が本物の太夫と絡む姿。
「ねぇ、もう一杯どうぞ‥‥これでいいのかな」
「そう、もう少し体を密着させてね‥‥」
色を知り尽くす本物の遊女に実技指導されてる様子はピンクだった。男装姿のままで頬を染めているせいで、妖しさ大爆発。この部屋ではヤメテ。
「む〜‥‥これが俺やれるかなぁ?」
所所楽柊(eb2919)が首を捻っている。あら、と緋神那蝣竪(eb2007)が微笑んだ。
「お酒にでも睡眠薬を入れて眠らせれば必要ないわよ♪」
「良い案です」
ディファレンス・リング(ea1401)、薬物だったら何でも来い。
●魅惑の遊女
「お客さんも来ない? 宴も大人数の方が楽しいし何だか気が合いそう」
第一の刺客、もとい遊女総樹あーんどディファ。居酒屋で大声で笑い合う四人組に難なく近づくと、陽気な声で隣にお邪魔した。
「ね、是非来て!」
「う、うひひっ、仕方ねぇなあ」
アッサリ釣れた男の目にはこの危険にきらめく目の中の星が見えなかったのだろうか。きっと見えなかったのだ。男は酔った赤ら顔を丁重に腕で阻まれつつも、美しい遊女二人に囲まれこの世の春を謳歌している。
「じゃっ、お先にな! お前らも女欲しかったら買えよ!」
「うっせぇ!」
仲間三人は放置され、冷やかしと怒号と飛び交う中見送る。自分達もしっかりと魅惑の刺客達に付け狙われているとは知らずに‥‥。
第二の刺客は物理的攻撃となった。明らかにロリコンとなってしまう貴次と共にやって来たのが、無口かつ無表情のナミだったのだ。
──誘惑‥‥は無理。
固唾を呑んで見守る貴次と誘惑を待つ男達を前に、ナミは無表情に考える。総樹のような陽気さはないし、と思ったところで盆を持った親父が登場した。
「はいよ、熱々の一本!」
「おっ、待ってたぜ」
ナミは、無表情の奥で頷いた。これでいこう。
ちょん。がしゃばしゃーんっ!
「どあっちィいいい! あっちィいいいい!!」
途端に騒がしくなる店内。お付き役を演じていた貴次が蒼白になっていた。
「‥‥お侘び」
「お、お詫びに宴をご用意するとっ‥‥」
苦しい。疑惑の眼差しを向ける男達の前で、貴次は必死にフォローした。
そして第三の刺客は月光の化身かと思われる美しい遊女。知り合いの太夫に唆されてノリノリのリュヴィアであった。
「‥‥うふっ」
顔半分を扇で隠し、スタイルのいい足を裾からチラ見せしながら微笑まれる。しかも美味しそう。ここで誰が拒む事など出来ようか?
「姉さんがお兄さんと飲みたいと言っています。人目があると恥ずかしいので、押さえた部屋で」
「喜んで」
イタダキマス。
第四の刺客は、もっと容赦ない。それ(攻撃)は一緒に飲んでいた仲間を奪われた男が、千鳥足になりつつ小便をするために外気にケツを半出しになった瞬間の事であった。
「ふぃ〜っ‥‥すっきりすっきり」
どっかん。と持ち上げた着物で自由が効かない全くの無防備を狙われた。
「うわあああ服にかかっちまったあああ」
「あぁぁ‥‥アレがないと舞えないじゃないかぁ」
綺麗にハモる襲撃者と被害者。事件はたった今ここで起こった。
「な、何だあ?」
「大変! お兄さんにぶつかったため大事な鞠を落としてしまったわ!」
刺客、もとい遊女の同行者が驚いた声を上げた。背後から急襲したのは自分達だが。
「しっ、知るかぼけ俺は着物をよご」
「お願い‥‥一緒に探して、想い出のある大事な物なの‥‥」
瞳を潤ませる掴む那蝣竪に生唾を飲み込む被害者‥‥もといターゲット。柊はほくそ笑んでるぞ。
●イタズラしても良いかしら?
「あっ、あれっ? テメぇら何でここに」
「まぁお知り合い?」
四人目を無事連れ込んだ那蝣竪と柊を出迎えるのは、もちろん遊女の振りをした冒険者達。総樹は空々しい事はしゃらりと述べ、『そんな事より飲・ん・で』と男に杯を握らせる。
「姉ちゃんもちょっと触らせろや、その白い足首とかふくよかな胸とか胸とか胸とかさあ」
「あら、うふふいやだ酔ってるのね」
じりじりと窓際に追い詰められるリュヴィアはにっこりニコニコしている。男の赤ら顔が至近距離で近づいた。
「うふふふふふふっ」
途中で力むあまりスタッカートが効いたが、男は気にするでもない。リュヴィアはますますにっこり微笑んだ。
──しつっこい!
どべし、とリュヴィアの背後から伸びた茶色の枝が男の額を叩いた挙句ににょーんにょーんと揺れているが、ひむかと貴次は黙ってやり過ごした。
「酌ばっかってのはつまんねぇよ、なぁもっとこっち寄れよ〜」
至近距離に男の不細工な顔を目撃し、ナミは眉間に皺が寄るのを感じた。普段あまり使ってない気もする表情筋がひきひきと動く。
「‥‥舞をする」
「そんなんいいからさあ〜なあ〜なあ〜」
「‥‥‥‥‥‥」
無表情に巨大な感情が乗せられていくのを理解したのか。ディファが間に入った。
「まぁまぁ、ささ、もう一杯飲んで下さいな」
だぼだぼだぼだぼとちょっとどころではなく大きめの杯に注ぎ込み強引に握らせる。躊躇してるので突っ込んでやった。
「うぐっ、ごっ、ぎゃっ、ごごっ、ぐぼぎゃごぎゃぎゃぎゃ」
「えっ? もっとですって? ありがとうございます、このお酒私の特別調合製なんですよ〜」
死ぬのでは、と傍観してた貴次は思った。
かたーん‥‥ばたり。
丁度ディファが止めを刺した所で男達が次々と倒れていった。ふふ、何しろ市販の睡眠薬より少しきつめに作ってみましたから。
「さてと‥‥」
ゆらり、と静まり返った部屋の中で総樹が立ち上がる。
「痛い目見てもらうわよ」
遊女の皮を被っていた冒険者の目はギラついている。
「落書きは、そうだな〜‥‥腹に顔でも描くか」
柊が嬉々としてずりずり着物を脱がしていく。帯取って。着物取って。褌はどうするかな〜?
「うふふふふっ、腕っ節や無茶が利く事だけが、世の中の強者だとは思わない事ね♪」
笑顔でセクハラを耐え抜いた那蝣竪が男の体の隅々に筆を走らせていく。どんなものを描いているのだろうと覗き込んだひむかは後悔した。こんなの描かれたら生きていけない。
「あ、もちろん名前も書かなくっちゃね♪」
あの気持ちの悪いセクハラを百倍にして返す。世の中知って出直してきなさいな、坊や達♪
●恥ずかしくって生きてけないよ
「そう、もう本当に酷いのよ。男同士で睦み合うわまだ齢十二の貴次君に色目使うわ」
リュヴィアさん、元からですかそれとも太夫の入れ知恵ですか。ギルド員の目は遠くなる。
「でも恥ずかしいわねぇ、素っ裸で河原で抱き合うように根っ転がってたんですって? 何してたのかしら」
──アンタが放置したんじゃん。
ギルド員は怖くて総樹に突っ込めない。
「落書きなんて子供以来でしたよ♪」
まるで落書き帳に『お父さんとお母さんの顔を描きました』と言わんばかりの微笑みのディファには騙されない。奉行所の人間がいくらこすっても消えない墨を編み出したのも彼なのだ。何その爽やかな笑顔。
「もう、もう、僕っ‥‥お嫁に、じゃなくてお婿に行けません!」
「可哀相に‥‥」
背後では未だ迫真の演技で観客の心を揺さぶり続けている貴次。そっと目尻の涙を拭う那蝣竪からは昨晩のあんな姿は伺えない。
ナミもさらさら詫びるつもりはなかった。例え町中の人間が例の四人を悪い意味で噂しているのだとしても。
「奉行所で取り調べられた後が楽しみですね」
飄々と語るひむかは、彼女が男達の刀にもの凄く臭い香袋を詰め込んだため奉行所に妙な匂いが充満している事を知らない。
「ふふっ‥‥くくくっ。これでもう思い残す事はないわ‥‥連中に消える事のない赤っ恥を残したしね」
前髪の下で笑うお竜の顔は見えない。でも見たくないと思った。
「お竜さん最後カッコよかったな〜」
朗らかに笑う柊の言葉に、『知りたくない』とギルド員は思った。