【ペット万歳】わんわんわん!
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■ショートシナリオ
担当:べるがー
対応レベル:2〜6lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:6人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月15日〜03月20日
リプレイ公開日:2006年03月24日
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●オープニング
「いや〜今日この日が非常に待ち遠しかったですねぇ、三吉さん!」
ウキウキと目を輝かせて隣の老人の肩を叩く。痙攣かと見紛うほど、その年寄りは揺れていた。
「おお‥‥おお、うちのミミちゃんがわしに向かって手を振っとるわ」
「ははははは」
『犬』が手を振るわきゃねぇだろ、という独白を心に止め、三吉に声をかけた男は笑った。周囲のざわめきが、このイベントに対する注目度を証明している。
自分達は、いやこの長老の提案は、成功だったのだ。ただ飼い犬を自慢したいだけでも。
ブゥオォ〜。
法螺貝の合図で、ざわめきは止まった。目の前の一般道に視線が集まる。スタート地点に立った柴犬達が、ぴんと尻尾を立てた。
「ミミちゃん、いくのじゃああああ!!!」
三吉の言葉は、『犬』には通じなかった。
「はぁ‥‥それで?」
京都冒険者ギルド、本日も依頼受付職務に励むギルド員が、今までの話の中に冒険者を必要とする部分があったろうか、と悩む。
「ミミちゃんは‥‥こぉすあうとしおった」
──コースアウト。
それは何の囲いもない一般道を走らせた犬達が、道横に建つ肉屋に突進した結果であった。だって動物だし。
「しかし、ドッグレース‥‥でしたっけ? よく思いつきましたね」
国によっては鶏を戦わせて賭けをしたりという話を聞く。この場合は、犬の脚力が全てのようだった。
「旅の異人さんに聞いたんじゃ。馬でもええが、うちのミミちゃんは可愛くてなぁ」
でれぇ、と笑う爺に傍らで影を背負う男。今回のイベント発案により大層引きずりまわされたと聞く。
「まぁ‥‥何の特徴もない町ですんで、何か目立つイベントがあれば人も集まるかと‥‥思ったんですが‥‥」
下調べ不足であった。ただ町を爆走させただけではレースは成り立たない。犬を飼った経験のない者なら額を叩いて納得する失敗談だ。
「それで、依頼というのは? あ、会場作りとか」
「いえいえ。発案したのが犬を飼い始めた三吉さんだったので、犬レースにはなったんですが‥‥その、お恥ずかしい事に、うちの町内で飼ってる犬は教育不足で」
全員コースアウトしたんですよ、とやはり影を背負った。
「あー、じゃあ犬を貸して欲しいと?」
「ええ、まずは話題作りのために派手派手しくやりたいんですけど、第一回目がああなりましたから‥‥あと出来ればちゃんと調教された犬がいいんですけど‥‥」
三吉爺の視線が痛い。だってミミちゃん一番にコースアウトしたんです。
「ははあ、分かりました。あと犬にお詳しい方の方がいいかもしれませんね。ドッグレースのやり方を指導してもらった方が良いと思いますし」
「そ、そうですね」
●依頼内容
犬を飼ってる冒険者様、大募集! ドッグレースに参加してイベントを盛り上げて下さい!
「‥‥うちのミミちゃんが一番かわええんじゃ!」
──さて?
●リプレイ本文
「ぽちはねぇ、とっても賢い子なのー★」
「何、賢いとな?」
まるで犬との戯れに最適であるかのように、その日は快晴だった。己が愛犬を連れた冒険者も、笑顔満面になってしまうくらいに。
「えとねー、あたしが泣き虫になってると、ほっぺをぺろっとしてくれるんだよぉ★」
「なんとっ!?」
干した布団のようにふかふかになった柴犬『ぽち』の毛皮に顔を埋めるのは、ミュウ・クィール(eb3050)、パラの少女。
主人であるミュウに笑顔で懐かれ、ぽちは目を細めてじっとしている。嫌がるでもないその様子に、話を聞いていた三吉爺はぷるぷると震えた。
「みかん、皆と仲良くがんばろうね。あははっ、みかんも嬉しいの?」
銀髪の少年、浅葉由月(eb2216)は愛犬『みかん』にぺろぺろ顔を舐められ、くすぐったそうにはしゃいでいる。しっぽをちぎらんばかりに振っている柴犬の様子に、三吉爺は己が愛犬を見た。
──ぷいっ。
「あらら」
今まさに飼い主の視線を無視したミミに、花東沖総樹(eb3983)は苦笑する。犬を持たない自分はミミを借りようと思っていたのだが、これは仲良くなる時間が必要かもしれない。
「あともうお一人ですね」
犬とのじゃれあいに夢中になる仲間を見つめていたリュー・スノウ(ea7242)は、ふと呟く。確か依頼を受けたのは六人と聞いていたが。
「お待たせしま‥‥ああっ!」
ざしゃーっ。現れた六人目の冒険者は、ボーダーコリーの子犬と一緒に駆け寄って来る途中でこけた。
「‥‥大丈夫のようだ。な、ちぃ?」
動かない高遠紗弓(ea5194)は、愛犬柴の『ちぃ』の頭を撫でる。タイミングよく可愛らしい舌が覗き、応援に来ていた女性は眩暈を起こしそうになった。愛らし過ぎますわ!
「あ、さくら‥‥心配しなくても、大丈夫ですよ?」
墨染めの衣についた砂をぱたぱた払って所所楽柚(eb2886)が立ち上がると、ボーダコリーの『さくら』が隣できゅ〜んと鳴いている。
「大丈夫です。さぁ、皆さんと一緒にドッグレースの相談をしましょう?」
●ドッグレースを始める前に
「どっぐれーす‥‥ってどんな事をするの?」
「何じゃ、知らんで参加したんか。どっくれーすとはな‥‥ズバリ、走るんじゃ!」
膝上にみかんの顎を乗せた由月は首を傾げる。三吉爺は根拠なく自信満々に答えた。
「それだけか?」
紗弓の突っ込みに爺は沈黙した。だって知らないから冒険者呼んだんだもん。リューが苦笑して助け舟を出した。
「走るにしても、観戦しやすい直線の確保と皆が楽しめる環境を整える必要があるかと」
「杭と縄だけの柵でも、必要だと思いますよ。それからコース沿いにわんこさんが興味を持つような障害物があると、お話にあったような事が起こりやすいのではないでしょうか‥‥いえ、ミミちゃんだけでなく」
じとっと爺に睨まれ、柚はぷるぷると首を振った。責めてるのでなく、さくらと相談して思った事だ。
「そうよね。犬も人間も一体となって楽しまないといけないわね♪」
ミミちゃん、宜しくねーとわくわくしてその小さな足を取ろうとしても、すっと逃げられる総樹。ううむ、初見じゃ厳しいか。
「んんー? ドッグレースって細い橋を渡ったり、丸太の上を越えたりーってするのだよねぇ? 一緒に走ってじゃーんぷっていうと飛び越えてくれたり★」
「そうなの?」
異論を唱えたミュウの言葉に由月はぱちくりとするが、紗弓は自分の腿にぴったりくっついて丸くなっているちぃを見る。視線を感じ、何? と言いたげに見上げてきた。
──‥‥いやいや、まずはやってみなければ!
何か失礼な想像を振り切り、ぐっと寝ぼけ眼のちぃの足を手に取った。
「取りあえず頑張ってみようじゃないか、ちぃ!」
だから、何? 『???』という顔をしてその目に焔を燃え上がらせた紗弓に黙って抱かれている。
「いえ、準備期間も御座いますし、まずは距離も短くて宜しいのでは?」
まだまだ小さなぽちを膝上に乗せ、冷静さを促すように優しくリューが説得する。総樹も一から信頼を築き上げる事になるのだし、まずは簡単なコースでいいと思うのだ。
「何れ少しずつ時間をかけ‥‥距離を伸ばしコースに工夫をし、障害物を加えていくのも毎回飽きが来ず楽しゅう御座いましょう?」
──一先ず愛犬達と楽しめるものに致しましょう。
「とりあえずミミちゃんと仲良くならなきゃね‥‥ってミミちゃん、お風呂嫌なの!?」
一番ハンデがあるのは総樹だろうか? まずは裸の付き合いをという事で風呂に入れたところ、隙を見て猛ダッシュで逃げた。愛らしい肉球の跡を追うと、畳の上で何度もひっくり返って背を擦り付けている。
「ミミちゃん、ここは濡れてしまうから‥‥きゃー!」
廊下でやらなかったのはわざとだろうか。ぐっしょりと濡れそぼった毛皮から無数の飛沫が飛ぶ。
「‥‥‥‥」
絶句する総樹に、応援に駆け付けた男は溜め息をついた。
──頑張れ。
「宣伝を兼ね、皆さんでパートナーを連れ近所を散策するというのはどうでしょう?」
リューが話を持ちかけた時、柵作りが柵作りの手伝いを休憩している時の事だった。飼い主達の行動を見守っていた犬達が、ぴんと耳を上げて立ち上がる。犬だって単語くらいは分かるのだ。
「それじゃ、皆の前で練習だよ? みかん、お手」
わふわふと尻尾を振っていたみかんが、由月の言葉に立ち上がる。ぽふっ。
「うん、触り具合は凄くいい‥‥ってみかん、それはしっぽだよ?」
そぉ? とみかんは首を傾げている。
「えへへー、おリボンもね、あたしの目の色とおんなじ色で、お揃いなのーっ★」
小さな町でぞろぞろと犬を連れだって歩けば、何だ何だと人が集まってくる。無邪気に笑顔を振り撒くミュウにもお声がかかった。
嬉しそうに動き回るミュウについて歩くぽち。手綱がなくとも絶対に離れたりしない。
「いや、この子は人に撫でてもらうのが何より好きでな。ぜひ触ってやってくれ」
子供達が恐る恐る紗弓の横でぱたぱた尻尾を振っているちぃに手を伸ばす。小さな手に自分の頭をこすり付けるように、ちぃは頭を動かした。
「わあ‥‥かわいー」
「当日も走る前に撫でたり話しかける時間がある。ぜひ見に来て欲しい。‥‥ちぃ?」
「わんっ」
ぜひ、見に来て。
「い、いたた‥‥本日二度目、です」
さくらの気遣わしげな視線に気付いたのか、柚の応援に来ていたシフールはテレパシーで語りかける。
──応援してるからねっ。頑張れ〜☆
「柚さん、頑張って下さいませね」
「あ、はい頑張ります‥‥さくらも、心配し過ぎですよ? ってああっ!」
言った端からこけて周囲の注目を集めている主に、きゅうん、とさくらは鳴き声を上げる。やっぱり、心配。
さて、一体どのわんこが優勝するのか?
●ドッグレース、開催っ!
「よしよし、いい子ね」
お風呂も一緒、ご飯も一緒、寝る時も一緒。ついでに伸び放題だった毛も綺麗に整えた総樹は、本来の飼い主を見ずあくまで目の前の総樹を見上げるミミと目を合わせる。
「出来るだけいいとこ見せるのよ。みんなに注目されたら素敵なお相手も見つかるかもしれないし」
ね? と目を見つめ合わせ──
「ではワンちゃん達はスタート地点へ!」
いよいよだ。
「ちぃ‥‥頑張って走って来たら、あとで沢山撫でてやるからなっ」
離れる前に紗弓は愛犬ちぃと最後の抱擁を交わす。脳裏には『途中でちぃが暴れたらどうしよう?』などという不安な言葉が渦巻いている。いやいや、頑張ってくれる筈だ。
──‥‥多分、うん。
「よおぉ〜〜〜い‥‥‥‥どんっ!!」
食堂を営んでいる奥さんが町随一の掛け声をかけた。
「みかん、ゴール目指してがんばれ!」
後ろの方で声をかけた由月に向かい、突進してくるみかん。え? 待って? 何で戻って来るのみかん?
「違うよ、みかっ‥‥みかん!? すとっぷ、すとーっぷ!」
いつもは背中にジャンプしてくるみかんは、正面からジャンプで突撃してきた。
「さくら、無理しちゃ駄目ですよ? 無理のないように、こけないように、ひゃあっ!」
柵の外を走りながら一緒に駆けていた柚が、いきなり視界から消えた。さくらが慌てたように止まり方向転換する。
「わんっ」
「あ、さくら‥‥戻って来ちゃったんですね」
柵をジャンプして乗り越え、地面に転がった主の顔に鼻を近づけて無事を確認する。その人間くさい行動に思わず笑みがこぼれた。
「さくら、いつもの事ですし大丈夫ですから、わたくしの事は気にせず走って下さいね」
「‥‥あらあら‥‥ぽち、すっかり遊んでもらえると思ってますね」
リューの目の前では先輩犬について走るよう諭したぽちが、そのまま合図をかけたおばさんに駆け寄って腹を見せている。
おやおや、お前さんは走んなくっていいのかい、と呆れた風に言われているが、子犬にはレースより遊び、走るより撫でて、である。
「仕方ありませんね、まだ子供ですから‥‥」
そう言うリューは、まるでぽちのお母さんのようだ。
「ふふ、もらったわ‥‥」
五人の冒険者が愛犬を連れてきていた事で焦ったが、どうだろう? 軒並みコースアウトの道を選んでいるではないか。
「この勝負貰った! ミミちゃん、こっちよ、こっち!」
総樹はここ数日ですっかり仲良くなったミミの注意を向けさせる。上げた手には、椀に入った‥‥
「あーっ、ご飯だぁっ★」
かろうじてコースアウトはせず、スタートから三メートル地点で愛犬ぽちとじゃれていたミュウが、総樹のその手に持った食べ物に反応する。
「ぽち、総樹のご飯もらいに行こーっ★」
「ふふ、ズルじゃないわよーって‥‥ええええ待って待ってぇえ!」
総樹、えさ箱を持っていたばっかりに、二匹の犬と一人の人間に襲われる。
「あ、あはっ、みか、みかん苦しいよっ」
「さくら、もう心配いりませんよ? 怪我もしてません」
「あらあら、ぽちったら‥‥」
「うふっ、あはははは、く、くすぐったいわミュウちゃん、離して〜っ」
「わんっ」
「ぽち噛まないから大丈夫なの〜っ♪」
全員コースアウトかと思われたその時。
「ちぃ、さあ私の胸に飛び込んでおいでっ!!」
ゴール地点に立っていた紗弓の元に、柴のちぃが真っ直ぐ駆けて行った。
●ドッグレース、終了っ!
えさ箱を引っくり返して体に浴びた総樹は、結果愛犬二匹に舐められる結果となった。
犬の舌はざらざらしている。おまけに中型犬は十分重い。学んだ瞬間だった。
「なんだか私がレースしたみたいね」
軽く百メートルを疾走した気分だ。
「お腹いっぱいだねー、ぽち★」
腹も膨れて冷静さを取り戻したぽちが、はしゃぐ飼い主を嬉しげに見つめている。
「みかん、次はしっかり走ろうね。一緒にね?」
「あんっ」
兄弟の如き仲のよさで決意を固める由月とみかん。まずはお手からだろうか?
「よーしよしっ、よしよし、偉いぞーちぃ」
見事優勝を勝ち取ったちぃを、抱きすくめる紗弓。一時でも疑って悪かった!!
「良かったですね、楽しんでもらえたみたいで」
リューがこっそり依頼人の男に声をかける。観客からは『私も犬飼うっ!』『飼いたい!』『このレースに出場させたいっ』という声が上がっている。
コースアウトも続発したが‥‥いやはや、どうにか依頼は遂行できたらしい。