スパイ大作戦
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■ショートシナリオ
担当:べるがー
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月19日〜03月24日
リプレイ公開日:2006年03月27日
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●オープニング
登場人物は、四人という話だ。
「どうして盗むのか‥‥理由があるなら、聞きたいんです」
そう思いつめたように依頼に来た男は、若干十九という若さで店を任されている、料理人だった。
私は二代前から続いております、小料理屋『えびす』の店主です。
その、あまり外聞の良い話ではありませんが‥‥盗み、がございまして。あ、いえ売り上げとか財産でなく‥‥食材なんです。
始終誰かしら店の者が出入しておりますし、あまり外部の人間の仕業とは思えないのです。
ですが、どの店員達も家族同然で私が直接問う事は出来ません。父亡き今、店員の胸を借りて運営しているようなものですし‥‥。
それに最近少し問題が起こったばかりで‥‥未熟な今の私に真相は話してもらえないでしょう。
だからお願いです、真相を探るためにどなたか来て頂けないでしょうか?
「ふゥ、小料理屋で窃盗‥‥ね」
ギルド員は詳細に書き込んだ依頼書を再度確認しつつ、今しがた受けたばかりの依頼を反芻する。
「小さな小料理店に勤めるのは若旦那の他に、四人」
人間関係を軽く図にしてみる。中心に、依頼してきた若旦那。その隣に、看板娘の凛子。
「最近別れ話をした幼馴染の女の子、ね。まァいきなり他に好きな女が出来ましたーじゃ恨んでてもおかしかないわなァ」
別れ話がこじれ、ごく最近まで店に出てこなかったらしい。
で、その凛子の上に、二代前からいる料理人の幾郎。
「突然別れ話を持ちかけた孫の恨みを晴らすために窃盗、ちゅーこともまァ、ありえるわなァ‥‥」
この幾郎はハキハキ元気者の凛子を目に入れても良いほどに可愛がっているという。
今度は若旦那の右隣に伯父の四郎、食材を確保する仲買役を書き入れる。
「本当は店を継ぐ筈だった父親の兄、だが賭博に興じて一度絶縁され、父が死んだ事で店を助けるため戻ってきた‥‥」
実際会った事はないから分からないが、賭博に興じていた身だ、店を乗っ取ろうと考えてなくてもおかしくはない。
が、昔みたいな荒れた所はなく、いなくなっていた間に出来た繋がりで店に安く食材を入れてくれているという。
「そして、一年前から雇っている店員の操‥‥と」
どこからやって来たのか、過去どんな生活をしていたのか聞いた事はないという女。
妙に艶やかで色っぽいところがある女らしいが、店員募集の張り紙に地味な着物で応募してきた。ちゃんと仕事はこなすというが、過去がわからないからには手癖の悪さなど疑ってもいいかもしれない。
「‥‥ふむ。誰が犯人でもおかしくはないが、疑いの目を向けるのは憚られる者達‥‥か」
──自ら店員として、あるいは料理人として乗り込み、犯人の真意を問い質して頂ける冒険者様、募集──
●リプレイ本文
「ま、まさか‥‥そんな‥‥食材が盗まれていたのは、そんな理由だったなんて」
冒険者八人は、緊迫した雰囲気のまま沈痛な面持ちで佇んでいた。依頼人はオロオロと四郎の顔を見る。
「‥‥そんな目で見ねぇでくれ、お前さんはアイツの面影があり過ぎる」
操は耐えられないというように背を向けた。その肩は何か感情の爆発を抑えるように震えている。拍手阿邪流(eb1798)が依頼人の視線から庇うように立った。
「すまんかった‥‥」
幾郎の細い声が詫びる。床で土下座をしていた彼の手を取るレミナ・エスマール(ea4090)。高町恭華(eb0494)は立ち尽くす依頼人に首を振った。
「そんな‥‥そんな、責めなくったっていいじゃない!」
凛子は我慢出来ずに祖父に飛びついた。その瞳には今にも零れ落ちそうな涙。
「若旦那‥‥これが事実だったんだよ」
耐え切れない、というように緒環瑞巴(eb2033)は顔を覆った。
●回想
「疑ってる事を悟られずに、こっそり調査すれば良いのですね〜」
スパイというより名探偵です〜♪
うきうきと赤い瞳を輝かせるのは、エーディット・ブラウン(eb1460)。たった今依頼人から詳細を聞いて、未知の体験に興奮している。
「うーん、盗まれてるのは大した量じゃないんだよね? 生活苦、とか‥‥あ、あの年齢不詳の操さんが子供を養うために、とか?」
前掛けこれでいいの? と尋ねながら推理をするのはティワズ・ヴェルベイア(eb3062)。
「私は凛子という幼馴染の娘が怪しいと思うが。依頼人が好きになったのは操じゃないか? 素性が分からない女に恋人が恨まれては、嫉妬するのも当然だろう」
「えーっ、凛子ちゃんは違うと思うけどな〜」
アルフォンシーナ・リドルフィ(eb3449)に反論する瑞巴。ちょっと浮かない顔をしてたけど、そんな悪い事をする子には見えなかった。
「そうだな。凛子と操はない」
断言するのは男装の麗人リュヴィア・グラナート(ea9960)。ティワズが何で? と聞くと
「女性を犯人扱いにはしたくない。ならば容疑者は二人。更に絞るならば、女性のために動く幾郎は除外していいからだ」
きっぱりのたまうリュヴィアに阿邪流がズッこけた。
「料理人ならばいつでも食材に触れられる機会はありますね。‥‥どうされました?」
レミナにいや、と首を振った恭華はやはり納得いかずに依頼人に尋ねた。
「いきなり人が増えて怪しまれないか?」
しかも店員ばかり。揃って前掛けに手を伸ばしていた冒険者は、依頼人を見た。
「怪しまれます‥‥かね?」
呑気な反応に脱力する冒険者をよそに、アルフォンシーナは『ふっ』と笑って遠くを見た。
──まだまだ若造だな。
そんな彼女は二十二歳。
「まずは料理名から覚えてね」
おっけー♪ と知り合ったばかりとは思えぬ懐きっぷりで、瑞巴は凛子にぴったりくっついて動向を伺う。でもそれは彼女の潔白を証明する為だ。
──仲良くなって犯人じゃないって証拠を見つけるんだ〜☆
「甕はここ、井戸はそこ、重いけど水はなくなったら困るから、往復してね」
意外と面倒見のいいらしい正体不明の操についたのは、阿邪流とティワズ。阿邪流は思った以上の上玉の容疑者に、ノリノリで手伝いを申し出た。
「任せとけって、男手がいるならいくらでも言っていいぜ」
「あら、そう? ふふ、結構重労働だったから、助かるわ」
その笑みは地味な着物の割には艶やかで、男を扱い慣れている印章を与えた。化粧が上手いのか、美しさも引き立っている。
──ま、僕には敵わないけどね。
ティワズ、絶対無敵の自信。
「ジャパンには着たばかりなので、色々と見て回るのが楽しいです〜♪」
一方、外に買い付けに出かける四郎に付いたのは、未知なる出会いにわくわくしているエーディット。
「おいおい、フラフラとどっか行っちまわねぇでくれな。俺が怒られっちまう」
店先を嬉しげに見て回るエーディットを、いかつい顔を苦笑させて嗜める四郎。そこに悪意の欠片を探し、リュヴィアが同行する。
「買い付けてるのはこの大通りに出ている店か?」
「いや。アンタの薬草の目利きも見てみたいが、俺が行きつけてる店主もいい目しててね、店に置いてるものは信用出来るんだ」
「ふぅ、量は少ないですが、確かに盗まれてますね‥‥」
盗みが始まる時期は少し曖昧で見つけ難いが、別段客が増えた様子もないのに食材の使用が激しい。レミナは帳簿の数字をじっくり目で追いつつ、推測を立ててみた。
──これだけでは売り捌いても大した金額にはなりません、やはりこれは内部の犯行と見て間違いないでしょうね‥‥。
幾郎の雄叫びが再びここまで聞こえてきた。
「ほれっ、手元がそんなんで千切りが出来るか!」
応じるのは、仲間の恭華だ。
「日本刀の扱いならさして問題はないがな」
「たわけ、調理場に刀なぞ要るか!」
そういえば恭華は料理スキルを持っていないのだったか。レミナは帳簿を元の場所に戻し、助け舟を出すために襷と前掛けに手をかけた。
家庭料理なら専門レベルで、問題ない。
「そうか、どうもありがとう」
いいえ〜と黄色い声を上げている女性に輝かんばかりの笑顔を返し、リュヴィアは未だエーディットのために大通りをブラついている四郎を見る。
この辺の訊き込みでは、彼が未だに賭博に興じているとか店に対する不満とかは全く聞かれなかった。
「このお野菜はジャパン特有のものなのですね〜。確かにイギリスでは見なかったです〜♪」
「食ってみるか? 幾郎さんの料理は美味ぇぜ。何つったってこの辺じゃあちっと有名な腕の立つ料理人だからよ」
幾郎を褒める様子もさして思うところはないようだった。エーディットは商品に釣られるように座り込み、四郎の顔を見上げる。
「‥‥若旦那の腕前はどうですか〜?」
そこに悪意はあるのか、ないのか?
「凛子ちゃん、見てみて〜。最近知り合いにタロット貰ったの。占いしたげるよ☆」
「やだもー、瑞巴ちゃん、仕事中!」
瑞巴の底抜けに明るい笑顔に癒されたのか。若旦那に声を掛けられる度に強張っていた凛子に、自然な笑顔が蘇ってきている。
──どうやら操がライバルという事でもなかったようだな‥‥。
アルフォンシーナは年頃の少女達の甲高い笑い声を聞きながら、たまに強張る凛子のフォローをして見守る。
「‥‥ふぅ、アイツの事も普通に見れるようにしなきゃね」
嫉妬にかられたり依頼人を憎んでいる素振りは、全くなかった。
「親しい娘がいないってわけじゃねーけどよ‥‥江戸に行っちまったまま帰ってこねーんだよ。飽きられたかな‥‥」
夜も更け。未だ煌々と灯りがつく店を出て、飲みに誘った阿邪流は操に愚痴るように相談にのってもらっていた。
「飽きたなんて、そんな簡単なもんじゃないでしょ恋愛は。ちゃんと愛してるんでしょう? どうして自信持たないの!」
店でも世話になりまくっていたティワズは、操のその面倒見の良さに『本当に子供がいるのでは』と思い始めている。あまりに普通離れした美貌だから、遊郭にいたが子供が出来てしまって‥‥などと推し量ってしまう。
真実を聞くために、ティワズは杯を次々と満たした。
「操って面倒見が良いよね、僕達お店で凄く助かっちゃったし‥‥」
何気に酔った操の顔色を伺いつつ、話を続ける。
「まるで子供がいるみたいじゃない? その面倒見の良」
カッターン‥‥。
操の持っていた杯が中身を零し、卓の上で倒れていた。
●真相に辿り着く
「それで?」
レミナは客に料理を出したばかりの盆を小脇に抱え、二日酔いギリギリの二人の顔を見上げた。
「いやその、その後姉さん怒り狂っちまって」
もう大変でな、と阿邪流がこめかみを押さえた。どうやら二日酔い以上の痛みが彼を苛んでいるらしい。ちら、とティワズの方を見てみたが、彼はといえば笑っている。
「まさかただの年齢コンプレックスだとは思わないよね、あははー」
面倒見が良くて悪いのか子持ちだとざけんなあたしゃまだ●才でと首を絞められたとは思えない爽やかさ。早々に阿邪流にバトンタッチしたティワズは実際楽しんでいた。
「賄いも出てるし子供もいないし、食料には困ってないみたいだよ」
「操も白か」
リュヴィアが頷き、エーディットも『四郎さんも絶対違うのですよ〜♪』と笑った。彼は過去を悔やみこそすれ、今は別段甥を恨んでいるとか思っておらず、むしろ店を支えたいと思っている風だった。
「凛子ちゃんも絶対違うよ〜♪ 昨日はずーっと一緒にいたけど怪しい所なかったし!」
張り付く事で潔白を証明したもんと瑞巴は笑った。アルフォンシーナも操が恋敵でなく、苦い恋を忘れようと努力している様子を見たからには彼女を犯人だと思うのは厳しいと思っている。
「じゃあ、幾郎さんかな?」
消去法でいくとそうなる。レミナは確信を持って仲間と共に厨房へと向かった。
「お、嬢ちゃん、悪いが米を炊いてくれんか?」
今日も幾郎は恭華に野菜の切り方を享受しているようだった。強華も料理人の幾郎を監視する以上、大人しく従っている。
「幾郎さん、三月から減り続けている食材のお話がしたいのですが」
「‥‥何じゃと!?」
まな板と包丁から視線を上げた幾郎は、ぞろぞろと入ってきた俄か店員達を不審そうに見渡した。
「料理を一手に任されているあなたなら、減っている食材にはすぐに気付いていたと思いますが」
「‥‥知らん!」
やや青ざめた顔で、幾郎はシラをきった。冒険者達の中に確信が生まれる。彼は黒だ──と。
「知らん言うたら知らん! い、いいから店の方へ出てくれ‥‥出てってくれい!!」
半ば絶叫するような幾郎の顔は何かギリギリのものを抱えていた。声に驚いた操と四郎が駆けつける。
「何、どうしたの──?」
操はその場の張り詰めた空気に息を呑む。四郎は未だかつて見た事のない切羽詰った顔の幾郎を見た。
「食材とはいえ、盗みは盗みです」
レミナの言葉に、力が抜けたように座り込む幾郎、その姿は断罪を待つ罪人のようで、冒険者は責める言葉を見出せず、空気はかちんこちんに固まった。
「あ、皆ここにいたんだー、何かあったの?」
お前は場の雰囲気が読めんのかとか突っ込みたくなる鈍感ぶりで、凛子が乱入した。祖父の様子に首を傾げながら、ナチュラルにのたもうた。
「お爺ちゃん、今日もお野菜とお米もらってくねー」
──何だと?
一斉に移る視線をものともせず、せっせと前掛けいっぱいに野菜を抱え込む。
「うーん、茸ご飯もいいなぁ。あ、でもお魚も美味しそー。あ、瑞巴ちゃんお魚好き?」
「へっ?」
「駄目じゃっ!!」
水を向けられた瑞巴は呆気に取られている。怒鳴るように幾郎が声を張り上げた。
「ええーっ、だって私一人じゃ食べられないよ。瑞巴ちゃん、私の手料理食べない?」
「へ? え? あ、あのその食材って──」
「うん?」
絶句する冒険者の前で、凛子はニッコリ笑った。
「これで私が賄い作るんだー」
●そしてスパイは納得する
「いや‥‥まぁ、何と言うか‥‥な」
阿邪流は店を閉め、揃って卓についた他の冒険者達の顔を窺う。ティワズはにっこりにこにこ笑っていたが、箸にはけして手をつけなかった。
「何、凛子殿が作ったのだろう。私は美味しく頂くよ」
リュヴィアが先陣を切って卓の上の皿から縦横無尽にはみ出たそれを一部口にした。
──ガンッ。
噛むまでもなく撃沈した。卓にデコから撃沈したリュヴィアは銀髪しか見えない。四郎と操は凛子と顔を合わせないよう、下を向いていた。
「さ、皆も食べてよ!」
凛子は満面の笑顔でそれをずずずいっと差し出した。がまの油のように滝の汗をかく冒険者、箸が震えてつまめない。
「いっ、いただきま‥‥ぐはうあっ!!」
ちーん。
アルフォンシーナ昇天、静まり返る店内でついに幾郎は席からずり落ちた。
「す、すまんかった‥‥!!」
「まさか凛子が賄い用の料理を作っていたなんて‥‥」
依頼人は土下座する幾郎に途方に暮れ、四郎を見、操を見た。卓では勇気ある冒険者二名がまだ卓に沈んでいる。
「盗みだと思ってたのに‥‥でも何故そんな愚かな事を。彼女は超が付くほど料理がど下手で、私も何回殺されそうになったか知ってるでしょう」
冒険者が来る前の事である。入院する破目になり店をしばらく閉めた。
「いや、その頑張ってるもんを無碍には出来ねぇし‥‥な、なぁ?」
四郎が笑いそうな表情筋を引き締めて操に言う。操は我慢出来ずさっきから阿邪流の背後で肩を震わせている。噴出してしまいたい。
「す、すまんかった、申し訳ないと思っとる‥‥!! ま、まさかあんなに失敗する量が増えていくとも思わず‥‥」
土下座する幾郎はお客さんに出す一食分で練習をさせようと思っていたが、日に日に失敗量が増大していく凛子に可愛さの余り止める機会を逸していたのだという。
「い、幾郎さん‥‥」
顔を歪める依頼人の前に、野菜を抱えていた凛子がまろび出た
「そんな‥‥そんな、責めなくったっていいじゃない!」
──お前のせいやんけ。
とは、誰も言えない。彼女の瞳には涙が溜まっていた。
「盗みかと‥‥」
ぶつぶつ呟く依頼人の方に乗る掌。
「若旦那‥‥これが事実だったんだよ」
阿邪流の台詞に思い切りよく噴出した瑞巴であった。