【飛脚】怖いの怖いの飛び込んで逝け!

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:6〜10lv

難易度:易しい

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月23日〜03月28日

リプレイ公開日:2006年04月12日

●オープニング

 その男は、やっぱりちょっと、ほんのちょっとだけ不幸だった。

「も、もしもぉ〜し‥‥だ、誰か居ませんかぁあ?」
 小さな森を迂回して辿り着いたその村は、まだ昼日中だというのに随分静かだった。
 その上、気のせいだろうか? この村上空にだけやたら黒い雲が覆っているような‥‥今にも空が泣き出しそうな‥‥。
 村の出入口で声を上げていた一匹の虫、いやシフール飛脚は停車場で見せるいつもの快活な笑顔は吹っ飛びへっぴり腰で荷物を抱えていた。
「お、お荷物お届けに来」
「ぅぎゃおええええええええええええええええ!!!」
 何か、今横を通った。
 自分と同じ羽を持ち、同じように荷物を担いだ青年が。きっと、いや多分、間違いなくシフール飛脚。
「‥‥‥‥」
 怖い。帰ってしまいたい。しかし手にした荷物は紛れもなくこの村の住人宛、だった。

「お、お邪魔しまぁ〜‥‥」
 す、と言う前に。
 がたっ、がったんがったんがったん。
「ひっ、ひィぃいいっ!!」
 一番村の入口に近い家の、今にも倒れそうな傾斜十五度の家の扉が突然動き出す。
 肩に荷物を担いだまま、のけぞり下がる。
 がったんがったんがったんがったん! がたっ‥‥。カタカタカタカタ‥‥。
 急激に板戸の揺れが小さくなっていくが、何であろうか? れ、霊障?
 ぎ、ぎぎ‥‥ギギギギギ‥‥‥‥。
 軋む扉が巨大な沈黙の中開きゆく。
「‥‥‥‥‥‥‥‥どちらさんでぇええええ?」
「あ、の、荷物のはい、たつに」
 扉の隙間から覗く針のように細い指が更に板戸を押し開けた。
「待ってましたよ‥‥可愛いシフール飛脚さああああんんん‥‥‥‥!」
「ぃぎゃあああああああああああああああ!!!!!」

「‥‥で?」
 うっ、うっ。うっ、うっ。
 京都冒険者ギルド。停車場で見かけるこいつがここを訪れるのは二度目だ。目の前で泣かれるギルド員は呆れ果ててコメントしようがない。
 こいつはまともに荷も運べねぇのか?
「そのまま荷物配達せずに逃げ帰ったのか?」
 うわ、ダサ。つか村に着くまでに既に三日かかってるってどうよ。帰って来るのに更に一週間てどうなのよ。
「な、中には入ったよ! ちゃんと! でも渡せなかっただけだ!!」
 それは飛脚としてどうなのか。しかもこの街に戻ってくるまでずっと泣いていたらしいし。
「でもえーと、もう十日は経ってんだろう? いくら何でも怒られねぇか?」
「じ、時間はいくらかかってもいいって言われてるから‥‥」
 それにしてもまさか十日経っても京都にあるとは思うまい。
「それにしても恐怖村への荷物配達かよ‥‥とことんツイテねぇな、虫」
「‥‥‥‥」
 それは自分でも思うらしい。
「で、その‥‥何だっけか、人が近寄らない不気味村? そこへ運ぶその荷ってのは何なんだ?」
「うう‥‥うううううっ」
 泣く虫、もといシフールが取り出したのは、骨壷、であった。

「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」
 ぴぅ、と春を呼ぶ風が入った。だというのに、この寒さは何だろうか。
 ふ、とギルド員は持ち直した。
「‥‥まぁ、とっくにお亡くなりあそばした骨であるし!」
「村に入ったらわけもなく鍬やら隙やら米俵が飛んできても?」
「‥‥‥‥荷をお客さんに手渡してくればいいわけだし!」
「村の一番奥の家でも?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥い、生きてる人間が相手だし?」
「意味もなく出血してて顔とか服とか赤ーく染まってて着物が流行の最先端から取り残された昔の着物で昼日中というのに生活音が一切しなくても?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 無言で紙に筆を走らせた。


 ──王・虎尾(ワン・ヒューウェイ)と共に恐怖村に荷を運んでくれる冒険者様、大・大・大募集。


 ──誰か一緒にあの化け物村へ行って。

●今回の参加者

 ea1407 ケヴァリム・ゼエヴ(31歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea7814 サトリィン・オーナス(43歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9384 テリー・アーミティッジ(15歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1795 拍手 阿義流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb3360 アルヴィーゼ・ヴァザーリ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

 べへう、と春を呼ぶ生暖かい風が吹いた。寒いわけではないのにフォーレ・ネーヴ(eb2093)は思わず肩を抱く。
 予感がした。これから悪い事が起こる、と。
「太陽も月も当てに出来ませんね‥‥」
 ふっ、と。陽と月の魔法を使う拍手阿義流(eb1795)が笑う。余裕のない笑み。こんな冒険は初めてだった。
「早く片つけてな」
 韋駄天の草履を履いた将門雅(eb1645)は、切羽詰った様子の仲間に手出しはしない。腕を組んで傍らの木に寄りかかる。
 ──うちの出番やないからな。
「くくっ」
 アルヴィーゼ・ヴァザーリ(eb3360)が笑う。乱れた着物がセクシィだった。
「虎尾さん」
 サトリィン・オーナス(ea7814)の優しげな微笑が炸裂する。ひっ! と声を上げる一匹の虫の両脇には、彼が掴んで放さない二匹のシフールがいた。
「王くん、羽、羽、ははは離してっ」
「いいい嫌だっ」
「おに〜さん、何だか急に厠に行きたくなっちゃったかな〜って★」
「絶対嘘だ!」
 この場から脱出を試みようとするテリー・アーミティッジ(ea9384)とケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)の顔色も只事ではない。ケヴァリムことガルゥの呪文によって生み出されたライトは、彼らが全員ピンチを迎えている事を物語っていた。
「さて、と。お聞きしますが──」
 パキリ、と足元の枝を踏みつけて、アディアール・アド(ea8737)が一歩踏み出す。森の静寂を破ったその音に、シフール三匹はびくうっと肩を震わせた。
 ──なぜ私達は森の中にいるんでしょうね?
「ぼぼぼ僕のせいじゃないもんねっ、みみみ道間違えたのは王くんで」
「ばばばかやろーっ、俺一人のせいにすんな!」
「地図持ってなかったからー★」
「ンな事言っちゃって逃がすかあああ!」
 バキン、とまた何かが割れた。
「毟りますよ?」
 アディアール、怖い。

●回想
「おや、顔が引きつってますね」
 はははどうしました、医者呼びますか縄で縛りますかそれとも羽毟りますか?
 トラウマを残した前回の冒険に見た顔が、なぜか今回の冒険にも参加していた。拍手阿義流、毟る事とは縁遠そうな上品な男。言外で聞こえた台詞は虎尾の被害妄想だろうか、神の啓示だろうか?
 ギルド前で落ち合ったメンバーは一人足りなかった。特殊な草鞋を持つ彼女は、村の前で合流するとの事だ。
「飛脚なのに荷物運べずに帰って来るなんて、なっさけないなぁ!」
 自分より小さな少年シフールテリーが眉間に皺を寄せている。面目ない、と虎尾は小さくなった。
「それにしても、なぜ往復に十日もかかるのでしょう?」
 距離と時間が全く合いません。
 アディアールの追及は胸に刺さる。地図を失くしましたと自白すれば白い目で見られそうだ。
「ででででも今回は皆もいるから‥‥」
 冷や汗をかきかき語る虎尾の頭を、優しい女性の手が撫でる。
「そう、大丈夫。私達がいるもの」
 ね? と微笑む女性は母性の人で、虎尾はうっかり癒されかけた。
「ありが」
「一緒に逝きましょうね?」
 ──おかーさーん!!!!

●で。
「なぜ、森の中にいるんでしょうね?」
 ギルドのお話では迂回して半日だった筈?
 取ってつけたような笑顔が怖いアディアール。三匹のシフールを震え上がらせている。
「しかももう夜だものね?」
 どこかの虫が森で行方不明になったために?
 サトリィンさんサトリィンさん、実は怒ってる? 森の中で三匹のシフールが行方不明になって探す破目になったから? 十五時間もさ迷った挙句遭難しそうになったから?
「ふふふっ、時刻は丁度丑三つ時だね★」
 暗雲立ち込める村を目前に、アルヴィーゼが嬉々としている。走り回って虫探しに時間を費やした事など彼にとってはどうでもいい。何しろこれからザ・ジャパニーズホラーショウにご招待なんである。
「ここここれからあのむむむ村にっ???」
 それは嫌だあああと滂沱の涙を零す虎尾に、あら、とサトリィンが微笑んだ。
「荷物はちゃんと届けないとね?」

「おおおお邪魔しま」
「こーんにっちはー♪」
 腰引けまくりの怯えまくり虎尾と正反対に、アルヴィーゼのあ・かるーい挨拶が村の入口から轟き渡る。
「これは‥‥珍しい野草ですね」
 アディアールがしゃがみ込み、自生する草を調べている。ふむ、実に興味深い。恐怖村独自の気候で進化したのでしょうか?
 近くの家の扉が僅かに開いた。細く開かれた扉にかかる指は、ガルゥのライトによって照らし出されている。
「‥‥どちら様で?」
「荷物を届けに来たんだ」
「あっ、テリー!」
 その家は! と虎尾の慌てる声は間に合わない。ぎっしぎっしと音を立てる扉に首を傾げる少年は、ふよふよと開く扉の前にいた。
「いらっしゃあああああい!」
「「っぎゃー!!??」」
 血みどろの顔がテリーの前に突き出されていた。白い顔に浮き出る血管。なぜか両手は真っ赤に染まりその身は返り血を浴びたように染まっていた。
 羽をばたつかせている虎尾は、がっちりアルヴィーゼに捕獲されている。その横を通って頓挫しようとしたテリーは虎尾の伸ばした腕に捕獲される。
「俺を捨ててくなあああっ」
「捨ててない、捨ててない★」
 暖かい応援の言葉は虎尾の背後から聞こえている。ガルゥ、それは盾にしてるって言うんだよ?
「本当に幽霊のようで」
 どかっ。何か勢いよく阿義流の横を通過した。音を立てた方向を見れば米一俵が鎮座ましましている。
「‥‥お米?」
 フォーレの鞭で拾えない重量。人の手で投げるには少々無理がある。
「幽霊の仕業かし‥‥らっ!?」
 幽霊ならば見慣れているサトリィンが目をこらす余裕もない。農具が危険な速度で飛んできた。
 ひゅーんひゅーん、ぼかっ!
「あはははどうやら歓迎されてるみたいだよーっ?」
 何であんたそんな嬉しそうなの?
 唯一キラキラと瞳を輝かせたアルヴィーゼが、虎尾の羽を掴みながら聖剣アルマスで叩き落としていく。
「「いだだだだっ!」」
 アルヴィーゼに掴まれてる羽がぎしぎし逝って、いやいっている。虎尾は引きつり、自分の手が掴んでいる羽の持ち主も引きつる。
「王くん早く荷物渡してきなよ!」
「ぶへへぇ、ぶへへぇ」
 アルヴィーゼによって引きずられる虎尾に引きずられるテリーが、むせび泣く虎尾に叫ぶ。
「男の子たるものもっと自信を持ってきっちり仕事をこなせる強くて頼れる男になりましょう、ね?」
 サトリィンさんサトリィンさん、背後に仁王背負ってるよ!
「あはは虎尾くん、ふぁいっとー♪」
 ケヴァリム、表舞台に出る気ゼロ。場を明るくする気はあるよ★
「あー!!」
 フォーレは悲鳴を上げた。鞭がぴたりと止まる。村の奥から飛んできたのは農具だけでなく‥‥徒党を組んだ血みどろの村人達、だった。

「あちゃあ‥‥」
 ぎゃーっ! うぇあー!? ひゅーえいさ‥‥あー!!
 悲鳴が響き渡る村の出入口から少し離れたところで、疾走の術を使って雅が傍観する。幽霊だか何なんだか無数の赤い腕が虎尾達に伸びていた。
「ううむ、もみくちゃにされとって骨壷渡すどころやないなぁ‥‥」
 それとも皆楽しんどるんかな?

●還って来いよ
「くっ、このままでは全員本当に一緒に逝ってしまう破目に!」
 阿義流の目の前で、フォーレが土左衛門に追い駆けられサトリィンが距離を詰められアルヴィーゼが爆笑していた。何か人数が足りない気もしたがとりあえず転がってる虫と羽の一部(考えるのは後にしよう)を回収する。
「テリーさん、骨壷を置いていきましょう!」
「任せてよ!」
 かろうじて難を逃れていた(虎尾の指が地面に『てり』と書いていたが今は考えない!)テリーが骨壷を土左衛門に向かって転がそうと手にかけた。
「ところで『こつつぼ』って何なの?」
「何って‥‥人の骨」
「うわあー!!」
「うわあテリーさんー!!!!」
 骨壷を落とした。ぴしりとヒビの入った音がしたが、土左衛門、もとい村人の気が逸れたのを気に、撤退を選んだ。
「本当に逝っちゃ駄目ですから!!」
 この手にある毟られた羽も気になりますが!

「と、いうわけです‥‥」
 村に行くまでさんざん森をさ迷ったせいだろうか。それとも村人の素性に混乱したか。気付けば阿義流達冒険者も真っ直ぐ森に進入してしまい、えらい目に遭った。おかげでギルドの親父に依頼人を返品した時には太陽が真上に昇っている有様。
「‥‥‥‥ありがとよ」
 すっかり人間と変わらない白目のシフールを手に、ギルド員は溜め息を吐いた。目の前の冒険者達は森をさ迷った為か恐怖村で人には言えない目に遭ったためか、目の下に隈が出来ヨタっていた。
「まぁ、今日はゆっくり休んでくれよ」
「‥‥ありがとうございます」
「徹夜スキルもないのにちょっと頑張り過ぎたわね」
 ふふ、ふふふふふ。サトリィンがギルド員より上の空間を見て笑っている。フォーレはギルド卓で既に意識を飛ばしている。
「ところで、壷も無事渡したって事は分かったんだが‥‥」
「はい?」
 折れ曲がった烏帽子をどうしようかと思って虚ろな阿義流は、爆睡かっとんでいるテリーとケヴァリムを肩から落とそう、いや下ろそうとしている。ああ、早く家に帰って眠りたいです。
「アディアールさんを見かけねぇんだが‥‥」
「──はい?」
 はい?
 時の止まった京都冒険者ギルド。アルヴィーゼの笑いだけが響いた。



「ううむ、こちらの野草は止血に使うものに似ていますが‥‥いや、この葉の形はあの毒を含む草に似ていますね」
 ──アディアールが背後に迫る土左衛門に気付くのは何時の日か。
 しかし壷のお届けは出来たから問題はないんである────────多分。