宮廷絵師の一度だけよ
 |
■ショートシナリオ
担当:べるがー
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月06日〜06月11日
リプレイ公開日:2006年06月29日
|
●オープニング
『美しさは、罪』──そう言ったのは、誰だったか。
随分蒸し暑くなってきた、日本の夏、京の夏。
ぺたぺたぺたと、何かを塗りつける音が響いていた部屋で、誰かがぼそりと呟いた。
「‥‥つまんないわ」
畳張りの部屋、暑くて襖も障子を開け放した状態で絵筆を放り出したのは、ここ京都御所で得意の肖像画をテケトーに書いていた一人の宮廷絵師。
三次元の美しさを一枚の紙に収めるべくお抱え絵師になったこの女は、つまんない、と再度呟いた。肖像画を頼む人間も、誰かとの思い出の一枚を書いてもらおうと相談に来る人間も、今日はいない。この蒸し暑さのせいか。
「何よ、念願のお抱え絵師でしょう?」
「好みじゃなーい」
年上の先輩絵師に窘められても、ぷいとそっぽを向いた。
「依頼に来るお客さんって、ありきたりなんだもの。もっと、こう‥‥特別な一枚を描きたいのよ私!!」
美しくても無表情にこちらを向いているだけではダメだ。仲間と和気藹々としているだけではダメだ。
自分の筆なら自信がある。そのための宮廷お抱え絵師だ。だから、もっとレベルの高い、美しい一瞬を描きたい──。
「何言って」
「そうだなぁ。美貌は十分なんだが、代わり映えがしないというか‥‥」
じめじめしてきた中で、部屋に閉じこもっていたフラストレーションでも溜まったか。次第に同意する声が他の絵師達の中からも上がる。
今まで書いてきた絵を眺める者、たった今筆を置いたばかりの絵を見る者、昨日受けたばかりの依頼に思いを馳せる者‥‥何かが、切れようとしている。
「‥‥面白い絵を描いてみたいわよねぇ!?」
「京の歴史上に残るような名画を描いてみたいなぁ!?」
「とすると美しいモデルも必要よねぇええ!?」
話は、決まった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
きゃっはっは、あっはっは、と世にも愉しげな笑い声を残し、去って行った冒険者ギルドの建物内は、未だかつてない程静寂に包まれていた。
卓の奥にいたギルド員は、奪われ勝手に書き込まれた依頼書を前に、言葉なく固まっている。正座のまま。
──宮廷絵師のモデル大・募・集☆──
凄腕絵師による、凄腕絵師のための、絵作成協力者求む。
人数は八名まで。
君も歴史に残る(多分)絵のモデルになってみないか!?
ポージング、場所は自由! ただし絵師が『美しくない』と判断した場合、失敗判定☆
冒険者よ、頭と体を使え、自らの美貌を最大限に活かせ!
ただの肖像画など興味はない。絵師の前で百の人間を魅了せよ。
勇者よ、その名を残せ!!
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥勇者?」
ギルド員の疑問に答える者は、既にない。
●リプレイ本文
「あなた達が依頼を受けたモデルね? へぇ‥‥」
レベル高いわ、と待ち合わせ場所に現れた宮廷絵師が笑った。その不気味な笑いに、今日は素顔を晒している神楽龍影(ea4236)が肩を揺らす。反して、
「ふふっ、僕が美しいのはこの世の道理だからね」
と意味不明の理屈でもってポージングするのはティワズ・ヴェルベイア(eb3062)だ。そのキラキラした人の横で、
「私は拳法の型を描いて頂ければと」
淡々と将門夕凪(eb3581)が希望を述べる。ジーン・インパルス(ea7578)も臆する事なく提案する。
「俺はやっぱり仕事してるとこかな。救命士として働いてんだ」
これこれ、と見せたオレンジのローブの背中には、青字でCAMELOT、重なるように黄でRとある。目立つカラーなのは仕事着だからか。
「貴族の洋風画などはどうですか?」
レイムス・ドレイク(eb2277)は自分で調達してきたらしいティーセットを見せる。穏やかな肖像画になりそうだ。
「えへへー」
六人目のレベッカ・オルガノン(eb0451)は、意表を突いて白装束。
「夏だからねー。あ、もちろん背景は墓場ね!」
怪談風味という事らしい。一方、彼らの話を聞いていた龍影が俄かに焦りだす。衣装を決めてない。
「その、こういう場合はどういう服装が良いのか‥‥よければ、似合うものを」
「えっ、選んでいいの!?」
マジっすか!
絵師の一人が尋常でなく食いついた。
「はぁ‥‥その、自然な自分と云うのを見つめる、良い機会かもしれ」
「任せて」
ニヤリ。
龍影、新境地開拓の予感。
●絵描きさんとモデルさん
「あー、日中じゃ描けないぃ」
しまったーと墓場へやって来たレベッカがうなだれる。私生活でもフラストレーションが溜まりつつあったから、気分転換に受けたのに。ますます溜まりそうだ。
「夜に」
また来ましょう、と絵師は言うつもりであった。しかし。
「はぁ‥‥ご主人様ったら今頃どうしてるんだろー」
墓場で座り込むレベッカの台詞に、『ご、ご主人様あ?』と目を白黒させる担当絵師。
「お茶を飲んでいるところをお願いしますね」
太陽の下でのんびりティータイム、という設定で、レイムスは持参した荷をセッティングしていく。じいいっと自分を食い入るように見つめる絵師に、緊張で硬くなる。
──この緊張感は、不味いです。
「いつもこうやって町ん中巡回してんだ」
モデルの中でも最もアクティブに動き回っているジーン。事件が起こればすぐさま駆けつける救命士だが、タイミングよく事件が舞い込むとも限らない。
「んーっと、そうだな。事件以外なら‥‥」
迷いなく長屋の方へと歩いて行く。丁度暇そうに井戸端をしている主婦数名がいるのを見つけ、声を掛けた。
「たまにこうして防災指導もしてんだぜ」
見ててくれよな。
「大分暗くなってきましたね」
河原で夜を待っていたのは夕凪。さわさわと心地いい風が葉っぱを揺らし、雰囲気も出てきた。そのうち月も顔を出すだろう。
「私が得た拳法は、十二形意拳『巳』の型」
未だ多くの雲が空を覆うその下で、夕凪は蛇のような構えで打つ。
ビシッ!
「そして残心と持っていく形ですが‥‥」
へえ〜、と無心に筆を走らせ始めた絵師の前で、夕凪は次々と型を見せていく。──闇の中、月が現れるまで。
「月が出てきましたね‥‥」
アウトドアなモデルが多い中、衣装調達を絵師に任せ慣れぬ着物に腕を通した龍影は、暗くなり行く部屋の縁側に腰掛ける。
さらさらと筆を滑らせる音と、時折ヨダレを啜る音。ゆったりと座っていた龍影は、困ったように首を傾げた。
「しかし、どういう姿勢が良いので御座いましょう?」
「‥‥イイ!」
艶やかな長髪をかき上げる龍影に、2メートルと離れぬ場所で猛然と筆を走らせる絵師。慣れぬ着物の前を細い指先で引っ張るのを見、じゅるりと生唾を飲む音がした。
美貌の青年、龍影は真っ赤な花魁衣装を着こなし、ほうっと物憂げに息を吐いた。
●素のままな君が一番さ
モデルとなって一日目。いやもう時間帯は二日目か。何刻経ったっけかなぁ、とナルシズムに生きるティワズについて来た絵師は遠い目をした。
「美しさは罪‥‥ふふっ、これって僕のためにあるような言葉だよね」
夜中だというのにこのキラキラは何なのだろう。半ば呆然と絵師はティワズの言葉を聞いている。
「この依頼が求めているのは、前衛的な僕が、それとも美しい僕か、僕しか持ちえない優美な仕草か、僕の●●な行為か、見る者を魅了して止まない動作か」
否、そんなものはどうでもいい。相手が何を求めているかでなく、僕が何を望んでいるかが重要なんだ。
「あの、絵‥‥」
「そう、僕は罪作りなエルフだ。存在自体が美しい。存在そのものが罪。この美しさが人を惑わせ、世に戦乱を招くのさ!」
「絵‥‥」
「そう、僕はUMA‥‥アンリミテッド・ミステリアス・アニマル!」
一単語をも挟ませない、見事なまでのナルキッソス。その空間だけが光り輝き、酔っ払いも後ずさって遠目に眺めている。
「絵‥‥‥‥」
シャリーン、シャリーン‥‥
墓地では、レベッカが手にした神楽鈴がその独特の踊りと共に鳴り響く。もう一方の手には卒塔婆。顔面は鬼面。ある意味完璧。
──なのに。
「何故、エジプトダンス?」
口から漏れて聞こえる『ご主人様ぁ、また私のいない所で面白い目にあってるんじゃないー?』がより謎を呼ぶ。
──だからご主人様って一体何なのさ。
「くうくう、お腹が鳴りました」
「休憩を入れては‥‥」
穏やかなレイムスが、貴族の顔で腹の虫を盛大に鳴かせている。そのまま何故数刻も茶を飲み続けるのか。
「お気に‥‥なさ、ら、ず‥‥」
「あの、ホントに何か食べて下さい、握り飯か何か」
「もうダメですーっ!!」
どーん。がちゃっ、だんだんだんだん!
「‥‥‥‥‥‥え?」
「お腹がすきました、お腹がすきました、お腹がすきましたーっ」
それは解りますけども、ティーセットを押しのけ取り出したのは、
「な、鍋?」
しかもちゃんこ。猛然と食材を切り分け下味をつけ始めるレイムスに、
『い、異国のティータイムって鍋も食うのか??』
絵師は誤解した。
「それで夜中は火をつけられないようにだな」
「そういえばさぁ、先月隣町で火付けされた上に財産丸ごと持ってかれちまったって話聞いてるかい?」
「‥‥」
話が、逸れる。
日中から説明をしているジーンは夜空に輝く星々を眺めた。あ、流れ星発見。
でっかいおばちゃん達の臀部に遮られ、絵師が見えない。旦那が揃って居酒屋に帰って来ないという暇を持て余した主婦達に囲まれ、ジーンは『子供を生んだ女は偉大だなー』なんて思った。
「話を戻すが──」
「ああ、火が回ったら着物脱いで叩くんだろ?」
超危険技を笑顔で断言された。自分の指導が脳に届く前に雑談に総て呑まれてしまったらしい。
──活躍してるとこ、描いてもらえんのかなぁ俺‥‥。
多分無理。
ずっ、ずずーっ、ずびばばばばごっくんごっくんごっくんっ。
「‥‥‥‥」
河原でスポーツ美を見ていた筈の宮廷絵師が、何故か蕎麦屋台にいた。
「ふはふは、ずっずっずずずずっちゅるるっ、もう一杯お願いします!」
「お姉ちゃんよく食べるねぇ〜」
「それほどでもありませんぐんぐんぐっ」
妙な音と会話が繰り広げられる中、つい先ほどまで凛々しく突きを入れていた夕凪を見つめる。
月を浴び、食い意地アップの狂化。実情を知らない絵師には野獣化した夕凪を前に筆が完全に止まってしまった。
うふっ、うふっ、うふふふふふ。
月夜の美しさに反して、不気味な笑い声が聞こえる。何故絵師が笑っているのか理解出来ていない龍影は、『絵師の希望通りにしてきた』着物の前をそっと指で引っ張る。
──ぐふっ、ぐふっ、ぐふふふふふふ。
「あ、あの‥‥もっと、ですか?」
「もっと、よ」
白く繊細な指が、十分はだけられた裾に手を伸ばす。帯は完全に解けつつあり、最初から結ってはいない龍影の長い黒髪が、白い足に落ちた。
「ほら、今度は髪をかき上げて、後ろを向いて‥‥」
「ああ‥‥よく、解りませぬ」
この展開が。
●飾ってますよ?
「龍影ちゃん、龍影ちゃん、起ーきーてっ」
「ん‥‥あ」
気付けば眠りについていたらしい。夢を見たのか、涙が零れた。
「絵完成したよーっ。ありがとうね」
「あ‥‥お力になれたようで‥‥」
半分寝ている状態で例を言うと、にこにことティワズが微笑んでいる。傍らの絵師が目の下にクマを作っていたのが気になったが、絵は無事描き終えたらしい。
「キミの絵も綺麗だったよー」
「あ‥‥ありがとうござい」
「僕が一番だけどネ★」
「‥‥」
周囲を見回すと、疲れた様相のジーンが縁側で黄昏ていた。
「‥‥?」
反対に、夕凪とレイムスが満足そうな顔で会話している。何故話題がちゃんこ鍋とソバの味なのかは解らなかったが、二人の担当はそれぞれ肩を抱き合って慰めあっていた。
「ご主人様‥‥私そろそろ暇だよぅ」
レベッカは鬼面でわからぬが、鎮痛な面持ちをしている(ように感じた)。しかしやっぱり発言については詳細不明である。
「ほーら、見て見てっ! 力作なんだよー」
絵師が目を爛々とさせて龍影をモデルにした絵を見せた。
「「「「‥‥‥‥‥‥」」」」
再びほろりと涙が零れた。絵を見て思い出す。忘れた記憶の何かが、懐かしさを呼ぶ。
「何か‥‥夢を見ておった気がします‥‥」
数日後。宮廷絵師の依頼で作成された絵が、話題が話題を呼んで今じゃ遠方からも見に来る観光客もいると聞いたので、『龍影担当以外の絵師は絶対見せなかった』絵を冒険者六名は見に行った。
「うわっ、立て札立ててそこに貼り付けてる〜」
一番乗りしたレベッカは、そこにおどろおどろしい霊を見た。
『深夜の墓場に突如現れた幽鬼! 壮絶! エジプトダンスでご主人探し!』──などとコメントまで付いている。
「あー‥‥やっぱこうなったか‥‥」
ひょっこり現れたジーンはがっくりと肩を落としている。
『長屋の主婦数名に熱血指導! 命を救う救命士、熱き討論!』
むしろ聞き役に見える絵なのは囲まれているからだろうか。
「これは‥‥」
レイムスは絵の下でざわめいている郷土を同じくする仲間の驚く声を聞いた。
『これぞ異国のティータイム! お腹が減ったらちゃんこ鍋!』
そんなわけがない。
「‥‥美女と野獣ですね」
うむ、と絵を見て頷くのは、拳法どころか何杯食えるかまで露見した夕凪。
『美女が繰り出す技は拳だけじゃない! 見よ店主の驚愕する顔! 「鍋が空んなったのは初めてだぜ‥‥」』
「ああ‥‥やはり何か思い出しそうな、何か夢で思い出したような‥‥」
依頼日の間に完成絵を確認していた龍影は、絵をよく見るために面を外した。人混みは好きでないが、これだけ人が集まっていたら大丈夫だと踏んで。
「やはり‥‥下絵でも良いので一枚頂けないか頼んでみましょう」
『永遠の美、永遠の夢の夜‥‥今宵だけ、あなたのもの』などと胡散臭げなキャ地コピーを付けられているのも夢でなく、周囲の男が真っ赤になって自分を見つめているのも夢ではないのだが──気付いてはいない。
「──ん?」
帰ろうとしたレベッカは、絵の下の小さく書かれた解説文を見つけた。
「なになに、『彼女は京都冒険者ギルドで話題を独占した事件報告書に名前を連ねる人物で、現在淡路国にて尋問を受け囚われている難波呪子の身内──』ってご主人様あああっ!?」
『ご主人様』はどうやら見つかったらしい。