耐寒登山で一皮ムケロ

■ショートシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月25日〜12月28日

リプレイ公開日:2009年03月12日

●オープニング

「こらァ小次郎! お前はいつまでゴロゴロしてんのや!?」
 寒風吹きすさぶ京都。北からの風は日を追うごとに勢いを増し、山頂では既に衣替えが始まったと聞く。
 ここ数年災いにみまわれ慣れたジャパンといえ、冬を乗り越えられるかどうかは別問題。
 収穫も仕事も減るのはどこも同じなのだ。特に農家で保存食確保は死活問題なのだから。
 ──だというのに、このガキィ!
 火鉢と愛犬から一向に離れる気配のない駄目息子ときたら、『子供は風の子』の見る影すらない。
 もう、怒った。もう、容赦など出来るか!

「で、耐寒登山ですか‥‥」
 おたくの息子さんには高レベルじゃないっすかねぇそのハードル、とは言うことなく。
「冬山に登ってくれる冒険者さま大募集、ということで」
 ギルド員はただ筆を走らせていくのみ。しかし即座に突っ込みが入る。
「もちろんアタクシの娘にもですわ、ねぇアナタ」
「もちろんだよ、奥さん」
 商売人の娘ですもの、辛く厳しい時こそファイティングスピリッツを養ってもらわなければ。
 鮮やかな着物夫妻が笑顔で怖いことを言った。
「恥ずかしながら我が子も‥‥」
 朝から晩までダラダラダラダラ。全く、この時期になると家人の目をかわし勉強はさぼるわ剣の鍛錬から消えるわ。
「武家の息子として恥ずかしい!」
 眼光鋭いお武家様も苛立った声音でのたまった。
「はぁ、皆さん立場の違いはあれど悩みは同じということで」
 子をもたないギルド員にはわからない。わからないが。
「なぜ冬山なんですかね‥‥?」

 それはもちろん、耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ、子供の第一試練だから。

●今回の参加者

 eb0032 闇黒寺 慧慶(49歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec4467 ミルファ・エルネージュ(27歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec5651 クォル・トーン(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

「うわー! 雪山だあ!」
 小次郎、葵、左門之助は雪山に到達するなり駆け出した。耐寒登山の修行?のはずだが、わんぱくな子供達にそんな道理が通じるはずも無い。
「やれやれ‥‥子供ってのは‥‥」
 クォル・トーン(ec5651)は眩しそうに駆け出す子供達の行く先を見つめた。雪山は子供達にとって格好の遊び場所。修行だ何だと言っておとなしくさせるのは至難の業だ。
「冒険者さーん! こっちこっちー!」
 今回他の二人は急用が出来たそうでこれなくなった。クォルは三人の子供全てを引き受けることになってしまって、既に引きずり回されていた。
「子供の世話ってモンスターと戦うより難しいなあ‥‥」
 ぼやきながらクォルは子供達の方へ歩いていく。
 と、顔を上げたクォルの顔面を雪の玉が直撃した。葵が投げつけた雪玉だ。
 小次郎はクォルの様子にけらけら笑って雪玉を作っていた。
「みんなで雪合戦しよう!」
 そう言う左門之助は雪を積み上げて、早くも防御陣地を作り始めていた。
「お、それいーな、よーし俺も負けてらんないぞ!」
 小次郎も離れた場所に陣地を作り始めた。
 男の子たちは陣地を作り始めたが、葵は雪合戦には興味を示さず雪だるまを作っていく。
 クォルは子供達をしばらく観察していた。
 左門之助と小次郎の陣地には明らかに出来具合に差があった。左門之助の陣地はしっかりと地面に立っている。一報小次郎の陣地はぼろぼろで、ただ雪を積んだだけに見える。
 やがて始まった雪合戦。優勢なのは左門之助。素早い身のこなしで雪玉を壁で受け止め、的確に小次郎に雪玉をぶつけていく。
「くっそー! 何で俺の雪玉は当たらないんだ!」
 小次郎は瞬く間に雪まみれになって地団太を踏んだ。
 と、葵は手を振ってクォルを招いた。クォルが葵のところへ行くと、見事なウサギの雪だるまが出来上がっていた。
「冒険者さんも大変ね」
「どうして」
 葵の言葉にクォルは首をかしげた。
「だって口やかましいお父さんやお母さんの依頼で子供の相手をするなんて、うんざりでしょう?」
「いや‥‥まあ‥‥」
 クォルはぽりぽりと頬をかいた。それなりの代金も貰っているので何とも言えないところだが。
「お父さんやお母さんはみんなに強くなってもらいたいと、依頼を出されたんだ。まあ雪山で修行したからと言って強くなるわけじゃないけど‥‥」
 クォルは真面目に言った。葵はふうんと首を傾げる。
「ねえ、今までどんなもんすたあと戦ってきたの?」
「自分はまだ駆け出しでね。大したもんすたあは見たことがないんだ。みんなが喜ぶような冒険話が出来なくて残念だけど」
「これも冒険なのね!」
「まあ、ね‥‥」
 そんな話をしているうちに、小次郎と左門之助の雪合戦は決着が付いたようだ。左門之助の弾幕に業を煮やした小次郎は陣を飛び出し、突撃して左門之助の陣をぶっ壊した。小次郎と左門之助は走り回って雪をぶつけ合い、雪まみれになって、へとへとになって地面に寝転がってしまった。
「腹減った〜」
 小次郎と左門之助はクォルのもとへ倒れ込んできた。
「冒険者さん、耐寒登山もいいけど、腹が減っては戦はできぬと言うでしょう? ご飯にしようよ」
「よし! それじゃあ、あそこに見える丘まで競争だ! 一番になった子には保存食一個進呈! びりになった子は保存食三分の一個! お兄さんと競争だぞ!」
「え〜」
「文句を言わない! 耐寒登山は修行だよ! これも修行のうちだと思って、さあ、よーいどん!」
 クォルは走り出した。子供達は嫌々ながら走り出す。
「そんなんじゃお兄さんに追いつかないぞ! びりになったらご飯が減るよ!」
「よーし、ならちょっと本気だすぞ〜」
 すると、子供達がものすごい勢いで走り出した。
「お、やる気になったな」
 クォルは走るが、子供達の足は意外に速い。特に小次郎の足はみんなの中で一番だった。クォルは追いつかれそうになったので本気で走った。
 やがて丘にゴールインするクォルと子供達。クォルは全力疾走でばてて転んだ。子供達も転がり込むようになだれ込んできた。
「俺一番!」
 小次郎は腕を突き出して笑った。
「はあ‥‥はあ‥‥みんな、意外に速いね‥‥お兄さんはばてばてだよ」
「冒険者なのに情けない‥‥」
 左門之助は立ち上がって雪を払った。
「まあお兄さんは魔法専門なんだよ。――ウォールホール!」
 クォルの体が淡い光に包まれ、左門之助の眼の前にぽっかりと穴が開いた。驚く子供達。
「す、すげ〜、魔法なんて初めて見た!」
「凄いだろう! この国では志士様しか魔法は使えないんだよ!」
「志士様の術‥‥」
 魔法のビジュアルに尊敬の眼差しを向ける子供達。
「ま、まあこれくらい冒険者なら普通だよ! それよりご飯にしようか!」
 クォルはみんなに保存食を一個ずつ配った。びりはご飯が少ないと言うのはやる気を出させるため。

 昼食を頂きながら、子供達の真っ赤に染まった頬が緩む。
「はあ〜、耐寒登山なんて、ただのお遊びじゃん」
「そんなこと言って、本当に吹雪の中に放り込まれたら凍えちゃうわよ!」
「まあそりゃそうだ」
「ジャパンのふぶく山には雪女が出るって言うしね。雪女に襲われたら‥‥恐いよ。お兄さんも逃げるなあ」
「雪女なんて昔話だろ?」
「知らないのかい? ジャパンには御伽噺に出てくる妖怪が山や森に幾らでもいるんだよ。この国は八百万の神様が住まう国として、妖怪や精霊を神様として祀ってるだろう? そんな神様が実際にいるんだよ。京都周辺だけでも、最近は色んな神様が復活しているらね」
「噂には聞いたことがあるよ‥‥恐ろしい怪物が都に近付いてるとか‥‥いざなみ? とか言う‥‥」
 子供達は顔を見合わせる。大人たちの会話を耳に挟んだのだろう。
「大丈夫、京都は関白秀吉公が守って下さる。お侍様たちはきっといざなみを倒してくれるよ」
「大丈夫かなあ‥‥」
 ここ数年のジャパンの戦乱は子供達の心にも暗い影を落としている。最近では比叡山の戦いで人喰鬼が京都を蹂躙した。
「みんなが大きくなる頃には、戦いの無い平和な世界になっていると僕は思う。今が一番ん苦しい時なんだ」
「まああれこれ考えても仕方ないや」
 小次郎は食べ物を口に詰め込んだ。
「耐寒登山の続きでもしようよ。今度は何をするの?」
「そうだなあ‥‥それじゃ、みんなでかまくら作って火を起こそう。かがり火を焚いて歌おう。みんねでキャンプだ」
「しょうがない‥‥も少し付き合うか」
 左門之助はしぶしぶ立ち上がった。葵はぼやく左門之助を慰める。
「お武家様にはさぞ退屈でしょうけど、これも修行のうちと思って」
「いや‥‥まあ退屈じゃないよ。武士は体も鍛えないとね」
 クォルは手を叩いて子供達を先導する。
「お兄さんは見てるから、みんなでかまくら作う、さあ頑張っていこう!」
 こうして耐寒登山は続く。
 修行を預けられたクォルだが、中々に子供達をまとめる苦労を味わって、冒険は終わったのである。

(代筆:安原太一)