小鬼退治人情物語
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:べるがー
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月30日〜12月05日
リプレイ公開日:2004年12月06日
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●オープニング
「また小鬼が私の人生を狂わせるんです‥‥」
憎しみのこもった目で見つめられ、ギルド員はたじろぎそうになった。
十代の終わり頃だろうか、まだ子供らしさの残る顔をたった二つの目で台無しにしていた。
そう、まるで何人も人を殺したごろつきのよう。ぎらぎらと光る目は凄まじく荒んだ印象を与える。
(「まだ二十歳にもなっていないだろうに‥‥なぜ娘さんはこんな顔に?」)
自分の子供と同じくらいの年の子が、ここまで荒んだ表情を見せるのは哀れであり、衝撃でもあった。
「今回は、4匹‥‥ふふっ、あの時と同じ数。同じ相手。‥‥小鬼を殺して。奴らを一匹たりとも逃がさないで!」
低い声で依頼をする町娘。名をお市、といった。
「お金ならあるわ。親もいないみなしごだけど、ずっと働いてきた。少なくはない筈」
どん、とギルド員の手前に置いた袋から、じゃらり、と重い音がした。
「小鬼が、私の父と母と弟を殺した。帰る場所を奪った。そして、また私から帰る場所を奪おうとしている‥‥!」
ぎりりっと唇を噛んで、今にも爆発しそうな感情を抑える。
「森の入り口に潜む小鬼を殺して。私のあの人を傷つけた奴らを一匹たりとも逃がさないで‥‥!」
少女の声は、憎しみと恐れとに満ち溢れていた。
「‥‥お市?」
あばら家と言えなくもない家に入ると、寝ていた男が声を上げた。
「誠二? 起きてて平気なのっ?」
慌てて布団の横に跪くと、寝ていた男が苦笑した。
「ずーっと寝てたら溶けてしまうよ。それより、どこへ行っていたんだい?」
「ああ、冒険者ギルドへ行っていたの。依頼をするために」
「ええ?」
「決まっているでしょう、誠二は仕事でこれからもあの道を通るのだもの。‥‥それに、あなたを傷つけた奴らを野放しにはしておけない」
言葉の後半は暗い目をして呟いた。
(「お市は‥‥まだ家族を殺されたことを。今はこんなにも幸せなのに‥‥」)
家族はお市の目の前で殺されたと聞く。小鬼に対する憎しみはけして消えるものではないだろう。
だが。
「お市‥‥俺はもう何ともないよ。5日もすれば体も治るだろう」
忘れろ、とは言わない。でも自分と一緒になったことで、幸せになってほしい。
いつまでもそんな暗い心を引きずって欲しくはないのだ。
「ダメ! ちゃんと奴らを殺しておかないと‥‥誠二まで‥‥」
「お市‥‥」
依頼はもうしてしまった。小鬼は冒険者によって退治されるだろう。
でも、それだけじゃなく。
冒険者がお市の心までも解きほぐしてくれるといい。こんな暗い目をするお市はもう見ていられない。
お市と誠二は、それぞれに依頼を受けてもらえることを願いながら、抱き合うのだった。
●リプレイ本文
●冒険者登場
「これだ、これを飲め。これさえ飲めばキミも小鬼を撲殺でき」
がつんっ。
あばら家に鈍い音が響いた。
「小鬼をどのように思っているのか洗いざらい聞かせてもらえないだろうか。その思いが我らの力になる」
何事もなかったように超美人(ea2831)がお市に向き合った。その背後で菊川旭(ea9032)が一人の童顔シフールを引きずっている。
「神に仕える者として、あなたの心を導くのも私の務めですから」
グリューネ・リーネスフィール(ea4138)も頷いた。
「紅葉もお手伝い致しまする」
火乃瀬紅葉(ea8917)も力強く頷く。先ほど一人のシフールを昏倒させた旭も頷いている。もう一人の冒険者も異論はないようだ。
お市、と誠二が促す。過去の苦しみを思い出したお市は、叫ぶように言った。
「小鬼は私の大切な人を殺す! 許せない、許すことなど出来ないの!」
「では、まず自らを鍛えろ!」
真っ先に反応したのは、昏倒したと思われていたマケドニア・マクスウェル(ea1317)、通称マケマケであった。
「待て、何を!」
捕まえていた旭が止めにかかる。が、マケマケは頭上を飛び交い、総無視から見事復活を果たす。
「不安なのだな? しかし小鬼などどこにでもいる、そうだろうリィ?」
突然話題を降られ、無表情にリィ・フェイラン(ea9093)は頷いた。
「一般人にも応戦出来るからそう厄介な相手でもな」
「聞いたか、依頼人!」
最後まで聞く事なく、マケマケは頭上から指を突きつけた。降りて来い、と怒鳴る反応は無視である。
「よって今回の依頼は訓練。これも追加だ」
宣言したマケマケの顔は何故か非常に嬉しそうだった。
●訓練と冒険者
「落ちたな」
誠二が急に言ったので紅葉も耳を澄ます。確かに叫び声だ。
「今日は乗馬の訓練でしたね。まるで体力訓練のようですが」
紅葉の耳に馬の説明をしている旭の声が届く。最後まで反論していた旭だったが、結局マケマケに押し切られた上、訓練を請け負っているのが可笑しい。
お市の代わりに誠二の面倒を申し出たグリューネも楽しそうに笑っている。
「誠二殿。二人は今とても幸せそうに見えまする。それでも、お市殿は小鬼を忘れられないとか」
紅葉の切り出した言葉に、笑いが止まった。誠二も暗い表情になる。
「私はどうしたらいいのかわからない。今は私が傍にいるよと言っても、それが本当に届くことはない」
どうすればお市の心に届くのかわからない。だから冒険者に託したのだ。小鬼を殲滅することが出来る冒険者ならばきっと。
グリューネは首を振った。
「彼女を見ていられない気持ちは判るけども、見続け、そして訴え続けなければ。家族を失った事を超えて、幸せになって欲しいのだと」
彼女にとって、失った家族以上の存在になれるのは貴方だけなのだから。
「お市殿の小鬼に対する憎しみは深い。今回の小鬼達を倒してもまた次が出れば同じ事なのですよ」
グリューネの微笑みが真実の重さを誠二に伝える。
「紅葉もお市さんを放ってはおけませぬ。暗い過去を払えるよう、微力ながら紅葉にもお手伝いさせて下さいませ」
誠実な笑顔に誠二は俯いた。冒険者と共に、今度こそお市と小鬼に向き合うべきなのだろうか、と。
「菊川さん、次は?」
躍起になって訓練をこなすお市の扱いに困り、旭は言いだしっぺのマケマケを見た。
しばらく腕を組んで瞑目するマケマケ。黙っていれば羽があるただの少年なのだが、その実口の達者な59歳なのであった。
「ふぅ〜む‥‥夕飯は何刻後かな」
「保存食くらい持って来い!」
怒鳴ったのは、旭かお市か他の冒険者か。
「あれは何をしている?」
超の目には長縄に縛られたお市の姿が見えた。いくら依頼人と冒険者の関係といえど、保存食を持参しなかったマケマケが率先して夕飯を要求したために、ここ数日はずっと寝食を共にしている。そのお市が縛られもがいているとなると、思わず周囲の冒険者に疑いの目を向けてしまわざるを得ない。
旭は仏頂面で、グリューネも紅葉も困ったように笑うだけ。マケマケに至っては誰かの馬に乗ってすやすやと寝てしまっている。言いだしっぺの態度には見えない。
その縄から抜け出そうと必死にもがくお市を見て、そっけなくリィは言い放った。
「憎しみで曇り、歪んでいる。あなたの顔は、あなたが仇とする小鬼のようだ」
真っ赤になってもがいていたお市が動きを止めた。超や他の冒険者は言い過ぎだと思ったが止めなかった。
何よりお市が思いもしなかった事を言われたような、意表を突かれたような顔をしたから。
「今ここで奴らを退治しても、いつかまた小鬼が現れた時‥‥いやこの国から奴らが全て居なくなるまであなたは同じ事を繰り返すつもりか?」
お市は俯いた。リィの語る言葉は真実以外の何物でもない。
「あなたが前進を望むのなら、私は全力を尽くしてそれを助けよう」
全身の戒めを解きつつ、リィは穏やかに微笑んで約束した。
お市のために集まった冒険者達が頷く気配がした。そう、一人では解決出来ない事件を解決するのが冒険者なのだから。
●戦闘突入
「グリューネ」
仲間の声に、はい、と頷きミミクリーを行使した。鳥に変身し、上空へ飛び立つ。
頭上でグリューネが旋回している間、旭はクリスタルソードを装備すべく詠唱を始め、紅葉はフレイムエリベイションで自らの士気を引き上げる。
「いましたっ!」
冒険者の間に緊張が走る。囮に自ら志願した超が駆け出す。
上空のグリューネの指し示す方に従い、森の中へと突入する。超に気付いた小鬼たちが立ち上がった。
思うままについて来る小鬼数匹を、仲間達の下へ誘導する。
「来たな、害虫どもっ!」
マケマケが先手必勝とばかりにトルネードの呪文を紡ぎ出す。間一髪で飛び退き、竜巻から逃れる超。
見事小鬼全部を巻き上げ、目を回した小鬼達を地面に叩きつける。
クリスタルソードを実装した旭が風の止んだ瞬間を狙って三匹に斬り付けた。
小鬼の斧が振り上がる。一番近くにいる旭に振り下ろしたが、あっけなく避けられた。
他の者に近づくももう遅い。数歩歩いたところで紅葉とグリューネの呪文が完成する。
薙刀を片手で支え空いた片手で拳を作り、天高く振り上げる紅葉。
「紅葉の想いに答え燃え上がれ精霊力よ‥‥マグナブロー!」
放たれた炎が火柱となり、小鬼を喰らい尽くす。
今度は私の番だと火が消え失せた瞬間に狙いを定め、グリューネが声を張り上げた。
「大いなる父の力を借りて。今、必殺のブラックホーリーっ!!」
声そのものが力を呼び覚まし、一匹の小鬼へと襲い掛かる。
「お市殿!?」
小鬼が再び動き出したところに、お市の姿を目の端に捕らえた旭が慌てる。
息が整った瞬間に旭が走り出す。しかし一匹の鬼は、かなり近距離まで近づいている。
「くっ」
旭の手が届く前に、一本の矢が小鬼の頭を貫いた。
「斬れ!」
リィが馬上から弓を構えたまま叫んだ。旭の剣が止めを刺す。彼に近づこうとした小鬼は超の日本刀により斬り伏せられた。
「御助勢感謝する」
「何の」
戦いの最中にふと二人が笑い合ったのは、ただの小鬼退治ではないからだろうか。
残る三匹がふらふらと立ち上がったが、すぐまたマケマケのトルネードに三匹まとめて巻き上げられる。
そこへ高らかに紅葉がマグナブローを唱え、為す術もない小鬼三匹がまたも火柱に再び飲み込まれた。
マケマケの巻き起こす風が、旭の魔法によって生み出された剣が、紅葉とグリューネの魔法が、超の日本刀が、リィが射掛ける矢が、お市を苦しめていた小鬼を殲滅していく。お市はその逐一を目をそらすことなく見つめていた。
静かになった戦場で超はお市に気付いた。放心しているお市の瞳にもう憎しみはない。
「これで恨みの原因は無くなった。これからは誠二さんと自分の幸せだけを考えて生きるんだよ」
きっと亡くなった家族もそう願っている筈だから。
紅葉もその言葉に頷く。
「これで悪夢は終わりです。お市さん、幸せは今でもずっと貴女の側にある、紅葉はそう思いまする」
二人の誠実で優しい言葉。共に過ごす間に彼女達から掛けられた言葉が今になって理解出来た。
暗い光を宿していた目から涙が零れ落ちる。それを見て冒険者は知る。
過去の暗い思い出から彼女を救うことが出来たのだ、と。
●笑顔と握り飯
「む。何だ、その見慣れぬ荷物は」
リィの持つ見慣れない包みに真っ先に気付いたのは、マケマケであった。
「お市より頂いたものだ。報酬を渡すより、傷を負った旦那に栄養のあるものを食べさせてやれと言ったら、代わりにこれを、と」
「ずるいぞ、あんなに訓練をしてやった俺は何ももらえなかったのに!」
「ほう。握り飯だ」
マケマケの拗ねる声は無視し、超が覗き込んだ。
戦闘後でもあり、腹も減っている。早速ありがたく頂戴することにした。握り飯に歯を勢いよく立てる。
がちんっ。
「‥‥ん?」
何か、硬いものを噛んだ感触がした。明らかにご飯でない咀嚼音に、紅葉が引いている。
口から取り出すと、一枚の銅貨が出てきた。
「報酬は必要ないと言ったのに」
呟いた言葉に、微笑んだグリューネが口を挟む。
「そう仰るわりには、とても嬉しそうですよ」
リィの口の端はいつの間にか上がっていたようだ。無表情の多い彼女にはいささか珍しい。
そして傍らに立つ無愛想な旭も、よく見たら同じように口の端が上がっている。
笑顔で送り出してくれたお市と誠二の事を思うと、自然に笑みが零れた。
「そうだな‥‥こういう依頼も、悪くはない」