爺守り
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:べるがー
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月07日〜12月12日
リプレイ公開日:2004年12月14日
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●オープニング
「小鬼なんぞ、屁でもないわい! 冒険者なぞ、いらーんわい!」
その日応対に出たギルド員は背後の冒険者たちの視線を感じ、あわあわと爺の口を塞ごうとした。
しかし。
「あ、あの、受付の方、そんなことをすると父が死ぬ恐れがあるのでっ」
慌てる娘さんの台詞に、これまた慌てて手を引っ込めるギルド員。
しかし背後にはジトーッと目の前の老人を見つめる冒険者たちの視線を感じ、いっそ猿轡を噛ませて表に放り出したいと思ってしまった。
冒険者ギルドで受付を始めてわずか一ヶ月。仏は何ゆえこのような試練を与えたもうたのか。
前門の爺、後門の冒険者。
どちらを取っても自分に利はない。
「お、お嬢さん、では早速依頼書作りをしましょう、ええ、今すぐっ」
こうなったらもう、目の前の爺に早くお帰り頂くしかない。口が悪いとはいえ、一応は依頼者なのだから。
「す、すみません‥‥ご覧の通り、父は傲岸不遜な人物で」
謝り通しの人生だったのだろうか。父親に対する遠慮はなく、何かを失った者の目をしていた。
「ご覧の通り、父は年です。でも、この年になってもこんな性格で‥‥小鬼退治がしたいなどとっ」
ううっ、と大人しそうな娘さんは泣いてしまった。
「小、小鬼退治‥‥ですか」
確かにさほど難儀な相手ではないだろうが、さっきから足がガクガク震え、手がブルブルいっちゃってるこの爺につとまるのかどうか。
「わしゃ元気じゃ、健康じゃ。小鬼なんぞ、屁でもなーいわい!」
相変わらず嘯いている。
娘さんは泣いている。
「で、では依頼は‥‥?」
「はい。父のこの我が儘に付き合って下さる方を‥‥紹介して頂きたいのです」
(「やっぱりか」)
今、ギルド員と冒険者たちの心が一つになった。
「実はこんな事を言い出したのも、近くにある川のほとりで人に害をなしている小鬼を見たからだそうで‥‥」
「はぁ、それでこの爺、もといお父さんが。小鬼退治を」
じーっと見つめた先には、歩くこともおぼつかない爺。
あっちへよろよろ、こっちへよろよろしながら歩く様は、見ていて危ない。
「ぶ、ぶ、ぶへーっくしょい!!」
ごほがふげへっ。
くしゃみをしたついでに咳き込んでいる。あ、えづいている。
ギルド員は後ろに控える冒険者たちを振り返ったが、一斉に視線を逸らされた。
「す、すみません聞き分けのない父でっ。でも、いつお迎えが来るかわからぬ身ですから、もうほっとけ‥‥いえ、好きにさせてあげたいのです」
娘さんの本音が垣間見えたが、確かにこの父のフォローは大変かもしれない。年がら年中この爺に付き合っている自分を想像して、思わず戦慄した。
「分かりました、依頼書を作りますんで詳しく‥‥あっ、ああっ、ああー!!」
ギルド員が目で追いかけていた先で、爺がついに柱に激突した。そのままくらりと目を回している。
周囲が恐る恐る差し出した手を杖ではたきつつ、そのまま杖を振り回し暴れ始めた。
冒険者ギルド、かつてない阿鼻叫喚地獄。
下手に触れば殺してしまうかもしれない危険を感じた冒険者たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。
「小鬼なんて屁でもなーいわい! 一匹や二匹三匹、屁でもなーいわい!」
「四匹です」
すかさず娘さんが答えた。
●リプレイ本文
●冒険者参上
「早まらないで、お爺さんっ!」
浦添羽儀(ea8109)が依頼人の家に入っての第一声は、叫び声だった。
「本当にお騒がせしましたっ」
ペコペコと頭を下げる爺の娘に向かい、冒険者達は顔を見合わせる。
「別に構わんが‥‥あんたの親父さんは、自殺でもしようとしてたのか?」
ファルケ・ツァーン(ea8811)が聞いた。
依頼人を訪ねると何故か出刃包丁を振り上げているではないか。目の前に食材があるわけでもない。普通の人ならば何事かと目を疑う光景だ。
「けひゃひゃひゃ、我が輩のように家で実験をしていたのかもな〜」
嬉しげに笑っているのは『ドクター』こと、トマス・ウェスト(ea8714)。新薬の実験が趣味。
「あんたじゃあるまいし、普通の年寄りがそんなことするか?」
「それに、重い出刃包丁に足腰震えてたのよ。びっくりしたわ」
ファルケに同意し、羽儀が溜め息を吐く。
爺の行動を理解できず言い合いをする冒険者に娘は申し訳なさそうに謝った。
「違うんです。その、包丁を振り回してたのは小鬼退治の練習とかで」
「勇ましい爺君だね〜。けひゃひゃひゃ」
ドクターは笑ったが、笑い事ではないような気がする。
「どうしたの?」
羽儀が話に加わることなく外を眺めていた桐生純(ea8793)に声をかけると、無感情な顔が見返した。
「お爺さん‥‥素振り、してる‥‥」
純以外の冒険者が首を傾げた。一瞬の沈黙。そして。
「爺さん、死ぬ気か!」
「お爺さん、早まらないでーっ!」
冒険者全員が家を飛び出す姿があった。
●早速、冒険
小鬼を四匹ばかり倒す。自分達の実力を考えればそんなに難しい事ではない。だが。
今回彼等には爺、という付録があったのだ。
誰が想像出来る? まさか包丁持っただけの老人が小鬼の元へ猛ダッシュを始めるなど。
守らなければならない筈の依頼人は、細い手足をガクガク震わせ小鬼の中へ飛び込もうとした。慌てる冒険者達。
真っ先に追いついた純が爺の着物を掴んだ。それによって転ぶ爺。
すわ捻挫か骨折か。
「まさか逝ってないよね!? まだ戦ってないわよ!? ああっ、娘さんに何て申し開きをしたら!」
「白目剥いてんぜ」
「大変! 頭とか打ってたら‥‥ああ、医者に診せなきゃ!」
「‥‥医者。ドクター‥‥」
「とにかくこれじゃ戦えん、一旦退くぞっ」
初陣は戦う以前の問題で撤退、となった。
ちなみに、家に帰り着いた時点で純以外がようやくドクターの存在に気付いたという。
このままでは爺諸共小鬼に殺される。それを一日目で否応なく実感させられた冒険者は、用心に用心を重ねる事にした。
すなわち、先手必勝袋叩き。
「何じゃ、もう帰ってしもたと思ーとったわい」
川上から川下までぐるっと周り、果ては川の深さから足場の悪さなど一晩かけて調べて戻って来た冒険者を迎えたのは、可愛くない爺の言葉であった。
泊まりで調査に出かけたファルケ・ドクターを迎えた羽儀は苦笑している。昨日一日付き合って爺の口の悪さには慣れた。
「今日は私達が調査に出かけますので、彼らをよろしくお願いしますね」
「あんたには踊りや歌を披露して貰ったからの、この青二才共は見といてやーるわい」
どうやら羽儀や純は無事爺に取り入る事が出来たらしい。純に手を貸してもらいながら立ち上がる。
「宜しくな、青二才共」
冒険者とは未だ認めていない爺であった。
●本当の冒険、本当の戦い
「一度に相手するのは辛いな」
ナックルを嵌めた拳の調子を確かめつつ呟くファルケ。
日本刀を手にした羽議が頷いた。
「何匹か気絶させるわ。その間に他の小鬼を倒して」
「お爺さん‥‥大丈夫かナ‥‥」
純が背後を振り返る。爺は相変わらず包丁に振り回されつつ素振りをしていた。
ああ、あの震える足腰。初日のような展開になりはしないだろうか。
「大丈夫だと思うわよ。そのために三日もお爺さんと遊んでたんだし、ね」
信頼があれば大丈夫。
誰が言い始めたのだったか、とりあえず小鬼退治本番を今日まで延ばし、爺と交流を図ってきたのだ。今日退治出来なければその間の苦労は『全くの無駄だった』ことになる。
ドクターの独特な笑いが沈黙を破った。
「けひゃひゃひゃ、来たようだぞ」
人の気配に近づいて来る、小鬼4匹。
「俺たちの後詰めで、もし人里に小鬼が行きそうになった時の最終防衛線になってくれ。任せるぞ」
「そうね。危ないことをするために私達を雇ったんだから、ちゃんと報酬分は働かせて下さるでしょう?」
にこ、と微笑まれ。少しの沈黙の後、偉そうに爺は言った。
「ふん、いーいわい。わしの前座じゃ、思う存分やられて来い」
ファルケが間合いを詰める。こちらに気付いた小鬼が慌てたように逃げだし、反対方向に陣取った羽儀の日本刀に阻まれる。
小鬼はまとめてこちらに向かって来た。囲うのは無理なことではない。
じりじりと小鬼が動いた先は、川縁。一匹が足場の悪さに気を取られ、斧が下へ下がった。バランスを崩した一匹を峰打ちの一撃で意識を奪う。
ファルケが一匹に拳を叩き込む。抵抗する間もなく、小鬼は川へと沈んだ。もう一匹を羽儀が峰打ちする。
「ではわしも行くとするか‥‥のっ!?」
「お爺さん‥‥気持ち、わかるケド‥‥危ない、から。だから‥‥もっと後ろに、いて」
出撃しようとした爺の手から、そっと包丁が奪われた。純が忍び足で近づいて来たらしい。
「後は、任せて‥‥お願い」
「なら、遠慮は要らないわね!」
爺の傍らにはドクターと純がいた。二匹の小鬼は気絶し、そちらに行く気配もない。ファルケは拳を、羽儀は日本刀を全力で振るい、小鬼の斧を避ける。
二匹を倒したところでまた二匹が起き上がったが、すかさずドクターのナイフと純の手裏剣が飛んだ。
「やれるか、羽儀?」
息が荒くなってきたファルケが尋ねると、羽儀が笑った。
「当然でしょう? まだ冒険者、って認めてもらってないもの」
「ふん、カッコつけよって」
川縁で残る2匹に拳と剣を振り下ろす二人を見守り、爺が毒づいた。口は悪いが目は優しい、と純は思ったので何も言わない。
「爺君、小鬼だけでなく、気遣う事が他にもあるのではないかな〜?」
「何じゃあ?」
「爺君の娘の目の下のクマ。あれは二日三日で出来るものではないと思うがね〜」
さすが医者というだけの事はあるか。純も娘さんの顔色が悪いとは思っていたが、だから具体的にどうとは思わなかった。
爺も言われて気がついた、という顔をする。
「小鬼は我が輩達冒険者に任せ、爺君は娘の事を考えてあげねばな〜」
けひゃひゃひゃひゃ。
笑い声は最初奇妙だ、と思っていたが。自分に見つける事が出来なかったものを見つけ、気付かせる事が出来たのは‥‥やはり冒険者だからかもしれない。
●冒険、終わり
爺がそれを言ったのは、純が手裏剣とナイフを回収し、家に戻った後の事だった。
「ではな、冒険者。次に会う時にはもう少し成長しとるがいい」
「お、お父さんっ」
最後の最後まで口の減らない爺だ、と毒づき歩き出すファルケに、仲間の冒険者達が笑った。
「ファルケ君、意外と君は鈍いのだな〜。けひゃひゃひゃ」
終始怪しげだった医者がその独特な声で笑えば、
「お爺さん‥‥ちゃんと最後に認めてくれた‥‥」
無感動な口調ながら、純も言う。
「?」
「あら、本当に気付かなかった人がここに一人」
羽儀がコロコロと笑う。
なおも分からず首を傾げていると、ドクターが言った。
「お爺さんは最後に言ってくれただろう〜」
「何がだ?」
「冒険者、とな〜」
──あ!
最後の最後に思いも寄らぬ方向から攻撃された気分だ。
自分達のことを『青二才!』と言っていたくせに。最後の最後になって、冒険者などと。
あれだけあの爺さんに振り回されたのに。どういうわけか、その一言に浮かれている自分がいる。
「これだから、冒険者って辞められないのよねぇ」
もちろん、異を唱える者などいる筈もなかった。