●リプレイ本文
「お久しぶりですっ。私たちの事、覚えていますか?」
相麻 了(ea7815)の頭に乗っかったアニマ・フロイス(ea7968)は微笑み、本日のシンデレラ、セリーヌと再会する。
「うわあっ。二人とも久しぶり〜! 今回は貴方達が護衛をしてくれるのね。よろしくっ!」
彼女も二人の事を覚えていたようだ。彼女はドレス姿にもかかわらず勢いよく走り出し、相麻の胸に飛び込んで大はしゃぎする。
「おおっと‥! その様子だと、随分と元気だったようだね、リトルレディ? 道中は俺たちが護衛をするから、よろしくな?」
「うんっ!」
「聖夜祭ですっ、お祭りですっ。絶対絶対楽しんじゃいますよ〜♪」
「ふふ、護衛の後は孤児院の聖夜祭に参加できるなんて、中々楽しそうよね?」
浮かれはしゃぐピリル・メリクール(ea7976)、そしてそれに続くエルザ・ヴァリアント(ea8189)。
「祭だからといって、護衛にはかわりないだろう‥‥。油断は禁物だぞ?」
二人にレミィ・エル(ea8991)が釘をさした。
「ほなぁ、行きましょか! 孤児院のみんなもきっと待っとると思うで?」
クレー・ブラト(ea6282)の言葉に、皆が頷く。セリーヌ、そして里親の男性が馬車に乗り込むと、冒険者たちはそれを取り囲むように陣形を組んでから館を発った。
御者のムチの音が、ひゅうっ、ぱちっ、と空に鳴り響く。
●道中
「今の時期、野犬やモンスターは空腹で気が荒いわ‥‥気をつけないと」
防寒服を身に着けた神木 秋緒(ea9150)の口から白い息が規則的に吐き出される。彼女の頬の紅さを見れば、如何ほどに外気が鋭い寒さを帯びているか、説明しなくともよいだろう。
「まあ、できればそんな厄介事には遭遇しないのが一番ですけどねえ」
横を歩くブルーメ・オウエン(ea9511)が言葉を返す。
特にモンスターなどにも遭遇する事なく、冒険者と依頼人らは無事にかの孤児院へとたどり着いた。色々と警戒していた冒険者であったが、杞憂に終わったようで何よりである。
●聖夜のお祭騒ぎ
依頼人らを乗せた馬車が孤児院の前で停車する。門の前で遊んでいた子供達はその意味を悟ると、全速力でシスターを呼びに駆け出した。にわかに孤児院内が騒がしくなる。
「ようこそ、いらっしゃいました‥‥! わざわざ遠いところを‥」
黒薔薇のコサージュを胸に着けたシスターがどたどたとこちらにやってくる。きっと準備で彼女も忙しいのだろう。そして、その側には‥‥。
「フィリップ!!」
馬車の中からセリーヌが飛び出す。彼女に呼びかけられた少年は、魔女にばかされたような顔をしてぽかんと立っていた。
「セ、セリーヌ‥‥?」
「会いたかった‥‥! 久しぶりっ!!」
少女は少年の胸に飛び込む。よろつく少年はなんとかふんばり、彼女を受け止める。そして‥‥いや、ここから先を描写するのは野暮というものだろう。
「はぁ、お互い想い合えるヒトがいるっていいわねぇ‥‥」
どこか遠い目をしたエルザが独り言のように呟く。北風が彼女の身にしみた。
かくて、聖夜祭は幕を開ける。
「ほな、お兄さんがとっておきのお話を聞かせてあげるで〜! 聞きたい奴は集まりぃや〜!」
クレーの呼びかけに、わ〜、と幾人かの子供が集まる。彼の身振り手振りを混ぜた一人劇のような話し方に、子供達は笑いながらもそれに聞き入り、彼の動きを食い入るように見つめていた。
「良い子に贈り物を持ってきてくれるのは、教会の専門用語で‥‥聖ニクラウス」
「へぇ〜!」
「へぇ〜、へぇ〜、へぇ〜、へぇ〜!」
「へぇ〜、へぇ〜、へぇ〜!」
「へぇ〜、へぇ〜!」
一方、クレーの隣では、どこから仕入れたのかは分からないが、ピリルが聖夜祭にまつわる無駄知識の探求者として子供達を喜ばせている。ピリルは順調に「へぇ」を稼いでいるが、それが彼女にとってどんな利益をもたらすのかは全く不明である。
ちなみに、つい先ほどまで子供等に頼まれて祖国の踊りを教えていた神木も何故か「へぇ」の輪に入っている。やはりジャパン人には聖夜祭という風習は珍しいのだろうか。
孤児院の中は暖炉の火と、子供たち、冒険者たちの笑い声で暖かいものになっていた。しかし、ふと視点を外に移せば、そこにはブルーメの姿が。
(「月光浴という名目で外に出たはいいが‥‥寒いな」)
ぶるると身を震わす彼の耳に、孤児院からの笑い声が断続的に聞こえてくる。それが余計に寒さを煽った。
「‥偉大なる御父にして我等が主よ。自分と同じような困難を、どうかあの子らには与え給うなか‥‥」
「そんなものに祈って、何になる?」
ブルーメの祈りの言葉はレミィによって遮られた。彼女もまた、ハーフエルフがいてはよろしくないだろうと外で警護を続けているのだった。
「‥‥神が、本当に我々の事を想っているのであれば、何故、貧富の差や迫害があるのだ?」
レミィのひどく冷めた眼差しが彼をとらえる。ブルーメは苦笑まじりに自分の頭を掻き、小さく呟いた。
「この自分、ヤキが回りましたねぇ‥‥」
「おおっとぉ! 二人とも、何イイ感じになってんの〜? 羨ましいねぇ」
驚いた二人が声のする方を向くと、そこには相麻の姿が。彼の両腕には何故か大量の薪がある。彼の頭上には、それぞれの手に一本ずつ枝を持ったアニマが。その枝のせいで相麻がトナカイのように見え、思わずレミィは吹きだした。
「ええ!? ちょ、ちょっと何で笑うんだよ?」
「はは‥‥。いや、何でもない。それよりどうした、何か用か?」
レミィの問いに二人は答えない。代わりに、こっちこっちと手招きをしてブルーメとレミィを孤児院の裏手へと導いた。
「これは‥‥」
大きく目を見開いたブルーメが驚嘆の声を漏らす。裏手の広場では組み上げられた薪が赤々と炎をあげて燃え、火の粉が天空に舞い上がっていた。
「あ〜! レミィさん、ブルーメさん! 遅い〜!」
子供達と戯れていた神木が声を掛ける。気がついた子供たちも二人にわらわらと駆け寄り、手を引いて炎を囲む輪の中へと引っ張る。
「うわっ、なっ、ちょっ‥‥?」
戸惑うブルーメに、さらにクレーが駆け寄り耳打ちする。
「姓を変えとるから‥はじめ分からへんかったで‥‥。これが終わったら、まあじっくり話し合いましょうや」
「‥‥!」
「こら〜! クレーさん、こんな可愛い子を置いて、どこに行ったんですか〜!?」
「アカン、ピリルが呼んどるわ‥‥ほな、後で」
そう言うと、クレーは足早に彼の元を離れた。しばらくぼんやりとしていたブルーメは、ふと我に返って口を小さく動かした。
「‥すまない」
「おい、相麻! これはどういう事だっ!?」
子供らに、もみくちゃにされているレミィが声を荒げて彼に尋ねる。
「なぁに、レミィ達にも楽しんでもらおうと思ってね。大きな篝火をやろうって言ったんだ」
「そうそう、薪を集めたりするの結構苦労したんだから。ありがたく思ってよ?」
相麻、エルザの答えにレミィは閉口する。意外な心遣いにむしろ戸惑った。
「さ〜! もう種族うんぬんなんて細かいことは抜きです! みんな歌って踊って騒ぎましょ〜!! アニマ、歌いま〜す!」
「「「わ〜!!」」」
アニマは宙に舞い上がり、咳を1、2回して相麻の方を見る。彼は横笛をしっかりと構え、いつでも演奏できる状態だ。
「さあ、歌いましょう♪ この聖なる夜に♪
今、貴方が側に居る♪ この喜びを♪ 二人で、分かち合いたい♪」
歌が始まるに合わせて、エルザと神木が踊りだす。エルザは西洋の、神木は東洋の踊りをそれぞれ舞い、曲に和洋折衷の何とも言えない情緒を添える。
「さ〜、歌いましょ〜、踊りましょ〜! クレーさんもブルーメさんもご一緒に〜!!」
ピリルは満面の笑みで突撃して2人の手を取り、強引に踊りに参加させた。3人のステップはばらばらだが、そんな事はおかまいなしの雰囲気になっている。
「な、何でこんな‥‥」
子供達に振り回されつつ、レミィもこの祭の輪の中で踊っている。そこへ、かのシスターがノリノリで踊りつつ(!)、彼女に耳打ちする。
「あくまで個人的な意見ですけど‥‥。私は、ハーフエルフの方々に対する差別はなくすべきだと思っています」
「‥‥!?」
「ふふ、こんな事が上の方々に知れたら大変ですが‥‥。どうか、今夜は心ゆくまでお楽しみください」
「‥‥ありがとう、シスター」
かくて小さな孤児院で開かれた聖夜祭は大きな成功を収めた。かのセリーヌとフィリップの姿を見かける者はほとんどいなかったが、その夜に二人が何を話していたかは当人たちのみぞ知る事だ。
そして、こういう時に最後に書き記すべき文句は決まっている。
メリー・クリスマス!