狩る者・狩られる者
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■ショートシナリオ
担当:夢想代理人
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月09日〜01月17日
リプレイ公開日:2005年01月13日
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●オープニング
「クソッ‥‥。忌々しい‥‥あの男!!」
どこぞやの下町にある薄暗い宿屋にて、左肩に包帯を巻いた女浪人は酒瓶を片手に、独り宙に文句をぶちまけている。かつての戦いでとある冒険者に投げ飛ばされ負傷した彼女は、聖夜祭、そして新年を鬱々とした気分で過ごしていた。まあ、晴れて賞金首となった彼女には巷の行事など全く関係のない事だが。
そこへ突然のノック音。女浪人は咄嗟に肩にかけていた日本刀に手をかけ、構えた。
「誰だ!!」
「‥‥やっと見つけましたよ、ヤナギ『お姉さま』」
「‥‥ッ!?」
意外。返ってきたのは少女のような声だった。驚くヤナギをよそに、勝手にドアを開けて来訪者は部屋の中へと侵入してきた。
「カエデ‥‥」
ヤナギは頭の中が混乱した。妹は確かジャパンにいたはず‥‥なのに何故、と。
「祖国を飛び出して何をやっているかと思えば‥‥よもや賞金首なんぞになっていたとは、ね‥‥。父上や母上が生きていたら、なんと言われるやら」
「‥‥既に死んだ奴らの事など知ったことか。それよりも、お前の方こそ何をしに来た? いや、そもそも何故ここにいる?」
依然として日本刀に手をかけ、警戒を解かない女浪人を前に、バサついたおかっぱ頭の少女はクックッとくぐもった笑いをこぼす。
「‥‥まあ、そんな事どうだっていいじゃないですか。それよりも姉さま、今、『仕事』を探しているんでしょう? 姉さま向きの仕事があるのですが‥‥」
「なんだと? お前は一体‥‥‥」
困惑するヤナギをよそに、カエデはさらに話を続ける。
「それで、今回の仕事はですね‥‥」
●冒険者ギルドにて
「よう、兄弟。久しぶりだなぁ、元気してたか!?」
毎度お馴染み、筋肉質なギルド員の女性が君に声をかける。
「今回、ちょっとヤバい雰囲気の依頼が入ったんだが‥。どうよ、受けてみねえか?」
詳細を尋ねると、どうやらこういう事らしい。
ここから馬車で2日ほど離れた村の近辺で、子供の誘拐事件が多発しているらしい。謎の集団が突然村を来訪し、適当に子供を見繕っては鉄格子付きの馬車に乗せてさらってゆくという。
子供達の逃走する意欲を根本的に絶つ為か、目をつけた子供の家族、そして抵抗する村人を殺してゆくなど、そのやり方は常軌を逸している。
依頼を出している村はまだ被害に合っていないが、それも明日はどうなるかわからない。村の警護を強化する為、至急、腕の立つ冒険者数名に来て欲しいとの事である。
「この『謎の集団』にゃあ、賞金首もいるぜ。ヤナギっつう女浪人だ。生死問わず、だとよ?」
ギルド員の女はカウンターから身を乗り出し、君に顔を近づける。
「で、どうする。馬車の手配はもうできているが、この依頼、受けるかい?」
●リプレイ本文
「‥ああ、やっぱり欧州の冬は辛いねぇ。暑いのは平気だけど、寒いのばっかりは‥‥」
ルクミニ・デューク(ea8889)は防寒具の襟元を合わせながらブルルと体を震わせる。太陽が出ているにもかかわらず、その寒さは身を刺すほどだった。
横で同じく見張りをしていたボルト・レイヴン(ea7906)は思わず苦笑するが、これから対峙するであろう者たちの事を考えると、心穏やかでないものがある。
「おおい、ご苦労さん。そろそろ交代の時間だよ」
太陽が西に傾きはじめた頃。村の中央からフィラ・ボロゴース(ea9535)とフェイト・オラシオン(ea8527)が、二人の前へと現れた。エイジス・レーヴァティン(ea9907)もこの時間帯に見張りを担当する役だが、彼は森の方を警戒する為に、村の反対側へとまわっていた。
「今日で村の滞在も二日目か‥‥。しっかし、連中来ないねえ」
誰に言うともなく、フィラは退屈そうに首を鳴らしたり体の筋肉を伸ばしたりする。が、その時だった。
「来た‥‥!!」
街道を見ていたフェイトが突然小さく叫ぶ。ルクミニ、ボルト、フィラの3人は跳ね飛ばされたように彼女が指差す方を注視する。どうやらとうとうやって来たようだ。
狂気と暴力をたっぷりと搭載した忌まわしいあの馬車が、街道をゆるゆると進み、村へと近づいてきている。馬車に乗れなかったのか、ジャイアントとおぼしき体格の者が馬車の手綱を引いて歩いているのが見える。
フェイトは懐から小さな笛を取り出すと、そこへありったけの息を吹き込んだ。
「「「!!」」」
空を切り裂くような、悲鳴にも似た笛の音。朝の見張りを終えて仮眠をとっていたキャプテン・ミストラル(ea2248)、ジョシュア・フォクトゥー(ea8076)、エヴァリィ・スゥ(ea8851)の3名はベッドから飛び起きた。
「大変だぁ、人攫いがやってきたよぉ!!」
それと同時に、村の子供達が部屋に飛び込んでくる。日中、一緒に見張りをしてくれた子供達だ。
「大丈夫ですよ、怖がらないで‥‥。あいつらなんかに、私達は負けません!」
思い出したくも無い記憶を反芻しつつ、ミストラルは力強く言い放つ。ふと、外に目を移せば、フェイトが村人を誘導している真っ最中だった。子供達に、彼女についていくよう指示をする。
「‥‥安心しな。人攫いなんてふざけた連中は、俺がぶっ潰してやるよ!!」
不安がる子供をジョシュアの大きな手が優しく撫でる。正義を象徴するかのような、どこまでも青く澄んだ瞳は既に敵がくるであろう方角を見据えている。それがかえって子供達を安心させた。
「行こう‥‥『もう一人の』、私」
改めてフードをかぶり直し、エヴァリィが呟く。彼女の耳に『ああ、行くぜ相棒!』という声が返ってきたような気がした。
●黄昏の戦
――馬車発見より数十分後
今、一人の女浪人が西の方角より村に侵入した。逆光でその表情をうかがい知る事はできないが、黒い戦闘装束に身を包み、長い髪を後ろで乱暴に束ねたその姿がただならぬ殺気を放っている事は明白である。
村には既に人の気配が無かった。がらんとした村をさらに進む事、数歩。彼女の前に、金髪の大男が立ちはだかる。
「よう! 肩の調子はどうだ?」
場違いな程に陽気な挨拶。まるで仲の良い友人に挨拶でもするかのような。
「お前は‥‥!! ‥まさか、こんな所で出くわすとはな‥私はついている」
腰を深く落とし、居合いの体勢に入るヤナギ。しかし、ジョシュアは決して彼女の間合いには入ろうとしない。じり、と相手が近づけば、ジョシュアも同じように一歩引いた。
「貴様ァ‥‥。 ‥‥ッ!?」
言いかけた所で、鎧の擦れる音を聞いたヤナギは咄嗟に後ろを振り返る。するとそこには禍々しい漆黒のローブに身を包んだフィラの姿が。
「月に忠誠を誓いし狼、フィラ、只今参上ってことで。大人しくお縄につきな♪」
これまた重厚な武装とはちぐはぐな、陽気な挨拶である。それがまたヤナギの神経を逆撫でしたのか、彼女は下まぶたを軽く痙攣させながら憎しみのこもった声を漏らす。
「その余裕がどこから来るのか知らんが、まあいい‥‥。どいつもこいつも、『斬り、刻んで』やる‥‥」
「はっ‥‥はっ‥‥くっ! ふふ‥はははは!! 強いなぁ、こいつら! なんて楽しいんだ!!」
狂化で瞳が燃えるような赤に変わったルクミニは、2人の敵を相手にするスリルに思わず大笑いする。もっとも、状況は彼の方が不利であったが。回避の技術に関しては素人同然のルクミニは、武器で相手の攻撃を受けるしかない。しかし手数は向こうの方が多く、じわじわと出血し体力が落ち込んでいく。
しかし、次の瞬間に形勢は再び五分に戻る。セレス・ホワイトスノウのスリープが成功。急激な眠気に襲われた相手が体勢を崩した瞬間をルクミニは逃さなかった。相手の額めがけてノーマルソードを振り下ろす。まずは一人、仕留めた。だが‥‥。
「さあ、あとはお前一人だな‥‥」
敵はもう一人いる。既に視界が霞み始めているが、やるしかない。
「っ‥! ルクミニさんの援護に行きたいけど‥‥!!」
相手の一撃をかわしつつ、ミストラルが眉をしかめる。自分の敵は身長2mを軽く越すジャイアント。武器のハンマーを見た瞬間、一撃でも喰らえば致命傷になりかねないと思った。弓使いや魔法使いの姿は幸運な事に見かけなかったが、こんな奴の相手をする位ならそっちの方がまだマシだと言えなくもない。
「‥‥うわっ!!!」
相手の一撃は、オフシフトで何とかかわしているが、これではいつまでたっても埒があかない。エヴァリィも歌で相手の邪魔をしてくれているが、勝負に影響する程の効果は出せずにいる。ミストラルは賭けに出た。
敵の攻撃が再び繰り出される。重さ数kgの鉄の塊が高々と掲げられ、彼女めがけて一直線に振り下ろされる!
「‥‥ッ!!」
大きく目を見開いて横に飛び、そのままの勢いで夕日に煌くノーマルソードを全力で振りぬく。確かな手ごたえと同時に肩に凄まじい衝撃が来たかと思うと、次の瞬間、ミストラルは顔から地面に激突した。
「ぐ‥‥!!」
痛みに負けている暇は無い、急いで振り返り、次の攻撃に‥‥備える必要はなかったようだ。
敵のジャイアントの首からはおびただしい量の血が流れている。おそらく、立ったまま絶命しているのだろう。
「ミストラルさん!!」
治療をすべくボルトが駆け寄る。ミストラルの右肩はうっ血して大きく腫れていた、骨にヒビが入っている可能性も高い。
「つ、疲れた‥‥」
右肩の激痛に顔をしかめつつ、ミストラルはぽつりと言葉を漏らした。
「「待て――ッ!!!」」
エイジス、ランディ・バラッドネイルの2名が大声をあげて自分たちの敵を追いかける。全速力で村の東にある畑を疾走するが、それでも相手に追いつけなかった。何故なら彼女は‥‥。
「ははは! 馬車を引くだけが馬の使い方じゃあないですからねえ!」
そう、『馬』に乗っているのだ。おそらくは馬車の馬を一頭頸木から外して利用しているのだろうが‥‥。これは冒険者たちにとって大きな誤算だった。
(「街道、そして村の東と西には人影がなかった、という事は‥。南の森か、村の中か‥‥」)
頭の中で予想を立てつつ、カエデはさらに馬を走らせる。後方から追いかけるエイジスらをぐんぐんと引き離し、まさに村の南へとさしかかろうとしたその時だった。
「ん‥‥?」
立ちはだかるはオッドアイの少女‥‥フェイトだ。村人の避難誘導を終えてこちらにやってきたらしい。
「フン‥‥、的になりにでも来たのですかね?」
特に臆する様子もなく、カエデは背の矢筒から矢を一本引き抜くと、馬上にも関わらず驚く程なめらかな手つきで狙いを定めた。
「『研ぎ澄まされし』我が一撃‥‥死ねッ!!」
ひゅうっ、と空を裂く音と共に矢がサイドステップを踏んだフェイトの右足を捉える。彼女の一撃を避けるには、基本的な回避術の鍛錬が不足していた。
「っ!!!」
激痛に顔をしかめ、たまらず歯軋りする。このまま大人しく倒されるだけなのか? 己にそう問いただす。否、断じて否。戦うために生きている者の意地がある。
すれ違いざま、馬に跨るカエデの足めがけ、2本のダガーを同時に突き立てる。
「な‥ッ! あがあぁっ!!!?」
バランスを崩したカエデは馬から引きずりおろされ、地面に転がり落ちてきた。
互いに足を負傷したフェイトとカエデが対峙する。落馬したカエデは意識が朦朧としているようだが、それでもどこか余裕の表情は崩さなかった。
「何がおかしいの? あなたは今、追い詰められているというのに‥‥」
肩で息をしつつフェイトは口を開く。カエデは自分の鼻血をぬぐうと、にたにたと笑いながらその問いに答えた。
「フフ‥。私達は、今回依頼に7人で臨んだのですがね‥‥」
「‥‥‥?」
「そのうち、ヤナギ姉さまを含めた4人は村の中を、『残り3人』は村の外を担当したわけですが‥‥」
残り3人、その言葉を聞いた瞬間、フェイトの表情が凍りつく。そして次の瞬間、その予想は的中してしまった。
「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁ――‥‥‥‥っ!!!!」
南の森を、村人たちの悲鳴が、叫び声が満たしてゆく。村人の中には、歩行が困難な老人や病人だっている。そういった者たちの速度に合わせていた村人たちは、自力ではそう遠くへと逃れられなかったのだろう。
「ほーぅら、悲鳴が聞こえてきた! あはは!!! さあ、どうするんですか? 私にかまっていると、取り返しのつかない事になりますよォ!!!!?」
水を得た魚のごとく、カエデはヒステリックに笑いながらフェイトをまくしたてる。
「っ!!!」
せめて一人、護衛に徹する者を決めておくべきだったか。しかし今後悔をしてもどうしようもない。フェイト、そしてのその後に続いているエイジスらは全力で森の方へと走るしかなかった。
●終結
「た、助けて‥‥」
「痛ぇっ! て、手ぇ離せよぉっ!! 離せったら!!」
少女の長い髪を乱暴に掴んだハーフエルフ、そして暴れる少年を強引にねじ伏せるハーフエルフ‥双子だ。漆黒の戦闘装束に身を包み、腕には黒薔薇と逆十字の刺繍が入った腕章を身に着けている。
「子供を解放しろ‥‥!!」
表情無く、しかし強い調子でエイジスが剣を構える。しかしハーフエルフの双子は全く動ずる事なく、事もあろうかその『子供達を盾に』冒険者たちと対峙するではないか!
「武器、捨てろ‥邪魔するな‥‥。動いたら‥‥子供、殺す」
冒険者達に、選択の余地はなかった。
「畜生‥‥!」
夜の帳が下り始めた夕暮れ時。負傷したジョシュアの肩を持つ、フィラの声がむなしく空に吸い込まれてゆく。目の前ではあの馬車が、子供二人を乗せて今まさに出ようとしている。
敵は7名のうち、3名も失ったのだ(但しヤナギ、カエデ、ハーフエルフの双子は健在)。今後暫くは大きな行動はできないだろうが‥‥。村人の落胆振りを見ると心が痛む。
あなたは何の為に戦うの? そう尋ねるフェイトに答えた、カエデの言葉が一同の頭から離れない。
「ふふ‥‥はは、あはははは!!! 何の為ェ? お前らのような冒険者が邪魔するから戦っているだけですよ!」