OGRE HUNT 〜その時、冒険者は〜
|
■ショートシナリオ
担当:夢想代理人
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 44 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月16日〜01月23日
リプレイ公開日:2005年01月20日
|
●オープニング
古ぼけた教会の中に、村の男集が集まっている。
彼らは今、村の存亡をかけた会議に参加している真っ最中であった。
「もうこれで12人目だ‥‥! 冗談じゃないぞ!!」
「村長ぉ、もう一度、討伐依頼をギルドまで出すべきだぁ!」
村長、そう呼ばれた白髪の男性は重い口をゆっくりと開く。
「わかっておる‥‥。だが、しかしだ。今、冒険者達の間ではオーガの子供を救おうと、存命嘆願書とやらに署名する者が後を絶たないと聞く‥‥。出しても、受ける者がいるかどうか‥‥‥」
その言葉を聞き、一人の若者が怒りで顔を紅潮させ、テーブルを両手でドン、と叩く。
「ふざけている!! 奴ら、俺ら人間よりもオーガのガキが大切だって言うのかッ!!!?」
「さあのう‥、きゃつらの気持ちは、きゃつらにしかわからんよ‥‥」
村長はどこか滅びの予感を悟ったような、遥か彼方を見る目で宙に呟く。
教会の中は重苦しい雰囲気に包まれた。やり場のない怒りにうろつく者、床に崩れ落ち、声を抑えて泣く者。
しばしの沈黙の後、村長は再び口を開いた。
「よし、ロックエッジ。お前がギルドまで行って、依頼を受けても良いという冒険者をかき集めて来い」
ロックエッジ‥、先ほどテーブルを叩いた青年の事なのだろう。彼に皆の視線が一気に集まる。青年は突然の提案に少し戸惑ったようだが、次の瞬間には力強く頷くのだった。
●冒険者ギルドにて
数日後、冒険者ギルドに以下のような依頼書が貼り出された。
『急募! オーガを討伐できる冒険者!
日程:7日間(うち2日間は移動。食料は全て依頼人より支給)
依頼内容:オーガ4体の討伐(大人のオス、メスが1匹ずつ。その子供とおぼしきオーガが2匹)
備考:我が村は既に、憎きオーガどもの手によって12人もの尊き命が奪われています! どうか、我等村民一同に貴方がたの慈悲と正義を!!』
「『慈悲と正義』ねぇ‥‥」
依頼の貼り紙を見ていた君の横で、ギルド員の女性が苦笑いする。
「どーも、村の近くの森にオーガの家族が居ついちまっているみたいだな。『エサ』として村人を時々襲いに来ているらしい。肉の柔らかい、女子供が特に狙われているらしいぜ‥‥」
ギルド員の女は頬をぽりぽりと掻き、さらに言葉を続ける。
「そこって、かなりの寒村らしくてよ、そこら一帯を治めている領主もオーガを討伐するのを面倒がって、見て見ぬフリをしているって噂だ‥‥」
オーガと戦うリスクと、村人を救ったときの利益が釣り合わない、と判断されたということか‥‥。心の冷えるような話である。
「そのまま放っておいたら‥‥その村、滅ぶな」
●リプレイ本文
●歓迎
ジノ・ダヴィドフ(eb0639)、沙羅紗 姫乃(eb0622)、カノン・リュフトヒェン(ea9689)。馬で先行した上記の3名が依頼の村へと到着したのは、丁度太陽が中天に差し掛かった頃だった。
「オーホッホホ!!! わたくし姫乃とその部下らが来たからには、もう何も心配はいらなくてよ!?」
「誰が部下だ、誰が‥‥」
歓声をあげる村人へ手を振る姫乃の横で、カノンはやれやれとこめかみを押さえる。ハーフエルフであるカノンが、こんな歓迎を受けたのは生まれて初めてなのかもしれない。どうにも慣れない展開に、早く馬と荷物を置いて森の探索へと逃げたい気持ちで一杯のようだ。
「これはこれは冒険者様がた‥‥! 遠路はるばるご苦労様でしたわい‥!」
難儀そうに村人を掻き分け、おぼつかないながらも急いだ歩調で村長が駆け寄り、丁寧に挨拶をしてくる。
「今回は‥‥3名で退治してくださるのでしょうか?」
「ああ、いや、違うんだ。後から更に5名、同業者が来る事になっている。安心してくれ」
どこか不安そうな村長の気持ちを察してジノが苦笑交じりに答える。彼の言葉を聞いて村長は安心したのか、ホッと肩をなでおろして笑っている。
「さあ、まずは貴方様がたが寝泊りする所へ案内いたしましょう。どうぞ、こちらへ‥‥」
かの3名は馬にまたがり村長の後を着いていった。
「はいほ〜、やぁっと着いたねえ」
「まあ、仕方ないですよ。馬と人では速度に差もでますからね。先行班が情報を集めてくれている事を期待しましょう」
理由もなく底抜けに明るいナラン・チャロ(ea8537)の言葉に、多嘉村 華宵(ea8167)は冷静な分析と期待で答える。後発組が村に着いたのはその日の夕刻だった。
彼らの姿を認めた村人たちは再び歓声を上げ、かの冒険者らを全身全霊で歓迎する。
(「‥‥なるほど。これだけ歓迎されるなら、ハーフエルフである事をわざわざ隠す必要はないな」)
村の子供に手を引かれているレミィ・エル(ea8991)は少々自嘲的な笑みを浮かべながらも、まんざらでもない様子でされるがままに案内されている。
「はいはーい、オーガたちは私たちがキッチリやっつけますから、安心してくださいねー」
にこにこと村人に愛想を振りまく黄 麗香(ea8046)の姿を見て何か思い出したのか、レミィが彼女に近寄って耳打ちする。
「‥‥もう一人はどうした?」
「倒しました」
数秒の硬直。
「‥‥‥は?」
「‥‥あんたぁも、冒険者け?」
やたらのんびりとした口調の村人の眺める先には一人の若者‥‥いや、相麻 了(ea7815)がへっぴり腰でうずくまっている。
「ああ‥‥俺はリョウ。仇名は漆黒の獅子ってんだ‥‥よろしくな」
道中、ナンパなんぞにうつつをぬかしていた相麻は十二形意拳絶技、鼠撃拳で沈められていた。相手の急所に強烈な一撃を繰り出すこの技だが、彼が具体的にどの部分を攻撃されたかは彼の名誉の為に伏せさせていただく。
●OGRE HUNT
冒険者たちは得た情報を元に、今まさにオーガの棲家へと差し掛かろうとしている。村の狩人がこの場所をつきとめていたらしく、途中で道に迷うような事は全くなかった。
「‥‥さぁ、ここから先は作戦の通りにいこうか。頼むぞ、二人とも」
「うっふ〜ん、ここは了子と、華(ハナ)ちゃんにお任せよぉ。ね〜?」
「そうよねぇ。もう完璧って感じィ? ごめんなさいね〜、『本当の』女・性・陣♪」
レミィの手伝いで女装した相麻と多嘉村がくねくねと答える。レミィの顔が一瞬引きつった気もするが、きっと気のせいなのだろう。カノンが無表情のまま卒倒しているのも何かの目の錯覚に違いない。きっと。
「と、とにかく、いいから早く行ってこい! 頼むぞ!?」
まくしたてるジノにやぁねえ、とか言いつつ、二人の『男』はオーガの棲家から相手をおびきだすべく行動を開始する。
その効果は直ぐに現れた、甲高い人間の声を聞いたオーガは巣から顔を出し、外の様子を伺っている。遠くに相麻と多嘉村の姿を認めたオーガは棍棒を片手に取ると、狩りの開始だと言わんばかりの咆哮をあげて突撃を開始した。
「巣からでたのは親が1匹だけか‥‥。まあ、そうそう上手くはいかないってことだね」
「ん〜、仕方ないね。もう一匹の親はあたし達で倒そう」
ナックルの握り具合を確かめながら呟く黄の横で、ナランは隠れていた茂みから立ち上がある。レミィも既に弓矢を手に持ち、カノンはクルスロングソードを抜剣する。
「さあ、あなたたち、いきますわよ!!」
ライトニングアーマーで電撃を身に纏った沙羅紗が宣言する。こちらの戦もはじまった。
「ほらほら、鬼さんこちら〜っと!」
軽やかなステップを踏み、踊るように相麻がオーガの攻撃を回避する。日ごろの鍛錬の成果は存分に発揮されている。相麻はこいつの攻撃が自分にあたる事はまずないな、と確信した。
「‥‥! そこだぁぁッッ!!!」
そして注意のそれたオーガへ、ジノの一撃が。コナン流絶技、スマッシュがオーガの体を縦に切り裂き、オーガの悲鳴を森中に響かせる。
「‥おまたせいた‥‥! おや、何です。もう勝負がついてしまっているではないですか‥‥」
疾走の術で武器を取りにいった多嘉村が戻ってくる事には、もうオーガは虫の息だった。あまりにあっけない幕切れ。多嘉村はせめてもの情けとして、瀕死のオーガにとどめを刺した。
「おーっほっほ! わたくし達に見つかったのが運のつき、覚悟ッ!」
レミィは同時に2本の矢を放つという離れ業をやってのけ、確実にオーガの体力を奪う。息つく間もなくカノンがその攻撃に続き、オーガの左膝をスマッシュで打ち砕いた。
「ガアアアァァァァァッッッ!!!」
「ッ!!」
振りぬかれた相手の一撃を剣で受ける。ハンマーで殴られたような衝撃が体を走り抜けるが、なんとか受け止めた。
「‥‥このッ!!」
カノンに気を取られている隙を突き、黄がミドルクラブをオーガの頭上へと振り下ろす。カエルの潰れたような音がオーガの口から漏れたかと思うと、地面にがくりと膝をついてその動きを止めた。
「このっ!!」
「ギャアアアアアアァァァッッ!!」
沙羅紗がダガーとナイフを振り下ろす度に、悲鳴が森にこだまする。
オーガの子供はまるで無抵抗で、電撃を纏った沙羅紗に馬乗りにされ、逃げ出す事すらままならない。電撃のショックによる気絶と、ナイフの痛みによる強制的な覚醒の間にはさまれ、意図せずしてなぶり殺しの状況となる。
「こいつぅ‥‥ッ!」
一撃で確実に仕留めたかったナランが顔を曇らせる。当初自分がやるつもりであった攻撃方法ではダメージが浅すぎた。やむを得ず普通にレイピアで相手を突き刺す形になるが‥‥。
一撃で相手を仕留める、というのは並大抵の事ではない。しかるべき知識、技術、そして道具があってはじめてできる芸当である。
「ヒイィィィィ!!! ウアァァァァウ〜〜〜〜〜!!」
「グッ‥‥エッ、グ‥アァア‥‥‥‥」
しかし、一撃でないのであれば話は別だ。2匹のオーガの子供は、まるで人間の子供のような悲鳴をさんざんあげていたが、数回攻撃し続けるとやがてグッタリとして全く動かなくなった。
●暴れだす感情
冒険者が勝利して村へ帰還すると、それはもう大騒ぎとなった。だが無理もない、これで村人たちはオーガの脅威に苛まれる必要はないのだから。
彼らは冒険者たちの為に急いで湯を準備すると、慌しく料理の準備をし始めた。
かくて、村で小さな宴がとり行なわれた。料理はどれもつつましいものだったが、丹精込めて作られたものであろう事はすぐにわかった。
村長から何か挨拶を、とせがまれ、戸惑う一同の中で、沙羅紗だけが勢いよく立ち上がる。
「村の皆さん、よろしいかしら!? 是非聞いて欲しい事があるの!」
それまでガヤガヤと雑談にふけっていた村人たちの注目が一気に集まる。
「わたくしは‥‥署名しましたわよ! そう、『オーガの子供を救う嘆願署名』に!
でも、だからといって、それで冒険者全てを否定されるのには納得いきませんわ! もっとわたくし達を信頼してくださってもよくありませんこと!?
‥‥それとも! あなた方を救った私達の言葉など信頼に値しないかしら!?」
沙羅紗は高らかにそう宣言する。これで村人が署名活動をしている冒険者らを見る目が変われば、そう思っての行動だったのが。一つ彼女はとても大切な事を忘れていた。
『憎しみは理論を超越する』という事を‥‥。
沙羅紗の言葉を聞いた瞬間、村人たちの一同に対する目が一変した。凍りつくような、ぞっとするような殺意と憎しみのこもった沢山の視線が一同に注がれる‥‥。
「署名‥‥したのけ?」
村人の一人が一歩前に出て、低いトーンで沙羅紗に改めて確認する。彼女の本能が危険を警鐘しはじめる。
「おらの嫁はなぁ‥‥オーガに食われたんだぁ。もうすぐ子さぁ、産む身だったんだぞ?
お腹に中にいた子ぉも、あのオーガ、一緒に食いやがったんだ」
「待て! 我々は何もオーガを全面的に擁護しているわけじゃあないんだ!
人間と暮らせるだけの知性を持つオーガとだけ‥‥!」
咄嗟に村人たちをなだめようとジノが弁護するが、もう遅かった。堰を切って解き放たれた『集団の憎悪』を、誰が止めることなどできようか?
「何寝ぼけた事言ってんだぁ! あんな汚らわしいオーガどもと共存なんてできっこねえ!!」
「死ね! オーガを庇う奴ぁ死ね!!!」
「この不心得者! 今にジーザス様の天罰が下るよ!!」
「殺せ! 殺せ! オーガを庇う冒険者を殺せ!!! 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せぇぇぇぇぇっっっ!!!!」
「うわっ‥と。おい! これってかなりヤバイんじゃないか!!?」
「‥‥ですね。 やれやれ、反感を買うのは遠慮したかったのですが‥‥ね!」
叫ぶ相麻に、石を避けつつ多嘉村が答える。まさか村人を傷つけるわけにもいかない、こういう時はさっさと退散するに限る。
「これだから人間は‥‥。勝手な奴らだ」
失笑交じりに、険しい表情でレミィが呟く。村人の目は既に正気のそれではない。まるで『狂化』だ、そんな皮肉を込めた分析をした後、すぐさま身を翻して村から離脱する。
依頼自体は成功した。最後に村人たちとのトラブルはあったが、もうオーガが村を襲うことはないだろう。
こうして、冒険者たちは、今回の依頼でちょっとした発見をする。
――下手なモンスターより、人間の方がよっぽど凶悪であるという事を‥‥。