子供オークション〜逆転せよ冒険者〜

■ショートシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月22日〜01月30日

リプレイ公開日:2005年01月26日

●オープニング

 真紅の絨毯が敷きつめられた、石造りの小ぶりな地下ホールにて。
 ステージで木製のハンマーを持つ司会は軽快な調子で客の提示した値段を繰り返している。
「15G! 現在15Gです! さあ、更に上のお客様はございませんかァ!!?」
「17!」
「17G! 17Gです! さあ、ございませんかァ!?」

「‥‥‥」

「‥ございませんかァ!?」

「‥‥‥」

「そ、れ、では‥‥」
「待て! 20Gだ!!」

「グッド! 20G! 今回の落札価格は20Gです!!」
 カンカン、とハンマーが2回打ち鳴らされる。舌打ちをする者、拍手をする者、その客の反応は様々だ。
「さぁて、それでは『商品』の進呈でござーい!」
 道化のように軽やかなステップを踏みつつ、司会の男は指をパチンとならす。ステージの横で待機していた強面の男二人が『商品』の首に繋がれた鎖を引き、落札した客の前まで丁寧にそれを誘導する。

「ふふ‥‥いい買い物をした」
 マスカレードでその客の表情をうかがい知る事はできない。だがこれから行うであろう、罪深いよしなし事に薄暗い喜びを感じている事は明白だった。
「ひ‥‥」
 仮面を被った目の前の大人に、裸の少女は恐怖で顔を引きつらせた。

●???
 どこぞやの薄暗い廊下を、コツコツと複数の人影が歩んでいる。
「いやー、こってりしぼられましたねぇ。3体『人形』が壊れたくらいで上の方も怒る怒る、あははははっ」
 何か失敗を咎められたのであろうが‥‥。ばさついたおかっぱ頭の浪人、カエデは悪びれる様子もなくけらけらと笑う。彼女の後ろにいる、人形のように無表情なハーフエルフの双子の兄弟は何も答えない。
「‥‥ああ、実に『人形』らしいですねえ。昇進したんだから、これからはもうちょっと人間‥いや失敬。ハーフエルフらしく振舞ってくださいよ? 怪しまれますから」
 双子は同時に頷いた。
「‥‥まあ、別にいいですけど。それよりも、わかっていますね? 今度『茨姫の吐息亭』で行われる競売には、私達が狩った子供が売りに出されるんですから。私と姉さまは休暇を貰いましたが、あなた達は警護命令をしっかりとこなして下さいよ?」
 双子は同時に頷いた。

●冒険者ギルドにて
「おっと、それは最近入った依頼だぜ」
 依頼書を眺める君に、ギルド員の女性が声をかける。
「ここから3日程歩いたトコにある街からの依頼なんだがよぅ。なーんか、その街でガキの売買をしているアホ共がいるらしいんで、首謀者どもを生死は問わないから捕まえて欲しいんだとさ」

 更に詳しい話を聞くと、首謀者達はどうやら不定期で一部の顧客達に招待状を送り、その街で子供の取引‥もといオークションを行っているらしいのである。

「今度の競売は、その街の『茨姫の吐息亭』っちうトコでやるらしい。当然、用心棒とか客とか何とか、ロクでもねえ連中が集まるから注意しとけよ?
 それと、その『茨姫の吐息亭』はそれなりの大きさを持つ2階建ての酒場だ。地下には会員制のホールもある。会員証をチェックする男たちが階段前のテーブルに陣取っているがね‥‥。表向きの経営は健全らしいから、迂闊に手が出せねえってんでこっちに依頼してきたんだろうなぁ」
 そう長い言葉を吐き終え、ギルド員の女は一呼吸ついてから君に問う。

「で、どうする‥‥。この依頼、受けるかい?」

●今回の参加者

 ea2248 キャプテン・ミストラル(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8076 ジョシュア・フォクトゥー(38歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8527 フェイト・オラシオン(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea9098 壬 鞳維(23歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9535 フィラ・ボロゴース(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea9753 ランディ・バラッドネイル(43歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0131 アースハット・レッドペッパー(38歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

エヴァリィ・スゥ(ea8851)/ セレス・ホワイトスノウ(ea9693

●リプレイ本文

 ――茨姫の吐息亭に続く裏路地にて

「‥‥ようし、でかしたぞフェイト」
 よしよしと頭を撫でるランディ・バラッドネイル(ea9753)の言葉にフェイト・オラシオン(ea8527)が頷く。子供が搬入されるなら、必ずその搬入口があるはず。冒険者達のその読みは完全に的を得ていた。
 建物の裏手、酒蔵とおぼしき箇所に少し大型の馬車がついてる。入り口と馬車の間は布で遮断されていて様子を伺うことは難しいが、おそらく『搬入』の真っ最中なのだろう。
「‥‥実際問題、こういう事は挙げれば切りが無いほど行われてるんだろうけど。ま、潰せる分には潰しておいた方がいいわよね」
 搬入の様子を伺いつつ、エルザ・ヴァリアント(ea8189)が呟く。それに呼応してか、アースハット・レッドペッパー(eb0131)も意気込みを語りだす。
「その通り。子供をさらってコショコショムフムフ大もうけするなんて、ふてぇヤツらだ。この正義の味方・サンタマスク様が一網打尽にしてやるばい‥‥!」
 彼の左腕の人形は裏声で『オウ、ソウダゼイ!』とか叫んでいる。エルザはちょっと距離を置いた。

 ――茨姫の吐息亭・内部にて

「んだぁ? 何が言いてーんだ! コラァッ!!」
「‥いった通りさ。あんたの取り分が『3』で、あたいが『7』。あの働きからすれば当然の分配だろう?」
 テーブルを勢い良く拳で叩くジョシュア・フォクトゥー(ea8076)、そしてそれを鼻で笑うかのように見下すフィラ・ボロゴース(ea9535)。一見すれば喧嘩にしか見えないが、当然本気ではない。
「‥‥あ、あの!! 自分の取り分がないんですが!?」
 少々ぎこちないが、壬 鞳維(ea9098)もしかるべき演技をすべく、その言い争いに参加する。
 3人の喧騒に徐々に周囲の注目が集まりだし、やがて階段の前で陣取る男達もそれに気がついた。今がチャンス。ジョシュアが3人に目配せし、無言の合図を送る。
「この野郎、もう我慢ならねえ! これでも‥‥喰らええええぇぇぇぃッッッ!!!」
 酒場のテーブルを持ち上げ、それを全力で投げ飛ばす。目標は階段前の男達。
「うっ、うぉわぁぁぁぁ!!?」
 魔法が炸裂したかのような爆音の後、テーブルは石の床に激突して粉みじんになって砕けた。奴らへの挑発としては百点満点と言っていい。
「危ねえだろうが、コラアァッ!!!?」
 男達は腰の得物を抜き、3人に詰め寄る。
「うるさい! 黙ってろ!!」
 接近してきた男の顔面を遠慮なくフィラが蹴り飛ばす。情けない悲鳴があがると同時に、彼女らを囲む殺気は一気に膨れ上がった!
「ブッ殺せぇぇぇ―――――ッッッ!!!」

「ひぇぇぇ‥‥。まさに『大混乱』状態。」
 滅茶苦茶に荒れ狂う酒場の中、エヴァリィ・スゥのメロディーで気合を入れなおしたキャプテン・ミストラル(ea2248)は一人冷静に歩を進める。何なく階段の前に着くと、そのまま滑り込むように地下へと駆け下りていった‥‥。

●Underground Fights
「さあさあ皆さんお立会い! 本日も当『黒薔薇逆十字団』主催の特別オークションにお越しいただき、まッことにありがとうございます!」
 禍々しい道化のような衣装をした司会がステージで飛び跳ね、軽やかに挨拶をこなす。
「さあ、それでは早速いってみましょう、本日の目玉商品はぁ‥‥!!」

「そこまでですよッ!」

 突然の大声。客、司会、全ての視線が一人の女海賊へと注がれる。海のように青い瞳の女海賊は怒っていた。一歩を踏み出せば、近くの腐った貴族らは椅子から立ち上がった。ノーマルソードを抜剣すれば、貴族らは数歩退いた。
「前途有望たる少年少女を誘拐し、無垢なる心をその瑣末な欲望で、黒き絶望の色に塗り潰さんとする所業‥‥人、それを非道と云うッ!」
「ルーシン、シュン!!」
 司会の男が叫ぶや否や、ステージから2つの黒い影が客間へと飛び降りる。地面に着地すると同時に前傾姿勢にスライドしてかのキャプテンへと突撃する。
「この、七風海賊団七代目頭目キャプテン・ミストラルが、貴方達を一人残らず天に代わって成敗してくれます! ‥‥かかってこい! 悪党ども!!」
 かくて、戦いの火蓋は落とされた。

「ええい、畜生! まさかここの存在が冒険者に知られるとは‥!!」
 司会の男の行動は早かった。ステージ奥に引っ込み、怯える子供達を完全に無視して裏口から逃げるべく荷物をまとめている、その時だった。
「ッ! がっ‥!!?」
 突然の閃光が彼を貫く。しかしこれだけでは済まない、振り返ると同時に両手にダガーを持った少女の一撃が炸裂した!
「ウっぎゃあああぁぁぁぁぁ――――ッッッ!!!!!」
 左腕、右足を貫かれた男は絶叫してその場にうずくまる。
「あなたは、絶対に‥‥逃さない‥!」
手ごたえが浅いと感じたフェイトは念の為にもう一撃加えておいた。
「‥‥こんな、ものッ!」
 エルザはヒートハンドで次々と子供達を繋いでいた鎖を破壊してゆく。アースハットは己のローブを近くの少女に着せた。近くに子供達が使っていたであろう毛布も見つけたので、改めてそれを他の子供達にも配ってゆく。
「おじさん達は‥‥?」
 子供の1人が、アースハットに尋ねる。
「正義ノ味方ッテ奴ダゼイ! モウ安心ダゼ、ジャリン子ドモ!」
 左腕の人形の口をぱくぱくと動かし、答える。子供は安心したように笑った。

「はぁっッ!!」
 フィラのモーニングスターが男の顔面を捉える。骨の砕ける音がしたかと思うと、悲鳴もあげずに男は倒れた。
「ひ、ヒィィィ‥‥!」
 男達は明らかに不利だった。それもそうだろう。相手は完全武装したファイター。もう一方も半端でないガタイの良さを誇る巨漢なのだから。
「早く下へ行きてえ、が‥‥。ちょっと数が多めかな?」
 拳に刺さった相手の前歯を抜きつつ、ジョシュアがフィラに背を合わせて苦笑する。
「もうすぐ奴らの戦意もくじける‥‥それまでの辛抱さ」
 不敵な笑みを浮かべ、鉄壁の女戦士はずかずかと自分を囲む男たちに接近する。
「クソッ、クソッ、まるで『戦車』みたいな女だ‥‥クソッ!」
 男達はじりじりと後退を始めた。

「ッ!!!?」
 気がつけばホールの天井を眺めている自分がいる。ミストラルは自分が何をされたのかを理解するのに数秒を要した。
「お前の‥負けだ」
 ハーフエルフの武道家、ルーシンの蹴りが炸裂していたのだ。おそらく奥義と呼ばれる類の技なのだろう。側頭部に強烈な蹴りを叩き込まれたミストラルは平衡感覚を失い、朦朧とした意識の中で武器を杖になんとか立ち上がろうともがき続ける。
「とどめ‥‥。 ッ!!?」
「はああああぁぁぁぁッッッ!!!」
 とどめを刺すべく動き出したルーシンに飛び掛る一つの影、壬だ。2人の武道家は同時に蹴りを放ち、宙で足が交差する。
「兄者‥‥ッ! ‥‥っ!!?」
 助太刀に入ろうとするシュンは背後から斬りつけられた。後ろを振り返れば、そこには狂化したランディの姿が。
「ハッ、伊達に歳は食っちゃいねェからなぁ‥‥。かかってこいやぁ、ガキども!! 相手してやらぁッ!!」
 ハーフエルフの双子は、己の不利を悟り始めた。

「ヒィ‥‥ヒィ‥‥」
 階段をよたよたと駆け上がる複数の影、オークションの客として招かれた貴族だ。なんとか逃げ出そうと頑張る彼らだが、その希望は脆くも打ち砕かれた。
「あっ!!?」
 階段の出口に差し掛かったところで、貴族の男は驚愕して目を見開く。その先には、完全武装した女戦士と、ジャイアントの如き大男の姿が‥‥。
「どこへ行くんだい? おまえらはここでゲームオーバーだよ」

 勝敗は、決した。

●エピローグ
 気を失っていたミストラルが、意識を取り戻したとき、事は既に終わっていた。酒場での喧嘩を聞きつけ、街の自警団が出動していたのだ。(意図せずして、これは冒険者にとって有利になるのだが)
 怪我人がいるという事で神父もかけつけたらしく、彼の手によってミストラルの傷は既に完治していた。
「あ、気がつきましたか‥?」
 意識を取り戻した彼女に気がついた壬が心配そうに顔を覗き込む。
「えっ、と‥‥。結局、どうなったんですか?」
「子供達は全員無事。首謀者だったらしい司会の男も生け捕りにした。依頼は大成功だよ」
 脱いだヘビーヘルムを片手にフィラが答える。彼女のもう一方の手に握られた武器には大量の血が付着していた。それの意味するところは‥‥。
「『死して屍拾う者なし』か‥‥」
 とうに事切れたハーフエルフ、ルーシンの亡骸を眺めつつエルザがぽつりと呟く。横にいるランディは、悪事に加担していたとはいえ同族である者の死には何か納得できないところがあるようだった。
「弟を逃がす為に、自分の命を犠牲にするとはね‥‥。こいつにも、最後は『人の心』って奴が戻ったのかな?」
 アースハットの問いに、答える者はいなかった。

 オークションに参加していた貴族、及び首謀者である司会、その部下はかくて街の自警団に拘束された。これから牢屋にぶち込まれて尋問が始まるのだろう。
 唯一逃したのは、双拳のシュン。かなりの手傷を負わせたが、兄が体を盾にするという捨て身の行動に出た為に、辛くも街の路地へと逃げ込まれてしまった。今後、再び冒険者の前に立ちはだかる事があるかもしれない‥‥。『復讐者』として。