マルーと奇妙な冒険

■ショートシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月03日〜03月09日

リプレイ公開日:2005年03月09日

●オープニング

 ―それは、ある夕暮れ時だった

「マルー、今日の依頼も成功して良かったねえ」
 依頼の帰り道。マルーと呼ばれた少女の横では、ハーフエルフの冒険者ラシェルがぽややんな笑顔をたたえている。
「あ、うん‥」
 ドレスタットのドラゴン襲撃事件の際、そのあおりをくらって家族を失ったマルーは今や冒険者として生計を立てている。少しだけ伸びた背と、泥で汚れた頬が彼女の成長ぶりをうかがわせた。
 寒村育ちのマルーには、ハーフエルフは忌諱の対象でしかなかった。しかし実力主義を重んずる冒険者ギルドではそんなものは通用しない。某ギルド員の強制により、ハーフエルフ嫌いを克服すべく、今ではラシェルとコンビを組んで依頼にいそしんでいる。

「‥‥‥」
 ラシェルと共に依頼を、危険を潜り抜けてきて様々な発見があった。自分はなんて狭い世界に閉じこもっていたのだろうと痛感する事もしばしば。今ではハーフエルフである彼女に親友に近い感情さえ抱いている。
「ラシェル‥」
 マルーが何か言いかけたとき、『奴ら』は現れた。

「ほう‥こんなところで早速ハーフエルフと出会うとは‥我等はついている」
 シリアスな雰囲気を一撃でぶち壊しそうな2人組のマッスォメンズが、大口を開けて硬直したマルーとラシェルの前に立ちはだかる。この時、2人の冒険者が思ったことは『こいつらヤベェ』という事のみ。
「うむ、カジミール様もお喜びになる事だろう‥。そこの女、我等の同志になる気はないか?」
 マッスォメンズの一人がラシェルを指差す。しかし彼女の視線はむしろ彼らの下半身‥もといフンドーシに集中しまくっている。上着は割と普通なのに、どうして下だけッ。
「女ァ! 聞いているのかぁ!?」
「えっ、あっ、はい!? い、嫌です!!」
 反射的にラシェルはマッスォメンズを拒絶した。マルーも嫌だ嫌だと首を横に振っている。
「何‥‥。我ら、『ハーフエルフ解放機構』の誘いを断るというのかね?」
「「は‥、『ハーフエルフ解放機構』?」」
 何故かポージングしたままにじりよるマッスォメンズに思わず退く2人の冒険者。

「うむ、何を隠そう、我らも君と同じハーフエルフなのだよ」
 なるほど、彼らのあまりに異常な存在感に気がつかなかったが、耳がかすかに尖っている。
「い、いえ、あの、『同じ』ではないかと思いますが‥‥」
「ええい、いちいちあげ足をとるそのひねくれた根性! 我が機構で性根をたたき直して立派なハーフエルフになってもらうぞ! 風のウォレス、参るッ!!」
 瞬間、凄まじい風が巻き起こりラシェルを切り裂く! 
「キャアアッッ!!?」
「な、何をするだァーッ! 許さんッ!!!」
 友を傷つけられ、激怒するマルー。怒りのあまり、思わず田舎臭い台詞を吐いてしまった。

「フフン、お前の相手はこの私‥怪炎のエディスがお相手しよう」
 奇妙なポージングをとりつつ、エディスがマルーとラシェルの間に割ってはいる。

「やあああああぁぁっっ!!」

●冒険者ギルドにて
「お願い、ラシェルを助けて‥!」
 負傷したマルーの言葉に、ギルド員の女性はおもわずうなる。
「ハーフエルフ解放機構やら下半身フンドーシだけとか‥笑えねえ事態だな」
「あいつら変態臭いわりには結構強くて‥。わたし一人じゃ歯が立たないんだ‥」
 ポーションや教会の治療には高くて手が出せないのか、包帯を体に巻いた彼女は思わずうつむく。

「まあ‥。取りあえず一緒に来てくれそうな物好きどもを募集してみるか」
 ギルド員の女は頭を掻きながら依頼書の作成を始めた。

●今回の参加者

 ea8076 ジョシュア・フォクトゥー(38歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8742 レング・カルザス(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0485 シヅル・ナタス(24歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

「マルー、本当にいいのか? 後から欲しいって言われても、もうやらねえぞ」
 ジョシュア・フォクトゥー(ea8076)はリカバーポーションをマルーに渡そうとしたが、それは丁寧に断られた。苦笑しながらアゴを人差し指で掻く。
「うん、いいんだ。それに、3人のうち誰かのを貰ったら、残り2人の顔が立たないだろ?」
 包帯を巻いたままの彼女はそう言ってにこりと笑う。どうやら同じ事を考えていなかったのはジョシュアだけではなかったようだ。石動 悠一郎(ea8417)、ルメリア・アドミナル(ea8594)もまた彼女にポーションを渡そうとした為、マルーはあえて全てを断るという選択肢を選んだ。これが彼女なりの気遣いというやつだろう。
「うーむ、体調は万全にしておくべきなのだが‥」
「あらあら‥。かえって余計な気遣いをさせてしまったかしら?」
 石動、ルメリアの言葉にマルーは大丈夫だよ、と一言返した。多少の怪我はあれど、戦意の方は申し分なさそうだ。
「マルグレーテ‥。あの時よりも、いい顔になったみたいだね‥」
 普段とは違い、フードを下ろしたエヴァリィ・スゥ(ea8851)が微笑む。マルーは照れくさそうに笑っている。
「さあ、挨拶も済んだ事だし、早く行こうぜ。囚われの姫君がお待ちかねだ」
 レング・カルザス(ea8742)の言葉に一同は頷く。目指すは変態屋敷‥もとい、ハーフエルフ解放機構の本拠地だ!

●マルーと奇妙な冒険
「こォらぁーッ!! 出てきなさい悪党ぉぉ――――ッッッ!! 」
 フォーリィ・クライト(eb0754)の雄叫びが屋敷の外から中へと投げつけられる。それから数秒、正面玄関のドアが開いたかと思うと、おもむろに一人のハーフエルフのマッスォメンが現れた。
「フゥム‥、何者だ、貴様ら?」
「あたしの名前はフォーリィ・クライト! あんたらがどんな理屈で考えてんのかしんないけど、これ以上ハーフエルフの立場下げるような奴は、成敗してやるわっ!!」
 ロングソードを抜剣してフォーリィが構える。他の冒険者たちもそれぞれ戦闘態勢に入るのを確認すると、男は中にいたもう一人の男(マッスォメン)を呼び、表へと歩を進めた。
「ヌウゥ‥! 我らハーフエルフを迫害しにきたか! よもや同族まで引き込むとは、なんたる蛮行‥!! 風のウォレス、参るッ!!」
「その通りだ‥。この怪炎のエディス、容赦せぬ!」

 言うや否や、男達が飛び掛ってくる! 戦いの火蓋は落とされた。
「濃いよ‥。いや、『来いよ』フンドーシ野郎ッ!」
「ちょっ〜と、待ったあぁぁッ!!!」
 ジョシュアがほのかに楽しい台詞と共にいざ迎え撃とうとしたその時、謎の男が待ったをかけた。新手のフンドーシ使いか? 否。彼の名は‥。
「マスク・ド・フンドーシ(eb1259)、華麗にそして雄々しく参上ッ!!」
 依頼の集合場所まで軽やかにスキップしていたマスクは、街の兵隊さん達に危うく捕まりかかっていたのだ。そりゃそうだろ。
「‥。悪意と歪んだ強迫観念に満ちた風、断ち切らせてもらう!」
 出てきたマスクを石動は軽やかに無視(!)すると、なんとか真面目に戦おうと頑張ってみた。とりあえずエヴァリィが竪琴でマスクを(超笑顔で)撲殺しにかかっているので、なんとか場の空気は持つかもしれない。


 所変わって、こちらは屋敷の裏手。二手に分かれた冒険者たちのうち、ラシェル救出班の面々はシヅル・ナタス(eb0485)の手ほどきにより、何なく侵入に成功した、が‥。
「シヅル、あなた‥な、何か少し、『やつれて』いませんか?」
 屋敷の廊下を歩く中、ルメリアがおそるおそるシヅルに尋ねる。尋ねられた当人は何かこう、放っておいたら人を刺しそうな気配を漂わせていてかなり危険だ。というか何があった。
「別に‥」
 ギギ‥、とぎこちなく振り返って答えるシヅル。恐るべしハーフエルフ解放機構!
(「へ、部屋はまだか〜!!」)
 マルーとレングが心の中でシャウトとした内容は同じだった。


「グッ‥、はぁ‥ハァ。危うく逝ってしまうところであったが、これしきの出血!!」
 鼻から盛大に出血しているマスク(ちなみに全て味方からの攻撃だ)は、よろよろと立ち上がる。
「よぉーし! マスク! 打ち合わせどおりにいくよ!!?」
 その出血を見て、狂化したエヴァリィが竪琴をかき鳴らして気合を入れる。全身黒革の服装に変身した彼女は印象がまったく別人になっていた。
「了解である! いくぞ、ウォレス、エディス!! ふんぬるぁぁぁッ!!!」
「「な、なんだとーッ!!?」」
 何の脈絡もなくポージングをとったマスクに、かのマッスォメンズは衝撃に打ちひしがれる。
「ば、バカなぁ! アレは『タワーブリッジ』!!?」
「ポージングの一族! まさか生き残りがいたというのかぁ!!?」
「いや、意味がよく‥‥」
 冷静にツッコミをいれるフォーリィの姿がかすんで見える。この濃ゆいというか混沌とした雰囲気に耐えられる者はそうそういない。
「解説しよう! 『タワーブリッジ』とは、大地に手をつき逆立ち、大開脚。
 巨木の根の如き両腕は、占星術的に優れた方角に沿え、頭も北枕を避ける。股間の盛り上がりラインをダイナマイトに強調する必殺ポージングの一つなのだぁッッ!!」
 ジャカジャン、と竪琴をかき鳴らしてエヴァリィが謎の解説をはさむ。マッスォメンズは精神的ダメージが大きいのか、動揺を隠せない。

「そこだっ!!」
 そこへファイヤーバードで炎をまとったレングの一撃が炸裂する。狙うはエディスのフンドーシ。相手の羞恥心を利用して動きを封じる作戦だったが‥。
「ムウッ!!?」

 ―ここから先は台詞のみでお楽しみ下さい―

「‥って、切ったんだから隠せよ、おい!!」
「フッ‥。愚か者め。我が鍛え抜かれた肉体に隙などない。それが例え(検閲削除)であってもだ!!」
「ラシェル、目に毒だから見ちゃダメ!!」
「あれ〜、マルー、何も見えないよぉ」
「君達はそこも美しくないんだね‥‥」
「何っ、聞き捨てならんな! これのどこが美しくないというのだ! 見よ、この(検閲削除)を!!」
「ご、御託はいいから、早くその粗末な(検閲削除)を隠しなさい!!」
「このド変態〜っ! 天が地が人が許してもこのあたしがゆるさんっ!!」
「ぬう、貴様らも(検閲削除)を相当ビルドアップしておるな!?」
「貴様らの主義主張には別に何も言うつもりはない、だが、相手にそれを強要する行為を見逃すわけには‥」
「落ち着け、石動! 刀が逆になってるぞ!!」
「てめーら、もう面倒くせえからアタイの歌をきけ――――ッッ!!」

 ―しばらくお待ち下さい―


 皆が、疲れていた。
 今日は色々なことが起こりすぎた。しかもイカレた事ばかりが。

「ジョシュアドライバァァァッッ!!!」
「ギャァァァアッ!!」
「我、武の理を持て斬を飛ばす‥‥飛斬!」
「グァァァア!!」
「クリムゾンスマ――ッシュッッ!!!」
「キャッフゥゥ!!」
 かのマッスォメンズをボコし終え、真面目に戦おうと頑張っていたジョシュア、石動、フォーリィはとりあえずマスク・ド・フンドーシをタコ殴りに(!?)していた。その側では『ギャグ専門回復部隊』という意味不明な腕章をした謎の黒服たちがマスクに治療呪文をかけている。

「ラシェル、キミは大丈夫だったの‥‥?」
 少々やつれたような印象を受けるシヅルが疑問をぶつける。これは体験者同士が語る深い会話だ。
「いや〜、おかげさまで。もうすっかり大丈夫ですよぅ」
 ぽややんラシェルは回復が早いらしい。ほやほやと笑う彼女に、ラシェルは疲れたようにフッと笑うと地平線に輝く夕日へと視線を移した。

「しかし、あの2人が最後に残した言葉‥‥気になりますね。いや、できればしたくないのですが」
「カジミールとかいう、2人の親分みたいな奴のこと?」
 ルメリアの言葉にマルーが応える。ルメリアはこくりと頷くと、更に言葉を続けた。
「よもやラシェルさんにピンポイントで再襲撃してくるとは思えませんが‥。このドレスタットにもとうとう変態が上陸してきたのかと思うと‥‥、心苦しいですわ」
「あの人は‥‥?」
 エヴァリィが指差した先には、夕日に血と汗と涙を煌かせているマスク・ド・フンドーシの姿が。

「‥‥。風の怒りよ、光となって射よ。ライトニングサンダーボルト、『最 大 出 力』」


「‥‥帰るか」
「‥‥うん」
 レングの言葉に、マルーは頷いた。このような悲(喜?)劇が二度と起こらないことを切に願いつつ‥‥。