マルーと奇妙な水晶滑刀

■ショートシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月20日〜03月28日

リプレイ公開日:2005年03月27日

●オープニング

 ―それは、ある夕暮れ時だった。

「マルー、今日の依頼も成功して良かったねえ」
 とある依頼の帰り道。ハーフエルフの冒険者、ぽややんラシェルが相棒のマルーに笑いかける。

「‥‥ちょっと待て」
「うん、なぁに?」
「このパターンは前にも経験した気がするんだけど」
「‥‥? ああ、あの『ハーフエルフ解放機構』のこと? 心配性だねえ、マルーは」
 脳内がおめでたいラシェルはマルーのごもっともな心配を笑い飛ばした。あんまり自信満々の彼女を見てか、マルーもつられて苦笑して、楽天的な未来予想図に思わず同意してしまう。
 そうだそうに決まっている。よもやあのような悲劇が繰り返されるはずは‥‥。


「貴様らか‥‥ウォレスとエディスを痛めつけた冒険者というのは」
 出た。
「「うわぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!」」
「こらまて、いきなり逃げるな!!」
 全力でダッシュ逃げする2人の冒険者を1人のフンドーシ男が追いかける。相手の方が身軽なのか、ムチッとした筋肉をまとった男はずんずんとマルーとラシェルに迫ってくる。そのプレッシャーたるや、尋常ではない。

「あひーっ!?」
「ら、ラシェルッッ!!?」
 その時だ、ラシェルが思わず足をつまづかせ、大地にヘッドスライディングをかましてしまう。マルーはかの親友を助けるべく、急いで方向変換してラシェルに走りよる‥‥が。
「フハハハハ! このハーフエルフの娘はいただいたぞ!!」
 フンドーシ男の方が一足早くラシェルを確保してしまった。またかよ、と心の中でシャウトしつつ、マルーがショートソードを抜いて男に斬りかかる!

 ―剣のぶつかる金属音が空に吸い込まれた。

「‥‥なっ!!?」
「フン、甘い甘い‥。甘い甘い甘い甘い甘い甘いィィィ!!!!」
 フンドーシ男はいつの間にか、水晶でできた剣を手にしていた。マルーの一撃を容易くいなすと、お返しとばかりに強力な突きを繰り出す!
「うぐぁっ!!?」
「我が名はカジミール‥‥。水晶滑刀のカジミールなり!」
「ま、マルーッ!!?」
 ラシェルの叫び声が辺りに響く。致命傷ではないが、マルーの負傷は軽いものでもない。
「く、クソッ‥‥!」
「他の冒険者どもにも伝えておけい! これはウォレスとエディスの敵討ちだとな!」
 えー、ちなみに生きてます、あの2人。

「この娘を取り返したくば、ドレスタットより4日程歩いた所にある、『環状列石の遺跡』に来るが良い! そこをお前らの‥‥生まれ変わりの場所としてやろう。我が機構の構成員としてのな、フハハハー!!」
 言いたい事だけあらかたぶちまけると、カジミールはラシェルを担いでえっさほいさと逃げていった。
「ぐっ‥‥! 待ってて、ラシェル! 必ず助けるから‥‥!」

●冒険者ギルドにて
「お願い、ラシェルを助けて!」
「またかよ!!」

 ギルド員の女は叫んだ。

●今回の参加者

 ea2504 サラ・ミスト(31歳・♀・鎧騎士・人間・イギリス王国)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8076 ジョシュア・フォクトゥー(38歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8216 シルフィーナ・ベルンシュタイン(27歳・♀・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea8742 レング・カルザス(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0485 シヅル・ナタス(24歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1251 獅士堂 漆葉(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カイ・ミスト(ea1911

●リプレイ本文

「‥‥変態は滅する」
 ドレスタット、冒険者ギルド前にてサラ・ミスト(ea2504)が己のまるごとメリーさんの毛づくろいをしている。
 表情は非常に険しいが、この服装は彼女の放つ渾身のギャグなのだろうか。横では彼女の弟がすすり泣いているが、これは彼の名誉の為に見なかったことにしておこう。

「ああ、もうイヤイヤ! 耐えられるかしら」
「まあ‥‥事前に呪歌で気合を入れてあげるから、精神崩壊の危険はないと思う」
 人としてまっとうな反応を示すマクファーソン・パトリシア(ea2832)にエヴァリィ・スゥ(ea8851)は物騒なフォローを入れる。いや、確かに『アレ』を目の前にして精神というか常識がぶっ壊れた人々はいるのかもしれないが。

「しっかし、一度ならず二度までもか。おまえも災難だなぁ‥‥」
「トホホ‥‥。今回もよろしく」
 苦笑するジョシュア・フォクトゥー(ea8076)がマルーの肩を叩く。彼女は面目なさそうにしょげかえり、今回集まった勇者たちに早くも礼を述べている。
「心配すんな。相棒は必ず取り戻すさ。それに、俺たちは気に入ってるこの街を変態どもの魔手から守る!!」
 一同はえいえいおー、と無駄に叫ぶと、かの男が待つ決戦場へと旅立つのだった。

●マルーと冒険者とカジミール
「フ‥。逃げずに来たか」
 夕日に染まる環状列石の遺跡では、かのフンドーシ男、水晶滑刀のカジミールが複数名の部下と共に堂々と待ち構えていた。だから何で上半身の服装は普通で下半身はフンドーシだけなんだこいつら。
「濃ッ!!」
「い、いやぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」
 獅士堂 漆葉(eb1251)とシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)の絶叫が空に響く。
「‥ラシェルを返してもらうぞ。というかこの展開はハーフエルフの解放とは関係ないだろう」
 とシヅル・ナタス(eb0485)が非常に理にかなった説得(?)を試みるが、相手は常識ブレイカーズだ、油断ならん。
「フフ‥‥。この娘の事か? 返して欲しくば、こちらに登ってくるがいい!!」
 カジミールがパチンと指を鳴らすと同時に、部下がロープで遺跡の上部から吊るされたラシェルを見せびらかす。あの高さ、受身の取れないラシェルが落ちたら怪我では済まされない!
「ま、マルー!!」
 一同の静止を振り払ってマルーが駆け出す。ラシェルを救出する手はずのエヴァリィ、シヅルもそれに続き、他の者は眼前の変態ズを殺戮すべくばらばらと遺跡に駆け寄りだした。
「かかってくるがいい‥。この水晶滑刀の露となれい!!」
 カジミールは素早く詠唱を終えると、その掌に水晶の剣を生成する。
「おお、カジミール様が‥」
「カジミール様が、戦闘態勢に入ったぁぁ〜〜ッ!!!」
 ドッゥワァァと部下たちが沸きあがる。なんだこの光景。

●Stone jungle battle!!
「てやぁっ!!」
 シルフィーナのホイップが意志を持ったかの如く相手に襲い掛かる。そのまま敵の足首に絡んだかと思うと、彼女は渾身の力を込めて相手を下へと引きずり落さんとする。
「ムゥゥゥ!?」
 だが相手はどいつもこいつもマッスォメンだ。近くにある壁の凹凸に手をかけると、そのまま踏ん張って今度は彼女を遺跡から叩き落そうと引っ張ってくる。
「うわっ‥ちょっ‥‥!!」
「フフ、このまま地面に叩き落され‥‥ぎゃぁぁはっ!!?」
「大丈夫かッ!?」 
 空飛ぶ毛玉、フライングブルームにまたがったサラによる股下を狙う一撃が炸裂し、シルフィーナを助ける。いや、これは痛そうだ。くらった敵はその場にうずくまって失神している。
「忌々しい変態どもに情け容赦は無用!! 滅せよ!!」
 サラはそのまま空中に急上昇すると、今度はナイフと油を敵にめがけて投下する。

 その時、彼女は全く想像していなかったのだろう‥。よもや『油』があのような事に使われるとは‥‥。

「ほう! 私の動きについてくるとは、なかなかやるな!!」
「伊達に鍛えちゃいねえさ! おまえの方こそ、マッスル足りねーんじゃねーかッ!?」
 遺跡中を、体格とはちぐはぐな身軽さでカジミールとジョシュアが駆け巡る。相手には水晶の剣がある、迂闊に手を出せないジョシュアは攻めあぐねていたが、動きの鋭さでなら負けていない。マクファーソンのウォーターボムによる援護がある分、ジョシュアは焦る必要なく攻撃の機会をうかがう事ができるのだ。

「‥ったく、どんな善行だろうが過ぎれば悪だって、気づけよなッ!?」
 獅士堂の右腕に握られた日本刀が空気と敵の体を切り裂く。
「チィィィ!! こいつめっ!」
 フンドーシ男は舌打ちすると、素早く後方に飛びのいて自分の仲間たちと陣形を組み直す。その様子はまさに空飛ぶフンドーシ筋肉集団。
「‥あ、悪夢だ」
 ごもっとも。

「ラシェル! 色々な意味で大丈夫‥‥そうだね」
 吊るされたラシェルを救出し、シヅルは早速安否を確認するが問題はないようだ。いや、言うなれば彼女のぽややん具合が既に重傷なのかもしれないが。
「ぁあ〜。死ぬかと思ったよぅ」
「‥よし、後は逃げ‥‥」

「『文化的な対決』をするだけだね‥クス」
 エヴァリィの言葉に凍りつく、シヅルとマルー(ラシェルは理解できていないらしい!)。
「「や、やめー!!!」」
 取り押さえんとするシヅルとマルーと肉薄しつつも、べんべけべんとメロディーを発動させていくエヴァリィ。ああ、なんだかとっても楽しそうだ。
「ぐはあっ!!? こ、この旋律は!!?」
 カジミール、そしてその部下たちが一斉に反応する。思わず退く真面目に戦闘している冒険者たち。
 そこへ振ってくるナイフと油。『油』‥‥?

「『塗れ』という事か‥‥」
 まてい。

 カジミールはおもむろに油の入った壺を手に取ると、体に塗りたくる。それは己の筋肉に光沢を与えるというとっても嫌な‥‥。
「〜〜〜〜〜!!!」
 声にならない悲鳴をあげて一歩二歩と下がるマクファーソン。あ、ちょっと肌に変なブツブツが。
「ぐっ‥‥、こ、これは!!?」
 ジョシュアの動きが思わず鈍る。そう、実はこのメロディーは彼にも作用しかけているのだ。それは獅士堂も同じことらしい。わけのわからん連中の仲間入りをしてはいかんと必死に抵抗している。
「わ〜! わ〜! わあ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!!」
 半泣きで遺跡を逃げまくるシルフィーナ。そりゃ戦いをやめてムキムキとポージングをしながら迫ってくる連中と対峙したら誰だって逃げると思うが。これは我慢うんうんのレベルではない。

 今まさに、遺跡は地獄絵図と化していた。そしてこの悪夢以外の何者でもない状況を上空から目撃ズキュンしてしまうサラ・ミストさん。
「え、え、え‥‥! エヴァリィ〜〜〜〜!!!」
 地獄の元凶めがけて突撃するサラ。しかしそこにはシヅル、マルー、ラシェルもいるわけで‥‥。
「「「「「あぁぁぁぁ〜〜〜〜‥‥!!!!」」」」」
 激突した衝撃でバランスを崩し、落下していく5つの人影。その瞬間に呪歌の呪いが吹き飛ぶ。
「ふぐはぁっ!!?」
 再びビクーンと反応するカジミールとその部下たち。よし、これで真面目な戦いが‥。
「フ、もはや歌なぞどうでもよいわぁ!! さあ、思う存分ポージング対決を‥!!!」
 はじまりませんでした。
「ふざけんな〜〜〜ッッ!!!」
 一撃必殺、ジョシュアブレイカーが炸裂しカジミールを大地に叩きつける。
「ぐはぁぁぁぁ!!!?」

 勝敗、というか地獄は終わった。

●やけっぱち冒険者
「‥‥えんがちょ?」
「うるせー!!」
 ぽやぽや笑うラシェルにブチきれるジョシュア。カジミールに必殺技をかます時に相手を掴んだせいか、体に油が付着している。
「とにかく、変な病気に感染させられる前に帰り‥‥シヅル?」
 一刻も早くこの場を離脱したいマクファーソンの横で、シヅルは石柱をげしげしと足で蹴り突けている。
「な、何してるのよ?」
「いや、また悪用されないように遺跡を破壊しておこうと思って‥‥」
 しかし石柱はなかなかに巨大で、個人の力ではどうしようもない。ここはやはり早々に帰還するのが得策というものだろう。
 冒険者達は泣き崩れる変態ズを完全に無視すると、そそくさとその場を後にした。

「ん、これで悪は滅びたね、めでたしめでたし‥‥」
「エヴァリィ、貴殿反省しているのだろうな‥?」
「ううん、全然」
 爽やかに即答するエヴァリィを斬りつけようとするサラをシルフィーナが必死に止める。

「ハァ‥‥疲れた。何かこう、精神的に‥‥」
「二度ある事は三度あるぞ」
 遠くを見つめているマルーに獅士堂は絶対に口にしたくない言葉を投げつける。シヅルも次に水が来るのは避けられないだろう、とか何とか呟いているし。

「い、イヤぁぁぁぁあ〜〜〜〜〜!!!」
 マルーの絶叫が空に響き渡った。