マルーと奇妙な泥棒横丁
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■ショートシナリオ
担当:夢想代理人
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 21 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月19日〜05月27日
リプレイ公開日:2005年05月26日
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●オープニング
「盗品の回収ぅ?」
ドレスタット冒険者ギルドにて、冒険者マルーは素っ頓狂な声をあげた。
ギルド員の女性は『そうだ』と頷き、ゆっくりと口を開く。
「イギリス王国はキャメロットで、イースターの祭があったのは知ってるな? ま、それに多少なりとも関連していない事もない依頼なんだが‥‥」
「‥‥‥」
どうにも歯切れの悪い言い方に、マルーの冒険者としての本能が警鐘を鳴らす。危険だ、この依頼にかかわるな、と。
しかしギルド員の女性も、ヤル気のない社会不適格者予備軍ども相手に仕事を凱旋するような大変な職業をやっている身。逃すものかとそれとなくマルーの肩をがしりと掴む。
「『うさ耳』だ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」
「いや、だから『うさ耳』だって。うさ耳職人があっちの島国にいない事くらいは知ってんだろ?」
「う、うん‥‥」
「そのせいかな、最近『うさ耳』の値が高騰をはじめている。そして、それを狙った連中の動きも活発になっている。つまりはそういう事だ」
どういう事なのか。マルーの頭ではいまいち事態が飲み込めない。
「あー、だから盗まれた『うさ耳』を盗み返してこい、っていう依頼だよ。わかったか?」
「ふーん‥。って、盗み返せってさ、そのうさ耳とやらが依頼人の物だっていう証拠はあるの? ブタ引くのは御免よ?」
マルーの言うことはもっともだ。まして『うさ耳』の価値が高騰をはじめている今ならば、用心深く振舞わねば、思わぬ犯罪(どんなだ)の肩を担がされる可能性だってある。
「ああ、その点については問題ない。大丈夫だ、オーケイ、安心しろ。問題ナッシング。相手は『ハーフエルフ解放機構』だ」
『ハーフエルフ解放機構』。その言葉を聞いた瞬間、マルーの血の気が引いてゆく。あの下半身はフンドーシのみという不可解な服装をしているマッスォメンズ。あれに泣かされた冒険者は数知れず‥。
「ていうか、あいつら生きてたの!!? いや、そうじゃなくて、何故わたしに!!」
「いあ、お前こういうのに慣れてるだろ? その事を言ったらさ、ギルドマスターがそれじゃあ、お前にやらせとけ、ってさ。(注:言ってません)」
「い、嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っっ!!!!!」
●リプレイ本文
うららかな春の日差しが眩しい今日この頃。春眠暁を覚えず。
「‥ZZZzzz」
我等がぽややんハーフエルフ、ラシェルは馬鹿を絵に描いたような顔をして爆睡していた。夢の中でマルーとジョッキを持って港で踊るという意味不明な夢をみているように思われる。
ふと、開かれた窓から蝶々が部屋に入り、彼女の鼻の頭に止まる。ああ、なんと平和な光景なのだろう。
そこへ唐突に現れる不吉な黒い影。
「ターゲット確認。マドモワゼル・ルイーゼ、準備はよいか?」
「サブウェポン、フンドーシ・セット。ウサ耳射程内にターゲット捕捉。オーケイです。ムッシュ・夜闇」
夜闇 握真(ea3191)とルイーゼ・ハイデヴァルト(ea7235)があからさまに怪しい会話をしつつ、グッスリと眠っている哀れなラシェルににじりよる。
「ラシェル‥。ごめん」
必死に笑いをこらえている(!)マルーの言葉を皮切りに、2人の猛者がラシェルに襲い掛かる。
「キュワァァァァ〜〜〜ッ!!!!?」
悲鳴の後、冒険街にて、縄で縛られたハーフエルフを担いでどこかへ走り去る人影が目撃されたとかそうでないとか。
●やってきました泥棒横丁
「おお。お主がこの手の依頼の専門家であるマルー殿か」
「ちげえよ」
「われはこの手の依頼を受けるのは初めてなのでな‥。ご指導の程、よろしく頼む」
「え、うん。だから違うんだけど‥。ああもうどうでもいいや、よろしく」
龍宮 悠闇(eb0886)とマルーの何かがズレた挨拶もそこそこに、早速冒険者達は縄で拘束したラシェルをドサリと横丁の広い通りの一角に放り出し、取り囲む。
「あ、あひぃ‥!!?」
ウサ耳をつけられ、何故か下半身がフンドーシ一丁にされてしまった(!!)ラシェルが小さく震えながら上目遣いに冒険者達を見る。白く透き通る脚線美が明らかになったラシェルの姿は、はっきり言って、かなり『エロチック』だ。不覚にもラシェルを男だと思っていた夜闇は動揺を隠せない。表情が『やっべっ』とかなっているぞ。
「うっ‥。ちょ、ちょっと被虐心が煽られるわね‥‥」
フォーリィ・クライト(eb0754)の喉がごくりと動く。目が若干本気なように思えるが、そんな事はきっと気のせいだ。
「さあ、それでは『囮』としての務めを果たしてもらおうか‥」
アースハット・レッドペッパー(eb0131)をはじめ、他の冒険者達も手をワキワキと動かしながらラシェルへ近づく。ああ、哀れ、ラシェル。
「きゅ、キュワァァァァァァ〜〜〜〜ッッッ!!!!」
●裏路地の闇
比較的賑やかな大通りとはうって変わり、泥棒横丁の裏路地は真に『泥棒横丁らしい』雰囲気だった。
閉鎖的、排他的。不潔で理不尽、暴力的。そんな形容がぴったりの嫌な空気がよどんでいる。
「ハーフエルフ解放機構っていう奴らを探しているんだけど、何か知らないかな?」
そんな空気の中、橘 蛍(ea5410)は全くその場に不釣合いな優しい笑顔で道にたむろする男らに声を掛けた。
男達は突然のことにしばし面食らっていたが、やがて気を取り戻すとすぐに疑り深そうな目で橘を値踏みしはじめる。
「‥あんだよ、オメェらは?」
「わたくし達はドレスタットからの冒険者で‥きゃぁっ!!?」
言いかけたところで、朝霧 桔梗(ea1169)はお尻に何かが触れた感触に思わず声をあげる。振り返れば男の一人がニヤニヤと笑みをたたえていた。朝霧、そしてアイネイス・フルーレ(ea2262)はキッ、と睨み、身構える。
「‥ありゃ、1Cしかねえや。こいつシケてんなぁ‥‥」
「えっ!!?」
まさか、と思い橘は懐に手をやる。やられた。朝霧が悲鳴をあげるタイミングに合わせて財布をスられたのだ。
おぞましい程に熟練した犯罪への連携。ここで橘は、ある事に気がつく。
「こんなん盗んでもしょうがねえや、ホレ。返してやるよ。その代わり‥、そっちの女たちは置いていきな」
―自分達の行動は、無防備すぎた、と!
●再び泥棒横丁・表通り
「ひゃぁぁぁ!!? や、止ぁめてぇぇぇ〜〜!?」
通りにはラシェルの悲鳴が響く。その声を聞きつけ、横丁の住民たちも好奇心をくすぐられて段々と集まってきた。
「ふふ、うさ耳を盗んだ卑しいハーフエルフめ!! 仲間の居場所を吐くまで、こうです!!」
そう叫びつつ、こちょこちょと彼女の脇をくすぐるルイーゼ。
「あひぃぃぃ〜〜〜!!?」
「あらあら‥どうしたのかしら? あんた、ここが濡れてるんじゃない?」
ちょっとアレな言い回しで、背後からラシェルを押さえるフォーリィは目に涙を浮かべた(つまり瞳が『濡れ』た!)彼女の首筋を指でなぞる。
「ひゃぁぁ‥‥ぁあ‥あ‥」
「‥何だか、エロくないか?」
「ああ‥。だが、それは良いものだと思わないか?」
「そうだな‥。あれは、良いものだ」
夜闇とアースハットが同じポーズで腕を組みつつ、事の瑣末を眩しい表情で鑑賞している。何故か集まったギャラリーもニヤニヤと笑みを浮かべてそれを一緒に鑑賞しているようだ。
このまま報告書が発禁レベルにまでいってしまいそうな、まさにその時だった‥。
「待てぇぇぇぇぇいッッッ!!!」
出た。
建物の屋上に陣取る三つの影。鍛え抜かれた肉体のシルエット。そしてお約束の頭につけられたウサギ耳。
そう、奴らの名は‥。
「出たな変態!!」
「違う!! 我等は『ハーフエルフ解放機構』! 世に虐げられしハーフエルフの平和の為! 貴様等の暴虐、それ以上は見過ごしておけぬ!!」
フォーリィのシャウトを水晶滑刀のカジミールが一喝する。揺れるウサ耳。あがる悲鳴。
「うさ耳をつけた筋肉‥なんと見苦しい! やはり、この一連の騒動は、うさ耳の風評を貶め弱体化したうさ耳業界を吸収して利益拡大をはかろうとするエチゴヤのか‥うわなにをするんですかやめ」
黒服の偉い人たちがルイーゼ嬢を力尽くで黙らせる。今こそ勝機。
「ハーフエルフの少女よ! 今に助けにはいるぞ‥! とうっ!!!」
かくて空飛ぶ怪炎のエディスと風のウォレス。そしてその場を盛り上げるリズミカルな曲。‥曲?
「フハハ!! あの欠食冒険者め! なかなか心地よいリズムだな!!」
何故か曲に合わせてクネクネとカジミールが踊っている。遠くから『黙れ変態ー!!』と声が聞こえたのは気のせいだろうか。
「さあ、その小娘は我が解放機構の一員とさせてもらうぞ!!」
「そしてウサ耳を資金源に、我等は自由と博愛の象徴、フンドーシを国旗に新たなる国を建国するのだぁっ!!」
微妙におぞましい事をほざきつつ、迫り来るウォレスとエディス。立ち向かうは夜闇 握真。
「馬鹿者がぁ!! ウサ耳など所詮一時的なブームでしかない! そんな物を扱ってもすぐ飽きられるのがオチ! おぬしらに神聖なる褌を愛用する資格など無いわっ!! 永遠の萌え、ネコ耳に敵わぬとも悟れぬ浅はかさ‥! 見るがいい!!」
言うや否や、神速の速さでアースハットにアイコンタクトを送る夜闇。そしてそれに光速の速さでもって反応してアースハットは上着を天高く舞い上げる!
「「な、何ィィィィィ――――ッッッ!!!!!?」」
ウォレスとエディスの受けた衝撃たるや、並々ではない。そうだろう、何故なら彼の背中には、とっても可愛らしいネコ耳娘の刺青が彫ってあったのだから!!
「‥これが、『真の美』というものだ。お前ら、自分の目玉に焼き付けておきな‥‥」
戦場に立つ英雄の如き神々しさが今のアースハットには備わっていた。(一部地域の特殊な趣味を持つ者にだけ有効な)圧倒的カリスマ。
勝敗など、直接戦うまでもなくその場で決まってしまった。
●ウサ耳倉庫
「‥何やってるんですか、龍宮さん?」
「うわぁぁぁぁっっっ!!!!?」
橘の声に思わず仰天して飛び上がる龍宮。
「い、いやややや、こ、これはだな。今後の調査のためにブツブツブツ‥」
龍宮はウサ耳をつけたまま激しく動揺し、何か意味不明な言い訳を一生懸命に口にしている。
「ふむ、一時はどうなるかと思われましたが、無事にウサ耳を取り返すことができて何よりですね」
「ええ、これで依頼も無事に完遂できそうです」
アイネイスと朝霧は手早くウサ耳を袋に詰め、脱出の準備を整える。アイネイスのスリープで見張りの者を眠らせているとはいえ、あまりのんびりはしていられない。
「‥どうやら終わったようですね。さあ、急いで逃げましょう!」
橘の言葉に皆は頷くと、颯爽とアジトから外へと飛び出していった。
●エピローグ
かくて、ハーフエルフ解放機構の野望は砕かれた。良し。
そして、夕日が沈みかけた帰り道にて‥。
「ラシェル、悪かったって‥‥。酒場で奢ってあげるから、機嫌なおしてよ」
「ううう〜〜! みんなしどい! しどいよ〜!!」
ぷんすかと怒るラシェルをマルーが一生懸命なだめている。
「ごめんなさい。あれは演出の為に、どうしても必要だったものですので‥‥」
「うんうん。それにまあ、そのお陰で解放機構の奴等もボコにできたし。結果オーライって事で!」
ルイーゼ、フォーリィも続いてラシェルをなだめようと(?)している。ちなみに反省の色はまったく伺えないが、まあ、良しとしよう。
●おまけ
「悪いな、あの商品はもう売約済みだから、譲れないんだよ。数が合わないと契約違反になっちまうからねえ」
「そ、そうか‥」
金銭的な報酬の代わりに、敢えてウサ耳を所望した龍宮。だが彼女の願いが聞き入れらる事は残念ながらなかった。
彼女はションボリとうなだれ、帰路に着いたのだった‥。