鋼の決意 VS レッドハンマー
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■ショートシナリオ
担当:夢想代理人
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 76 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月07日〜06月15日
リプレイ公開日:2005年06月14日
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●オープニング
―アークフォン家・屋敷内
「‥‥‥」
ルネ・アークフォンはスープの水面に映った自分の姿を眺めつつ、深い思慮を巡らせていた。
―アサシンガール・エムロード。
その者の名はここ、ドレスタットの周辺にまで届いてきた。
そして、その名を聞いたときのルネの反応がどうであったかは、あえて明記する必要もない。
何故なら、彼女は‥‥。
「ルネ、早く食べないとスープ冷めるよ」
ルネの思考は、同じ食卓を囲む少女の声で中断された。
「‥あ、うん。ありがとう、コリンヌ」
「違うよ、わたしはコレット。こっちがコリンヌ!」
かつての『人形』のなり損ない、コレットは不満そうに頬を膨らませ、自分の隣にいる少女を指差した。
つまりは双子という事。容姿が全く同じ2人の判別は困難を極め、未だこのアークフォン家で彼女らを見分けられる人物はいない。
「あ、ああ‥。ご、ごめん、コレット。ありがとう」
ばつの悪そうな顔をしてルネが微笑する。だが、『やつれた』という印象がぬぐえない今のルネの笑顔には力がなく、今にも掻き消えてしまいそうな儚さをはらんでいた。
「‥どうした、ルネ? 元気がないな?」
食事の手を休め、アークフォン家領主・オーギュスタン子爵は娘に声を掛ける。
「う、うん‥」
「どーせ、また『エムロード』とかいう奴の事を考えていたんだろ?」
「ジョルジュ!!」
ルネが声を荒げて睨む先には、彼女の視線も何のその。さも面白くなさそうな表情でパンを口に運ぶハーフエルフの少年の姿があった。
「あいつと俺達は、‥‥『違う』。他人事だ、放っておけ。これだけ騒ぎになっているんだ、冒険者が600人程度動いたところで、社会的に抹殺されるのがオチさ」
「ふむ、あの教会で殺人を犯したという少女の事か‥。忌まわしき事だ。大司教様のお考えは私にはわからん」
その言葉は、納得できなかった。
「〜〜〜〜ッッ!!!」
「‥‥ルネ!?」
気がついたときにはテーブルを強く叩き、立ち上がっていた。なんだか凄く悲しかった。悲しくて凄く悔しかった。
「‥気分が悪いので、‥失礼します」
きっと泣きそうな顔をしているに違いない。ああ、部屋に戻ってしまわなければ。踵を返し、早足で自分の部屋に駆け込んでドアを閉める。
しん、と静まり返った部屋に閉じこもること数分。混乱した感情が徐々に平静を取り戻し始める。
―あの子たちは確かに『違う』。お義父さんだってそうだ。でも、わたしは‥。
―わたしはずっと遠い昔に『アサシンガール』だった。なんでわたしだけ‥。
――ああ、キミは『ずるい』ね、ダンシングドール。人殺しがこんな所でのうのうと生きているなんて、許せないな。
いつぞやに対峙した、かのシフールの殺し屋の声が頭に響く。
―ち、違う‥。わたしはそんな。
――卑怯者! 卑怯者! 卑怯者め!! 今までに何人殺した!!?
いつぞやに対峙した、かの風使いの声が頭に響く。
「わっ‥‥わたし‥は‥!」
――罪の重さで、自滅しろ!! あはははははははははは!!!!
いつぞやに対峙した、かの弓使いの声が頭に響く。
「あっ、ぅぅ‥‥うっ‥‥‥」
膝から力が抜け、ぐらりと倒れそうになる、だが。
「‥‥ッ!!」
ダメだ、崩れるな。決めたはずだ。わたしは戦うと。
「‥‥〜っ!!」
唇をかみ締める。泣くな。泣き『崩れる』など論外。泣くならせめて歩きながら泣くべきだ。
「‥‥‥」
自分を助けてくれた冒険者らの顔と名前を思い出す。世界の美しさを教えてくれたあの人たち。こんなところで、崩れてなるものか。罪深さでいじけてなんてやるものか。
―そうだ。私は私にしかできない事をしよう。私が持っているのはこの体に染み付いた殺しの技術しかないけれど。それでも、きっと『使い道』はあるはずだ。どこかのだれかの笑顔の為に、そういう道があるはずなんだ。
(「どうすれば‥。一体どうすれば」)
考える、必死に考える。部屋をぐるぐると何回も回り、思慮を繰り返す。‥そして。
「あっ!!」
ルネは何かを閃いた。瞬間、部屋を飛び出し義父の元へと突撃する。
「る、ルネ‥!?」
「お義父さん‥! 確か、領内にオークの戦士が出たとか前に言ってたよね!?」
「あ、ああ‥。『レッドハンマー』の一団の事か? 確かに、どうやら別の者の領地から流れてきたらしいが‥。何分、今まで冒険者を屠ってきた強力なオークだ。迂闊には動けんぞ‥」
「でも、被害が出てからでは遅いと思います」
「う、うむ、確かに、それは‥‥」
すごむルネに、思わず父であるはずのオーギュスタン子爵がたじろく。
「『レッドハンマー』に賞金を賭け、討伐するべきだと思います」
「しょ、賞金‥!? ルネ、何もそこまでせずとも普通に依頼を出せば‥」
「いえ、『レッドハンマー』は屈強な戦士です。倒した者の武勲をたたえる意味でも、それは別個に用意した方が良いと思います」
「ジョルジュ‥!?」
ルネは驚いて顔を上げる。ジョルジュは肩をすくめて、口の端だけでルネに笑みを返した。
「う、うむ‥。確かに、お前達のいう事には一理ある‥。仕方ない。ドレスタットに使者を出し、冒険者を募集しよう」
そう言って彼は渋々と承諾し、ギルドに依頼を出すべく諸々の準備をはじめる。
「ジョルジュ‥。ありがとう」
ルネはそっと近づき、既に背を向けて部屋から出ようとしている彼に声をかける。
「別に。俺はエムロードとかいう奴もそれに寄付しようとしている冒険者もどうだっていい。ただ、親父の領内にある危機を確実に取り除きたいだけさ」
●ドレスタット冒険者ギルドにて
『討伐隊急募!
我が領内に巣食うオーガ族の戦士「レッドハンマー」の首を持ってきた者には20Gの報奨金を与える。
日程:8日間(現地まではドレスタットより片道3日)
備考:現地まで依頼人の娘がガイドとして同行。くれぐれも彼女に粗相のないように!
アークフォン家領主、オーギュスタン・アークフォンより』
●リプレイ本文
冒険者達は隊列を組み、鬱蒼と空を覆い隠す森の中を進軍している。
「‥、ルネ様。以上が、『あの子』に関して、私がわかっている事の全てです」
道中、スターリナ・ジューコフ(eb0933)は歩きながらの形ではあるが、エムロードに関連した様々なことを説明した。
「『エクスペリエンス』‥。『最終覚醒』。『第三段階』‥」
説明の中の端々にあった意味深な単語をうわ言のようにくり返しながら、ルネは下を向いて何かを考えているようだった。それは己のおぼろげな記憶から、シルバーホークに関する情報を探しているようにも見える。
「‥ルネさん。あなたは思い詰めが酷くなると、周りが見えなくなる傾向が強いようですね」
「え‥!?」
ファル・ディア(ea7935)に声を掛けられ、びくっと背筋を伸ばして振り返るルネ。暫くして、彼の言葉がなければ自分が木の根に足をつまづかせていたであろう事がわかった。
「あ、ご、ごめんなさい‥。皆さんの案内をするのがわたしの役目なのに‥」
「‥‥ルネ・アークフォン様」
若干厳しい調子で、スターリナが口を開く。
「貴方様に、これ以上の協力を願おうとは思いません。貴方様は領主の娘、領民に対し義務を負う身。必要以上にこの手の事件に関わることは、誰のためにもなりません‥‥」
「え‥‥?」
「‥ジューコフさん!!」
突然の突き放すような言葉に、セイロム・デイバック(ea5564)が声をあげる。スターリナは視線でその声を制すと、かのルネがどのような反応をするかじっと待っていた。
「ジューコフさん‥」
「‥‥‥はい」
「でも、彼女は、わたしの『妹のような存在』なんです」
「‥‥‥っ」
不意を突かれる回答。思わず目を見開き、息をのんだ。
「他のアサシンガールと呼ばれる子たちだってそうです。血のつながりも、直接会った事さえもないけれど‥。困っているなら、助けなきゃ。子供が選択の余地も無く殺しの道具として、散々こき使われて最後は死刑、なんて世界が正しいとは思いません」
呆れるほどに真っ直ぐな青い瞳。一体こんな眼差しをどこで習ったというのか。
「わたしは冒険者の皆さんから、世界の美しさと希望を教わりました。だから、今度は、わたしが皆さんのお手伝いをする番です」
なんだ、この娘は。まったく。顔がほころんでしまうじゃないか。
「ふう‥‥わかりました。もう私からは、何も言いません。あの子に伝えたい言葉は、何かありますか?」
考えること、数秒。
「‥いえ、特には。冒険者の皆さんが、わたしの言いたい事は全て言ってくれると思います」
●VS レッドハンマー
「GGGUUルァアアアァァァアァァッッッ!!!」
「!!!?」
戦闘はオークの奇襲という形ではじまった。オーク達の足跡を探すべく先行していたルイーゼ・ハイデヴァルト(ea7235)の左腕に、茂みから飛び出してきたオークの戦槌が打ち込まれる。
迂闊であった。まったくもって迂闊であった。成熟とは程遠い彼女の追跡の技術では、他の事に気を割く余裕など全く無かったのだ。それが裏目に出た。
「ッ!! ‥がっ、‥うっ!!」
まずい、死ぬ。殺される。後一発でもくらえば間違いなく殺される。必死に地面を転がって後退する。ダメージを受けたのは腕だけではない、そのまま肋骨にまで異常をきたしたようだ。焼け付くような痛みが脳髄に危険信号を送り続けている。
「ゴォガァアアアア!! さぁせるかァァァッッッ!!!!」
そこへ風雲寺 雷音丸(eb0921)の巨体が突貫し、一匹と一人の間に割ってはいる。木々から差し込む光に煌く野太刀は空気を、そしてそのままオークの肉を切り裂いた。
「AAGYAAAAAアァァl!!!!」
「ファル! ルイーゼを頼む!!」
「了解しました!」
オークは無論一匹ではない。騒ぎを聞きつけて更に2匹のオークが援護に現れた。ジノ・ダヴィドフ(eb0639)はファルにルイーゼの回復を頼むと、雷音丸の援護に向かうべくハルバードを構えて前に出る。
「‥っ! そうそう上手くはいかないって事ね! テスタさん、武器出して!!」
エルザ・ヴァリアント(ea8189)は舌打ちをして、すぐに詠唱の体勢に入る。10と数秒後、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)の日本刀は燃え盛る炎を身にまとった。
「覚悟せよ‥陰に生きし、邪なるものどもめ‥‥ッ!!」
大地を蹴って一閃。悲鳴をあげるオーク、そしてテスタメントに反撃するもう一匹のオーク。
「ぐっ‥! まずい、この数は!!」
それをセイロムのオーラシールドが相手の一撃を受け流す。戦況は苦しい。敵は更に増え、今は計5匹のオークが同時に襲い掛かってきているという状況だ。雷音丸、セイロム、ジノ、テスタメントと4人でなんとか五分に持ち込んでいるが、力任せで脈絡の無い攻撃は受け流しにくく、下手をすれば武器が『歪み』かねない。
加えて相手の耐久力も決して低くなく、そのしぶとさに思わずウンザリさせられる。
そして、そこへ更に加わる負の要素。
「BUMUOOOOOOォォォッッ!!!!」
前衛が活躍している方向とは反対の方角それは現れた。普通のオークよりも一際大きな体に、赤茶色の乾いた血がこびりついた戦槌。間違いなく、奴こそ、賞金首レッドハンマー!
「自分の部下に前衛で戦う冒険者を足止めさせ、そして己はこうして直接戦うのが苦手な冒険者を倒してゆく‥。なるほど、豚にしては、よく考えている‥!!」
スターリナが詠唱を開始する。レッドハンマーはさせるものかと彼女目掛けて嵐の如く突進する。が、それこそまさに思うツボだ。
「GYAAAA!!!???」
「‥かかった!」
レッドハンマーはまんまと罠にかかった。ほとばしる電撃がレッドハンマーの足元を駆け巡る。筋肉は痙攣し、不自然な収縮を繰り返す。
「OOOOOOォォォォッッッ!!!!」
「‥!!」
しかしスターリナは近づきすぎた。3mの間合いなぞ、熟練した戦士にしてみれば、1秒もかけずに詰める事なぞ造作ない。しかも相手には巨体と槌のリーチもあるのだ。満身の力を込めて、天から振り下ろされるはレッドハンマーの必殺の一撃!!
―森が揺れる程の爆音が辺りに響く。
「‥‥BBUM!!!?」
「‥動きが愚鈍すぎです。そんな攻撃、あたりませんよ!」
大ぶりな攻撃はそうそう当るものではない。レッドハンマーは相手の力量を見誤ったのだ。まさか、ウィザードがここまでの身のこなしをみせるのか、と。
「‥これでっ! 偉大なる慈愛神の力を知れ、ホーリーッ!!」
重傷から立ち直ったルイーゼのホーリーがレッドハンマーを包み込む。白い光に悲鳴をあげる賞金首に、誰が情けなぞかけるものか。
「やあああああぁぁぁッッ!!」
ルネは2振りのショートソードを左右の手に握り、嵐の如く敵を切り裂く。そして、顔をメッタ切りにされてしりもちをつくレッドハンマーに駆け寄る一陣の影。
「‥‥こうでもしなきゃ、森に火が移っちゃうからね」
マウントポジションをとったエルザの右手が、レッドハンマーの鼻を包み込む。それの意味するところは、すなわち。
「O‥OOOォォォ――――ッッ!!!!?」
「火霊よ‥、その尊き御魂の片鱗を我が前に示せッッッ!!!」
零距離射程のファイヤーボムがレッドハンマーの『体内で』炸裂した。
「ガァア! なんてこった!! 向こうで先に仕留めるとは!!」
エルザのファイヤーボムの音を聞き、雷音丸が残念そうに顔をしかめる。無念と怒りをこめたスマッシュはオークの頭を容易くかち割り、雷音丸は獅子のように叫び声をあげて他のオークらを気迫で圧倒し始めた。
「敵が浮き足立ちはじめた‥。勝機‥‥!!」
テスタメントの攻撃が速度を上げる。既にオークの視力では彼の攻撃を追う事はできず、『見えない』攻撃が無数に繰り出される事が余計に恐怖を駆り立てる。
「GY‥、ヒィィィッ!!!」
「ナイトの駒は後ろを取り易いですからね‥‥。チェック」
そして背を見せて逃げたが最後、セイロムの追う形によるチャージングが哀れなオークの背を捉え、完膚なきまでに叩きのめす。
「これで‥終わりだッッ!!!」
最後の一匹目掛け、ジノのハルバードが勢いよく振りぬかれる。オークは断末魔の悲鳴と血飛沫をあげて倒れると、もう2度と起き上がる事はなかった。
●エピローグ
「ガルル‥。奴を仕留めるとは見事だ。よし、いつか勝負してもらうぞ」
「あはは‥‥。‥勘弁してよ」
2m半近くある雷音丸ににじり寄られ、思わず苦笑して後ずさるエルザ。その後ろには動かなくなったレッドハンマーの死体が横たわり、傍でテスタメントが十字を切ってモンスターであったその者にせめてもの供養をほどこしている。
「あの、テスタメントさん‥」
彼の様子を見てか、ルネが表情を少し曇らせて遠慮がちに声を掛ける。モンスターとはいえ、命を奪った事には変わりがない。それはダメな事だったのか。そう心配したのだろう。
「‥いや、貴女のした事は正しい。これを放っておけば、ここの民に被害が出たかもしれないだろう」
「‥‥‥っ」
「痛みを知らない者は、他人の痛みを理解できません‥‥。だから、道を踏み外してしまう。今、心に痛みを感じるのなら‥、貴女は大丈夫ですよ」
ファルがルネの肩をそっと叩く。ルネは少し目を泳がせて何か考えていたようだが、すぐに彼に視線を戻すと、いつものはにかんだ笑顔でこう言った。
「‥はい」
「‥うん、以前より良い表情になりましたね。今日、ここに来られなかった『あの時』の皆さんも、これで安心です」
「ルネさん、ルネさん」
何故か両腕を背に隠し、ルイーゼが意味深な笑みをしたためがらルネに近づく。
「な、何でしょう‥?」
「はい、これをどうぞ」
差し出されたるは、拳ほどの大きさもある一つの巻貝。
「耳に当ててみてください」
「‥‥‥。あ‥」
波の打つ音に、ルネは思わず声を漏らす。
「プレゼントです。‥‥荒れる貴方の心を、落ち着かせますように」
にっこりと笑うルイーゼと、横でワンと吠える彼女の愛犬のクルーク。
ルネもつられて笑うと、改めて、今回集まった冒険者達にお礼を言った。
●募金結果
この依頼の直後、メルキュールへ速やかに寄付金を持ち込んだ冒険者が複数いた。
今回得た賞金分、またはそれに幾らか追加しての金貨銀貨である。
他の者はまたの機会となるか。
ファル・ディア(ea7935)‥5G
エルザ・ヴァリアント(ea8189)‥5G
ジノ・ダヴィドフ(eb0639)‥2.5G
風雲寺 雷音丸(eb0921)‥2.5G