晴れ時々、ゴブリン

■ショートシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 66 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月03日〜08月11日

リプレイ公開日:2005年08月08日

●オープニング

 『戦争は質じゃない。量だ!』
        ―とある騎士の手記より


 青々した葉をかいくぐり、光が腐植土の地にまで差し込む。
 アークフォン領のはずれに位置するこの地方の森も、それは例外ではなかった。

 森の幸を求め、近くの村の猟師達は隊列を組んで狩りを行っている真っ最中だ。

「うーん、今日はなかなか大物がかからねえなぁ」
「そだなぁ。いつもなら鹿の一匹や二匹、そろそろ捕まえていてもおかしくねんだが‥」
 兄弟とおぼしき猟師の二人組みがぶつぶつと文句を言っている。それは他の猟師も同じ心境なのだろう。朝から罠を仕掛けたポイントを一日中回っているが、未だ一匹もかかっていない。
 それどころか‥‥。
「なんか、壊れてる罠もあったなぁ‥‥。そんなにすげえ動物なんていたがや?」
「わがんね。ともかく次の罠さいく‥お!?」
 言いかけたところで、猟師の目つきが急に鋭くなる。その先には、揺れる茂みと何かの泣き声が‥。

「‥‥‥」
 罠にかかった獲物にトドメの一撃をかますべく、棍棒を手に取りそっと近づく。そして1、2の、3! の掛け声と共に猟師が飛び出したその先には‥‥!

「ご、‥ゴブッ」
「‥‥『ゴブ』?」
 罠にかかっていたのは一匹のゴブリンだった。どうやら仕掛けたエサにつられてかかったようだが‥‥。
「も、もももモンスター!!!」
 猟師の一人がへなへなと腰を地面につく。
「う、うろたえるでねぇ! たった一匹さでねえが!! 冒険者ァの手を借りるまでもねえよ。今、この場で‥‥‥」
 猟師の中で一番勇敢な者はパンパンと自分の頬をはたいて気合をいれ、手負いのモンスターに単身近づく。ゴブリンは己の危機を察知し、ギャンギャンと犬のようにわめきちらすが、何の事はあろう。
「たった一匹‥たった一匹‥。ビビることさねえ‥‥‥」
 何の事はない。そう、『一匹であれば』。

 ―ガサッ
「ッッッ!?」
「‥ゴブ」
 驚いて飛びのいた猟師がみたのは、木々の先からこちらを観察するゴブリン。

「な、も、もう一匹いたでが!!?」

 ―ガサッガサッ
「‥ゴブ!」
「ゴブ!」

「さ、三匹ッ!!?」

 ―ガサッガサッガサッ
「ろ、六匹‥」

 ―ガサッガサッガサッガサッ
「‥‥‥‥」

 ―ガサッガサッガサッガサッガサッ

「う、うわぁあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!?」

●ドレスタット冒険者ギルドにて

「‥と、いうわけでだ。なんだか村の近くの森に、ゴブリンの集団が居座って大変らしい。急いで現地に行って退治してきてくれや」
 毎度お馴染み女性ギルド員が君に告げる。

「ゴブリン一匹一匹の実力は、今のお前さんと比べれば大した事はねえさ。‥‥ただ、『数の暴力』には気をつけな」

●今回の参加者

 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea6392 ディノ・ストラーダ(27歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9517 リオリート・オルロフ(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea9968 長里 雲水(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1380 ユスティーナ・シェイキィ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1633 フランカ・ライプニッツ(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb2419 カールス・フィッシャー(33歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 現地へ向かう道中にて。
 からりと澄み切った青空が広がる中、マクファーソン・パトリシア(ea2832)の苦悶の声が聞こえてくる。

「だ〜!! お、重い〜〜〜‥‥!!」
 彼女の体力が足りないのか、バックパックに荷物を詰め込みすぎたのか、彼女は荷物の重さで殆ど動けなかった。これではもう、どうしようもない。
「やれやれ‥仕方ないな」
 見るに耐えかね、今回のメンバーの中で一番体力のあるリオリート・オルロフ(ea9517)が彼女の荷物を持って歩く。
「リオ君、かっこいい〜! 騎士道精神にプラス5点!」
 何か意味不明なステータス値に5点加算しつつ、エルトウィン・クリストフ(ea9085)が彼の後に続く。髪が耳を隠している為に確認しづらいが、見るものが見れば、彼女が忌まわしきハーフエルフの血を引く者であるとわかっただろう。

「さて‥。なんだかんだでもう村が見えてきましたね」
 手を額にかざして遠くを見るカールス・フィッシャー(eb2419)の視線の先には、ぽつぽつと黒い点のように数軒の民家が建っている。冒険者達は歩速を少し早めると、勇み足で村へと向かった。

●本日は晴れ時々ゴブリン也
「‥ふむふむ。なんだか、巣が近いみたいだよ」
 植物から情報を引き出していたユスティーナ・シェイキィ(eb1380)は独り頷く。フランカ・ライプニッツ(eb1633)のペット、ジーゲンもその異変に気付きだしたのか、どことなく落ち着きがない。
「さあて、それじゃあ仕事にとりかかりますか‥。地味な作業は、あんまり好きじゃないんだけどねえ」
 そう言って、ディノ・ストラーダ(ea6392)は苦笑しながら早速罠の作成に取り掛かる。

「ん‥、ロープが足りないな」
「なら私のを使ってください。結構予備があるんで」
 カールスの提供を受け、更に罠を作ること数分。異変は突然にやってきた。

 ―ガサッ

「むっ!!?」
 突然揺れる茂みに、長里 雲水(ea9968)は咄嗟に身構える。だが、揺れる数は一つや二つではない。

 ―ガサッガサッ、ガサッガサッガサッガサッガサッ

 ジーゲンがけたたましく吠え出す。この時にはもう冒険者の誰もが確信していた。囲まれたのだ。
「なるほど‥土地勘があるのは向こうも同じ。巣の近くで罠を作れば、当然先に気付かれるわけ、ね」
 言いつつ、マクファーソンは印を組んで呪文詠唱の体勢に入る。それに合わせる形で武器で戦う者は各々の得物を取り出した。もう罠の効果は期待できない。
 いや、作ったところで効果があったかどうか。奴等は、既に猟師の罠を体験していたのだから。

「ガルァァア―――ッッッ!!!」
「!!」
 飛び出してきたゴブリンの一撃を、リオリートが弾き返す。その際の火花と金属音を合図として、無数のゴブリンが同時に襲い掛かってきた!

「くらいなさいっ!」
 木々を掻い潜り、フランカのローリンググラビティーがゴブリンの一集団をとらえる。
「グアッガ!!?」
「ギャアァッッッ!?」
 空中に舞い上がったゴブリンたちは意味不明な叫び声を上げつつ、そのまま落下していく。効果はてきめんで、一気に複数のゴブリンを無力化してゆく。

「そこっ‥! 動くの禁止です!!」
「!!」
 スクロールを手にしたユスティーナは念を込め、巻物に封じられた魔法を発動させる。それによって不自然に動きを止めたゴブリンをディノの矢が的確に捉える。
 畳み掛けるようにして、カールスの日本刀が振るわれ、敵を早速一匹しとめた。

「よし‥、これならっ!」
 ディノが口の端を緩ませた事からわかるように、一見して冒険者達は戦局を有利に運んでいるように見えた、が‥‥。

「ッ! こいつら‥‥!!」
 頬の傷からたれる血を拭いつつ、リオリートは苦戦していた。回避が得意でないリオリートは武器で受けて相手の攻撃を受け止めるしかない。闘技場などの一対一の戦いでならそれでも問題はないだろう。だが、これは一対一などというルールはない、生存をかけた殺し合いなのだ。
 相手は当然格上である彼に複数であたる。四方八方からの受けきれない、避けきれない波状連続攻撃で徐々にリオリートは消耗していった。

「あー、もう! 数多すぎだわ!! リオ君、倒れたらトドメ刺すからね!!?」
 何か物騒なことを言いつつ、エルトウィンの投げた石は狙いすました一撃よろしくゴブリンの眼球に命中する。
「よっし、ビンゴォ!」
 ぱちんと指を鳴らすエルトウィンの眼前で、ゴブリンは顔を抑え物凄い奇声をあげて、転げまわる。


「雑魚が群がったところで‥‥!」
 刀を構える長里の睨みに、ゴブリン達は思わずたじろく。彼の足元にはゴブリンの腕や足が何かの部品のように転がり、余計にその恐怖を盛り立てる。
(「居合い切りの具合いは上々、か。これなら使っていけ‥‥」)
 そこでふと、『ある違和感』に気付く。

 ―何故、ただのゴブリン『しか』いないんだ?


「ウッシャアアッ!!!」
「!!?」
 その答えはすぐにわかった。けたたましい奇声と同時に、マクファーソン目掛けて樹上からホブゴブリンが降ってくる!
「しまっ‥‥!!」
 ディノは弓を放り投げ、ナイフの柄に手をかける、だが、時既に遅し。

「―――ッ!!!」
 ウォーターボムの詠唱が完了すると同時に、マクファーソンの左鎖骨を砕いて錆びた斧の刃が体にくい込んだ。
「ギャンッ!?」
 敵は水球の衝撃で吹っ飛ばされるが、傷自体はほとんどかすり傷のようなもの。すぐに立ち上がると、深手を負って倒れた彼女にとどめを刺すべく駆け寄ってきた。

「やら‥せるかァァアァッッッ!!!!」
 そこへ長里が飛び込んでホブゴブリンの前に立ちはだかる。息も継げぬ動きの連続で疲労した体を強引に動かすと、必殺の一撃である夢想の居合いを繰り出す。その疾きこと、稲妻の如し。

 ―ザンッ

 小気味良い音と共に、ホブゴブリンの首が地面に転がった。

「わああああ!! マクファーソンさん、は、早くこれを飲んで!!」
 ユスティーナは血の泡を口からこぼしているマクファーソンを抱きかかえ、ヒーリングポーションを飲まそうと必死に彼女へ壷の口を押しあてる。マクファーソンは朦朧とした意識の中、ユスティーナの手助けを借りてそれを飲み干すと、なんとか一命を取り留めた。

「くっ‥! こいつら‥次から次へと!!」
「そろそろ‥引き際だな‥! これを逃しても勝つことはできるだろうが、こちらにも死人が出る!」
 舌打ちするカールスとは対照的に、リオリートは冷静に撤退を決意した。培った戦の大局を見る勘が、さっきからひっきりなしに警鐘を鳴らしているのだ。
 幸いにも、相手も消耗する事を嫌がりだして徐々に退き始めている。先ほどまでいた、集団を束ねるゴブリン戦士が背を向けて奥へ走り去っているのが良い証拠だ。

「と、いうコトでー、三十六計逃げるが勝ちってね! マクファーソン、走れる!?」
「ええ、な、なんとか‥ね。途中で傷が開かないといいけど‥‥」
 エルトウィンはマクファーソンに声を掛けつつも、こちらの殿を務める形となったリオリートとカールスをちらりと振り向く。軽く2倍を越える数のゴブリンを相手した彼らの体からは、汗が蒸気となって白いもやがたちこめている。


「さあ、グズグズはしていられません! いきますよ、ジーゲン!!」
「わふ!」
 魔力を振り絞り、フランカがローリンググラビティーを放って逃走経路に立ちはだかるゴブリンを上空に舞い上げる。空から落ちてきたゴブリンはそのまま無防備な体勢で地面に叩きつけられると、悲鳴に近い泣き声をあげながらそれぞれ逃げ出した。足を挫いて動けなくなった者には、長里とディノが念のためにととどめを刺す。

「リオ君!!」
「おお!」
 エルトウィンの合図を受け、リオリートとカールスも最後にありったけの力を込めた一撃を振り下ろしてから身を翻す。
 更に追跡の可能性を潰す為、ユスティーナのグラビティーキャノンが放たれた。見えない力で押し飛ばされたゴブリンは、後ろや横の仲間を巻き込んで転倒する。

 冒険者たちは後ろを振り返ることもせず、全力で森を駆け抜けた。後方からは何かやかましい声が聞こえるが、確認している場合ではない。

「やれやれ‥‥! そうそう上手くはいかないという事ですか!」
「‥まったくだ!」

 逃げる冒険者達を追いかける余力はゴブリン達に残っていなかった。彼らもまた、ふらついた足取りで茂みを掻き分けて森の奥へと消えていく‥‥。

●エピローグ
「いやはや、どうもありがとうございました。これでまた安心して狩りができますわい」
 村の村長とおぼしき男性が冒険者たちに恭しくお辞儀をする。あれから猟師達が森の様子を見に行ったところ、ゴブリンの気配はまったくかき消え、彼らの足跡が森のずっと奥へと続いていたのを確認したという。

「きっと、冒険者さんたちに恐れをなして逃げ出したんだべ?」
「んだなぁ。あいつらも、ここいらにいちゃあ、割りに合わねえと思ったんだがや」
 おそらくは、そうなのだろう。冒険者との激戦でたっぷりと恐怖を味わったゴブリン達は、もっと安全な場所に移動していったに違いない。

「う゛う゛〜、悔しい‥。ゴブリン達め、今度会ったらタダじゃおかないわ」
 今回、一番の痛手を負ったマクファーソンはゴブリンを殲滅できなかったことに不満たらたらだったが、感謝する村人たちの顔を見て、幾らか怒りをおさめたようではある。


 かくて、依頼は達成された。冒険者達はギルドでしかるべき報酬を受け取ることであろう。