禁じられた遊び
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■ショートシナリオ
担当:夢想代理人
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月13日〜11月20日
リプレイ公開日:2004年11月19日
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●オープニング
―――ああ、寒い! 心も体も芯まで凍りつきそうだ!
紅葉の始まった木々から射し込む光を感じ、少年はぞっとするほど青く透き通った空を見上げた。
雲一つない快晴。
「‥‥早く行こうよ、早くしないと、追いつかれてしまうよ」
手をつないでいる少女の言葉で、少年の意識はすぐに地面に引き戻される。
生返事を一つ二つして、彼は少女の手を握りなおし、再びその歩みを早めた。
―――ああ、そうだね。僕達はいつでも一緒だ。もう離れたくない。大人には見捨てられたけど、僕らはずっと一緒だよ。
●冒険者ギルドにて
「うー、さびっ!」
毎度お馴染みの胡散臭いギルド員の男が小さくクシャミをする。勤務中にもかかわらず、彼はちびちびとワイン(なんと新しいもの!)を飲んでいた。無論、ギルドマスターには内緒で。
と、そこへ依頼人の気配。彼は素早くボトルとコップを隠し、いつもどおりのニヤニヤ笑いで対応を始める。
「ようこそ、お嬢さん。冒険者ギルドへ。俺達はアンタを歓迎する」
「え‥‥? あ‥、はい‥‥。どうも‥‥」
身なりからしてクレリックの女性のようだ。年は20代。宗派は‥‥ジーザス教の黒派だろうか?
胸に着けた『黒薔薇のコサージュ』が特徴的である。
「ふーむ、お困りのようですな、ご用件は?」
「‥‥あ、はい。人探しを‥‥子供二人を、探すのを手伝っていただきたいのですが‥‥」
「ふむふむ、それで‥‥」
―――詳細をギルド員が尋ねると、どうやらこういう事らしい。
依頼人の彼女は、とある孤児院に勤めているシスター。
神に仕える職務をこなす傍ら、子供達の里親探しも積極的に行っているという忙しい日々を送っているようだ。
それで、つい先日、女の子一人を養子にしたいという里親が見つかって万々歳だったのだが、事はそううまくいかなかった。
里親に出される女の子がそれを拒否したのである。それどころか、仲の良い男の子と一緒に孤児院を飛び出して失踪してしまったというではないか。
「おおう、駆け落ちですかい‥‥。最近のガキはマセてんなー‥‥」
依頼書を作成しながらギルド員の男がヒュゥ、と口笛を吹く。
「ええ、まあ、その、何といいますか‥‥‥。ともかく、それで二人の足取りを必死に追ったのですが‥‥。どうやら孤児院の近くの、頂上に遺跡があると言う山に向かったようなのです‥‥」
「山の上の‥‥遺跡、ね‥‥。ヤバイですな。そこら辺はモンスターやら賊やらの噂を聞く所ですぜぃ」
男の言葉を聞いてシスターの顔がさっと青ざめる。本当に心の底から子供達の事を心配しているようだ。
「お願いします! なんとか‥‥なんとかあの子達を連れ戻してください!!」
●リプレイ本文
「あちゃ、こらアカンわ‥‥」
蓁 美鳳(ea7980)が自分の荷物袋を覗き込みながら呟く。保存食が3日分不足していた。冒険者ギルドに対するよしなし事に気取られすぎたのだろうか?
「大丈夫さ。はい、予備の食糧。持ってきて正解だったかな?」
「んあ、おおきにっ」
相麻 了(ea7815)が余計に持ってきていた食糧で問題は解決したようだ。
「青春を謳歌するのは良いことだけど‥‥なんて冗談も言ってられないね。さあ、急ごう」
アカベラス・シャルト(ea6572)からノーマルソードを受け取ったエスウェドゥ・エルムシィーカー(ea7794)が冗談交じりに苦笑する。
「‥‥まぁ気持ちはわからないでもないけどね。それでも、危険だからまずは保護しないと!」
「それと、子供達の気持ちを聞くのも忘れずにね?」
子供達に同情的なアーティレニア・ドーマン(ea8370)の言葉に龍 麗蘭(ea4441)が続く。皆、見ず知らずの子供達の為に動ける良い人間(とエルフとシフール)のようだ。
「それでは、打ち合わせ通りにな‥‥」
そう言ってカイザ・ヨヌア(ea8399)は自分の馬にまたがり、アニマ・フロイス(ea7968)と共に孤児院の方へと行き急いだ。
「はてさて‥‥それでは、行きましょうか?」
先発したカイザ、アニマに合流したアカベラスらは子供達が入っていったという山の入り口に差し掛かっていた。
「ふむ‥‥」
カイザは山の地図を片手に困惑した。孤児院の辺りに測量、製図技術を持った人間はいなかったのだ。素人から得た情報を元に作成した地図は何とも頼りない。
「よし、ここは俺の猟師の技術で‥‥!」
相麻が意気込んで地面に顔を近づけ、子供達の足跡を探す、が‥‥。
「‥‥どう?」
おずおずとエスウェドゥが尋ねる。
「‥‥まあ、これは俺の専門じゃないしね」
相麻は木に寄りかかってあさっての方を見る。失敗のようだ。
「まあ、とにかく奥に進みましょう。野宿の跡くらいはみつかると思いますよ‥‥?」
アカベラスの言葉に、横でアーティレニア、カイザも頷く。同じ考えという事か。
「「‥‥それ採用」」
相麻とエスウェドゥが同時に言う。かくて、冒険者たちは山を探索し、頂上の砦へと近づいてゆく‥‥。
●Under the half moon
―――何でこんな事になったのだろう。
半月の光が差し込む石造りの部屋の中、少年は後ろに縛られた両手で背を掻いた。彼の目の前では何人かの男達が焚き火を囲んで下品な笑い声と共に何かを喋っている。
「‥‥ねぐらに帰ってみたらガキが二人いたなんて、俺たちツイてるな? 小銭を稼ぐにゃあ丁度いいぜ」
「ああ、黒薔薇の旦那もさぞ喜ぶだろうよ。まぁ、オレたちは金さえもらえりゃあ、ヤツの事なんてどうでもいいがね‥‥」
「‥‥ちげえねえや!」
男達がゲラゲラと笑い出す。少年の横にいる少女は恐怖で顔をこわばらせていた。
「‥‥まあ、だがアレだ。売りに出す前に味見しとくのも悪くねえだろ?」
男の一人が振り返り、少女の方に視線を移す‥‥。そしてわざとらしくふらふらと近づくと、彼女を押し倒して強引に服を破いた。
よほど恐ろしいのか、少女は悲鳴すらあげられない。
―――やめろ!!!
少年が男に飛び掛る。が、そのまま首根っこをつかまれると、力技で床に叩きつけられた。
「‥‥もっと気の利いたリアクションはできねぇのかよ、ガキ? つまらねえぜ、お前」
立ち上がろうとしたところで、男に背を足で踏み潰される。
「ケンカが強いわけでもなし、金を持っているわけでもなし、おまけに頭がいいわけでもないときたもんだ‥‥」
必死にもがいて相手の足を振りほどこうとするがかなわない。悔しい、悔しい、悔しい、涙が止まらない。
「ど う り で 見 捨 て る わ け だ 、 お 前 の 親 も」
刹那、『何か』の影が男の視界を掠める。振り向いた次の瞬間には凄まじい衝撃が男に襲い掛かってきた。
「我が一撃は龍虎の一撃!!」
オーラを纏った麗蘭の一撃が炸裂する。金属拳が振り向いた男の顔面にめりこみ、そのまま鼻っ柱を叩き潰す。
「っ!?」
伏線ゼロのひどく唐突な出現。それが、少年の抱いた冒険者達に対する第一印象となった。
「大丈夫か‥‥ッ!?」
カイザが倒れたまま硬直した少女に駆け寄り、優しく抱き上げる。酷く震えてはいるが、外傷はないようだ。カイザの言葉に小さく頷く。
「カイザさん、後ろや!!」
アーティレニアを援護していた蓁の一声。カイザに盗賊が襲い掛かる。
「私は神の騎士だ‥‥。神の加護ある子供らを、騎士は決して見放なさない‥‥!」
エンペラン流絶技、ガードがその一撃を無力化する。盗賊の一撃はほんのかすり傷にしかならなかった。怯んだ盗賊をアーティレニアが斬り伏せる。
「クソッ、何だよテメェらは!? 同業者かっ!!?」
「違う! 野獣戦隊だ!!」
「いや、それは相麻さんだけですよ!!?」
盗賊と斬り合う相麻の言葉にアニマがすかさずフォローをいれる。
「僕の太刀筋、見切れると思わないでよ!」
エスウェドゥがブラインドアタックで相手の肉を切り裂き、更に相麻が追い討ちをかける。そして満を持してのアカベラスのアイスブリザードが盗賊らを吹き飛ばすと、彼らは形勢不利とふんで一目散に逃げ出したのであった。
「よっしゃ、相手が戻ってくる前にさっさとトンズラや! 今回は退治やあらへんもんな?」
蓁の言葉に一同が頷く。冒険者達は子供を無事に保護し、下山を開始する事にした‥‥。
●禁じられなかった再会
冒険者達は、無事に子供を孤児院まで送り届けた。だが、まだやるべき事が残っている、それは‥‥。
「確かに、離れ離れになるのは辛いと思う‥‥でも、それっきりで終わり、じゃないんじゃないかな? 会う為の方法なんていくらでもあると思うよ?」
麗蘭が身をかがめ、少年と少女、二人と同じ目線で優しく語り掛ける。二人は目を伏せたまま、手を固く繋いでいる。
「そそ、それにいつまでも逃げてるわけにもいかんやろ? いつかは決着をつけなアカンのや」
「で、でも‥‥二人の絆は本物だよ。あたし絶対に離れ離れにしたくないな‥‥」
蓁の言葉にアーティレニアが反論する。アーティレニアはいっそのこと子供らの里親になってしまおうかとも考えたが、そこはそれ。社会的身分が不十分であるとシスターにそれとなく断られてしまった。
人の親になるという事は、生半可な事ではない。少なくとも、この孤児院の里親の審査はかなり厳粛であった。何ヶ月にも渡る里親希望者の身辺調査の後、安定した収入と社会的地位がなければ子供を引き取ることはできない。
「‥‥君達が正しいのか、大人たちが正しいのか、僕には判らない。
だけど、一つだけ言っておきたいな。‥‥生きることを、甘く見ちゃ駄目だ。それは今回で嫌という程わかったろう?」
スウェドゥの言葉に少年は口をつぐんで頷く。だが、頷くだけ。納得はしていないという目つき。
「ふむ、このままでは埒があかんな‥‥」
小さくため息をついたカイザの言うとおりであった。
里親、シスター、少年と少女、そして冒険者らを含めた話し合いは夜遅くまで延々と続いた。真剣になるあまり、時には一触即発の雰囲気になったこともあったが、なんとか話し合いは一つの妥協へとたどり着いた、それは‥‥。
それは、『聖夜祭の時にだけ、二人が孤児院で会えるように』というものだった。
二人同時に引き取って欲しいという意見もあったが、これは養育費うんぬんの問題で実現ができないと却下されてしまった。
かくて、少女は従来通り里親の元へ行く事になった。
朝の光が降り注ぐ孤児院の玄関の前で、少年と少女が暫しの別れを惜しんでいる。
「‥‥聖夜祭は、もうすぐ。‥‥ちょっとのガマンだよね?」
―――うん、そうだね。楽しみにしているよ。
「‥‥またね」
少女の唇が優しく少年の頬に触れる。一陣の風が吹いた。
「それでは、これで‥‥。聖夜祭の時には、この子の護衛の依頼を出すかもしれません。その時は皆さん、どうかよろしくお願いします」
かの里親はそう言い、冒険者達に軽く会釈をして馬車に乗り込んだ。少女もそれに続き、馬車の中へと吸い込まれる。御者がひゅぅっとムチを鳴らすと、馬車はきしんだ音をたててゆっくりと動き出した。
それを見送るシスターと少年、そして冒険者達。
「何時か彼女を迎えに行けるように‥‥立派になりなさい」
アカベラスがそっと少年の肩を叩く。少年は振り向くと、力強く頷いた。
●???
「‥‥で、どうだったん?」
冒険者ギルドのある一室、蓁がかの胡散臭いギルド員の男に尋ねる。
「『黒薔薇の人形』‥‥だろ? わかったぜ。3人の情報屋に調べさせて、2人行方不明になっちまったがね」
そう言って男は語りだした。
「どうもな、人身売買の市場の方で幅を利かせている連中がいるらしい。そいつらが黒薔薇の刺繍が入った腕章やら何やらを身につけているんだとさ」
「何モンなん、そいつら?」
「さあな‥‥。とにかく、ヤバイ連中である事は確かだ、迂闊にこっちも動けん‥‥」
「で、『人形』の方は‥‥?」
「悪い、意味不明だ。目下調査チュー。それと、今回の依頼人と孤児院については、特に怪しい点はないらしいぜ‥‥」
「ふーん‥‥まあ、ええわ。あんがと。3人の情報屋さんにもよろしゅうな」
「あー、わかったわかった。1人には確実に伝える。残り二人は生きていたら伝えるよ」