●リプレイ本文
橙色の太陽が地平線に沈みかかる時刻。
粉塵をまきあげてアークフォン領内を2台の馬車が駆け抜ける。
「デビルと戦って翌日帰路に着けって‥‥。誰が考えたのか知らないけど、えげつない日程よねぇ‥‥」
馬車の荷台から外の風景を眺めつつ、エルトウィン・クリストフ(ea9085)がはぁ、とため息をつく。
隣に座っていたリオリート・オルロフ(ea9517)は、その言葉をたしなめるように軽くヒジで彼女を小突く。
「‥まあ、何とかなるじゃろう。それよりも、今は帰路の事よりも、デビルと戦って勝つ事を考えねばなるまいて」
己の大斧の刃の手入れをしつつ、ギム・ガジェット(ea8602)が苦笑する。
「ええ、その通りだと思います。守り抜く盾として、このアークフォン領‥‥いえ、ドレスタッドを守り抜いてみせます」
「おっほっほ! まあそのようにカタくならなくとも、よろしいのではなくて? デビルとて、倒せぬ敵ではなくってよ」
セイロム・デイバック(ea5564)の後に間髪いれずアミィ・エル(ea6592)の高笑いが響く。マルーやルネが苦笑しているが、そんな事は知ったことではないようだ。
「と、とにかく、遺跡までもう少しです‥‥。皆さん、頑張りま‥‥きゃあっ!!?」
ルネが言いかけたところで、馬車が大きく揺れる。
木の幹にでも引っ掛かったというのか? 否。同時に馬の悲鳴が森にこだましている!
「どうした!!?」
ルクミニ・デューク(ea8889)が身を乗り出し、御者らに尋ねる。
答えは言葉よりも早く返ってきた。馬に突き刺さった一本の矢。その光景が彼女の目に飛び込んできたのだ。
「こんな事をする奴は‥‥! 『あいつ』しかいないな!!」
揺れる馬車の中、重心の移動でバランスをとりつつアルバート・オズボーン(eb2284)が中腰になる。
敵の姿は見えない。
「遺跡まではあと少しです! このまま馬車から降りて駆け抜けましょう!!」
ファル・ディア(ea7935)の言葉に一同は頷き、次々と馬車から飛び降りる。
そして今度は木に突き刺さる矢。このまま馬鹿正直に森を歩いていては、いい的にしかならない。
かの門番を足止めしないことには、これから先の遺跡にたどり着けない事は明確であった。
「やってやろうじゃん。あいつは俺が倒すよ」
相麻 了(ea7815)は忍者刀を抜き放ち、森の奥を睨む。
「ん、私もいきます」
勇む相麻を引きとめ、シルビア・アークライト(eb3559)もショートボウを握り締めて前に出る。
「私も彼女の相手をしましょう。‥‥これ以上、この領内で暴れまわらせるわけにはいきません」
「ルネ‥‥!?」
そして最後に名乗りを上げたのが、かの踊る人形姫、ルネ・アークフォンだ。相麻もシルビアも面食らって驚いたが、これ以上のんびりしているわけにはいかない。
「‥‥おっけい、ルネちゃん。しっかりついて来てよ!?」
「はい‥!」
「ちょっと、私もいるんですからね!!?」
「さあて。では森の射手は彼らにまかせて、わたくし達は先を急ぎましょう」
アミィの言葉に一同は頷いた。
●破滅の魔法陣
走ること数分。一同はとうとう環状列石の遺跡へと到着した。
夕日の中に佇む、いびな石のオブジェ群は何か不吉な予感を漂わせつつも、静かにそこらに鎮座していた。
「‥‥! ここにもか!」
リオリートが思わず舌打ちする。入り口の傍には複数の人影。
この時刻、この状況。考えられるのは一つだけ。
奴等は敵だ!
「上等!!」
マルーが愛用のショートソードを腰から抜く。その鞘走りの音を合図に、その場にいた全員が戦闘態勢に入った。
音もない不気味な走法で迫りくる敵。ファルの呪文が大気を揺らす。
「母なるセーラの加護があらん事を‥‥『グットラック』!!」
白く淡い光が走った後、ファルの手は次々と触れたものに祝福を与えていく。
武器を振りかぶる敵。されど。
「リオ君、やっちゃえ――――ッッ!!」
「ッォォオオオオオ――――ッッッ!!!」
巨躯の戦士相手には無謀な挑戦であった。
逆にリオリートの2mを越える打点から鉄の塊が振り落とされる。聖なるメイスは相手の戦士の細身の剣を叩き割り、そのまま敵と大地をキスさせた。
「悪いな‥! ここで立ち止まるわけにはいかないんだよ!!」
「然り‥!」
敵の刃を受け流し、アルバートの刀が相手のわき腹をつく。よろめいたところへギムの追撃。
コナン流絶技、スマッシュによる相手の鎖骨を砕いた感触が手に伝わってくる。
「特に因縁のある相手がいるわけではないが‥‥。この雑魚どもの掃除は、しっかりやらせてもらおうかのぅ!」
煌く刃が頬を掠め、耳を切る。しかし問題はなし。
お返しとばかりに相手の横ッ腹に大斧を叩き込み、膝蹴りをお見舞いする。
「ラシェル! ふらふらしないッ!!」
「は、はいぃぃ!!」
背にラシェルを庇いつつ、ルクミニの剣閃が変幻自在の弧を描く。
ほどよい『しなり』を持つレイピアは上下左右に刃先を揺らし、手首を数cm動かすだけで相手の攻撃を面白いようにさばいてゆく。
「こっちも急いでいるんだ‥! 邪魔だよ!!」
ズッ、と敵の喉に刃がめり込む。最小の傷による、最大のダメージ。
バラサの妙技は一朝一夕で身につくものでなし。相手はわけもわからぬまま、傷を抑えてうずくまる。
「‥‥ひゃぁぁ!!?」
「‥!? ラシェル‥!!」
一息をつく間もなく、後方からラシェルの悲鳴が響く。
まだ敵が潜んでいたのか、切りつけられたラシェルの白い肌から血がしたたる。
「ラシェ‥‥!!」
ルクミニと同じく、その光景に気がついたマルーの声が響く。ダメだ、距離が遠すぎる。
敵を止められない。刃が振り落とされ‥‥。
「させは‥‥しなぁいッッ!!!!」
大地をすくい上げるような一陣の風。聖剣アルマスが夕暮れの光を反射する。
「‥‥‥!???」
ぼろきれのように突き飛ばされる敵。舞い上がる埃。
守り抜く盾、セイロムが威風堂々と剣を握り直す。
「オーラを練るのに少々時間がかかりました、すみません‥‥」
「ふぇぇぇ、遅いよぉ‥‥」
傷を押さえて泣き出すラシェルに駆け寄るファル。幸いにも傷は浅い。これならすぐにリカバーで治せるだろう。
「水を差すようで悪いんだが、まだ安心はできないぞ‥‥!!」
アルバートが刀を抜いたまま、一同に駆け寄る。ふと周りを見れば。
「ポーション‥‥。また随分と大盤振る舞いですこと!」
アミィが思わず顔をしかめる。
倒したはずの敵は何事もなかったかのように立ち上がり、また武器を構えているではないか!
「も〜! 早く行かないと、魔法陣が発動しちゃうじゃない〜!!」
エルトウィンの焦りは他の者も同じことだった。このままでは夜を迎えてしまう。
この状況を打破する方法は一つしかない。
「もう一回、今度は完膚なきまでに叩き潰す!!」
リオリートを先陣に、冒険者達とかの人形たちは再び激突する。
●静かなる激闘
「はっ‥はあっ‥はっ‥‥。ド〜ミニクちゃ〜ん! 今すぐ改心したら、第二夫人にしてやってもいいんだよぉ〜!?」
重い体、上下する肩。空になったポーションの瓶。
そんな消耗した状態から空元気を振り絞った、相麻の調子外れな声が森にこだまする。
「‥うぉっ!? ‥なんだよ、矢で返事しなくてもいいのに!」
「静かに‥! こっちの位置がばれちゃうでしょう‥‥!!」
ぐわっ、とシルビアの剣幕が相麻を威圧する。彼女の消耗もまた、激しい。
いつ攻撃されるかもわからぬ状況の中、索敵を行うのは神経を石臼にかけるようなものだ。
胃を突き刺すような静寂、チリチリとする首筋。緊張の連続で渇く喉。
相手も同じく辛いだろうが、なかなかどうしてボロを出さない。
「このままでは‥‥ジリ貧ですね」
辛そうな表情で、ルネが口を開く。確かに、このままでは埒があかない。
「‥‥相手の位置を掴む方法が、あるにはあるけど」
ためらいがちに相麻が呟く。
「え‥‥、どんな方法ですか?」
驚くシルビアに、耳打ちする相麻。
「‥無茶です! そんな‥‥!!」
「やるしかないだろ? これ以上、あいつに時間を割いていたら、みんなの援護にいけない」
「‥‥シルビアさん、大丈夫です。やりましょう」
強い決意を秘めた瞳でシルビアを見つめる2人。シルビアはしばらく口をもごもごと動かしていたが、大きくため息をつくと、こくりと頷いた。
(「さあ‥‥。どこだ、冒険者ども?」)
木々を渡り歩くもの、ドミニクは矢をつがえて静かに静かに冒険者の影を探す。
目を凝らし、耳を澄まし、神経を鋭利な刃物の如くとがらせていく。
(「‥ん?」)
ドミニクの視線が一点に止まる。その先には森を突き進む相麻の姿が。
「出て来〜い! ドミニク! 漆黒の獅子に恐れをなしたか!!?」
(「道化め‥‥」)
口の端でニヤリと笑いつつ、弓を引き絞る。何を考えているのか知らないが、狙撃手相手にあのような愚行に出るとは、ただ失笑する他ない。
「‥いでぇっ!!?」
(「左肩に命中。膝をついているが、致命傷ではない」)
場所を移しもう一発。そう考えてドミニクが腰を浮かせたその時。
「相麻さん!!」
茂みからルネが立ち上がった。
(「何と愚かな」)
再び腰を落とし、ドミニクは素早く2射目の態勢に入る。矢に絶殺の意を乗せ、急所を狙う。
「ッ!!!!」
(「胸部に命中。されど貫通はせず。場所を移しトドメを刺‥‥」)
瞬間、ドミニクの視界がブレた。
「‥‥な‥‥に?」
飛んできた方向を振り向こうと‥‥できない。首に矢が刺さっているから。
眼球のみを動かして左方を凝視する。木の枝の葉のその奥の先。
そこに、彼女はいた。
「‥あなたのミスです。獲物に気をとられ、2射目の前に場所を移さなかったあなたのミスです」
声は届かない事を承知で、矢を撃った姿勢のまま、シルビアは口を開く。
(「‥囮。初歩的で‥‥‥な‥‥を」)
ぐらりとバランスを崩し、樹上から落下していくドミニク。木々の先から宵の明星が見える。
「迂闊でしたね。やはりあなたも人の子。あなたの疲労が、私たちの勝利を呼んだ」
(「くそ‥。‥しく‥‥じった‥か」)
狂える星は、かくて冒険者達の手により地に落とされた。
「ルネ‥‥!!」
駆け寄り、傷ついたルネを抱き上げる。
「や、やりましたね‥‥。相‥さん」
「喋ったらダメだ! 出血が酷くなる!!」
木から降りてきたシルビアも2人に合流し、失礼、と一言添えてルネの懐を探る。
彼女の持っていたポーションの瓶を手に取ると、素早くルネの口にそれをつけた。
「‥‥‥」
矢の傷跡がみるみるうちに塞がっていく。
「さあ、これでもう大丈夫ですね。早く私たちも援護にいきましょう!」
「ああ、ルネちゃんに負わせた傷のおとしまえ、キッチリとあいつ等にも払わせてやるぜ!!」
シルビア、相麻の2人が立ち上がる。これで門番の1人は倒した。急いで本隊に合流せねば。
●焔の使者
地上の喧騒が静かになった事に気がつくと、ミドウはつ、と目を細めた。
「‥上が静かになったわね」
「かまうものか、ここまでくれば儀式はあと少しだ」
魔法陣がぼんやりと赤い光を放つ中、『焔の使者』はにたりと笑う。子供を1人2人と生贄に捧げ、着々と発動へむけてその手順を進めていた。
「‥‥様子を見てくるわ。冒険者だったら、相手をしてやらないと」
ミドウは悪魔の返事を待たずして、階段へと歩き出す。
「‥! 奴よ、この下の方で待ち構えてますわ!」
階段下を透視していたアミィが立ち止まる。
「‥。私と、アルバートさんが盾となって一気に突き進みます。ついて来てください」
「こげ死なない事を祈るばかりだな‥‥!」
セイロムはオーラシールドを、アルバートは両手でミドルシールドをがっちりと持ち、体をなるたけ盾の中へと隠す。
「‥先に渡しておく」
「う、うん。リオ君も頑張ってね‥‥!」
シルバーダガーをエルトウィンに渡し、リオリートもマントで己の肌を隠す。かの魔術師の一撃に対するせめてもの鎧だ。
「心を強く持ってください‥! 魔法に上手く抵抗できれば、負傷も少なくてすむはずです‥‥!」
「じょ、冗談ではありませんわ‥‥まったく。まさかこんな展開になるなんて」
皆を励ますファルとは対照的にぶちぶちと文句をこぼすアミィ。しかし覚悟は既に完了しているらしく。いつでも駆け出せる状態のようだ。
「それじゃあ、突っ込むとするのかの‥‥。どれ、イチ、ニの‥‥‥」
「「‥‥3!!!」」
瞬間、冒険者達が階段を駆け下りる。
ミドウは足音の異常性に気がつき、すぐさま火球を冒険者達へ打ち込む!
「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
閃光、爆音。膨大な熱量。だが勢いづいた彼らは止まらない。
焦げた匂いも遥か、破城槌となった冒険者達は足取りの遅き魔術師に突貫する。
「なっああああがぁぁぁぁぁッッッッ!!?」
今までに体験した事のない衝撃をその肉体に叩き込まれ、ミドウは足をとられて螺旋階段を転がり落ちる。
冒険者達もそのまま止まることなど当然できるはずもなく、一同は、そのまま怒涛の勢いで魔法陣の間へと進軍した。
先ほど突き飛ばしたミドウはぐったりと動かない。気絶したか、あるいは既に‥‥。
「‥見て、あれ!!」
エルトウィンが指差す先には、7、8人の子供達。それと‥‥。
「‥ッ。むごいことを!!」
かつて子供達で『あった』なれの果て。既に絶命した者の姿に、アミィは思わず憤る。
「‥!! デビルがいない、気をつけるんだッ!」
ルクミニの声に、一瞬緩んだ冒険者達の精神が急速に引き締まる。
どこを見渡せど、悪魔の姿は見えない。
「‥そこですわ!!」
アミィが油の瓶を放り投げる。セイロムから借り受けた染料入りの特別性だ。
「イデッ!? ‥この女ぁ!!」
何もないはずの空中で瓶ははじけ、そこから声が発せられる。
闇雲にオーラシールドを突き出したセイロムの腕に、にぶい衝撃が走る。
「らぁぁ!! 見て見ぬフリして関わらなけりゃあいいものをォ‥‥!!」
闇から悪魔がにじみ出てくる。翼を広げ、宙にはばたくその禍々しき姿。
紛れもなき地獄の死者。ネルガルの姿が現れる。
「去れ! 我らの仇敵、地獄の密偵ネルガルよ!! 偉大なる我らの主が、貴様を怒りの業火で焼き尽くす前に! 我らがおまえを打ち倒す前に! 己の住処である地獄に帰るがいい!!」
「ぬかせ人間! 貴様らが神の名を語るなど、片腹痛いわ!!」
次いで『焔の使者』は何かの呪文を唱える。詠唱は一瞬で完了し、彼をシャボン玉の様な膜が包み込んだ。
膜の表面からは漆黒の炎が燃え盛り、悪魔の邪悪さをより一層強調する。
「‥あれは!?」
「下がるんだ、ファル! あいつは私たちで‥‥ぶちのめす!!」
シルバーダガーに武器を持ち替えたルクミニが悪魔に駆け寄る。空を跳ぶ悪魔を地上に引きずりおろさんと間合いを詰めきった、まさにその時だ。
「ッ!!?」
黒い炎が敵意を持って牙をむく。突然の高熱にルクミニは思わず後方に飛びのいた。
「‥なんじゃ、あの膜は!?」
「ホーリーフィールドに似た呪文ですが‥。性質が違う! デビルの結界というわけですか‥‥!!」
目を丸くするギムに、ファルが歯を食いしばりながら答える。
幸いにも想定した呪文は使ってこないようだが、接近しないと殴れない冒険者達にとっては実に嫌な結界だ。
「リオ君、私達は子供たちを保護しないと!!」
「ああ‥!!」
駆け出すエルトウィンにリオリートが続く。が。
「シャ、ハ!!!」
身を翻したデビルの素早い一撃が飛んでくる。
「‥‥ッ!!」
爪の攻撃をメイスで叩き落し、すかさず反撃する。
「チッ‥‥。虫みたいにウジャウジャとぉ‥‥!!」
「虫はお前だ‥‥。世界に救う悪い虫。この武器で倒すには、ふさわしい相手だ‥‥!」
結界の痛みに表情がこわばるが、思ったほどの痛みではない。
螺旋階段でのダメージも残っているが、それを気にしている余裕もなかった。
「やあぁぁぁぁぁッッッ!!」
「ええい! 放せこの女ぁぁぁ!!!」
冒険者と悪魔の一進一退の攻防が続く。背にしがみついたルクミニが、悪魔の翼に深々と銀のダガーを突き立てる。
だが、刃が浅い。
「シャアアッ!!」
「ぐぁっ!!?」
宙で振り落とされ、そこへ爪の一撃を叩き込まれる。床に打ちつけられた彼女にファルが駆け寄り、すかさず治療を施す。
「味な真似を‥‥! これ以上させ‥グァアアアアァァァァァッ!!!?」
魔法陣の間に悪魔の悲鳴が響く。羽の一枚を根元から断たれたのだ。
「流石は魔法の武器‥効果はてきめんですね」
セイロムが握るは聖剣アルマス。悪魔殺しの能力を持つ褐色の剣。
ネルガルにとって、それはまさに『天敵』とも呼べる武器。
「い、イデ‥‥イデデデ!? ち、畜生‥‥アルマス‥アルマス! 厄介なものを‥‥!! ‥!!?」
言葉の途中で、悪魔は己の肉体の異変に気がつく。
『重い』のだ。己の体が。空をも飛べる己の肉体が、ぎこちないのだ。
「タリスマンの結界‥‥間に合ったか」
アルバートが不敵な笑みをこぼす。それは悪魔に取り付けられる聖なる足かせ。
「ナ、ぁ‥‥‥ぁぁあ‥‥‥」
「おほほ、残念でしたわね、デビルさん。あなたの目論見も、これでおしまいですわね?」
「この‥‥おまえ‥‥おまえらがぁぁあぁァアアアアッッッッ!!」
最後の悪あがきをみせる悪魔。だがどう頑張ってもこの戦局は覆らない。
「これで‥‥終わりですッ!!!」
セイロム渾身の一撃が、悪魔を貫いた。
●エピローグ
「ふぅ‥‥。こんだけ削れば十分でしょ」
額の汗を拭い、マルーが面を上げる。
「でしょうね。ここから魔法陣を復元することは不可能なはずです。お疲れ様でした」
皆の治療を終えたファルが微笑む。
「よしよし‥。もう怖い人はいないから、安心して、ね?」
救出に成功した子供たちを優しく抱き寄せ、エルトウィンは頭を撫でてやった。
泣きじゃくる子供達は恐怖で震えが未だに止まらないが、彼女のぬくもりは幾ばくかの安心を与えたようではある。
(「この子達は‥‥さて、一体どうなるのかしら?」)
と、考えていたアミィは、ふいにニヤリと笑う。この子達を幸福にするための嘘でも思いついたのか、なかなか気になるところだ。
「‥‥‥」
一方、生き残った子供達と接する面々とは対照的に、リオリートはうち捨てられた遺体を丁寧に布にくるんでいく。
もう少し、もう少し早ければ或いは。そのような考えが後をよぎる。
「犠牲者は出たが、実際わしらは上手くやったと思うぞ。何せあの破滅の魔法陣を破壊したのじゃからな」
そんな彼の心境を察してか、ギムが作業を手伝いつつそう述べる。リオリートはああ、と短く返事をした後、再び黙々と作業を続けた。
「‥‥結局、こいつの目的は何だったんだろうな?」
ミドウの亡骸を眺めつつ、アルバートが疑問を口にする。横にいたルクミニは肩をすくめるだけで、何も答えない。
それは答えを知らない、という意味と同時に、どうせロクな目的でなかったのだろう、という事も含んでいるかのような仕草であった。
地上へと冒険者たちが戻ってきたその時、森の方から見慣れた姿の者達があらわれる。
「おーい‥‥!!」
「3人とも‥無事だったんですね!」
手を振る相麻らの姿を見つけ、セイロムはほっと肩をなでおろす。
「その様子だと‥そっちも無事に終わったようですね」
シルビアもセイロムらの無事を確認し、安堵の息を漏らした。
そう、つまりはそういう事。
冒険者達は無事に依頼を完遂し、この地方の危機を未然に防いだのだ。
「うーん、惜しかった。もう少し早くドミニクの奴をやっつけていれば、俺の武勇伝がもう1つ増えたのにな〜」
腕を組み、わざとらしく相麻が悔しがってみせる。それを見てはてなと思うラシェル。
「マルー、武勇伝って何?」
「ナンパの時にかますはったりみたいなモンよ」
「うっ‥‥け、結構的を射ている」
ふふっ、と思わず笑みをこぼすルネ。その笑みは次々に伝播し、皆が依頼達成の安堵と歓喜に思わず笑いあう。
アークフォン領の民間伝承として、この13人の英雄の活躍が語られるのはそう遠い未来ではないだろう‥‥。