狂える森のセレナーデ

■ショートシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 85 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月20日〜10月26日

リプレイ公開日:2004年10月23日

●オープニング

「よぉ、兄弟。景気はどうよ?」
 オレンジ色のアルコホォルランプの下、ギルド員の男が君に馴れ馴れしく話しかける。

「よろこべ、またしても素敵な依頼がはいってきたぞ。お前、ツイてるなぁ。今度のミサで、ジーザス様にでも感謝しとけよ?」
 やかましくさえずるギルド員の話をかいつまむと、どうやらこういう事らしい。

 依頼人はとある老婦人。依頼主の都合上、名前は伏せてられている。
 彼女には一人娘がいるそうだ。まだ売り出し中の吟遊詩人だが、一応生計は立てられているらしい。

「で、な。肝心の依頼内容はだな‥‥」

 その吟遊詩人の娘、どうやら最近夜な夜な家を抜け出しては近くの森へと消えていくとか。
 ある晩、気になった老婦人が彼女の後を密かにつけてゆくと‥‥。

 彼女はサバト、忌むべき暗黒の祭に参加していたのだ。

「老婦人の依頼はだなぁ、彼女をその祭から連れ戻して来て欲しいそうだ。当然、他の参加者やらモンスターやらをぶち殺してだな‥‥」

 老婦人の報告によると、娘以外の参加者は以下の通り。
 魔女が1名。ゴブリンが3〜5匹。そして、武装したホブゴブリンが1匹。


 言い終わったところで、ギルド員の男が一息つく。が、腑に落ちない部分があるのか、なおも言葉を続ける。

「‥‥だがなぁ。どうかねえ? 依頼人からの話を聞いた限りじゃあ、この娘ッコとやらは自分からサバトに出てるんだろ? 素直に連れ戻されるか‥‥、フツー?」

●今回の参加者

 ea3131 エグム・マキナ(33歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4263 ホメロス・フレキ(34歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4939 ユージィン・ヴァルクロイツ(35歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea7693 マルス・ティン(41歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea7713 テレサ・レイズライン(63歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●序曲
 星々が瞬くような宵闇の頃。月光が森に差し込む。森の中ではいと罪深き祭典の真っ最中といったところか、炎を囲むように参加者達は群れ集い、大地には何かの魔方陣が描かれている。

(「どうして好んで、さらなる悪夢を呼びたがるかね。理解できないな‥‥」)
 一体どうした事か、神聖騎士ユージィン・ヴァルクロイツ(ea4939)がその祭典の席に同席しているではないか。それも今回救出する予定の娘と共に‥‥。
 怯える娘に、己の解放を悪魔に望むユージィンはニコリとした笑顔で応える。余計な事をすれば殺すぞ、無言の威圧がそこにあった。


「さあ、生贄だ! いとやんごとなき悪魔の公爵殿の為に! 生贄を捧げるんだ!!」
 二人のやり取りを遮るように、リーダーとおぼしき魔女が声を上げる。魔女の声に反応し、ゴブリンらと他の参加者たちが歓声をあげる。

「‥‥生贄? 生贄だって?」
 ユージィンがボソリと呟く。困った事に、彼の予想は的中してしまった。

「ゼクリーヌ! お前が生贄だ! 我等の高貴なる儀式に、どこの馬の骨とも知れぬ者を連れてきたその罪を、生贄となって贖うがいい!!」
 ユージィンの隣に座る、今回救出する予定の娘が魔女に指をさされる。彼女は理解できないといったふうに目を見開いた後、すぐに己の危機を悟って後ずさりした。

「そしてお前もだ! 人間二人もの心臓を捧げれば、悪魔殿もさぞお喜びになるだろう!!」
 儀式で興奮している魔女は続けてユージィンも指名する。

「おっと、これは‥‥」
 サバトなど秘密裏の儀式は非常に保守的だ。新しい仲間、特に素性の知れない者の参加を非常に嫌がる。神聖騎士として立場を隠さざるを得ないユージィンは参加した時点で怪しまれていたのだ。

 ゴブリン達が彼を囲むように陣形を組みだす。そして、武装したホブゴブリン戦士がゆっくりとユージィンの前に歩み寄ってきた。
 戦闘の開始である。

●狂える森の舞踏会
「‥‥仕方ないか。まあ説得する手間が省けたのは良しとしよう」
 マントを翻し、ユージィンがクルスソードを抜剣する。その剣を見た瞬間、魔女をはじめ、参加者全員の表情が凍りつく。神聖騎士だと一目でわかったからだった。

「殺せ! そいつを殺すのよ!!」
 逃げる一般参加者を尻目に、魔女が大声でゴブリン達に指示を飛ばす。そしてゴブリン達が飛びかかろうとしたまさにその時だった。

 闇に煌く閃光。そして悲鳴。

『その悲鳴じゃ、せっかくの色気も台無しねぇ?』
 ローサ・アルヴィート(ea5766)が流暢なスペイン語でふふんと鼻を鳴らす。エグム・マキナ(ea3131)の合図で放った一撃は魔女の左目に深々と突き刺さっていた。
 気分を良くしたローサはさらなる一撃を見舞うべく、矢筒に手を伸ばす、が‥‥。
『‥‥。やば、矢を買って補充しておくの忘れた‥‥』
 バックパックにある分を考慮しても、残り1本しか持っていなかった。ショートボウ以外の武装を持たない彼女にとっては、致命的なミスだと言わざるを得ない。

 だが、そんな事があっても戦いはまだ続く。魔女の悲鳴に気取られたゴブリンにエグムが放った水球が命中した。
 仰天したゴブリンはバランスを崩してすっ転び、何か意味不明な奇声をあげて激怒している。

「よぉし! いっくよ〜っ!!」
 ここぞ勝機といわんばかり、ティズ・ティン(ea7694)がロングソードを持って突撃する。
 彼女の父親マルス・ティン(ea7693)がイリュージョンで残りのゴブリン一体を昏睡させて彼女の道を切り開く。他のサバト参加者にも放つつもりだったが、彼らはあっという間に逃げてしまったし、詠唱に時間がかかるので複数を昏倒させる事は出来なかった。


「やれやれ、ナンパは俺の専門でしょうに‥‥!」
 茂みから飛び出したホメロス・フレキ(ea4263)が娘に飛び掛ったゴブリンの一撃をいなし、彼女を庇う形で戦闘に参加する。

 攻撃をいなされたゴブリンにユージィンがコアギュレイト放つ、成功。動きを封じたところでさらにホメロスが追撃する。後は一方的な虐殺。まずはゴブリン一匹を仕留めた。
「ふふん、何事も先手必勝さ」
 ユージィンは得意そうに手首をコキコキと鳴らして勝ち誇った。


『お前らに対して、慈悲なんぞ必要あるまい? まぁ、潔く倒れれば祈りぐらいは捧げてやるがね。‥‥Amen!!』
 ホブゴブリン戦士と対峙したテレサ・レイズライン(ea7713)のディストロイが命中する。かなり効いたようだ、が相手も黙っていない。激怒してテレサに近づくと、斧を振りかぶって攻撃してきた。高速詠唱のディストロイで対応しようとする、失敗。
「ぬっ‥‥ぐ!!」
 どすんと肩に衝撃がきた後、テレサの顔が苦痛で歪む。

「てやああああぁぁぁッッッ!!!」
 テレサに更なる一撃が加わろうとするが、そうは問屋‥‥、いやメイドがおろさない。ゴブリンどもを力尽くで排除してきたティズがホブゴブリン戦士にスマッシュで斬りかかる。
「ウガッッ!?」
 ホブゴブリン戦士は盾でティズの攻撃を受け流し、お返しとばかりに一撃を返した。
「うっく!? うわぁ、キミ、強いんだね‥‥!」
 ティズも負けてはいない。火花散るロングソードで相手の斧を弾き返すと、呼吸を整え堂々と構える。
 小さな少女の無邪気な微笑み。快進撃のはじまりである。


「とんでもない娘さんですね‥‥」
「あははは‥‥あの子にスランプの心配は必要ないですね」
 ゴブリンの対応に追われるエグムに、マルスが乾いた笑いで応える。

 若干10歳、身長なんぞ117cmしかない少女がホブゴブリン戦士と互角に斬ったはったをやってのけているのだ。もはや新手のギャグか何かである。痛快すぎる光景に仲間は苦笑し、魔女にいたっては開いた口が塞がらない。

「はっ‥‥はっ‥‥はっ‥‥」
 ティズもホブゴブリン戦士さすがに疲労の色が見え始めていた。どちらも汗だくになり、ところどころかすり傷ができている。

「ゴフゥゥゥ‥‥」
 ホブゴブリン戦士が盾を捨て、斧を大上段に構える。これで決めようじゃないか、そう言いたげな顔つきだ。
「‥‥よぉぉっし」
 ティズも剣を上段に構え、大きく目を見開いて相手の一挙手一投足に全神経を集中する。チリチリとした殺気が首筋で弾け飛ぶ。


「グゥルアアアァァァァッッッ!!!!」
「やぁぁ―――――っっ!!!!」

 まさ飛び掛ろうとするその瞬間、ホブゴブリン戦士は急激な脱力感を感じた。何事か理解できない。

『ふう‥‥これで大分楽になったよ、ありがとう‥‥』
 テレサだ。今の今までこの瞬間を待っていた。ロブライフで傷を回復させ、ニヤリと笑う。
「そして、もうこっちはちゃっかりと仕事を終えているわけで‥‥」
 ゴブリンを倒し終えたユージィンのコアギュレイトがさらに追撃。

 哀れ、ホブゴブリン戦士。さようなら、ホブゴブリン戦士。

「どぅりゃあぁぁぁ――ッッッッ!!!!!
 コナン流絶技、スマッシュEXが動けないホブゴブリン戦士に直撃する。ホブゴブリン戦士の脳天は景気よくかち割れ、絶命した。


「はァ‥‥はァ‥‥。ぐぅっ‥‥! 畜生、畜生め‥‥!」
 負傷した左目を抑え、魔女がよろよろと森の中を逃げまどう。出血が思いのほか激しく、抑えた腕の肘を血がしたたっている。

「ぎゃあっ!!?」
 突然、胸のあたりに激痛がはしる。見れば矢が突き刺さっているた。
『これが最後の一本‥‥。高くつくわよ‥‥?』
 背後からのローサの一撃。

「この女‥‥アァァァァ‥‥!! 悪魔の素晴しさをわから‥‥ぬ‥‥大‥‥鹿めぇ!! 圧倒‥‥な力、存在‥‥。かの者達に会いたいと‥‥お前は本当に思わないのかァ!!?」
 歯を食いしばり、絞るような声をあげて魔女がローサを睨みつける。

「思いませんよ、それに、あなたはもう悪魔と会っているではありませんか‥‥?」
 暗闇がりからエグムがぬっと現れる。

「何ィ‥‥‥!?」
「‥‥。悪魔とは、貴女のような人間の事を指すのだ。魔女よ‥‥滅びなさい!」
 とどめの一撃、ウォーターボムが炸裂する。魔女は衝撃で吹っ飛んだ後、もう2度と動くことは無かった。

●終曲
「さあ、ご両親も心配しています、一緒に帰りましょう‥‥」
 全てが終わった後、ホメロスは娘の手を取って彼女をエスコートする。

 娘はといえば、自分が生贄になりそうだった事がよほどショックだったのか、ぼんやりと宙を眺めたままである。
 マルスは依頼成功後、楽器演奏で協力し彼女を両親の前で歌わせるつもりだったが、肝心の彼女がこの状態では、それははばかられた。

「‥‥ふぅ。」
 やれやれといった風に、ホメロスは両腕で娘を抱き上げる。
 娘は一瞬顔をこわばらせたが、すぐに生気の無い人形のような表情に戻ってしまった。

「貴方の歌を待っている人は‥‥必ずいますよ‥‥。例えば、私がそうです。
 貴方が紡ぐ愛の歌を‥‥セレナーデを。いつか私に聞かせて頂けないでしょうか‥‥?」

 物言わぬ彼女にホメロスは語りかける。 いつの間に夜は明けたのか、森から出た冒険者が見たのは雲々の切れ間から差し込む光のカーテンだった。

 ‥‥彼女が再び吟遊詩人として戻ってくる日は、そう遠くないのかもしれない。